上 下
256 / 976

白銀の世界で春を謳う 8

しおりを挟む
 一晩雪が降った朝、雪の降りが落ち着いてきたなと思ったら圭斗がやってきた。
「うーっす」
 スノーモービルで来たこともあって体の前半分が雪まみれになっており、俺の引き攣る顔とは別に綾人は
「雪落としてから入ってこいよ」
 何て当たり前のようにお茶の準備をしていた。
「お前動じないんだな」
「まあ、飯田さんは暗い時間帯にあんな感じでもくるし宮下ももっとひどい時でもくるから」
「止めさせろよ」
「この辺じゃ普通だし?」
 本当かと信じかけた所で
「蓮司ー、綾人を信じるなよー」
 雪を払ってストーブで温まる圭斗のツッコミに信じかけた俺は綾人を睨むも俺知らないもんねーなんて顔でお茶を啜る姿に俺もありがたくお茶をもらってストーブを囲むように座る。
「とりあえず今日はこれから天気も落ち着くから昨日の続きをしに来た」
「はー、お前もこんな山奥までまめだな。他に仕事はないのかよ」
 何もこんな人がいないところにまでよくくるよなと言いたいのだろう。
 だけど蓮司はこの田舎の事情をまだ知らなさすぎる。
「この季節雪に埋もれるからまず家をいじる奴なんていないからな。最も雪の重みで家の補修が舞い込むけどとりあえず雪解けまでの仮の補修だから。そのあとは家を作った馴染みの大工に依頼するだろうからお役御免だ」
 田舎の狭さに圭斗もため息を吐く。木材の生産地で腕を試したい大工はいくらでもいる。古い街だけに家にかける手間を惜しみなくかけるが、かと言って東京のように顧客の絶対量が多いわけではない。
「正直この季節に依頼してもらえて助かる」
 結局一月はこの鶏小屋の二階の改造以外は急遽舞い込んだ玄関の軒先の修理ぐらいしかなかった圭斗にとっては貴重な収入源。さらに今回もこのリフォームを動画に上げることでそこから一部を出演料として支払うことを宮下と話し合って決めたのだ。本当なら三人でやれればいいのだろうが、それなりに視聴者も集めれて再生回数からもそれなりに回す事ができているこのチャンネルに今更新しい仲間が増えるのは視聴者にとっても便乗みたいで納得いかないだろうからと圭斗は丁寧に辞退したのだ。圭斗が言うことも最もだし、そこを突かれると視聴者ありきの動画なので今更変えることもできない。なので圭斗の存在は飯田さんや先生と同じくサブ扱いでいいだろうと決めたのだ。
 甘えればいいのに馬鹿だなあと陸斗を育てる事に一生懸命のお父さんを応援するのがせめてもの俺の手伝いだと何ができるのかとにかく圭斗の腕を伝える事から始めることにして今。
 宮下の編集では圭斗は素顔を晒している。これも営業の一つだと言って微妙な顔をしている圭斗を説得した。
 圭斗のイケメンぶりは高校同様動画でも人気があり、なぜか俺たちまでイケメンの友達はイケメンなんて謎の法則でそういう事にされている。
 と言うか忘れてないだろうか。
 イケメンの友達がイケメンという謎の法則があるとするのならそんなイケメンがなぜ過疎地の山奥でポツンと一軒家の一人暮らしの引きこもり生活をしているのかという時点でイケメン枠から外されているべきだと言うことを忘れてはいけないと声を出して叫びたい。さらに言わせてもらうと身長百七十に届かない時点で微妙だと言うことに是非とも気付かなくてはいけないのではと思うも

