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意外な形で宝と呼ばれる物達 1
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お披露目の長い昼食は日が傾きだした所で第一回目が終了となった。
この後は飯田さんのご両親と弟さんのように帰る方が半分ほど、圭斗の家にお泊りする予定の人、西野さん一家は長沢さんの家で泊まってから帰る人もいるし、高校生のバイトもたんまりともらったバイト料と飯田さんが追加した特別メニューに山に向かって吠えながら食べる様子は沢山の人の笑いを誘う結果となった。
その頃には上品なお客しか相手にしてこなかった弟さんもあまり年が離れてない高校生相手の世話にやんちゃな弟を躾けるかのように小言を言いながら給仕をする様子を飯田家のお三方は微笑ましく見守っていて、案外こう言った成長を期待していたのではと思うのだった。
お昼で粗方おなか一杯になった所で先生が第二種電気工事士の実技に向けて特別授業を開いてくれた。必須工具も用意したので初めての人には試験用工具キットで対応してもらう。山川さんの奥さんのように他に伝手がある人は今回は不参加でお願いして、まったくの初心者様の対策を集中に行うのだった。
因みに高校生チームは学校の部活の時間にやっているので復讐も兼ねてお手伝い役になってもらっている。
嬉しい事に俺の自作のテキストが役に立ってか皆さん筆記試験を突破してくれた。中には夜に英会話教室じゃないけど画面越しに受験生の如く家庭教師をした人もいる。高校にもいかずに大工一筋のヤンキー系兄ちゃんだけど、既に二度離婚して三度目の相手でやっと子供をもうける事になったと言う。少しでも子供の為にと一念発起して勉強を始めたと言うのだけど、中学の時には先生に見放されるくらいの素行は既に問題の漢字が読めないレベル。手に職があるとはいえ、資格がどれだけ重要視されるか何度も悔しい思いをかみしめていただけになりふり構わずに俺に頭を下げて家庭教師を願い出たのだった。
俺はとにかくまずどこまで出来るのかを調べて、めんどくさいけど問題用紙に全部ルビを振った物を作ると言う傑作を作り、それを基本に勉強を教えるのだった。
漢字が読めないのでは丸暗記も難しい。文字を映像として記憶する特技があれば問題がないのだろうが、彼には出来ないみたいなので平仮名と漢字を関連付けて覚えてもらうしかないと反復学習で乗り切ってもらう事になった。ありがたい事にマークシートなので漢字が書けなくても問題はないし、文字書き計算は苦手でも図面を見るのは得意なこの人はこの業界でもこの手の人は多いのでそこは頭でうんちくを覚えるよりも体で覚えてもらい、問題なく出来てしまったのはどうなのだろうかと思うが一応摺合せをして置く時間を作るのだった。
あとは練習セットで繰り返し練習をし、コツを掴ませている間にすっかりと夜になってしまっていた。勿論この人以外にも何人も真剣に取り組んでる方が居て、ここぞとばかりにテストが終わってもよくわからなかったオームの法則の勉強まで取り組む人もいた。
みんなまじめだなと、ここに残る人の為に晩御飯に取り掛かる飯田さんはニマニマと新しいキッチンで今時手に入らない一枚板のまな板で野菜を刻んでいるのをお父さんは最後まで羨ましそうな目で眺めてから去っていった。
そして明日は井上さんが中心となる茅葺屋根の素材集め。ススキ畑の刈り取りと言う大イベントが待っているのだ。目の前の段々畑の一番下の所で立ち枯れしているススキを刈り取り、束ねて今手がけている茅葺屋根の材料にと意気込んで乗り込んできた。勿論今一生懸命勉強している方も刈り取り要因で、そんな彼らの為に俺は大和さんに頼んで何年も動かしてないトラクターのメンテナンスをお願いしておいた。
「米じゃないんだから」
