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これもまた山暮しのお約束 6

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 庭の日当りのいい場所を選んで土を掘り起こした。そこにはまだひょろひょろとした葱が育っていたが
「葱なら別の場所に植え替えれば逞しく育つ」
 そう言って綾人にあっさりと抜かれてしまった。
 今から見える庭は綾人がばっさりと切り落としてしまったために殺風景になってしまったが綾人が深く土を掘る間に陸斗に落ち葉をかき集めさせたものを穴に入れて少し土と混ぜた所に金柑の木を俺に置けという。
 病み上がりだからかショベルを地面に突き立ててハアハアと息を切らしていた物の、ビニールシートから取り出した金柑の木を穴の中に居れればいつの間にか陸に渡していたシャベルで土をかぶさせるように指導するのだった。更にと軽トラの荷台から
「ススキ?」
「さっき陸斗が刈ってた奴。持って来たから掘り返した地面の上にばらまいて水をたっぷりとかける。乾燥を防げるからしっかりと根付くまでかけて置く様に」
 綾人の指示のままたっぷりとススキをかぶせて庭の水道からホースを引いて来てたっぷりと水を与える。
「これで当面は大丈夫だと思うけど。冬を越えれるかどうかは保証しないぞ」
 移植何て春にやる仕事だとぼやく綾人を家の縁側に連れて座らせる。
「悪いな。病み上がりなのに」
「思ったよりしんどかった」
 陸斗が早速と言う様にお茶を出してくれて、綾人は冷たい麦茶を飲んでいく。喉が渇いたと言う様にひとおもいで呑み干して「あっつー」と山とは違う残暑の残る気温にぱたりと縁側に横になっていた。
「山は涼しいからな」
「夜だけとは言え九月にストーブだから寒いくらいだけどな」
 季節感狂いそうだと笑いながら
「でも山から下りないんだな」
 昨日の熱でうなされる様子を見て思った事がポロリと口から滑り落ちてしまった。
「まぁ、高卒無職を雇う会社なんてないし」
「俺が雇ってやろうか?」
「俺の今の収入から満足する金額なら」
「くたばれ!」
 思わず右頬にストレート。
「顔は止めて!私女優なのよ!」
「何のネタだ?判る時代のネタを持って来い!」
 縁側で横たわったままよよよと崩れて泣く綾人に呆れながらもホースを片付けている陸斗を見ながら
「俺は……物足りなさは覚えているけどそんなもんこっちに来る前からずっと思っていたし。今更って言うのもある。何かしたいと言う気持ちはあるけど、あの山で生活って言う縛りの中でだったら何が出来る?縛られる理由はないけど、山で生きる事が俺が俺に課した人生のテーマだとしたらなかなかの攻略難易度が高くてやる気が湧くだろ?」
「人生ゲームか」
「その方が客観的で分かりやすい。生活がいっぱいいっぱいになると判らなくなるから。自分の事で一杯で周りが見えなくなる。その時に大切なものを見落としたら……」
 だから何だと言う所だろうか。俺が守りたいのはこの山の家での生活で。ありがたい事に生活するだけの資金はあるし、人一人生活するには十分な収入もある。
「もしこの山を下りるとしよう」
 じっと圭斗の顔を見て
「俺がこの土地に縛られる理由はない」
 その考えに初めて気が付いたと言う圭斗は息を呑み込んで固まってしまう顔を見て失笑。
「だけど俺は宮下と圭斗と友達でいたいから。
 だったら街中に住むのもここに居るのも変わりがないと思うわけだ」
 安心したかのようにそっと息を吐きだす圭斗に今度こそ声を立てて笑い飛ばす。
「笑うな! 
