人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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焦って急いでも着地地点は結局同じ、と思ったら大間違いだ 9

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 お昼は台所とすぐ横の座敷に分かれて食べるのはいつもの事。囲炉裏を出して魚を焼いて食べたいと喚く植田に暑いだろうと言って夜外でバーベキューをする事を約束させられた。さて、持ち寄った材料で何が作れるか。いろいろ作れるが簡単に焼いて食べる。その一択なのは先生が始業式の準備やらテストの準備やらで不在なのが一番大きい。そして何時も手伝ってくれている宮下が明後日には向こうに行くと言っていろいろ準備をしている。主に就職とは疑問を抱いてる宮下夫妻だが、ちゃんとした職に就く。随分と安心して張り切っているらしい。
 お兄さんの所にあれから元嫁の突撃はないと言う。さすがに檻の中に入っているので来る事はないと言う。俺の産みの親と同じところではないが、檻付きの病院。退院したらちゃんとした檻生活が待っていると言うらしい。なんでも両親はその兄弟の元に引き取られたとか。元嫁も同様にそちらの方の病院に行ったと言う。その間に親族によって家は売り払われ、更地にする徹底ぶり。勿論リフォームも家を売った事でお支払いをする徹底ぶり。いろいろ思う所があったのだろう。とりあえず兄弟の家は自営業らしく無償の労働力が手に入ったと喜んでいたと言うのを弁護士さんから聞いている。もう帰っては来れないだろうとどこか苦笑する内容には俺も笑うしかない。さすがに海を渡ってまで来る事はそうそうできないなと、はるか北の大地に旅立った親子を思うのだった。
 そんな中でのお蕎麦の差し入れはハイテンションになった宮下のおふくろさんのパワーの矛先の結果だと言う。本日最終日のバイトに向かう前に立ち寄ってくれたが、また帰りに烏骨鶏に会いに来ると言う。せめて俺に会いに来ると言えばいい物をと思うも少しばかりセンチメンタルになってる宮下にこの夜動画の事について話しをする約束も取りつけて置いた。
 そんなこんなで出来たお昼は名物宮下おふくろの蕎麦と我が家の野菜の天ぷら。前回宮下がさっと作ってくれた天ぷらを見た高校生達が親が台所が油まみれになるからなかなか作ってくれない天ぷらがこんなにも簡単に作れる物かと感動して今回挑戦すると言う。勿論そろそろ寂しくなった畑の野菜達がフル稼働して、一部上島ブラザーズが山菜も取って来た。さすがの山菜がどれかは判る奴は少なく、そして水野には植田が付き添って畑から怪しいのを取らないように監視をしてくれていた。
 蕎麦を湯がくのは一年生担当で、陸斗は大根おろしや山芋をすりおろしてとろろを作っている。相変わらず渋いなと感心しながら火事だけは気を付けるように注意は何度も促す。と言うか二年生達の勉強に区切りがついて様子を見に行けば延長コードで庭先で天ぷらを揚げると言う、その発想はさすがになかったよとかんしんした。
「ほら、掃除が大変って言うなら掃除しなくても良い様に?」
「万が一があってもここなら火がつく物ないでしょ」
「いや、そうだけど……」
 台所と風呂を繋ぐ通路から少しはみ出した所に机を置いて揚げている様子に通りすがりの浩太さんも二度見していた。
 オイルフォンデュなる物があるのでありか?と思うも火の扱いだけは気を付けてと言って大騒動の蕎麦組の様子を覗き見る。二年もその大騒動振りに手を貸すが、その合間に陸斗がそばつゆを用意したり盛り付け用のザルを用意したり、お茶やお箸やコップも準備万端にしていた。陸斗の怪我が良くなればどれだけ有能だろうと、その優しさを独占する圭斗に嫉妬してしまうのは仕方がないだろう。
 それはさて置きなんだかんだの大騒ぎのなかやっとお昼の時間になった。内田さん達も一緒にお昼の時間となるのだった。
 少し焦げた茄子の天ぷら。衣だらけの野菜のかき揚げ。達人(?)がとってきた灰汁の出る前の少しほろ苦さを覚える山菜。そして宮下家自慢のいわくつき蕎麦。相変わらず大量なのでおつゆ替わりではないが内田さん達にも食べてもらう。何より陸斗の絶妙な出汁加減のとろろが大変宜しく、お椀にそばをよそってそこにとろろを投入。とろろ嫌いな奴もいるが、納豆同様好き嫌いの多い食材なのでそこは細かくは言わない。
「これはいいな」
 内田さんがとろろそばに舌包みを打ち、お弁当は食べ終わっているのにお替り用の蕎麦からまたとろろそばを食べる。そして親子なので好物も似てるのか浩太さんもしっかりとおかわりを始める。
「こうなるとマグロが欲しいですね」
「陸斗、とろろはまだある?」
「ええと、山芋が大分傷んでたので全部すりおろしたので結構な量が」
 消費一択にしたらしい。なんでも凍らせれば数日なら保存も効くので別の日にでも食べてもらおうとチャック付きの保存袋に入れて冷凍してあると言う。
「よかったらもってきます?」
「いいのかい?」
 そこは田舎の人間同士。おすそわけはありがたく頂くのがマナーな事を知っているのでややこしい対応などせずありがたく頂いてもらえた。
 あ、山掛け食べ損ねた。
 と思ったけどチャックは二つに分けられていたのでとりあえず合宿終わったら食べればいいやと思うのは……陸斗の視線がじっととろろに向いているのを見て諦めた。内田さんが帰る時に圭斗の家に持って行ってもらおうと一緒に纏めて置く事でお願いをして置いた。


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