苦笑しながらでも、そうたいした広さのない畑だ。やれるだろうと言って準備はしてくれたので明日が天気な事を願うだけだ。
そしてなぜか波瑠さん達も泊まっていく事になった。
「古民家サイコー!!!」
そう言ったのは波瑠さんではなく多紀さん。母屋にあげた途端ぶっ壊れ気味に人のカメラを取り上げたまま撮影しまくっていた。
ふふふ、長沢さんの美技に見ほれるがよい。
襖と障子を全部張り替えてもらって約五十万の追加には笑ったけど、襖一枚一万円か?仏間は一つ格式高く手漉きの和紙で仕上げたとか、金具はすべて取り換えてくれたし長い間に湿度と雪の重さで生まれた歪みも直してくれたし、障子の桟の壊れた所を直してくれたり、割れてテープで止めていたガラスも入れ替えてくれたり、何か覚えのない飾りがついているけどそこは本職の遊び心としてありがたく愛でておきます。ありがとうございます!なんてやけっぱちになるのは仕方がないだろう。
ではなく多紀さんだ。
あなた今映画の撮影がおしてるのでは?と不安になる物の、何故かロケハンの人達が荷物を持ってやってきて打ち合わせを始めると言う光景は母屋の囲炉裏を囲んで何やら話し合いを始めて帰れとは言いにくい空気を醸し出していた。
多紀さん達には晩御飯を用意しただけで人数分の布団を部屋の片隅に置いて後はノータッチにして宿泊組は母屋の台所側と旧家の離れで雑魚寝をしてもらう。合宿場と使われていたので布団は十分にあるし、余っていた布団をいただいたりしたので十分に行き渡る数は用意できている。大工一行の皆さんはキッチンの窯オーブンの予熱と土間の長火鉢で二次会は盛り上がりに盛り上がって布団は必要がない様子だった。
そんな夜に酔いつぶれて転がるみんなを無視して飯田さんが朝ごはんを用意して帰路へ着く準備をしていた。
最後にと五右衛門風呂でさっぱりとした飯田さんは満足げな顔で俺を見て
「本当にありがとうございます。俺の為にこんな立派なキッチンを作ってもらって。しかも母屋の竈もこんなにも堪能させてもらって本当になんて言って感謝をすればいいか」
ありがとうと言う様に握手を求められて手を握り返す。
「綾人さんの葛藤は知ってました。綾人さんが寂しがり屋で、踏ん張ってここに居る事も知っていて、黙って見守ってきました」
案外顔に出やすかったんだなと自分の自己評価を改めなくてはと反省。と言うか昨日のあれが今になって恥ずかしさが押し寄せてきて顔を上げれないくらいに照れてしまった。
「だけど、一年、二年と通ううちにだんだん苦しげな顔がなくなり、最初こそ俺の方も青山に言われて通っていたのも半分ありましたが、今では既にここも俺の実家となっています。これからどれだけ包丁を握る事が出来るか判りませんが、いつか店を去る時が来た時は本気で住み付こうと思いますので、ここは絶対残してください」
「その頃まで熊に負けてなければいつでもお待ちしてます」
笑いながら何十年先の約束をする。まるでこの友情が永遠だと言わんばかりの内容はこそばゆく、おもばゆく。
何の確約もない約束なのにと思うけど、心だけでも片隅に置いてもらえればそれ以上の贅沢はないのではと思う。
「ではまた来週からはいつもの通りに来ます」
「はい。お待ちしてます。そして青山さんにもありがとうございましたとお伝えください」
「それはこちらもです」
言えばしっかりと松茸が入った籠を持って笑う姿にお昼の賄も楽しみですと無敵に笑う飯田さんはこれから帰って一休みしてまた仕事に取り掛かるバケモノ体力の持ち主だと言う事を改めて思い知るのだった。
少し朝が遅くなってまだ真っ暗な山道を遠ざかるテールランプを見送り家に戻ればそこにはタイミングを見計らったような先生がおふろセットを持って立っていた。
「シェフは帰ったのか?」
「また今夜に向けて仕込があるそうなので」
「まじめだなあ」
「そう言う先生は?」
「飯はまだだろ?なら先に酒を抜くためにお風呂に。そして明日は休みなのでのんびり皆さんに付き合うよ」
