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春は遠いよどこまでも 1

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 正月も終わり宮下は京都の職場に戻り、飯田も蓮司が慣れ親しんだ東京へと帰って行った。圭斗も陸斗も仕事に家へと帰り、陸斗は綾人からもらった宿題を大切そうに抱えて戻っていった。
 陸斗よ、学生としての姿勢としては立派だが青春としてそれはどうよと不安になりながらも何を勉強しているのかと見せてもらってすぐ陸斗に突き返した。
 今時の高校生ってこんな難しいこと勉強してるの?県立の学校って聞いたけど、これ絶対進学校並みだぜ???こんな大人でもわけわからんことを今時の高校生って勉強してるのかよと、芸能人を受け入れてくれる学校の芸能人ばっかのクラスの成績は標準……よりやや上だった。
 お袋が教育ママとして私立の小学校に入れられたりしたけど、お袋のマネージャーに送り向かえしてもらう日常に鬱憤としていた俺に元親父から勧められて芸能活動を始めたりしてからエスカレートには乗り切れなくなり、高校から学校をかえ学業ではなく芸能にしぼることにした。それぐらいからお袋とは距離が空いてきたが、それでもドラマのちょい役や役名もない役をいくつもこなしてきた。高校を卒業してから事務所もお袋の所から今の事務所にかわり、気まずくなって家を出たけどマネージャーや社長達に助けられて金銭的な独立もできるようになった。
 陸斗には正直田舎の子供って気楽でいいなと思いながらも犬と遊んだり、薪割り競争などバカなことをして遊んでいたけど、夜に綾人に勉強を教えてもらっているのを見ていたとはいえここまで難しいことを教えてもらっているとはさすがに想像できなかった。
 山奥の家に二人きりとなって圭斗達を見送ったところで
「実際陸斗に今どれぐらいのことを教えてるんだ?」
「んー、二年のところまで終わらせたから。新学期になる頃には三年の所まで終わらせて、大学受験の対策に入ろうかと思う。
「ここでそこまでの学力必要か?」
「必要ないだろうな」
 頬がピクリとなる。何が楽しくて勉強漬けの高校時代を過ごさないといけないのかと思うも
「陸斗には建築家になって圭斗と一緒に仕事をする夢があるんだと」
 なるほどと思うと同時に
「そこまでやらないといけないのか?」
 田舎で事務所を開いて、古い町の家の補修に駆り出されたり、空き家を安く購入した人からの依頼で直したりという仕事がメインと聞いていたから大学で学ぶよりも現場で学ぶ方が効率がいいのではとおもうが
「今時建築士も資格の時代だからな。
 陸斗が狙うのは一級建築士だから。
 弁護士や医師に比べて難易度は低いけど九割は落ちるらしい。俺が教えてやれるのは勉強ぐらいだからな。
 設計の問題には手伝ってやれないから、そっちに集中できるように座学の方は一足先に叩き込んでやらなくちゃいけないから今から準備しないと間に合わないだろ?」
「早すぎるよ」
 子煩悩かとなんつースパルタだと呆れるが
「せっかく東京の大学に行くんだ。多少は遊ばせたいし、こんな田舎で遊んでもたかが知れてる」
 確かにと納得する。
「デパートないし、映画館も遊園地もない。動物園も水族館もないしス●バもないマッ●もない!」
「因みにこの村にはコンビニもないし信号機もないんだぜー」
「マジか?!」
 まさかこの時代に信号機すらない村があるとはと驚くも
「案外信号機のない村は多いぞ」
「いや、それでも衝撃」
 なんて驚きながらシャベルを手に畑に中に入っていく。害獣対策とはいえ入り口の周りの雪を退けないと入れないのはめんどくさい。息を弾ませて雪かきをして一メートルほど積もってる雪は下の方は氷となっていて何気にしんどい。
 だけど今回掘るのは雪の下で眠る野菜が目的ではない。凍りついているキャベツを探すわけではなく、確かこの辺と呟きながら変色した雪をかき分けて探し見つけたのは
「やっと見つけた。しっかり冷えてるな猪の肉」
「畑で猪の肉が採れるとは思わなかった」
「まあ、雪のある季節限定だけどね」
 ショリショリに凍ってる猪の肉の、内臓を抜いた場所を指で押すように触るのを見て
「なんで雪の中に……」
 正直動物の内臓をくり抜いた姿は見たくなかったが
「冷凍庫一杯だから。冷凍庫がなかった時代の人の知恵で雪の中に埋めるんだけど、狐とかに発掘されて持ってかれちゃうからね。柵のあるうちの畑に埋めていくんだけど、春になって発掘が忘れられた肉が酷いことになっててね」
 おう……
 想像してなんてこったい。
 引きつる顔面の筋肉が痙攣するも
「リスが冬の間の餌を隠したのを忘れて春になると芽吹くよりタチ悪いよな。レベルは一緒なのに片付ける手間が酷い」
 そう言う話なの?何て考えながらもカチコチの猪の毛を削るように剥いでいく。
「温暖化とかあるけど、麓の街じゃここまで雪が積もらなくなってるから。雪が溶けていくような温度じゃ雑菌が繁殖するからね」
 たっぷりと脂肪を蓄えられた体の骨を外すようにノミをあててとんかちを入れる。てこの原理を利用して太い骨を外し、切断面をすぐ雪の中に埋める。外す骨はいくらでもあるので、溶けないように細心の注意を払いながら手早く処理を施していく。力仕事で、汗を流して。
 思わずと言うように手は握り拳でその様子を真剣に、息を忘れるように食い入るように見つめていた。
 長い時間をかけて全身汗だく、湯気があがっているようにも見える綾人はまず一体と枝分けした肉を俺に持たせて冷凍庫へと向かう。
「結構ガラガラじゃん?」
「あの柵の中のを入れるとこれ以上だから。頭落として余分なものを無くして綺麗にしてからこっちに放り込むんだ。
 じゃないと土まみれ、血まみれでマイナス二十度とは言え衛生的じゃない。」
「確かに」
 頷かずにはいられない獣臭漂う冷凍庫内にちゃんと冷蔵庫の匂いとりがいくつか置いてあったけど役には立ってなかった。
「まあ、そんな感じで天気の良い日には一日一体解体目標!」
 握り拳を突き上げる綾人に手伝いたい気持ちはあるものに耐えれるかと言う俺は一緒におー!と拳を突き上げる事はできなかった。
 しかし晩御飯に出された野性味あふれるボタン鍋と焼酎を交互交互で胃袋に投入していくうちに妙にハマってしまい
「クセになるなあこの味」
「だろ?だから頑張って解体して一番美味い肉を食す!サイコー!」
「おう!サイコー!!」
 かんぱーいと何度目かの乾杯と言ってはグラスをカチンとぶつける酔っ払った俺は気分良いまま言い放ってしまった。
「綾人!今度俺にも解体の仕方教えろよな!!」
「いいぜ!最高の肉を食べようぜ!」
 いえーいと囲炉裏を挟んでハイタッチ。
 でも俺はその時すでに酔っ払って気付いてなかったが、俺はロックで綾人は緑茶割りだったけど途中から緑茶ストレートに変わっていて全く酔っ払ってなかった綾人に言質を取られてたなんて知る良しもなかった。




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