 俺だって恩人のお前が一人で変な所に行かないか心配なんだよ!」
 笑われたのがよほど悔しいのかむすっとする顔にも笑ってやればごろんと寝転ぶ俺の腹の上に頭を置いてぐりぐりと居心地のいい場所を探すような圭斗に思わず呻いてしまいながら
「勝手にいなくなるなよー。出かける時は俺に連絡だぞー」
「お、おふっ、頭が胃にダイレクトアタック……吐くぞ……」
「ぷにぷにのお腹って気持ちいいなー」
「この畑仕事と薪割で鍛え上げた腹筋をぷにぷに言うなー!!!」
 強引な腹筋で置き上がれば俺はそのまま庭に間で叩き落とされてしまい慌てて陸斗がやってくるも俺も綾人も笑っているからほっとしたように縁側に座った。
 未来の展開はまだまだ険しいのにそれでも何だか暖かい場所が出来てニマニマとしてしまえば綾人もニマニマと笑う。
「何だよ、気味が悪いな」
「んー?そりゃ圭斗君にこんなにも心配してもらって嬉しくないわけないだろ?」
 顔が引きつってしまうも縁側に座り込んで
「たまにはうちにもとまりに来い」
「烏骨鶏がなぁ」
 動物の世話をしている間は難しいですと言う綾人に
「だったら全部食べてしまえ」
「そりゃ食用だけど無駄遣いするのはちょっと……」
 命大切に。
 食用として育ててる命ならなおさら大切にしたい思いは理解できる。
「泊まりに来る時家に連れて来れる数にすればいい」
「その発想はなかった」
「犬や猫入れるキャリーバックだっけ?あれに入れれるだけにしてさ」
「入るのか?」
 さあと笑う圭斗は入ればいつでもうちに泊まりに来れるだろと笑う。
「冬季の避難所になるし、冬前に食料買い込む必要もない」
「いざとなったら宮下のにーちゃんに宅配してもらうけど」
「大和さん使いすぎだろ」
「あの人は良いんだよ。今はまだ仕事してる方が気がまぎれるって言ってるからね」
「元奥さんの呪い半端ないなぁ」
 あまり会った事が無いのでどんな人か知らない圭斗は俺達の話しだけでしか知らないので顔を引き攣らす程度だけど、実際はもっとすごいんだぞ?お前の両親な身なんだぞと心の中で説明をしておく。
 そんな事をしているうちにしっかりとクールダウンも出来て家の内装をしつつ倉庫や小屋の手も入れ始めていた。
「ついに倉庫に手を付け始めたか」
「作業ようにね。綾人の家の土間みたいな場所が欲しいんだ。そこに少し靴脱いで寝転べる場所があればなおよし。贅沢言えば囲炉裏があればいいなとは思うけど、管理が大変だからそこはお前の所で堪能する。
 でも屋根付きのバーベキュー会場程度ならいいかな」
「やっぱり魚は炭で焼いた方が美味いしな」
「鳥皮もパリパリになるしね」
 二人して思い出してじゅるりと涎を垂らす。
 横からの陸斗の視線に口元を拭うも
「でもまだ今夜は綾人の胃の調子を考えて鍋にしよう」
「大根が出来てきたのでみぞれ鍋を所望します!」
「魚と鳥肉をたっぷりと入れよう」
「魚と鳥肉は飯田さんがしっかりと補充してくれました!
 野菜はうちので十分だけど菌類は一切ありません!」
「みぞれ鍋なら椎茸か?シメジも美味いが……」
「両方が良いと思います!」
「よし、買い物に行こう!」
 と立ち上がった所で陸斗が怪訝な視線を向ける。どうしたのかと思えば
「山の方真っ黒な雲が広がってるよ?
 大丈夫?
 そんな心配に俺もだが綾人も顔を真っ青にする。
「自動草刈り機置きっぱなしにしてきた!!!」
「そうじゃない!先生が山に登ってるのをまず心配しろ!」
「先生なら問題ない!
 其れより自動草刈り機!椎茸のない鍋何てはんたーい!!!!」
 急いで軽トラに乗り込む綾人に俺達も慌てて乗り込む。俺の車は綾人に家に置きっぱなしだからここで置いて行かれたらまた面倒な話になると陸斗に家の鍵の剪定を急かしながら山へと戻り草刈り機を回収。足元は泥まみれになるし最悪ーと濡れ鼠になって家へと戻れば
「綾人ー、やっと帰って来たかー」
 五右衛門風呂の窓から先生の手がここだと賢明に主張していた。
「先生無事だったんだ」
 泥まみれのナイロンパーカーを山水で泥を洗い落としながら聞けばちゃぷんと水の揺れる音が聞こえる。
「途中から雲行きが怪しくなってそこで帰って来たらざーって、ね?
 先生日頃の行いがいいから無事濡れずに済んだわあ」
 それでは俺達のほうが日頃行いが悪いとでも言うようにずぶ濡れの俺と圭斗は不貞腐れる。何があっても先生には言われたくない。
「とりあえずまた熱が出るといけないから綾人は速攻で風呂に入る。俺は竃に火を入れて家を温める」
「あー、頼む」
 言いながらまっすぐ風呂場に行きざーっとシャワーの音を聞きながら陸に鍋の準備をさせる。野菜と肉もかき集めた所ですぐに綾人が風呂から上がって来た。
「もう良いのか?」
「うん」
 このまま陸に鍋の準備をお願いし、綾人に服を借りて少し熱めのシャワーで体を温めるのだった。
 

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