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冬の訪れ 5

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 夜は上島が居るので先生を上島に押し付けてさっさと寝る事にした。安定の料理の腕。良くも悪くもないと言ったのは先生なので、作ってもらってそんな失礼な感想しか言えない先生には上島の手料理を満喫してもらう事にした。ちなみに弟も同じように普通に料理が上手い。兄貴が作っている所を見て居れば大体わかるだろうと言った弟は兄ちゃん子だなと思うも近所に同年代の友人がいないからつるむのは今も昔も兄貴だけという土地の事情。
 その気持ちよくわかる。わかるぞー。
 宮下と絡む前までは友達は学校に行かないと居なかったしな。と言ってもそれなりに距離のある友達なので友達と言えるかどうかわからないが、同世代との会話って大切だなと思った高校時代は上島家でも重要な問題だと思う。なのでこういった交流会(?)には連れてこようとする意図は判るが、本日の目的は別の所にあるようだ。上島達も先生も隣の離れが気になるのか料理が出来たらそっちに行って長火鉢を囲んだ夕食が始まり、冷蔵庫から飯田さんが用意してくれたおかずを見つけてそのままパーティと変っていったので火の始末だけ気を付けるように言って俺は離脱した。
 とにかく眠い。
 金曜の夕方からはポンコツなので、先生が来なかったら絶対何も食べずに寝てるんだろうなとある意味毎度来てくれる先生には感謝するしかない。もっとも代償にしこたまお酒を飲まされるのだが、あいつら相手じゃ晩酌の相手にもならないし、明日山に行く事を伝えてあるので先生も飲み過ぎはしないだろう。
 とはいえ終始視界の端には誰かが動く情報、耳には止めどもなく響き渡る聞き慣れない音。通常なら受け入れる事が出来る程度の環境が、金曜の夜だけは耐えれなく、先生にもさっさと寝ろと言われる始末。
 缶ビールを二本持って部屋へと戻れば静かな暖房器具のモーター音が響く音だけ。寂しいと思う所のはずだが、今日はそれさえもうるさく消してさっさと寝る事にした。

 そして気づけば朝だった。
 あまりの寒さに慌てて暖房のスイッチを入れて上着を着込んでトイレに向かう。はだしが寒い季節なのでルームシューズを履いてトコトコとトイレに向かう。
 ルームシューズはなかなかどうして曲者で、室内履きだと言うのに土間も普通に歩いてしまう危険な履物だと……毎年の事なので反省はしないが、履き替えると言う事を忘れがちになる恐ろしい物だと思う。
 なので土間を横切ってトイレに行けば賑やかな声が聞こえてきた。
 俺はそののまま離れに向えばそこには一部寝てしまったお子様もいるが
「先生、今何時だと思ってるの……」
 聞けば先生は腕時計を見て
「ああ、もう綾人の起きる時間か」
「「「綾人さんおはようございます!」」」
 三年ズの真っ暗な時間帯の朝の挨拶に俺がおかしいかと思うも時間は既に四時。いつもの時間だとほっとして、長火鉢から上る薬缶の湯気をみてインスタントのココアを上島に作らせた。
「寝起きでココア、きつくないですか?」
「余裕!」
 上着は着たとは言えパジャマ姿とルームシューズ。超モコモコのルームシューズは暖かくて毎年何足か買う理由なんて一つしかない。
「あやっちー、またルームシューズでうろついて。そのまま家の中あがらないでよ」
 何故か植田に正論の説教をされてしまうも
「大丈夫。掃除するのは俺だし、烏骨鶏なんか外をうろついた足で畳の上も歩くぞ」
「意外といい加減ですね。知ってましたけど」
 水野に言われたがそんなにも几帳面かと思うもそばにいたのが先生なら納得するしかない。
「それより明日働く気があるのならそろそろ寝ておけ。時間給だから寝坊した分引くから」
「え?そんなに聞いてない!」
「リフォームの時の様な考え方なら帰れ。山で働くということは命懸けな事を舐めるな」
 雇用者としてピシャリと言えば既に敷いてある布団に素直に潜り込むのをみて
「八時には仕事を始めるから七時には起きろよ」
「四時間、微妙な時間だ」
「自分自身で時間配分できない事を恨め」
 言いながらもまだ暗い世界に烏骨鶏達も起きないから俺も部屋に戻る。植田に言われて癪だがルームシューズは土間で脱いで新しいルームシューズを履いてすぐの冷たさに身を振るわせるも自室に着く頃には馴染んでいて、俺は寝ている合間に届いた宮下の仕事のログを見ながら編集作業に没頭する。どうやら既に昨日の疲れは消えていた様だ。
 
 宮下の動画は概ね高評だ。
 仕事がマニアックと言うのもあるが今時よく見かける古民家改造で見かける障子問題に初心者の宮下が丁寧に仕事を取り組む姿勢は視聴者の冷やかしよりも玄人視線のコメントが多くて下手なコメントを残すと袋叩きにされると言う……多分知ってる人達なんだろうなと思いながらも見守る姿勢を今の所貫いている。
 でも皆さんが沸き立つのは納得できる。
 木を切って乾燥させて形を整えて組み上げて障子紙を貼ってやっと一枚の障子が出来上がるのだ。釘も使わず、ボンドも使わず、計算尽くされた美の作にホースで水をぶちまけながらたわしでゴシゴシと擦られボキッと桟を折ったりして廃棄しているのを見れば作り手怒るのは当然と言う物。
 木は濡れたら歪む、それぐらい知ってるだろうと突っ込むコメントに古民家に住むいみないんじゃね?なんて辛辣な言葉があるくらいだ。ほどほどにしてやれよと思うも寒い季節だと言うのにあまり広くもなく明るくもない作業場で一人作業をする宮下の顔はいつも真剣だ。
 宮下は濡れたスポンジで糊を剥がし、折れた桟を同じサイズに切り取り、木槌を使って障子をばらして折れた箇所と入れ替えて元通りにしてついでに積もり積もった埃も硬く絞った雑巾で拭き取っていく。刷毛で薄く糊を付けて障子を貼って一ミリにもない紙一枚の僅かな段差がつけられた障子紙のサイズに余剰の紙を切り取っていく。息をつめる様な時間を終えた後に霧吹きを吹いて障子を元あった場所に設置する。いい感じだと褒める西野さんはそこは師匠と言うべきか残りの障子十四枚ほども練習によろしくと宮下に丸投げする。
 さすがの宮下も慄いていたけど、三日をかけて終わらせて、最後は西野さんの奥さんと新しい障子の前の縁側でお茶をいただくシーンで終わるのだった。
 こうやって一つ一つ仕事を覚える様子を見ながらチョリチョリさんの音楽がのんびりと流れていく。
 宮下の動画はチョリチョリさんの音楽を余す所なく使う様にしている。穏やかにゆっくりとを、でもどこか軽快に聞こえる音楽は宮下には勿体ないだろうが、それでもものを覚えるのに人の何倍の時間が必要だった宮下にとって、この音楽はきっとペースがあっている、そんな気がしていつの間にか口の端を釣り上げながら編集し終えた動画をまず一番に宮下に見せるためにコピーを送っておくのだった。



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