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キャンプ・キャンプ・キャンプ 2

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 家に帰ってまずは烏骨鶏を外に出してやる。
 山の上はまだまだ雪が広がっているものの炭のおかげで地面が見える所がちらほらとあり、烏骨鶏達は一心不乱に地面を突くのだった。
 あまり雪の中に行かれると真っ白な風景に羽が溶け込んでしまいうっかり踏んでしまう事も多々あったが今はもうそんなイージーミス何てしない。
 すっかり冷え切ってしまった家のストーブをつけて回り、水を抜いていた五右衛門風呂に水を張って薪も焚いておく。勿論隣の離れの長火鉢にも炭を焚いて室内を暖めておく。こちらはしっかりと断熱素材を使っているのでそこまで寒くないと言う気もするけど、換気用の窓を開けるのに靴を脱いで床を歩けば空気中の水分が凍りついたのかざらざらとしている。これは空気が温まれば解決される問題なので放っておけばよい。
 家の中に入って冷え切った室内の寒さを無視して自室へと戻る。
 初めて三人で旅行に行った楽しさもあり、心地よい満足感と解散後の少しの寂しさ、そしてやっと家に帰って来た安心感が俺を支配する。暖房のスイッチを付けて洗濯物を部屋の外へと放り出し、簡単に荷物を片付ける。土産は当然仏壇で帰宅の報告と共にだ。
 途中ウォーターサーバーから出したお湯で緑茶のティーパックで作った緑茶を啜ったコップは机の片隅に。ぱたりと倒れこむように横になったベットの冷たさに毛布にくるまれば落ちるのは一瞬だった。
 気が付けば陽が傾くそんな時間。
 よく寝たな感はあったがぼーっと過ぎた時間を理解する様に時計を見て立ち上がる。
 もそもそと愛用のルームシューズに履き替えれば体は驚くほど軽く、冷たく冷え切ったコップを片手に台所へと向かうのだった。
 薪ストーブはすっかり消えた物の帰って来たような寒さはなく、もう一度付け直した所で思い出した。
 家の外に出れば五右衛門風呂は……すっかり火は消えて、延々と注がれる山水の冷たさに呆然とまだ寝ぼけている頭で眺めていた。
 とりあえず水は止めて、薪をくべてがんがんと焚くことにした。
 とりあえず烏骨鶏を小屋の中に戻す事にする。木槌での合図をすればわらわらと集まってきた烏骨鶏にミルワームを見えるように巻いて、残されていた卵を回収。そして器の中に卵を割ってリリース。
 どれが産んだか判らないが喜んでつつく烏骨鶏達を毎度ながらなんだかなと見守りながらも戸を閉めて獣対策を万全にして冷蔵庫へと向かう。
 今日の夜は簡単にしよう。
 簡単と言えば鍋だ。
 一人暮らしの定番だなと野菜と肉があれば十分じゃないかとここ二日ほど豪勢な料理を食べ続けていただけにおなかも休ませなくてはと質素にポーションの鍋つゆで作るいきなり雑炊鍋。勿論烏骨鶏の肉と卵を使い、野菜も盛りだくさんにするシンプルな我が家の鍋だ。
 飯田さんが何そんな手抜きしてるのですかと物凄い眼力で俺が作りますと包丁を取り上げられそうだけどいない人に主導権を渡す理由はどこにもない。
 なのでお水の段階から烏骨鶏の骨付きもも肉に切り込みを入れてなべ底に昆布を敷いて沈める。焦付き対策じゃないと主張しておく。
 きっとこんな使い方をするつもりがなかったんだろうなと思えど今日はこんな気分なのだ。帰宅の挨拶と一緒に出来上がったら写真を撮って送る事にする。
 出来合いの鍋つゆとは言え昆布の切れ端を入れるだけで途端にうまみが増すと言ったのは飯田さんだ。
「カレーのルゥじゃないけどメーカーがバランスよく取った味をいきなり変えるとか?」
 なんて質問には飯田さんはにっこりと笑い
「所詮は万人受けする様にできた味なので物足りなければ加えればいいだけですし、加える事でさらに美味しくなれば越したことないじゃないですか」
 所詮は万人受けのもの。
 料理人を満足させるには物足りないと言う事だろうと「へー」なんてこれ以上口を出す事は止めた。これ以上は立ち入らない方が良いと台所から撤退して出来上がりを待つようにしたのはこの頃だろうか。
 やがてできた鍋にご飯を投入して煮立った所で烏骨鶏の溶き卵を投入。
 安定の美味い奴だ。
 鍋を片手に囲炉裏に移動して自在鉤にセット。
 火は小さくしてあるけどくつくつと煮える様子を眺めながら旅先のお土産で買った日本酒を持ってくる。
 お土産とお菓子と一緒に仏壇にあげた物を下ろしてさっそく徳利に移していただく事にする。
 仏間のキンと冷えた室内で冷やされた日本酒に胃の中から冷えるも、五徳の上に徳利を置いて温めながらも最初の一杯は冷で頂く事にする。
 二日酔いで気持ち悪いなんて言ってた割にはその夜には飲めるものだなと妙な関心をしながらももう一杯口につけてから雑炊を器に取り分ける。冷え切った胃袋を温める様にスープをすすって
「アッツ……」
 判っていてもやめられずにはいられない!
