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始まる季節に空を見上げ 3

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 そうと決まれば俺達は内田さんの事務所にお邪魔したのだった。
 浩太さんはあいにく留守だったが、内田の親分事鉄治さんが居てくれた。
「何だ二人そろって」
「ちょっとお聞きしたい事がありまして。
 前に先生の家を内田さんの所で建てたと聞きましたが、その奥もそうでしたよね?」
「おう、そうだ。
 親父に連れられて何度か修理に行ってるぞ?
 高山先生と渡瀬さんの家がどうしたんだ」
 言われてやっと思い出した。
「忘れてた。その二軒を買ったんですよ」
 目を瞑って膝に手をついて項垂れた。
「何でまたあんな古い家に」
「いずれ冬場でも下に降りてこようかなって、だったらついでにお隣も買っちゃえって」
 その先は切り開かれておらず、そして今更山を切り開いてでも住みたいと思える場所でもないし、そもそも工事車両何て入れる幅もない。
「で、何が聞きたいんだ?」
「図面があれば助かるけどもうのこってないっすよね?」
「さすがにもう残してないな。今と違って紙の方がもたなかった」
 とは言え築年数は大体で覚えていたらしく五十年そこそこ。そこまで古い家ではないらしい。
「先生の前の家の人はしょっちゅう家の手入れをする人で大切に使ってくれてよ、隣の家も子供が多くてすぐに家が傷むからって何度も呼ばれたなぁ」
 懐かしそうな視線は遠いかの日を眺める様に。そしてけっして先生の家の実態は教えられないと冷や汗を流しながら圭斗と視線で合図を送り合う。黙ってようと。
「で、今度はあの家を建て直すのか?」
 なぜかきらきらとした視線で俺にも手伝わせろと言う。
「烏骨鶏の納屋を山川に手伝わせて俺を呼ばなかったんだ。当然だよな」
 ニカリと笑う笑みが凶暴そうに見えたのは何も綾人の気のせいではなく圭斗の息をのむ音が静かに響くのだった。
「実はですね、隣の家と先生の家の間に通路でつなげようかと思いまして」
 言えばキョトンとした顔が難しそうに唸る。
「雨漏りするぞ?」
「それ圭斗にも言われました」
 もともと二つの物の間に廊下なり部屋なり入れるとどうしても屋根から流れる水の負担となる場所が出来る。それは大体繋ぎ合わせた場所から雨漏りが始まる。ましてやこの雪国の雪の重さも雨漏りを発生させる原因にもなるだろう。
「そこはメンテンスの回数で凌ぎます。
 先生の家はあまり改造するつもりはないのですが、風呂場の隣の納戸を潰して風呂場を広げたり……」
「待て待て。さすがに細かい事までは覚えてない。一度見に行かせてくれ」
「なんなら今から見に行きます?」
 すごく気楽に圭人が言えば
「おう、少し出かけてくる。川向こうの渡瀬さんと神谷さんの所だ」
「あったかい格好で行ってくださいよ」
 奥から鉄治の奥さんが顔を出してくれた。
「あら、いらっしゃい。
 あなたったらお茶もお出ししないで」
「いえ、ちょっと聞きたいことがあって立ち寄っただけなので気にしないでください」
 咄嗟に綾人が対応した理由は、去年の夏の一件での蟠りが残ってる証拠。
 奥さんの視線が正面を見れなくて彷徨うようにして「ゆっくりしていってね」とすぐに下がっていったのが全てを物語っている。
 あれから鉄治さんのお孫さんの事とお嫁さんの一件も合わせて随分と肩身の狭い思いをしていた。心ない言葉も投げかけられ、随分と傷心した時間の中にいたと言う。さらにそれは幼い孫も同様で家庭内も暗い日々が続いていたと人伝に聞いたりしていたが、あの映画の撮影が全てを変えた。
 綾人の家を内田一族が手がけたと言う事を多紀さんに話した人がいて、撮影の合間に波瑠さんと何度も内田さんの工務店に足を運んでいる姿が色んな人の目に止まるのだった。多紀さんが泊まっていた旅館からも近く、時々撮影に借りた家の不具合を直してもらったりだとかを撮影スタッフではなく内田さんに依頼していたと言う。長沢さんも含めてだけど。
信用は回復された。わけでもないが、好奇心からそこまで気にしてない人から声をかけるようになり、幼い孫や家族であれど被害者でもある鉄治さん夫妻を前のようにいう人はいなくなったという。多少の壁は残るがそれは仕方がないという物だ。
 話を進めるために先生の家へと向かう。鹿の皮で作ったキーケースはうちで捕まえた鹿さんだ。因みに俺のは鹿の角で作ったキーホルダーが付いている。ヤスリで磨いただけのキーホルダーだがなかなか気に入ってはいるものの、今時の車はキーレスエントリーなのでカバンの中に放り込んだままになっている。どうなったかなーなんて思わないほど見てないなと近いうちに久しぶりに磨いてやろうと決めた。
 圭斗と鉄治さんが喋っている間に先生の家に着いて早速先生の家へと入り風呂場の拡張、台所の壁を抜いたりと話を重ねていく。そして隣の家の接続予定の場所から隣の家の構想を伝えれば鉄治さんはじっと耳を傾けてくれていた。
 数年の空き家となっていた家は土台が怪しくどの道床は一度剥がさないといけないといった。そして土間を作るのならこちらの玄関から入ったところから続くように土間にすればいいと言う。
「靴を脱いだり履いたりめんどくさいだろう」
 当然のような言葉になるほどと思うも
「耐震とかはどうしますか?」
「そんなもの、二階からの柱が家をちゃんと支えてくれる」
 そしてじっと俺の顔を見て
「吉野の山の木で作ったからな。ちょっとやそっとじゃ倒れないぞー」 
どんな日贔屓だと笑いながらこの家の歴史を聞くのだった。
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