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変化が日々起きている事を実感するのは難しい 4

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 陸斗が帰ってくる時間になるので圭斗は仕事の手を一旦止めることにした。
 陸斗が帰ってくる時間から夕食を作ればいいと朝のうちに買い出したものを合わせて何を作ろうか考える。
 この地方独特の瓢箪のような形をした細長いスクナカボチャで煮物をしよう。一緒にお勤め品で買った五十円のがんもどきを煮て、お味噌汁は忘れない。半額になっていた豆腐と綾人の所から貰った茄子も入れる予定だ。後は同じく綾人の所からもらった猪の肉を薄く削いで生姜焼きにしよう。見切り品コーナーで見つけた生姜をたっぷりと入れて、余った生姜はレモン汁と氷砂糖を一緒に冷蔵庫で寝かせば氷砂糖が溶けた頃にはジンジャーレモンシロップの出来上がりだ。水で薄めてもいいが熱いお湯で割るのもいい。綾人の婆さん、弥生さんの知恵だ。
 まだあの家にいた頃ジュースを飲ませてくれなくって長兄がいつも飲んでいるのを羨ましくみていた香奈と陸斗の為に梅シロップを作っていた弥生さんのレシピを真似て作ったものだ。
 甘い事が嬉しいのか二人は喜んでくれて、何年前に買ったかわからない忘れられた氷砂糖がある限り楽しませたのだった。
 少ない家計費で料理を作らされたせいか俺達の食生活はかなり質素な事を綾人の家で出される料理を見るたびに再確認させられるものの、普段の食費が一ヶ月一万円以下の綾人の通常モードを思えば二人で三万円は成長期を迎えている陸斗がいるのに少ないぐらいだと思い直すしかない。そもそも人一人の食費は一ヶ月約三万円を目安とされれいる。借金も抱えているし、そもそも仕事をもらっている時点で収入も多くもない。なのに陸斗の授業料とか、いくら授業料無料とは言えども光熱費がバカにならないこの地方の学費は決して可愛くはない。
 少し嬉しいことは植田、水野コンビが夏の制服や小さくなった体操服などを譲ってくれたことだろう。使わないくせに必要な辞書や体育に使う剣道のセットなども譲って貰えてずいぶんありがたく思う。
 それもこれも綾人が巡り合わせてくれた縁だなと、俺も綾人と友人関係にならなければ今頃まだあの家で香奈と陸斗を庇いながら理不尽に……ひょっとしたら犯罪者になってたかもしれないとその想像は何度も繰り返した怒りの衝動の過ちからの妄想。なくも無い未来に進まずに済んでよかった。そして、顔を合わさせた事がないはずの妹と弟を宮下が綾人に紹介して、二人ともあの家に利用されずに自分の人生を自分で選んで進んでいる。俺の妹と弟だから、それだけの理由で高校で友達を作ろうともしなかった綾人の譲歩には頭が下がる思いだ。
 さて、そろそろ帰ってくるな。今日も下田と葉山も来るのだろうかと勉強に目覚めた三人組に綾人からもらったジュースを出してやろうかと、倉庫を整理したら出てきた瓶で作ったレモンジュースは陸斗と二人の時に飲もうと今は片付けておけば

「圭ちゃんただいま」
 
 陸斗の明るい声に今日も一日楽しく過ごせたんだとホッとしながら迎えに行けば
「こんにちは」
「お邪魔します」
 案の定下田と葉山の声もした。いくら学校が近いからと言って毎日来るか?と新学期始まってまだすぐなのだが、多分このままずっと来るんだろうなとなんとなく漠然と考えていた。が
「「「お邪魔しまーす」」」
 聞き慣れない声が三つ増えていた。
 しかもヤローの声じゃなくて、賑やかな足音が近づいてくるのを目を点にして待ち構えていれば
「圭ちゃん、みんなと宿題することになったから居間を借りてもいい?」
「ああ、机も奥から持ってこればいい」
「うん」
「お兄さんお邪魔してます」
「机この間のでいいのですね?」
 昔ながらの農家の家には部屋の数が多く、一番使わない部屋に座布団や机をまとめて置いてある。
 お邪魔します、私も手伝う、なんていいながら賑やかにパンツが見えそうな女の子たちも一緒に案内されていった。
 なんの組み合わせだ?何があったんだ? しばらく台所から居間に消えていった背中を見送れば
「陸斗のお兄さんめちゃイケメン!」
「まじかっこいい!ちゃんとメイクしてこればよかった!」
「彼女いる?マジタイプ!」
 きゃー!なんて悲鳴が包み隠される事なく台所まで響く。
 なんとなく居た堪れなさを覚えるもあいにく彼女もいなければお前らも趣味じゃねえというのは口に出さずにジュースを人数分のコップに入れる。
 綾人に押しつけられた年季の入ったグラスはちゃんと洗えばまだまだ現役。多少のレトロ感はあるが好きな人は好きなのだろうと使えればいいだろう精神の俺にはオシャレとかそう言ったセンスは全くない。大工としてはいかがなものだろうかと思うが。
 綾人の家から貰って来たクッキーも一緒に添えて居間と向かえば一応宿題するつもりはあるのかプリントを全員並べていた。女の子達のプリントはみるも無惨な、親近感ある内容だったが
「テスト結果出たのか?」
「はい!綾っちのお陰で夢見ています!」
 弾む下田と葉山と陸斗の声に
「なので私達も教えてもらいに来ました」 
 同じクラスの女の子だと言って
「圭ちゃん、森村さんお隣さんなんだって」
 庭を越えた隣を指さす家は確かに森村さんで
「初めまして!隣の森村です」
「あ、ご丁寧にどうも。篠田圭斗です」
 ちょこんと挨拶をすればまた目の前でカッコイイ!と言われるもなんだかなーと思いながらジュースとクッキーを置いて逃げる様に退散。あまりのパワフルさに太刀打ち出来ないはずだと妙な納得しながら夕食を作り始めればそのうち静かになり、一時間もすればまた賑やかになって
「「「お邪魔しました!」」」
 挨拶の声に慌てて見送りに行って
「宿題終わったか?」
 馴染みある二人に聞けば
「陸斗の教え方がすっごくわかりやすくってほんとありがとう!」
「そう、良かったな」
 きゃーなんてテンション高い女の子達にたじたじになってしまうも
「ほら、バスの時間あるから急ごう」
 葉山の号令に元気よく帰って陸斗またね!と元気に帰って行った団体を見送ってそっと息を吐き出し
「楽しかったか?」
「うん」
 友達が遊びに来る。一緒に宿題をする。女の子の友達もできた。これはちょっと怪しいがどれも初めてづくしで刺激的で。
 
 次の日の朝、ゴミ出しの収集場でお隣の森村さんにばったりと出くわし
「昨日はありがとうございました!
 陸斗君に宿題手伝って貰ったって聞いて、あの子が勉強だなんて初めて口にするから驚いちゃって!」
 長々と感謝の言葉を笑顔で聞き続けるのは案外体力がいるなと思わずにはいられなかった。

 そんな嬉しい愚痴を綾人は圭斗より聞かされ、やっと人並みに高校生活を迎えることが出来たことを内田親子に聞かせればまるで我が子の様な成長ぶりを聞かされた様な満面の笑みを浮かべる二人は縁側から立ち上がり

「ここが子供達の成長の場になる様に心込めて作らないとな」
「家主の家より立派なのは妬けますけどね」
 ここがきっかけで陸斗の様な子に転機が訪れます様にとまだまだ作りかけの家を見上げるのだった。




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