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白銀の世界で春を謳う 10
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漆喰塗を皆で学ぶ事になった。
コテに漆喰を乗せて一息に塗る。
さっ……
そんな見事な一筋を真似ながら俺達も壁に向かって塗りつける。
「か、硬い?」
「思ったより伸びないぞ?」
俺と圭斗の第一の印象に山川さんは笑う。
「ほらほら、早くしないと固まってムラが残るぞ。塗りを均一にしないとでこぼこになるぞ」
急げ急げと急かす山川さんの仕事は瞬く間に壁一枚の半分に漆喰を乗せていた。
「山川さんよ、これはかなり力仕事だな」
先生が難しいんだけどと喚けば
「ここずっとスコップで雪かきやってて力には自信付いたと思ったのに……」
蓮司まで呻く様子に更に山川さんは笑う。
「使う筋肉が違うからな。ほら、急げ急げ」
俺達を急がせる間にさっ、さっ、と言った音が響く間に角もきちんと塗って瞬く間に壁一枚を仕上げてしまった。そしてまたジェラードのように小手に盛りつければさっ、さっ、といった滑るような音を奏でて瞬く間に一枚を塗って行く。
圭斗は見よう見まねで小手の角度から勢いを、そしてムラになりがちにならないように何度も繰り返してぺたぺたと塗らないように注意するのを見て俺も真似をする。
なんて簡単には真似なんて出来ない。
なんとなく恰好がついたと言う所で三枚目の壁に手を付けようとした所で山川さんは俺達の様子を見てくれた。
「これはさすがと言うべきかな」
圭斗の壁を見て山川さんは笑い、俺の壁を見て苦笑。
良いさ!笑えばいい!笑え!
昔から図工音楽は苦手なんだよ!
四苦八苦しながらも大体一枚終わりかけた所で山川さんは俺の手を掴んで
「この角度でこの力加減だ」
なんて俺の手を使ってざっ……
一筋の漆喰のラインを描いた。
「力を均等に急ぎ過ぎずにスピードも一定に。
そうすると見本のような壁が出来上がる」
凄い……
言葉にならなかった。
手を掴まれているだけなのに全く別の手のようで、未知の可能性を示されたようで、でこぼこになっていた俺が塗った漆を均等にならして行く。
気がつけば真っ白な、雪にも負けない白い漆喰の世界が目の前に広がっていて
「なんか、感動」
成果はほぼ山川さんだ。
だけど
「ほら簡単だろ?」
ぽんぽんと背中を叩かれながら笑う山川さんに釣られて笑みが浮かぶ。
「うん」
感動に言葉が追いつかなくて子供のような語尾しか浮かばなかったが山川さんはそれでも満足そうに頷き、ニタリといたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「そして見てみろ。先生が一番悲惨だ」
「ちょっと山川さん。なんか俺には厳しくない?」
芸術的にも壁に漆喰の塊をボコボコと立体的に作り上げる、俺とも割といい勝負の壁を見て
「なかなか真似できないなあ」
意地悪く唸って眺めるだけ。その後は圭斗の様子を見様見真似の陸斗を俺と同じように背後からコテを持つ手を取り
「陸斗君もこうやるんだよ」
あの大きな漆喰で荒れてそのまま育てた職人の手が陸斗を操る。
「わっ、わっ……」
操られるように振り回されるも、腕の一振り一振りで魔法のように塗られて行く壁に
「わっ、わあ!」
驚きと戸惑いはやがて歓喜の声になって行く。コッテリと塗られていた漆喰は山川さんの手によって綺麗にならされ、隣の俺の壁と比べても差が見当たらないくらいの出来栄えだった。
その後は一番手こずりそうな先生の壁も手直しをして、逆に薄すぎる蓮司の壁にもペンキの二度塗りのように重ねて塗り上げて行く。
そんな間にも圭斗が自力で塗り上げ終わった。
「やっとできたか?」
人の良さそうな顔で圭斗のムラのある壁を眺めながらうんうんと頷く。
「初めてにしては上出来じゃないか」
全身汗だくと言うようにシャツが汗で張り付いている。腕がしんどいと言うようにぐるぐると回したり伸ばしたりしながらも山川さんの補正を待つようにどこか悔しそうな顔で無言でいるものの