「そんなの顔さえ良ければ些細な問題よお」

なんて山川さんの奥さんはバッサリと俺の疑問を切り捨ててくれた。

「おまけに二十歳過ぎたばかりの資産家をイケメンとしてもてはやさずにどうするの」

 なんて言うゲスい視線からの評価をいただけて俺の人間嫌いはより加速しそうだ。
 そんな俺はともかく俺と圭斗と頭を悩ませながらああだこうだと作戦を練りながら烏骨鶏ハウスの二階の改造計画はどんどん進んでいく。
 烏骨鶏マスクを被された蓮司も冬季限定アルバイトという設定で烏骨鶏の一羽に数えられる冬季限定のオープニングについたあだ名は烏骨鶏の人と言う称号をいただいていた。
 烏骨鶏の人の正体を知る多紀さんや波瑠さん達の反応は蓮司の様子もよくわかって元気な事を殊更喜んでくれていた。と言うか、烏骨鶏マスク一つで国民的な人気を誇ってた若手人気俳優がわからなくなるとはすごいなと驚かずにはいられない。
 良くも悪くも時の人だったのに、まだひと月ほどの時間しか過ぎてないのに案外気づかない物だなと感心するのだった。
 世間では海外に語学留学に行ってるとか、事務所所有の別宅に隠されているとか、宿泊施設付きのカウンセリングを受けているとか憶測からの噂は尽きず自宅マンションには相変わらず記者が待機しているようだ。母親は心労から病院に入院とか育ての父親は仕事を干されてるとか、自称DNA上の父親は蓮司のファンの怒りに店が開けなくなって廃業したとか激動のひと月だなと一応ネットで拾える状況は把握してるつもりだ。
 そんな烏骨鶏の人とイケメン大工のコンビはなかなかに視聴者を笑わしてくれる編集を宮下はこなしてくれた。
 一日の流れとして、まず烏骨鶏の人が雪かきをして烏骨鶏の世話をすると言う朝のルーティンから始まる。
 餌を与え、掃除をし、卵を拾って目玉焼きを作って朝の食卓に出すと言う共食い判定を頂く三分にも満たない時間で視聴者からのツッコミを毎度頂く事がお約束となる。それから最低限の動線の雪かきをする横で俺がカンジキスキーで滑って野菜を取りに行ったりする日常からのイケメン大工事圭斗とは呼ばず圭と呼んで作業が始まる。因みに蓮司はレンレンと呼んで親しみやすさを強調してみたら当人がすごく嫌がったのでレンレンに宮下が編集で強引に決定した。
 うちの宮ちゃんに反抗や抵抗したって無駄だからな?
 神の如く君臨する編集者への抵抗は無駄だと烏骨鶏の人レンレンは当人の意思とは関係なく定着したのだった。
 毎回本日の予定としてのミーティングをする。柱や壁の色や仕事の工程の確認。それから家電の発注や家具の作成とデザイン。一つ一つ問題をクリアしていく背後ではレンレンが掃除をする光景という脱力感が烏骨鶏マスクが醸し出す一番のミラクル。
 まるで蓮司と宮下が示し合わせてるかのような絵面と存在感はさすが俳優といったところだろうか。
 だけど作業が始まれば圭斗の作業説明と蓮司を使っての効率の良い作業はどんどん進んでいく捗り具合。
 俺が作る昼飯映像を織り交ぜながらの休憩時間と午後の部の作業の流れの確認。
 事故がないようにご安全にと確認をしてからの作業再び。足場を確保の為の床を貼った後は首や背筋が痛くなる天井を完成させ、次は壁に取り掛かる。
 真っ白な漆喰を壁一面に塗る事で仕上がりとなるが、漆喰作業は圭斗も経験が数なく山川さんに相談にのってもらえばこの動画を見ていたようで今体が空いてるから来てくれることになった。
 わーお。
 雪道は慣れているとは言えここの雪の深さは車じゃ無理なので圭斗の家で合流してからくると言うことになった。
 そんな感じで今日一日の作業のまとめと次の作業の予定でまとめ、最後は烏骨鶏の人によって烏骨鶏を家に返す作業で締め括る。
 宮下の編集は信じている。俺がチェックするのは放送禁止ワードだったり、マスクをしている顔が見えないような細心のチェックをしている。
 俺が組んだプログラムで決められた顔を特定してマスクというオブジェを被せていく。
 単純なプログラムだが、タイムラグのずれが発生しないか微調整をしながらバージョンアップを重ねてきた。似たような対象にオブジェが飛んだりしないように確認しながらアップロードをする。
 面倒な作業だが、そんなプログラムを作った理由は単純だ。
 規約を読むめんどくささただ一択。
 監視システムで特定の人物を追跡していくプログラムの応用。振り向いたり傾けたりした時に合わせてオブジェの回転動作を加えたり角度調整などしているけどそこは成長した宮下のセンスがプログラムの限界を理解してまとめ上げてくれていた。
 こう言ったことが学生時代の教科に含まれていたら宮下にとっての学生時代はもっと楽しい時代だったのにと悔しく思いながら完成した動画を金曜日の夕方のいつもの時間に予約を入れた所で俺はベットに潜り込むのだった。



 

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

仮面の恋

BL / 完結 24h.ポイント:766pt お気に入り:6

風のささめき

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:532pt お気に入り:0

転生先はもふもふのいる世界です

BL / 連載中 24h.ポイント:1,576pt お気に入り:884

お隣さんは〇〇〇だから

BL / 完結 24h.ポイント:504pt お気に入り:11

妻に不倫された俺がなぜか義兄に甘々なお世話されちゃってます

BL / 完結 24h.ポイント:2,584pt お気に入り:1,470

liberation

BL / 完結 24h.ポイント:1,363pt お気に入り:4

婚約破棄されまして(笑)

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,983pt お気に入り:16,896

拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,254pt お気に入り:17,065

処理中です...