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冬を乗り切れ 1

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 一度雪が降り始めたと思ったそこから真冬の始まりだ。
 飯田さんや先生にも車で来る時は気をつけてと連絡を入れたり宮下商店の前の車庫に置いてある軽トラでスノーモービルの燃料を入れに行ったり準備はしてあれど確認となかなかに忙しくバタバタとしていた。当面の薪の準備はしてあるものの土間の片隅で直ぐに使えないと分かってても土間を傷つけないように最低限の配慮。輪切りになったままの木を大雑把に割って薪へと変えていくのは冬場に何もすることの無い暇潰しだ。
 小型の電鋸でひたすら切り続ける。ビニールシートの上に積もった木屑はそのまま烏骨鶏ハウスへと運ばれていく。前回運び込んだススキで作った巣材は見事丸い巣へとビルドアップされ、冬場は見逃すがその後クラッシュするのは衛生面の問題だ。臭いもね、それなりに出てくるんだよ。そもそも床の掃除の手間を省くために藁を敷いたり土を入れたりする事で衛生面の問題を解決しているのだ。そしてクラッシュする理由はもう一つある。冬場の運動不足解消の為。
「今日は天気もいいから燃やすぞー」
 そうひと声かけて竹箒を持って巣を撤去する。
 ひどい!そう叫びながらもチキンなので狭い小屋の中を飛び回りながらにげまわり、途中いつからあったか分からない卵を割れば烏骨鶏達は大人しく卵を突くのだった。さすが鳥頭というべきか。匂いはないとはいえ巣から放り出された卵を無駄に捨てるわけにもいかないし、たまにはミルワーム以外のタンパク質を食べさせるのも栄養面に必要だろう。本来雑食の生き物だ。草だけでは栄養のバランスが成り立たないだろう。タンパク質も重要。なんせ卵を産むと言うことはそれだけ体力を消耗すると言うことだから。あまり卵を産まない烏骨鶏なので貴重とは言えども烏骨鶏の健康にはかえられないとたまに食べさせたりはしている。それはともあれ、雪かきをしても雪に囲まれた場所に古い藁や木屑を置いて火をつける。ゆっくりと燃え始めた藁はあっといまに火が回り、気持ちよく燃えていく。その合間に屋根裏から新しいススキや大鋸屑を下ろして床材、巣材と敷き詰めれば新しい大鋸屑を嬉しそうに掘ったりしてふわふわの心地よさを堪能していた。撤去された巣の事は忘れたらしい鳥頭の単純さにほっこりしてしまうのは仕方がない。
 その頃には藁も燃え尽きたようでその上に雪をかけて消火作業完了とする。
 昔からの知恵だからだろうか傾斜のある屋根から雪はどんどん落ちるので雪かきの必要はない。母屋も離れもずっと何かしら火を焚いているので屋根に積もった雪も自然に落ちるので手はかからないが、倉庫や車庫の雪は下ろさなくてはならない。車庫の方は手っ取り早く梯子で屋根に登ってシャベルでガンガン雪を降ろせばいいだけだが、面倒なのは烏骨鶏ハウスの屋根だろうか。いつもなら宮下にお願いする所なのだが今年は宮下がいなくて仕方がないからやるかと思ったところで
「バイトだったらやるぞ。日給いくら出す?」
 圭斗の甘い囁きに万札を一枚用意して頭を下げるのだった。