「じゃあ後は一週間ほど乾かすのを待とうか」
手直しはせずに細かな場所に漆喰を塗る。あんな狭い場所にと思うのだが山川さんは何の躊躇いもなく塗り続けていた。
「えーと、山川さん」
居心地が悪そうに声をかける音は不安げな色を隠せずにはいた。
「直し、お願いしてもいいでしょうか」
他の綺麗な壁で両隣に挟まれたら圭斗の初心者ぶりは嫌でも浮きだっているが
「圭斗くんはお金をもらって仕事をしているのだから。これは仕事としてちゃんと残しておこう」
「う、厳しすぎないですか?」
うめく圭斗に山川さんは笑って
「次塗る時は成長しているかの目安だな」
「山川先生は俺より厳しいなあ」
先生も驚きと言うように顔を引き攣らすも
「この出来が恥ずかしいと思うのなら精進しないと、練習あるのみだ」
「練習に前にいきなり実践なんて……」
ずっとこれを見て行かなくてはならないのかと頭を抱えるも
「綾人君も友達からのいいプレゼントになったなあ」
山川さんは俺と圭斗の肩をバシバシと叩いた後の手を回しながら
「まだ頼りない新人同様の若手と未来に向けてまだまだ迷走中の若者。そして学ぶのが仕事の若者と想定外の壁にぶつかる若者。
先生はもう若者っていう歳じゃないから自分でなんとか出来るだろうし」
「いやいや、先生だって人生失敗だらけの若造ですよ」
謙遜という言葉なのかもしれないけど間違ってないのでそこは頷けば失笑と先生の抗議に笑い声が止まらない。
「それを言ったら俺だって間違いだらけで失敗だらけだ。
だけどこうやって若い世代と一緒に何かができるチャンスもまだやってくる」
不意に肩を抱く腕に力がこもる。
「失敗だらけ、間違いだらけって言ったばかりだけどそれと同じだけ挑戦の人生だとも思ってる」
いつまでも足踏みするなと先ほど言われたばかり。
「結果が共はない方が多いけど、それでも挑み続けて職人山川何て呼ばれてる」
国家資格を得て漆喰ひとつで今日まで家族を食べさせてきた山川さんのプライドなんだろう。
「次に会う時の成長ぶりに驚かさせてほしい」
ぱんぱんと圭斗の背を期待してるよと叩きながらも俺の肩を抱く手に込める力は無言で信じてると言う。俺の気のせいかもしれないけど、チラリと見て笑みを浮かべる顔は何か言いたそうだけど我慢をするように口を閉ざして応援するかのように俺を真っ直ぐ見つめてくれていた。
なんだか信じてると言われたようで……
山川さんのような人が父親だったらすごく幸せだったんだろうな。
無意識に求める父親像に山川さんをあててみて、少しの幸せと俺の身勝手な理想を押し付けた後悔が入り混ざった感情と、俺が俺の狭い世界から飛び出す想像がなんだか少し怖い事じゃないような気を覚えるのだった。
コテに漆喰を乗せて一息に塗る。
さっ……
そんな見事な一筋を真似ながら俺達も壁に向かって塗りつける。
「か、硬い?」
「思ったより伸びないぞ?」
俺と圭斗の第一の印象に山川さんは笑う。
「ほらほら、早くしないと固まってムラが残るぞ。塗りを均一にしないとでこぼこになるぞ」
急げ急げと急かす山川さんの仕事は瞬く間に壁一枚の半分に漆喰を乗せていた。
「山川さんよ、これはかなり力仕事だな」
先生が難しいんだけどと喚けば
「ここずっとスコップで雪かきやってて力には自信付いたと思ったのに……」
蓮司まで呻く様子に更に山川さんは笑う。
「使う筋肉が違うからな。ほら、急げ急げ」
俺達を急がせる間にさっ、さっ、と言った音が響く間に角もきちんと塗って瞬く間に壁一枚を仕上げてしまった。そしてまたジェラードのように小手に盛りつければさっ、さっ、といった滑るような音を奏でて瞬く間に一枚を塗って行く。
圭斗は見よう見まねで小手の角度から勢いを、そしてムラになりがちにならないように何度も繰り返してぺたぺたと塗らないように注意するのを見て俺も真似をする。
なんて簡単には真似なんて出来ない。
なんとなく恰好がついたと言う所で三枚目の壁に手を付けようとした所で山川さんは俺達の様子を見てくれた。
「これはさすがと言うべきかな」
圭斗の壁を見て山川さんは笑い、俺の壁を見て苦笑。
良いさ!笑えばいい!笑え!
昔から図工音楽は苦手なんだよ!
