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白銀の世界で春を謳う 6

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 昼食後は圭斗の指示に従ってアシスタントをする中、陸斗は烏骨鶏小屋の掃除に専念してもらっていた。手下として蓮司にもお願いしたら引き攣った顔をするところまだ鳥糞に抵抗があるようで、仕方がないと言う顔で陸斗がやると言ってくれたのだ。高校生を見習えと言う所だが、何やらちらりとのぞいたら妙に張り切っていた陸斗によって綺麗にゴミを搬出して新しい藁を敷いて園芸用のプラスチックの船におがくずを敷き詰めて満足げに眺めていた。ヘラで壁や止まり木にこびりついたフンも落としてくれたし餌も塩ビ管に詰め込み、水も綺麗にしてくれた。更には雪に埋もれた畑からキャベツを発掘して来てザクザクと刻み、冷蔵庫のミカン箱から傷んだミカンを見つけ出して馬小屋に居る烏骨鶏に与えていた。なんて気が利くのでしょうとひいこら言いながら途中戦力外通告を受けた建材を運ぶ新人アルバイトにはもっと実用的な筋肉を動かせと重労働をさせようと言う意見は先生と圭斗と一致した所。
「薪割と雪かきじゃまだ足りなかったか」
「有り余る体力な癖にすぐに使い切るからな」
「基本の体力がないんだよ。持久力が無いんだよ」
 先生、俺、圭斗の評価にこれ以上俺に何をするつもりと言わんばかりに距離を取る蓮司。さすがに揶揄いすぎたかと思えば
「そういやお前はスキー出来るか?」
「スノボも出来ますよ。それがどうしたんです……」
 警戒気味の返答に俺も圭斗もあーあと言う顔でそっぽを向くもまだ蓮司はこの後降りかかる不幸にまだ気づいてない様子だった。
「綾人達が面白いカンジキ作ったから少し息抜きに散歩にでも行こうか」
 先生の提案にさすがに慣れない大工仕事にくたびれてか
「カンジキ何て渋い!」
 なんて速攻に飛びつくのだった。 
 俺達が作業するすぐ横の倉庫の片隅にかけてあるカンジキを持ち出して雪の上に並べる。
「スキーとスノボを合体させたようなカンジキでさ、特徴は幅広で短いって事かな」
 言いながらも先生は普通の靴で良いんだぜと言いつつも二人とも履いているブーツで履いて、ロープでくくりつける。
「へー、もっと昔ながらの丸っこい奴かと思ったけど普通に売っててもおかしくない奴だな」
 言いながらストックも取り出して庭先を歩いたり、なだらかな斜面をスキーのように滑ったりしていた。
「ま、こうやってちょっと庭先でも楽しもうか」
「新雪って程じゃないし、滑りも悪くないな」
 雪山登山でおなじみのレッグウォーマーも履いて手袋とスキーウェアも着こむ。帽子とサングラスをして
「じゃあ、ちょっと息抜きしてくるわ」
「気を付けて」
 そう言って送りだせばまだ何が起きるか判ってない都会っ子の運命を生暖かい目で見送るのだった。
「あのカンジキって宮下と作った奴だろ?」
「スノボの板を切って作ったから良く滑るよ。
 スパイクを持って行ったからそのうち帰って来るだろ」
 引き攣る顔の圭斗に
「先生の雪山遊びだからな。もう少ししたら雪崩とか起きるから遊ぶなら今のうちだ」
「無事帰って来れればいいけど」
「下の倉庫にもう一台スノーモービルがあるからいざとなったらそれで返って来るさ」
「どこまでいくつもり?!」
「そんなの、多分白樺の通り道を下りて下の畑までだろうな」
「げっ、降りるのは楽しく帰りは大変コースか」
「今夜もぐっすりお休みコースだな」
 蓮司がとは言わない物の
「……先生は相変わらず不眠症?」
「みたいだよ。まぁ、うちで仕事がはかどる分には良いんじゃね?」
 たまにウトウトしているし、夜目が覚めた時でも人の気配がある。朝早く起きた時でもすぐに声をかけてくれて、この寂しい山奥の生活では先生の存在に何度も助けられた。
「まぁ、先生が休めてるようだし、担任になる前のぎすぎすした空気も無くなって丸くなったし睡眠時間が短くても問題なければいいんじゃないか?」
「先生の事は三年になってからしか覚えてないからな」
「お前は興味がないと本当に興味も持たないんだな」
「よせやい、照れるじゃないか」
「褒め言葉じゃねぇ」
 言いながら階段の踏板も一つ一つ外して行く。そしてあらわになった階段を支える姿があらわになった。
「まぁ、こんなもんだろうと思ったけどな」
「ジイちゃん……」
 思わず綾人は頭を抱えてしゃがみこんだ。
 階段の下をよく荷物置き場にするようにこの階段の下も当然のごとく荷物置き場になっていた。ただ、階段の下に繋がる扉が無かったのをずっと懸念していて、家階段の踏板を外した所でその理由を知るのだった。
 倉庫を作った時に階段下の物置に繋がる扉を封じていたなんて誰が想像しただろうか。しかも資材のゴミを隠すなんて荒業を誰が想像すると言う物。
「勘弁してくれ……」
「陸斗ー!ネコ持って来い!」
 馬小屋に向かって叫ぶ圭斗に慌てて陸斗がごみを捨てたばかりの一輪車を持って来た所で陸斗もびっくりな様子でそのゴミたちに驚いていた。
 倉庫を作った時の資材のゴミだろう。わざわざ隠すような物でもないのになぜここに隠した。
「とりあえず運び出すぞ」
「こんな時に先生が居ないなんて」
 戻って来いと心の中で叫ぶも出てきたものが怪しい物じゃなくってほっとしつつ使える資材か本当にゴミか仕分けする所から始まり、大幅なタイムロスになったのは言うまでもなく、おかげで今日は階段の設置までをしたかったがそこまでたどり着かず、ここまで来たのだからと倉庫側から出入りできるように急遽扉を作る羽目になり、本日の仕事は階段下の倉庫の作りと扉の設置で終わった。
 雪だらけになった蓮司を引き連れて戻ってきた先生もさすがにそんな罠があるとは思わず大変だったなとねぎらってくれるのだった。いや大変だったのは慣れないカンジキで宮下商店から家までの坂を上って来た蓮司だろうとスノーモービルで上がってくると思ったのにとは言わずにグロッキー状態の蓮司にとりあえず風呂に入って飯を食べてとにかく休む事を推奨するのだった。





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