ふらりふらりとまだ眠そうにあくびを零しながら五右衛門風呂に向かう背中を見送るのだった。
この後は飯田さんのご両親と弟さんのように帰る方が半分ほど、圭斗の家にお泊りする予定の人、西野さん一家は長沢さんの家で泊まってから帰る人もいるし、高校生のバイトもたんまりともらったバイト料と飯田さんが追加した特別メニューに山に向かって吠えながら食べる様子は沢山の人の笑いを誘う結果となった。
その頃には上品なお客しか相手にしてこなかった弟さんもあまり年が離れてない高校生相手の世話にやんちゃな弟を躾けるかのように小言を言いながら給仕をする様子を飯田家のお三方は微笑ましく見守っていて、案外こう言った成長を期待していたのではと思うのだった。
お昼で粗方おなか一杯になった所で先生が第二種電気工事士の実技に向けて特別授業を開いてくれた。必須工具も用意したので初めての人には試験用工具キットで対応してもらう。山川さんの奥さんのように他に伝手がある人は今回は不参加でお願いして、まったくの初心者様の対策を集中に行うのだった。
因みに高校生チームは学校の部活の時間にやっているので復讐も兼ねてお手伝い役になってもらっている。
嬉しい事に俺の自作のテキストが役に立ってか皆さん筆記試験を突破してくれた。中には夜に英会話教室じゃないけど画面越しに受験生の如く家庭教師をした人もいる。高校にもいかずに大工一筋のヤンキー系兄ちゃんだけど、既に二度離婚して三度目の相手でやっと子供をもうける事になったと言う。少しでも子供の為にと一念発起して勉強を始めたと言うのだけど、中学の時には先生に見放されるくらいの素行は既に問題の漢字が読めないレベル。手に職があるとはいえ、資格がどれだけ重要視されるか何度も悔しい思いをかみしめていただけになりふり構わずに俺に頭を下げて家庭教師を願い出たのだった。
俺はとにかくまずどこまで出来るのかを調べて、めんどくさいけど問題用紙に全部ルビを振った物を作ると言う傑作を作り、それを基本に勉強を教えるのだった。
漢字が読めないのでは丸暗記も難しい。文字を映像として記憶する特技があれば問題がないのだろうが、彼には出来ないみたいなので平仮名と漢字を関連付けて覚えてもらうしかないと反復学習で乗り切ってもらう事になった。ありがたい事にマークシートなので漢字が書けなくても問題はないし、文字書き計算は苦手でも図面を見るのは得意なこの人はこの業界でもこの手の人は多いのでそこは頭でうんちくを覚えるよりも体で覚えてもらい、問題なく出来てしまったのはどうなのだろうかと思うが一応摺合せをして置く時間を作るのだった。
あとは練習セットで繰り返し練習をし、コツを掴ませている間にすっかりと夜になってしまっていた。勿論この人以外にも何人も真剣に取り組んでる方が居て、ここぞとばかりにテストが終わってもよくわからなかったオームの法則の勉強まで取り組む人もいた。
みんなまじめだなと、ここに残る人の為に晩御飯に取り掛かる飯田さんはニマニマと新しいキッチンで今時手に入らない一枚板のまな板で野菜を刻んでいるのをお父さんは最後まで羨ましそうな目で眺めてから去っていった。
そして明日は井上さんが中心となる茅葺屋根の素材集め。ススキ畑の刈り取りと言う大イベントが待っているのだ。目の前の段々畑の一番下の所で立ち枯れしているススキを刈り取り、束ねて今手がけている茅葺屋根の材料にと意気込んで乗り込んできた。勿論今一生懸命勉強している方も刈り取り要因で、そんな彼らの為に俺は大和さんに頼んで何年も動かしてないトラクターのメンテナンスをお願いしておいた。
「米じゃないんだから」
苦笑しながらでも、そうたいした広さのない畑だ。やれるだろうと言って準備はしてくれたので明日が天気な事を願うだけだ。
そしてなぜか波瑠さん達も泊まっていく事になった。
「古民家サイコー!!!」
