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まずは一歩 2
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金曜日、この日は気合を入れてパソコンの前に座った。
こーっこっこっ……
長閑にも聞こえる烏骨鶏の囀りに癒しを覚え、いつもの通り内田さん達の仕事も本日はお休みとなっている。
いつもの通りパソコンの周りにこれでもかと食料と飲料を置いて戦闘開始。
最近適当だったしなんだかんだで結果を出していなかった。ちょっとやそっとじゃなんて事ないぐらいの蓄えはあるが、今回家の手入れをして弾き出された具体的な数字にジイちゃんより少し若い程度のこの家をいかに保つ為にはと考えると、蘇らせた家の分も世話をしなくてはいけない金額が必要だ。
それぐらいはいくらでもなんとかなる。
この家の一番の問題は環境なのだ。
ジイちゃんだ自分で伐採、抜根、剪定、植樹となんでもやっていた。
庭木程度なら伐採はやれるが山の木となると疑問だ。切って、山から運んで下ろして……となるとお手上げだ。
機械が入れるところならなんとでもなるだろう。実際子供の時ジイちゃんに連れられて仕事をしていたのを見ていたのだ。やり方もコツも注意点も今もきちんと覚えている。道具の取り扱いも機械の怖さも教えてもらっている。
何より山には神様がいる。
この大自然の中で暮らす故の信仰だろう。そう言った迷信じみたことも教えてもらった。
山に住むとは山の恵みに感謝をし、自然にあがらえない事をきちんと恐れ、今ある命を敬う、そういう暮らしだと教えられた。
小学校の夏休みの自由研究のテーマに取り上げた題材にジイちゃんはそれはそれは嬉しそうに、この吉野の歴史を全部を語る勢いで俺に話す。
とは言っても夏休みが終わってすぐに東京に戻り、それからしばらくもしないうちに風邪をこじらせて、夜眠るように逝ってしまった……
あまりにも呆気なくって返却された夏休みの自由研究をお棺の中に入れてもらったけど、ジイちゃんはどう採点してくれるか、厳しい答えとまたあの嬉しそうな顔で一から話が始まるのだろうかと想像をして、なんの答えのない……
初めての死別という体験に涙をするのだった。
そのジイちゃんが誇った家と山を守る。ここに来てやっと決意ができた。
とは言え、命大事に。
これは絶対だ。
一応この家はフェンスでぐるりと囲んである。あまりに広範囲なので肝心のフェンスなんて見えないし、猿なんて余裕で超えてくる。広すぎて猪や狐達が掘っただろう穴もどこにあるか見つけられず、壊れている所もあるのだろう。熊も当然やってくる。
うん。
意味ねえ……
なのでここは一つ気合を入れてフェンスを直す事から始めなくてはいけない。
来年の春から。
仕方ないじゃないか。
もうすぐ冬が来るんだぞ?
冬と同時に雪が降るんだぞ?
動物達の蓄えの季節に入るし、熊が冬眠の為のバーサーカーになる季節なんだぞ?
そして雪が降ったら遭難率が上がるんだぞ?
