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冬の訪れ 7

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 夕方山を下りる頃にはだいぶ新しい薪のストックが出来た。一冬越えるには全く足りないが、一人ではここまで進まないのでありがたいと言う物。
 圭斗と陸斗の有能さに薪割の仕事を取られた水野の絶叫の煩さに陸斗が薪運び役に回ったが、それでも長年薪を割り続けていたた圭斗の腕に叶わなく、バイト代取り上げないとなと脅しては笑っていた。
 夕方悠司さんは子供達を置いてまた明日もやろうと言ってくれたがこの人自分の家は大丈夫なのだろうかと思うも、大丈夫だから来てくれるのだろう。そこは甘えて、夜は上島兄弟の勉強会となった。水野、植田コンビは離れで圭斗と陸斗とゲームをさせていた。視界や聴覚に入らないように注意して二人を母屋の台所で椅子に座らせて受験勉強の世話をする。
 二人とも先生が大丈夫という様に俺から見ても大丈夫だと思うが、それでも不安だと言われれば納得いくまで面倒を見るしかない。
 いつの間にこんなにも意識が高くなったんだと呆れるもあまり根を詰めるなと注意しながら勉強を見る。
 そして先生はすぐ横の隣の部屋で大の字になって鼾をかいて酔っぱらって寝ていた。あまりのうるささにどうしてやろうかと思うも
「逆にこれぐらいの雑音がある方が良いっすね」
 とは兄の言葉。
「ここは静かすぎるから、追い詰められていく気がして」
「あー、俺まじめに勉強しない口だから、音楽聞きながら適当だったな」
「頭の作りが違って羨ますぃ!」
 弟も呻く声に笑いながら
「高校の時の話しだけどさ、漫画で瞬間記憶能力とかよくあるだろ?」
「ありますね」
 必死に公式を解く上島のノートを見ながら
「あれ出来たらめっちゃ便利じゃね?なんて思ってさ、ちょっと訓練したわけよ」
「どんな訓練です?」
 英語の翻訳をする弟のノートも見ながら
「じーっと文字を写真のように記憶して、後からそれを思い出すと言う方法。案外できるもんだなーって、調子に乗って教科書全部覚えたわけよ」
「ふつー出来ないっすよ」
 ピシッとシャープの芯が折れた。
「まぁ、出来ちゃったし?
 出来ても教科書何て記憶しても一年経ったら普通に読み直す事ないだろ?無駄だったなって、辞書を覚えてみた。途中で飽きたけど。
 それに今時のテストは辞書の持ち込みOKがほとんどだから案外役に立たなかったな」
 そんな事しなくても普通に問題解けるしと言えば何故か二人して俺に消しゴムを投げてきた。
「火があるから危ないから投げるな」
二人に消しゴムを返すもまた投げつけられた。そして二人の目は涙目で、何やら俺が悪いみたいでまた丁寧に消しゴムを返す。そしてまた投げられた。
「綾っちって勉強で苦労した事ないでしょう」
 口をとがらせてふて腐る達弥に
「俺だって勉強の苦労はあるぞ」
と反論。
「どんな?」
 嘘だと言うような視線からそっと顔を背けて
「どれだけ努力しても何一つ認められなくて否定されるのは勉強が出来ない判らない以上に辛いぞ」
 未知の分野を独学でどんどん吸収しても、何を分かった事をと言う言葉で理解してもらえない日々。どれだけテストでアピールしてもこんなの当然だろと言われる事もなく、ただ視界に収めるだけ。
 無意味ではない日々を無意味にされ続ける十数年の日常に自分の存在を疑い続け、容易く捨てられた結末に頑張っても意味がない事を痛感した。
「努力しても報われない、これ以上の辛さはないと俺は思う」
 と言った所でふと静かな室内に視線を上げれば
「綾っち、頼むからそう言わないでくれ」
 上島兄弟が泣きそうな顔で俺を見ていた。
「俺達は綾っちの努力に今救われようとしてるんだから。本当は親から欲しかった言葉だろうけど、俺達が代わりに言ってやる。
 俺達が夢に向かって進めるのは全部綾っちのおかげだって。綾っちが居なかったら高校時代を底辺で居心地悪く笑って現実逃避して過ごして、卒業後はただ親の後を継ぐしかない人間にしかなれなかったって俺は思ってる。
 親には金銭面で大変な思いをさせるけど、達弥も未来の選択をできる環境に居る。
 何度だっていう。
 俺達が足掻けるのは全部綾っちのおかげだ」
 あまりに真面目な顔で言われてなんて言えばいいか判らなかったけどとりあえず
「ありがとうな」
 褒められる事の経験の少なさに妙に緊張した面持ちでの感謝。
 何故か達弥は俺の隣に座って体をピッタリと寄せて座ってきた。居心悪くて少し体をずらすも追いかける様にピッタリと体を添えてくる。
 ずずっと鼻を啜る音に気まずさを覚える合間に兄は弟の目の前に勉強道具を移動させた。
 なんとも言えない居心地の悪さを覚えるも兄弟がいればこんな感じなのかなと、すぐ隣にある暖かさに少しだけ家族の暖かさをこういう物なのかとむず痒さを覚えるのだった。

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