そう言ったのは波瑠さんではなく多紀さん。母屋にあげた途端ぶっ壊れ気味に人のカメラを取り上げたまま撮影しまくっていた。
ふふふ、長沢さんの美技に見ほれるがよい。
襖と障子を全部張り替えてもらって約五十万の追加には笑ったけど、襖一枚一万円か?仏間は一つ格式高く手漉きの和紙で仕上げたとか、金具はすべて取り換えてくれたし長い間に湿度と雪の重さで生まれた歪みも直してくれたし、障子の桟の壊れた所を直してくれたり、割れてテープで止めていたガラスも入れ替えてくれたり、何か覚えのない飾りがついているけどそこは本職の遊び心としてありがたく愛でておきます。ありがとうございます!なんてやけっぱちになるのは仕方がないだろう。
ではなく多紀さんだ。
あなた今映画の撮影がおしてるのでは?と不安になる物の、何故かロケハンの人達が荷物を持ってやってきて打ち合わせを始めると言う光景は母屋の囲炉裏を囲んで何やら話し合いを始めて帰れとは言いにくい空気を醸し出していた。
多紀さん達には晩御飯を用意しただけで人数分の布団を部屋の片隅に置いて後はノータッチにして宿泊組は母屋の台所側と旧家の離れで雑魚寝をしてもらう。合宿場と使われていたので布団は十分にあるし、余っていた布団をいただいたりしたので十分に行き渡る数は用意できている。大工一行の皆さんはキッチンの窯オーブンの予熱と土間の長火鉢で二次会は盛り上がりに盛り上がって布団は必要がない様子だった。
そんな夜に酔いつぶれて転がるみんなを無視して飯田さんが朝ごはんを用意して帰路へ着く準備をしていた。
最後にと五右衛門風呂でさっぱりとした飯田さんは満足げな顔で俺を見て
「本当にありがとうございます。俺の為にこんな立派なキッチンを作ってもらって。しかも母屋の竈もこんなにも堪能させてもらって本当になんて言って感謝をすればいいか」
ありがとうと言う様に握手を求められて手を握り返す。
「綾人さんの葛藤は知ってました。綾人さんが寂しがり屋で、踏ん張ってここに居る事も知っていて、黙って見守ってきました」
案外顔に出やすかったんだなと自分の自己評価を改めなくてはと反省。と言うか昨日のあれが今になって恥ずかしさが押し寄せてきて顔を上げれないくらいに照れてしまった。
「だけど、一年、二年と通ううちにだんだん苦しげな顔がなくなり、最初こそ俺の方も青山に言われて通っていたのも半分ありましたが、今では既にここも俺の実家となっています。これからどれだけ包丁を握る事が出来るか判りませんが、いつか店を去る時が来た時は本気で住み付こうと思いますので、ここは絶対残してください」
「その頃まで熊に負けてなければいつでもお待ちしてます」
笑いながら何十年先の約束をする。まるでこの友情が永遠だと言わんばかりの内容はこそばゆく、おもばゆく。
何の確約もない約束なのにと思うけど、心だけでも片隅に置いてもらえればそれ以上の贅沢はないのではと思う。
「ではまた来週からはいつもの通りに来ます」
「はい。お待ちしてます。そして青山さんにもありがとうございましたとお伝えください」
「それはこちらもです」
言えばしっかりと松茸が入った籠を持って笑う姿にお昼の賄も楽しみですと無敵に笑う飯田さんはこれから帰って一休みしてまた仕事に取り掛かるバケモノ体力の持ち主だと言う事を改めて思い知るのだった。
少し朝が遅くなってまだ真っ暗な山道を遠ざかるテールランプを見送り家に戻ればそこにはタイミングを見計らったような先生がおふろセットを持って立っていた。
「シェフは帰ったのか?」
「また今夜に向けて仕込があるそうなので」
「まじめだなあ」
「そう言う先生は?」
「飯はまだだろ?なら先に酒を抜くためにお風呂に。そして明日は休みなのでのんびり皆さんに付き合うよ」
ふらりふらりとまだ眠そうにあくびを零しながら五右衛門風呂に向かう背中を見送るのだった。
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