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空と風と 2

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 朝八時前の特急に乗って新幹線発着駅まで向う。乗り換えに長い階段を一気に走って上ると言う急ぎ足で済ませれば十時には宮下と京都で合流が出来て昼ごろに広島到着と言う慌ただしい移動となった。こう言う事になるのは予想がついていたので前日に圭斗の家に泊まり込みに行けば園田はもちろん山田、川上、葉山、下田も留守番を兼ねて泊まりに来てくれたのだった。
 そして朝、近所の下田のおばさんが
「駅まで送ってあげるから」
 いつも溜り場のようにして迷惑かけてるおわびにもならないけどと手荷物を持つ俺達を十分な時間を持つように少し早目に迎えに来てくれるのだった。
 そんな余裕ある出発をしたはずなのに、駅でもコーヒーを飲む時間もあり余裕を持って電車に乗って約二時間の旅。山を縫うように、トンネルの多い道のりは朝一番とあって人も少なく転寝すらしてしまう。どのみち目的地は終着駅なのだからとあまりの揺れにしっかりとは寝れずウトウトとしてるうちに乗り換えの駅。在来線と新幹線が並ぶホームの数はどれだけか。案内板に従って村の人口を越える人数がいるだろう込み合う連絡通路を駆け抜けて予定の新幹線に乗り込んだ。
「ヤバい、都会の人込みに酔いそう……」
「圭斗落ち着け。ここから先は指定席だ。そこまで人はいない」
「指定席、そんな高級な場所なんて……」
「落ち着け、修学旅行は車両丸々貸切なんだから席だけ指定なんて大した事ない」
 そんなあほなやり取りに周囲から咳き込む音が響くが別に狙ってやったわけではない。普通に圭斗のざんねんな金銭感覚の問題だ。
 圭斗が就職で東京に行く時も帰って来る時も高速バス。一回の帰郷にかかるお金がもったいないからと帰る事を我慢して香奈と陸斗に送金するくらいの節制ぶりに少しは見習えと言われた数は両手では足りないくらい。なので圭斗は初めての新幹線に緊張しつつ、俺はスマホを充電しながらオットマンに足を乗せて優雅に揺れもしない新幹線の旅を堪能するのだった。
 因みに窓側は圭斗。さっきから窓に張り付いて口をぽかんと開けて木曽三川を眺めている。この川が圭斗の家の近くを流れる川が河口近くまで来るとこれだけの大きな川になると言うのを一瞬でも通り過ぎる事の出来ない河川の、なだらかに流れて行くように見える景色をひたすら眺めていた。
 それから俺は車内販売のアイスクリームを圭斗と一緒に食べながらネットで買った本を読んで過ごし、圭斗はひたすら通り過ぎる初めての景色を眺めていた。
 お互いそんな旅を堪能しているうちに京都についた。ホームに宮下が立っているのが分ったから手を振って見せれば気付いてくれたようで暫くして予約した席に辿り着いてやっと合流が出来た。
「よかったー、何とか乗り遅れなくって」
 言いながら俺は圭斗の隣の席を譲り、通路を挟んだ反対側へと席を移動する。ほら、俺気が回る人間だからずっと景色を堪能している圭斗だけど幼馴染を離れ離れにするような残酷な人間じゃないぞと言う様に二人を並べる。
 うん、これで読書に専念できる、なんて言わないよ?
 合流すれば久しぶりの幼馴染に宮下はひたすら久しぶりに圭斗と話がしたいと言う様に話しかけて、少しだけ山間の景色に飽きたのか圭斗も宮下の仕事の話に耳を傾けるのだった。話が専門職の内容になって俺も口を挟む事の出来ないそんな時間もあっという間におえなくてはいけないよううに広島に着いて新幹線を下降りた。
 キャッキャしていた二人とは別に俺は目が疲れてひと眠りとかもしているうちに付いた広島でまずは駅の近くで昼食を済ます。 
 せっかく来たのだからとまずは真昼間からだけど飲み放題のバルでカツオのたたきやオイスターを堪能する。うまー。
 もちろん今回の旅行の内容は修学旅行の内容に沿った物とほぼ俺の希望。
 タクシーを貸切にして運転手のガイドと共に移動をする。ほら、知らない土地で頑張って車を運転しても緊張するだけだし、既にアルコールも飲んでいる。車を貸してくれるレンタカー屋何て絶対いない。
 ともあれ陽気な運転手の話しに耳を傾けながら本日の予定と宿泊先を伝えれば効率よく案内してくれるのだった。
 宮島の厳島神社。圭斗も宮下も朱塗りの回廊をじっくりと見たり高舞台の建築様式を二人でああだこうだと眺めている。それから事前に聞いていた運転手のお薦めで弥山へと上る。約三十分の登山ルート。ロープーウェイに乗って大聖院コースを堪能する。幾つものお堂の造りを見るように周りお賽銭を投げて手を合わせて。秋になれば紅葉も綺麗だろうなと俺はこの地域の生態系をひたすら目に焼き付けていた。林業を営むだけに実益の樹木が多くもみじ何て裏庭に在る程度なくらいの寂しい物だけど、いくつもの紅葉を眺めながら想像する。
 一面赤に彩られた紅葉のトンネルとカーペット。今は青青しているけど。
「うちの山にはない優雅さだな」
「綾人の家には綾人の家の良さがあるじゃないか」
 家の畑と山を遊び場とする宮下の言い分も判るがそれでもこう言った優美な景色はどこにもない。
「畑を一つぐらい潰して紅葉公園にするかな」
「綾人の山なら綺麗に色づくだろうけど、紅葉だけじゃつまらなくないか?」
 ブナやナナカマドといった物も植えれば?という所のも理解できるが
「ふっ、所詮は人が作り出す作為的な生態系の美。だったら不自然なくらいの美しさを追求するべきだと俺は思う」
「まぁ、綾人の土地の綾人の主張ならいいんじゃない?」
 どうでもよさ気な宮下に
「そこに四阿があればいいと思わないか?
 柱と屋根とベンチだけ。紅葉見ながらバーベキューしてさ」
「うちの近くは止めてよ。夜中にたむろされたら嫌だから」
「あんなど田舎に誰がたむろするんだ」
 圭斗の呆れたツッコミに
「それはもちろんうちのご近所さん達」
 紅葉を見ながら夜中に宴会、犬の散歩の集会場、要とはいろいろ持主だけが使わないと言う想像は容易い。
「でもこんな風に見ごたえが出来るまでにみんなくたばるだろ」
 平均年齢六十以上の集落では宮下夫妻はまだまだ若者だ。
「そうなったら町の奴らの心霊スポットだな」
「なら現実味が湧く様に拾った鹿の頭の骨でも置いておこう」
 そんなんでビビる物かと圭斗の更に呆れたツッコミ。いや、現実味が増えそうじゃないかなと猪の頭蓋骨も置いておこうと思った。
 せっかくの景色も台無しな会話だ。
 神社よりもゆっくりと堪能しながらフェリー乗り場でタクシーが待つ駐車場へと戻り、いろいろと案内してもらえばそろそろ旅館のチェックインができる時間。全く土地勘がないので早々に旅館へと連れてってもらってこっそりガソリン代を追加しておく。
 ご迷惑おかけしましたと人の好い運転手とお別れ。
 あまりタクシー乗り回してない気もするが真昼間からぐでぐでに酔っぱらった俺達に嫌な顔を一切見せずにレシートと一緒に名刺を渡してくれたおちゃんにだったら明日十時に旅館ここで待ち合わせと予約を入れるのだった。
 
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