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心は砂漠のように乾いて行く物だと思い出す 8

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 お腹いっぱい、大林夫妻の巧みなトークに心も満たされて既に他の客は帰られたと見えて随分遅くまで、それでも常識的な時間でお開きとなった。
 本日のこの宝石箱のようなメニューを考えてくれたメインシェフの高遠さんにも挨拶も出来たし、青山さんも最後まで俺達へのサービスを徹底してくれて大林夫妻も夢のような時間だったと大満足してくれた。
 俺だってこれ以上のサービスを知らない。
 暖かな一時の幸せな時間を共有する人がいるのは嬉しい事だとほっこりと温まる心に知らず知らず笑みを浮かべていた。

 はずなのに、天国があれば地獄もあった。

 幸せの時間は一瞬で崩れ去り、上手く、冷静、客観的に対処しようと思ったけど、一番最初から既に無理な状態から始まって散々喚いた挙句に何も知らなかった奴にひどい八つ当たりをして自滅をした。
 楽しかった食事の時間を全て吐き戻して、楽しかった時間を後悔の色に変えて、俺の帰りをまちわびていたあいつらを何も言わせずただ黙ったまま帰らせて。

 一人誰もいない山の中で視線は空に向けて横たわっていた。

 子供の頃はどこか冷めてると言われながらも親からの愛情を求め、クリスマスや誕生日ぐらい小さくてもいいから一つの丸いケーキを切り分けて食べる事に憧れていた。
 だけど父親はカレンダー通りの仕事に誕生日もクリスマスも関係なく、数年ぶりに巡ってくる休日の誕生日やクリスマスに並んだケーキはカットされた思い思いの好みのケーキだった。
 何処に食事に行くわけでもなく、プレゼントを強請っても体良く断られたりと親からの愛情が薄いのはかなり早い時点で気がついていた。
 そんな親でも山奥の父親の生家、つまりジイちゃんとバアちゃんの家に行くと夢のような理想の父親と母親になってくれる。今思いだせばただ演じていただけなのだが、子供だった俺にはそれが嬉しくて夏休みはいつ行くのか、お正月はいつ行くのか、春休み行けないのなら五月の連休には行こうよと、世間体が大切だった二人は俺の意見を組み込んで連れては来てくれたけど、よくよく考えたら水族館も遊園地も、動物園にも連れて行って貰った覚えはなかった。
『遠足で行くからいいじゃない』
 中学になると小遣いだけを渡されて友達と行くのが水族館、動物園、遊園地の思い出だった。
 ありがたい事に見栄は張りたいらしく小遣いは普段から平均よりも多いくらいをしっかりともらえていた。
 ただそれだけだ。
 中学になってスマホを買ってもらえて初めて自分が置かれている状況を理解したその頃には父親には別の家庭ができており、母親は何も手をかけなくてもいい同居人として一切の感心を持たなくなっていた。高熱が出て起きれなくてベットで苦しんでいる俺を学校からの連絡で初めて気がつき
『風邪うつさないでよ』
 その一言でお金と保険証を渡されただけの関係。
 病院も気にかけてくれたが両親は共働きで起きた時にはもういなかったからとなぜかフォローしていた俺の心は既に壊れていたんだと思う。
 だから成績も良くそれなりに運動神経も良く、身綺麗にしていた俺はそこそこモテて、中三の時に告白して来た女の子と好奇心だけで簡単に体の関係を持つことができた。
 ひどいませガキだったがそれで一つわかった事がある。
 ヤル事はやれたが、圧倒的に女性の体が気持ち悪い事を確認する事ができた。
 母親からの愛情不足と築けなかった親子関係の影響だろうか。甘やかで柔らかで丸みを帯びたラインがどうしようもないほどの拒絶を生み出す。もちろんだけどそれなら何処かで男性と……と言うわけではない。
 ゴミを見るような目の父親の視線を浴び続けたから父性を求める。と言うことにはならなかった。
 父親と母親に拒絶されて寂しさを埋めるために求めることにならなかった俺の場合は、ひたすら他人との距離をあける事だった。
 バアちゃんも俺を押し付けられた時点で父親と母親を何度も諭そうとするも、父親はさっさと逃げ出し、母さんも自分の親の具合が悪いからと、車が無いと何もできないこの地を去って行ってしまった。
 世間体の目が無くなった俺に親が気にかけることもなくなり、送金すると言った生活費は一切送られる事はなかった。
そもそも荷物も何も送られてくる事なく、高校も行く予定だった地元の公立からの編入を自分でこなし、高額になるバス代を年金暮らしのバアちゃんにたかる……なんて事はできずに、嫌がらせのように母親の職場にたかりにいくが、しまいには外出で居ないと逃げ出す始末。
 職場の人にはどう言う状況か理解してもらえたが、昔の恋人とよろしくしていた母親には一切状況が見えてなく、これがいわゆるお花畑状態かと狂い咲きもいい加減のしろよと吐き捨てれば職場の人にはなかなかの好評だった。
 そんなこんなで一人で生きていかなくてはと思い込んだピカピカの高校一年生の俺の決意はますます人嫌いを発揮して、三年目にして初めてずっと一緒の通学バスを使っていた宮下と圭人を先生経由で連む仲になったのだが、まさかここまで深い付き合いになるとは想定もしてなく、俺が立ち直ったきっかけとも言える証拠とも言うべき無二の親友達だ。

 ぼんやりと晴れない霧の世界は数メートル先の畑も見えない。
 ホテルで意識を失って、気づけば飯田さんに連れられてこの山に戻って来ていた。飯田さんは仕事があるのでと圭人に朝一の電車に乗れるように駅まで送ってもらうとんぼ返りと言うハードスケジュール。相変わらずタフだ。
 先生は飯田さんから大林夫妻が見て聞いた事を全部聞いて、学校が終わるとうちに来るようになった。高校で話をする頃に戻って懐かしいと思うも、うちにいる間は絶対目を離さない俺は、ただの無気力で涙も感情も干からびたまるで人の形を模した突けば崩れる砂の人形のようだった。

 
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