「やっぱりさあ、こっちに帰って思ったんだけど。冬場は仕事ないな」
「まあ、そうだろうな」
「都心部なら冬でも関係なく建築の仕事溢れかえってるのに」
「決定的な人口の差だな。後、家を建てようとする人間の少なさと少子化」
「世知辛い!」
「それを承知で戻ってきたのなら頑張って稼げ」
「ああ、やってやるとも!俺には陸斗を食わせる責任があるんだからな!」
 親としての志は素晴らしいと褒めながら冬場のアルバイトは必須だと今からでも冬場の出稼ぎは考えないとと考えさせるが
「陸斗が高校生のうちは何とかこの町で凌ぐ。あいつに寂しい思いはさせたくない」
 圭斗は留守のした時に目を盗んで生家からあの親達が来る事を一番恐れている。いつ連れ戻されるのか法律なんて関係ないとやってくる生みの親達を警戒する素振りは帰って来てから全然変わってない。
「今頃聞くのも何なんだけど別の街に、例えば香奈のいる町でもよかったんじゃね?」
 聞けば
「あのクソ大工達の顧客の多い場所だ。うっかり出会ったら香奈が目をつけられる」
「まあ、東京に行って香奈は綺麗になったからね」
 制服とジャージ姿しか知らなかったからやっぱり女の子なんだねとこの夏の帰郷を懐かしく思う。
「香奈はやらねーぞ」
「いや、いらないって」
 言えばうちの香奈に何の不満があるという顔をしている。理不尽だ。とは言え答えは簡単。
「香奈は今も宮下一筋だから」
「昔からだ」
「あれで気づかれてないと思ってるんだから協力するのが年上の務め」
「バレてないのは宮だけだけど、当人に気づかれてなければ問題なし」
 どう考えても脈なしの答えだとため息をこぼしながら雪を降ろす横で俺は手作り石窯に火を入れて暖をとりながらコーヒーを啜っていた。
 うめえ……
 こんな俺は今更だとお金をもらう以上は割り切る圭斗は器用にシャベルを操って次々に雪を降ろしていき、一通り雪を降ろしてくれた。
「昼飯にしよう」
 石窯からドリアを取り出して家の中に移動して囲炉裏で火にあたりながら熱々のドリアをゆっくりと頬張る。冷凍ピラフにレトルトのドリアのソースをかけてチーズをかけるだけのお手軽ドリアに薄く切ったポテトを並べる。これがまた最高なんだと、真の最高、飯田ポテトグラタンとは天と地程の差はあれど、これはこれで美味いとニンマリとしながら食べてしまう俺から圭斗は距離をとりながら
「昼飯食べたら薪割りでいいか?」
「薪割りよりも門の所まで通路が欲しい。あと離れの所とか風呂の所とか。生簀までの道も欲しいし、烏骨鶏達の遊び場も欲しいな」
「なら烏骨鶏からやろう。陽が高いうちに運動させたいだろうし」
「ありがたやー」
 圭斗を拝めばすぐに食べ終えた圭斗は時間がもったいないとさっさと仕事に戻る。もう少し休めばいいのにと思うもすぐに仕事に取り掛かる勤労加減はブラックが何だって?と言う態度。だから前勤めていた会社で安い賃金でこき使われるんだと全額支払われてない残業代に気がついているのかと思うも代替わりしてからの賃金体制に不満があったのも辞めた原因の一つ。頼むから俺をブラックな雇用主にしないでくれよと給料を上げるべきか悩みながらもロケットストーブの上でコトコトと良い匂いを漂わせる鍋を除く。
 とろっとろに煮込まれた骨つきの猪の肉と野菜達のおでん…もちろん卵は烏骨鶏。朝圭斗と話を決めてから作ったものの丁寧にアクをとって骨から出た出汁にニンマリと笑みが溢れる。昔からある巨大鍋で大量に作ったおでんは勿論圭斗に持ち帰ってもらうための物。
「相変わらず一年の奴らも集まってるんだろ?」
「葉山と下田か?相変わらず勉強会をやってるぞ。菓子とか野菜とかよく持ってきてくれるから助かってる」
 足りないのは現金ばかり。そればかりはどうにもならない。俺がしてやれるのは仕事を与えてお金を渡すだけ。後は晩御飯に食べてくれとガス代の為に煮物はあまり作らないという食卓に色を添えてやるぐらい。一人で食べるには敬遠しがちな煮物をここぞとばかり作るのは圭斗も苦笑する所。たっぷりと肉を入れたおでんならいくらでも持っていけという所。
 汗だくになって雪かきを終える頃には十分沁みているだろうおでんを持ち帰って二人で食卓を囲む様子を少しだけ羨むのだった。


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