 とろっとろの黄金の烏骨鶏の卵を蓮華でゆっくりと掬い上げながら口へと運ぶ。
 至福の瞬間。
 これを満足できないとは何て寂しい人だ。なんてめちゃくちゃな主張はしておくが、それだけ満足感を与えてくれるのはまだ真冬の寒さと変わらないこの気候が美味しさを加えてくれるのだろう。
「空腹以上の調味料だな」
 しっかりと火の通った烏骨鶏の骨付きもも肉の繊維の弾力。勿論骨付きなのでかぶりつく!
 ほろりと解れる様に骨から外れる肉にもうっとりとしてしまうが、それよりも皮の部分が美味すぎる。
 スーパーの鳥肉のような生臭さはもちろん冬場のしつこい脂肪感は一切感じられなく……
 自然に身から外れた皮を五徳に網を敷いて焼いてしまう。
 しっかりと出汁染められた皮が焦げ目がついてカリッと焼き上がる頃にはそれだけで日本酒が一合呑めてしまう。燗にしてしまった日本酒にしまったと思うも、またぐい飲みを持ち出して来て冷で頂く。
 パリッとした食感と程よい塩加減にこれには冷だなと思えるのはしっかりと体の芯からあったまった証拠だろう。
 ん、はー……と幸せに酒精を吐きだしていれば圭斗からの連絡。
「生きてるかー?」
「今メシドキ」
 言って鍋と酒を写せばどんびきの顔。
「お前、あれだけ飲んでグデグデになっておきながらよく飲めるな」
 呆れかえった声に俺は笑って
「飯田さんとっておきの骨付き烏骨鶏のもも肉を一枚鍋に突っ込んだからな。飲まずにはいられないだろ」
「ほどほどにしろよ?」
 それはお酒の事か、鍋の事かと思うも適当に返事をして、家に帰ってからずっと寝てた事を白状して体調は万全な事とちゃんとベットに入って寝た事を言えば安心をした顔。
「所で森下さんなんだけどさあ……」
 どうやらそっちの話しをしたかったらしい。
「あの人工事中の家の中でテント張って夜を過ごすとか言う変なこと言ってるんだけど」
「風邪をひくからやめるように言って」
 何を無茶なと言うか無謀な事をと思うも
「奥さんが水疱瘡で入院してるんだから体を大事にって言えばあきらめるでしょ」
 だったらいいなと言う物の
「もしそんなにもキャンプしたいのなら圭斗の家の駐車場の方でやるように言えよ。工事中の家でキャンプされたら不審者に侵入されたってなってめんどくさい事になりそうだからさ」
「まぁ、うちの方がまだましか」
 不満はあるらしい。
「何でうちの庭とかでキャンプって発想が出ないのかな?」
「せめて駐車場の隣の作業場にしてくれだよ?
 案外元登山部だったりとか?」
「車に仕事道具とキャンプ道具があるくらいだからなー」
 適当な事で笑っていればご飯はしっかり噛めよとオカンな事を言ってから通話が終了。
 森下さんのまさかな一面が見れてくつくつと笑ってしまえば何だか妙なやる気が出てパソコンを持ち出してきて、飯田さんの悔しそうな文面のメッセージを肴にモニターを睨みつけながら食事を進める事にした。

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