四苦八苦しながらも大体一枚終わりかけた所で山川さんは俺の手を掴んで
「この角度でこの力加減だ」
なんて俺の手を使ってざっ……
一筋の漆喰のラインを描いた。
「力を均等に急ぎ過ぎずにスピードも一定に。
そうすると見本のような壁が出来上がる」
凄い……
言葉にならなかった。
手を掴まれているだけなのに全く別の手のようで、未知の可能性を示されたようで、でこぼこになっていた俺が塗った漆を均等にならして行く。
気がつけば真っ白な、雪にも負けない白い漆喰の世界が目の前に広がっていて
「なんか、感動」
成果はほぼ山川さんだ。
だけど
「ほら簡単だろ?」
ぽんぽんと背中を叩かれながら笑う山川さんに釣られて笑みが浮かぶ。
「うん」
感動に言葉が追いつかなくて子供のような語尾しか浮かばなかったが山川さんはそれでも満足そうに頷き、ニタリといたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「そして見てみろ。先生が一番悲惨だ」
「ちょっと山川さん。なんか俺には厳しくない?」
芸術的にも壁に漆喰の塊をボコボコと立体的に作り上げる、俺とも割といい勝負の壁を見て
「なかなか真似できないなあ」
意地悪く唸って眺めるだけ。その後は圭斗の様子を見様見真似の陸斗を俺と同じように背後からコテを持つ手を取り
「陸斗君もこうやるんだよ」
あの大きな漆喰で荒れてそのまま育てた職人の手が陸斗を操る。
「わっ、わっ……」
操られるように振り回されるも、腕の一振り一振りで魔法のように塗られて行く壁に
「わっ、わあ!」
驚きと戸惑いはやがて歓喜の声になって行く。コッテリと塗られていた漆喰は山川さんの手によって綺麗にならされ、隣の俺の壁と比べても差が見当たらないくらいの出来栄えだった。
その後は一番手こずりそうな先生の壁も手直しをして、逆に薄すぎる蓮司の壁にもペンキの二度塗りのように重ねて塗り上げて行く。
そんな間にも圭斗が自力で塗り上げ終わった。
「やっとできたか?」
人の良さそうな顔で圭斗のムラのある壁を眺めながらうんうんと頷く。
「初めてにしては上出来じゃないか」
全身汗だくと言うようにシャツが汗で張り付いている。腕がしんどいと言うようにぐるぐると回したり伸ばしたりしながらも山川さんの補正を待つようにどこか悔しそうな顔で無言でいるものの
「じゃあ後は一週間ほど乾かすのを待とうか」
手直しはせずに細かな場所に漆喰を塗る。あんな狭い場所にと思うのだが山川さんは何の躊躇いもなく塗り続けていた。
「えーと、山川さん」
居心地が悪そうに声をかける音は不安げな色を隠せずにはいた。
「直し、お願いしてもいいでしょうか」
他の綺麗な壁で両隣に挟まれたら圭斗の初心者ぶりは嫌でも浮きだっているが
「圭斗くんはお金をもらって仕事をしているのだから。これは仕事としてちゃんと残しておこう」
「う、厳しすぎないですか?」
うめく圭斗に山川さんは笑って
「次塗る時は成長しているかの目安だな」
「山川先生は俺より厳しいなあ」
先生も驚きと言うように顔を引き攣らすも
「この出来が恥ずかしいと思うのなら精進しないと、練習あるのみだ」
「練習に前にいきなり実践なんて……」
ずっとこれを見て行かなくてはならないのかと頭を抱えるも
「綾人君も友達からのいいプレゼントになったなあ」
山川さんは俺と圭斗の肩をバシバシと叩いた後の手を回しながら
「まだ頼りない新人同様の若手と未来に向けてまだまだ迷走中の若者。そして学ぶのが仕事の若者と想定外の壁にぶつかる若者。
先生はもう若者っていう歳じゃないから自分でなんとか出来るだろうし」
「いやいや、先生だって人生失敗だらけの若造ですよ」
謙遜という言葉なのかもしれないけど間違ってないのでそこは頷けば失笑と先生の抗議に笑い声が止まらない。
「それを言ったら俺だって間違いだらけで失敗だらけだ。
だけどこうやって若い世代と一緒に何かができるチャンスもまだやってくる」
不意に肩を抱く腕に力がこもる。
「失敗だらけ、間違いだらけって言ったばかりだけどそれと同じだけ挑戦の人生だとも思ってる」
いつまでも足踏みするなと先ほど言われたばかり。
「結果が共はない方が多いけど、それでも挑み続けて職人山川何て呼ばれてる」
国家資格を得て漆喰ひとつで今日まで家族を食べさせてきた山川さんのプライドなんだろう。
「次に会う時の成長ぶりに驚かさせてほしい」
ぱんぱんと圭斗の背を期待してるよと叩きながらも俺の肩を抱く手に込める力は無言で信じてると言う。俺の気のせいかもしれないけど、チラリと見て笑みを浮かべる顔は何か言いたそうだけど我慢をするように口を閉ざして応援するかのように俺を真っ直ぐ見つめてくれていた。
なんだか信じてると言われたようで……
山川さんのような人が父親だったらすごく幸せだったんだろうな。
無意識に求める父親像に山川さんをあててみて、少しの幸せと俺の身勝手な理想を押し付けた後悔が入り混ざった感情と、俺が俺の狭い世界から飛び出す想像がなんだか少し怖い事じゃないような気を覚えるのだった。
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