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冬を乗り切れ 9

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 料理を一緒に作る事により蓮司との距離はだいぶ近くなった。
 蓮司も東京で一人暮らししていると言う事でそれなりに料理の基本は出来ている。少々怪しげだが自分で食べるには問題ないレベルでだ。
「ほらさ、料理ってちょっとできるともてるじゃん?」
「「「そうかー?」」」
 同級生三人組はすぐさま否定。あまりに即答で被った返答に蓮司は顔を引きつらせるが
「飯田さんレベルまで行けばモテるだろうけどね」
「逆に俺らみたいなレベルだと使い勝手の良い便利な奴で終わるから押し付けられてる間にみんなさぼりたい放題だ」
 圭斗のふてくされる苦情とは別に
「俺の場合何故かまったくできない設定で通って来た。
 バアちゃんのおかげでクラスの女子より上手かったから一人だけ黄金のトロトロ親子丼作れって顰蹙かったな」
「女の子相手に料理の腕で挑発するからだよ」
 呆れる宮下の言葉に綾人は何てことないようにお重に入りきらなかった料理をタッパーに詰めて行く。明日宮下が家に帰る時に持ち帰ってもらう分と冷蔵庫に保存する分。一週間分はありそうな量だが、先生も飯田さんと入れ替わりで来る時には食べるだろうし、圭斗にも持たせたいのでしっかり量は作ってもらっている。ちなみに飯田は明日の御雑煮の出汁を今から準備して作っている。朝に作った餅も切り分けたし、お仏壇や神棚にも鏡餅は飾られている。そして新しく生まれ変わった離れにも神棚などは作ってないけど床の間に飾って正月らしい雰囲気は作ってある。
 これでいつ正月を迎えても大丈夫という様に涼しいと言うより寒い部屋にお重を置いて
「では、そろそろお蕎麦を頂きましょうか」
「お前ん所は晩御飯に蕎麦食べるのか?」
 え?という様に蓮司が驚くが
「うちはバアちゃんタイムだから深夜まで起きてないからさっさと食べるんだよ」
「何そのバアちゃんタイムって……」
「早寝早起きだよ。まぁ、俺はおそくまで起きてるけど。
 弥生ちゃんが九時には寝るからそれまでに食べるっていう吉野家のルーティン?」
 宮下の説明に俺もうんうんと唸って
「まぁ、晩御飯の時に食べて後はお酒飲んでいる間に日付も変わるから。動きたくないからさっさと食べようってね?」
「お蕎麦は宮下君のお母さんの手打ちです。美味しいですよ」
 飯田さんも虜にするみてはいけない蕎麦打ちから作り出される逸品は飯田が取る出汁の蕎麦つゆによって至高の逸品と昇華される。俺たちが作れば市販の蕎麦つゆで「あー、これうまいや」程度になるが、ちゃんと出汁をとって醤油や味醂をその時の気候に合わせて加減を加え、絶対的な飯田の嗅覚と味覚で作り上げられた蕎麦つゆは是非とも茹で汁で割って飲み干したい芸術だ。
「あー、わさび採って来るの……」
 忘れたと言おうとするも
「はい。ちゃんと一本抜いて来ました。他にもお刺身にも使うので直前にすりましょうね」
 冬の沢に沈められた経験からか死にそうになったトラウマから雪が積る日には近づけれなくなったけど宮下あたりから聞いたのだろう事情に飯田は俺に気にするなと言うように積雪1メートルの壁を越えながら撮りに行ったのだろう。自分を情けないと思いながらもワサビをすりおろす様子に
「え?年越し蕎麦ってザルなの?」
「当たり前じゃん。カケなんていつでも食べれるでしょ?
 飯田さんのこの蕎麦つゆを堪能するならザルに決まってるじゃん?
 このために引いてもらって作ってもらった蕎麦なんだよ?」
 何て当たり前のように言う宮下に美味しい蕎麦が食べられない東京じゃカケが常識なんだよと言う事は黙っておいてニジマスの稚魚で作った甘露煮と一緒に食べる。
 コッテリとした甘さの甘露煮は三枚におろされているので骨はなく、苦味も臭みもなくおやつのように食べれてしまう。だけど俺たち二十歳を過ぎた大人。日本酒片手にちびちびと蕎麦も甘露煮も、付け合わせの緑鮮やかな今年漬けたばかりの野沢菜を口へと運ぶ。
 毎年大量に漬ける野沢菜は発酵が進めば茶色くなってしまうも今はまだ綺麗な緑色。浅漬けの状態だが、これはこれで美味いと酸味の足りない野沢菜もまた良しと飯田と蓮司の蕎麦談義を無視して冬の恵みを楽しむのだった。



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