うちの山で人が死ぬのは勘弁してくださいと土下座してお願いする内容だが、過去には何人なんて生ぬるい数の人が亡くなっているのだ。
今更なんて決して言わない。
取り敢えずこの家と畑をぐるりと囲む範囲のフェンスを作ってもらいたい。直ぐに穴を塞いだり補修できるように見えるところにフェンスが欲しい。家主すら知らないところにあるフェンスなんて意味ないだろうとフェンスの探索も猟友会の人と一緒に探索する事に決めた。
今回からはそのための資金集め。
「やるぞ!!!」
俺の気合の結果「やり過ぎです」と税理士さんに笑わる未来が見えたがちゃんと毎月報酬を支払っての雇用契約をしているのだ。気持ちよく応援してもらいたいものの半分は税金で引かれるからやりすぎぐらいがちょうどいいのですと他にお金のかける所のない山奥の生活の数少ないお金の使い方だ。
多少ゾンビ状態になってはいるもののやり切った感は十分以上だ。
温かな縁側に座布団を枕に沈みかけた陽射しの中一瞬うとうととする。ガラス窓越しに烏骨鶏が人影を見つけて餌を集ろうと集まってきたところで嘴でガラスを叩く音にクッキーの缶に入れておいたミルワームを取り出して庭にばら撒いた。
クッキーだと信じて嬉しそうな顔を隠さずに対面した干からびたミルワームと対面してキャーッと悲鳴をあげたのは植田だったか。妙な親近感を覚えたがこんなのにビビるなんてと笑いながらミルワームを植田に投げつけたことを思い出す。クッキーの缶はサビが出てきたから思い出と引き換えに新しい缶に変えたい。
そもそも植田はクッキーだと思ってたのにミルワームだったからその差に頭が処理できずにパニックになっただけで、この家に来る奴らで俺みたいにガチで涙わ流す奴なんて誰もいない。ふっ……
そんな思い出に浸ってるのも楽しいもののあと少しでめんどくさい奴が来るのだ。
かつては教師と生徒という間柄の今は友人の先生が腹をすかせてやって来るのだ。文化祭と体育祭の準備で忙しいとぼやきながらも理科部の出し子に何にしようって相談に来るのもお約束。毎年恒例手作りラムネの実食で良いじゃんと思いながらも一応遠心分離機を利用したわたあめ作りとか、魚の解剖と称したお刺身の実食とか案をいくつかだしてラムネしか許可降りなかったというのもお約束。校長が変わらないことを切に願う。
朝水を抜いて昼に掃除して水を溜めて
「そろそろ暖かくしておくか」
時計を見れば来るまでにはまだ一時間以上はかかる。時間は十分。
散々食べ散らかした後だけど空腹を訴える胃袋にお釜でごはんを炊いていっぱい食べようと気合を入れた。
こーっこっこっ……
長閑にも聞こえる烏骨鶏の囀りに癒しを覚え、いつもの通り内田さん達の仕事も本日はお休みとなっている。
いつもの通りパソコンの周りにこれでもかと食料と飲料を置いて戦闘開始。
最近適当だったしなんだかんだで結果を出していなかった。ちょっとやそっとじゃなんて事ないぐらいの蓄えはあるが、今回家の手入れをして弾き出された具体的な数字にジイちゃんより少し若い程度のこの家をいかに保つ為にはと考えると、蘇らせた家の分も世話をしなくてはいけない金額が必要だ。
それぐらいはいくらでもなんとかなる。
この家の一番の問題は環境なのだ。
ジイちゃんだ自分で伐採、抜根、剪定、植樹となんでもやっていた。
庭木程度なら伐採はやれるが山の木となると疑問だ。切って、山から運んで下ろして……となるとお手上げだ。
機械が入れるところならなんとでもなるだろう。実際子供の時ジイちゃんに連れられて仕事をしていたのを見ていたのだ。やり方もコツも注意点も今もきちんと覚えている。道具の取り扱いも機械の怖さも教えてもらっている。
何より山には神様がいる。
この大自然の中で暮らす故の信仰だろう。そう言った迷信じみたことも教えてもらった。
山に住むとは山の恵みに感謝をし、自然にあがらえない事をきちんと恐れ、今ある命を敬う、そういう暮らしだと教えられた。
小学校の夏休みの自由研究のテーマに取り上げた題材にジイちゃんはそれはそれは嬉しそうに、この吉野の歴史を全部を語る勢いで俺に話す。
とは言っても夏休みが終わってすぐに東京に戻り、それからしばらくもしないうちに風邪をこじらせて、夜眠るように逝ってしまった……
あまりにも呆気なくって返却された夏休みの自由研究をお棺の中に入れてもらったけど、ジイちゃんはどう採点してくれるか、厳しい答えとまたあの嬉しそうな顔で一から話が始まるのだろうかと想像をして、なんの答えのない……
初めての死別という体験に涙をするのだった。
そのジイちゃんが誇った家と山を守る。ここに来てやっと決意ができた。
とは言え、命大事に。
これは絶対だ。
一応この家はフェンスでぐるりと囲んである。あまりに広範囲なので肝心のフェンスなんて見えないし、猿なんて余裕で超えてくる。広すぎて猪や狐達が掘っただろう穴もどこにあるか見つけられず、壊れている所もあるのだろう。熊も当然やってくる。
うん。
意味ねえ……
なのでここは一つ気合を入れてフェンスを直す事から始めなくてはいけない。
来年の春から。
仕方ないじゃないか。
もうすぐ冬が来るんだぞ?
冬と同時に雪が降るんだぞ?
動物達の蓄えの季節に入るし、熊が冬眠の為のバーサーカーになる季節なんだぞ?
そして雪が降ったら遭難率が上がるんだぞ?
うちの山で人が死ぬのは勘弁してくださいと土下座してお願いする内容だが、過去には何人なんて生ぬるい数の人が亡くなっているのだ。
今更なんて決して言わない。
取り敢えずこの家と畑をぐるりと囲む範囲のフェンスを作ってもらいたい。直ぐに穴を塞いだり補修できるように見えるところにフェンスが欲しい。家主すら知らないところにあるフェンスなんて意味ないだろうとフェンスの探索も猟友会の人と一緒に探索する事に決めた。
今回からはそのための資金集め。
「やるぞ!!!」
俺の気合の結果「やり過ぎです」と税理士さんに笑わる未来が見えたがちゃんと毎月報酬を支払っての雇用契約をしているのだ。気持ちよく応援してもらいたいものの半分は税金で引かれるからやりすぎぐらいがちょうどいいのですと他にお金のかける所のない山奥の生活の数少ないお金の使い方だ。
多少ゾンビ状態になってはいるもののやり切った感は十分以上だ。
温かな縁側に座布団を枕に沈みかけた陽射しの中一瞬うとうととする。ガラス窓越しに烏骨鶏が人影を見つけて餌を集ろうと集まってきたところで嘴でガラスを叩く音にクッキーの缶に入れておいたミルワームを取り出して庭にばら撒いた。
クッキーだと信じて嬉しそうな顔を隠さずに対面した干からびたミルワームと対面してキャーッと悲鳴をあげたのは植田だったか。妙な親近感を覚えたがこんなのにビビるなんてと笑いながらミルワームを植田に投げつけたことを思い出す。クッキーの缶はサビが出てきたから思い出と引き換えに新しい缶に変えたい。
そもそも植田はクッキーだと思ってたのにミルワームだったからその差に頭が処理できずにパニックになっただけで、この家に来る奴らで俺みたいにガチで涙わ流す奴なんて誰もいない。ふっ……
そんな思い出に浸ってるのも楽しいもののあと少しでめんどくさい奴が来るのだ。
かつては教師と生徒という間柄の今は友人の先生が腹をすかせてやって来るのだ。文化祭と体育祭の準備で忙しいとぼやきながらも理科部の出し子に何にしようって相談に来るのもお約束。毎年恒例手作りラムネの実食で良いじゃんと思いながらも一応遠心分離機を利用したわたあめ作りとか、魚の解剖と称したお刺身の実食とか案をいくつかだしてラムネしか許可降りなかったというのもお約束。校長が変わらないことを切に願う。
朝水を抜いて昼に掃除して水を溜めて
「そろそろ暖かくしておくか」
時計を見れば来るまでにはまだ一時間以上はかかる。時間は十分。
散々食べ散らかした後だけど空腹を訴える胃袋にお釜でごはんを炊いていっぱい食べようと気合を入れた。
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