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焦って急いでも着地地点は結局同じ、と思ったら大間違いだ 1
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金曜日、暗くなってから先生がやって来た。
「よお、これ土産。ライブ見てたが味噌煮込みは残ってないのか?」
「やつれてますね。お父さん大丈夫ですか?残りは俺の分を除いて宮下が親父さん達の為にもって行きました」
「お前ほどじゃないさ。親父は当分死にそうにないことだけは判明した。そうか、無いのは残念」
たははと笑う先生は今の俺以上にぐったりと、土間上がりから上がる事も出来ずにいきなり寝転んでいた。
ちょ、せんせ……ここあんたんちじゃないからもうちょっと客人らしく遠慮と言う物を実行してくれよと思うも当の本人はやっぱりここは涼しーと言って足だけで靴を脱いで靴下まで脱ぎ出していた。
「ご家族はお元気でした?」
「皆ピンシャンしてる。当分くたばらんな」
「何かあったの……」
家族仲は悪くない、寧ろ良い位なのに何をと思えば
「病気が心配で行ったはずなのに立て続けに見合いさせられた。離婚して三年以上たったんだからそろそろ再婚を考えても良いだろうって」
「見合い!未だに残ってたんだそのシステム」
そして生まれた俺と言う事もありその悪習がしぶとく生き残ってるのかと呆れた物の
「相手は若いお嬢さんでさ、ご丁寧に振袖を着てくれたのよ。
細い綺麗な手で爪なんかもきちんと磨いてて淡いピンク色のエナメルまで塗って。シミのないお顔とお手手で上品なナチュラルメイク、知ってた?ナチュラルメイクって本当にメイクしてるか判らないくらい光のさし方から影を落とす計算をしつくしたラファエロもびっくりな技術なのよ?ほぼ何もしていないって言うわけじゃないんだって。いかにも化粧しましたって言う痕跡すら残さないからナチュラルなのよ。
どこのお嬢さんが来たのかって思ったけどそこで冷静になれたのよね。
何でこんなバツイチの、しかも給料の少ない県立の、ど田舎の築ウン十年の中古住宅に住む高校教師と見合いしてるのかなって?
トイレに立った時にちょっと調べてみたら出るわ出るわ事故物件。
SNSで見つけたらパチラーで二十台半ばで借金抱え込んでいて家族も負債を抱えてる超事故物件だったわけよ。
スクショして弟に送って、弟から親父に連絡を入れてもらって俺からもやんわりとお断りして話しをなかった事にしたけど、母さんだけが相手のお嬢さん可愛いじゃないってこの話凄くノリノリでさ、帰りの車でその子のSNS見せたら黙ったけど。帰り道の途中に見合い失敗の記事上げられて俺の事ディスってくれて振袖のレンタル代とか頭のセットとかプロのメイクとか金返せーなんて喚いててよ、普段の写真との差がもう詐欺レベル。帰った直後見合いを持って来たおばちゃんの家に怒鳴り込んで行くから弟と親父と一緒に母さんを引っ張って帰って来てヤケ酒につき合わされたりしたのにもう一件見合いさせられてさ。親父の仕事先の子だったけど、すごく綺麗な子だったけど前例がああだったからトイレでSNS見たらブランドマニアでよ。毎月給料全部つぎ込んだ挙句にリボ払いも重ねてて、リボ払いって借金だっていうの判ってるのかねーってまた弟に協力してもらってお茶して再度母さんが怒鳴りに行くから引き取りに行って弟もターゲットにしていたその人と縁切りもしてきてさ。
実家に帰ってこんなにも疲れたのは離婚した時でもなかったね」
「お、お疲れ様。
とりあえず風呂にでも入ろう?酒あるよ?野沢菜もう最後だから食べちゃいなよ」
「そうする」
そのままずるずるとつっかけに変えて台所から風呂へと向かう後姿は一気に二十年ほど年を取った姿をしていた。
風呂を上がるタイミングを見計らって焼いた魚を出す。長い事冷凍庫に入れて霜の付いたシャケに強めの塩を振ってただ焼くだけ。七輪で焼いたので冷凍臭さは誤魔化せます。そしてアラの部分で味噌汁に。ネギと白菜をたんまり入れておかわりはいくらでもと丼でお膳に出した。あら汁にするには少し新鮮さが足りないからね。
あとはキャベツに中華だし、チューブの使い勝手の良い奴をちゅるっとかけて輪切りの鷹の爪を振りかけ、ピーラーで削った人参も一緒に沿えてレンジでチン。簡単温野菜に病みつきマックス!
そんなメニューを見て先生は何か言いたげだったが箸を手にしてカツカツと食事を始めた。このメニューなら日本酒だろうと人んちの物なのにお気に入りのおちょこで準備すればテレビも野球の中継に変わる。
無言での食事が終わる頃、皿の上にはシャケの骨が山盛りとなっていたのを俺はなんとなく眺めていた。一切れ百円とは言えアラばかりをあるだけ買って明日の朝の分と思って用意したのに全部食べるー?なんて思わず白い目で見てしまうも、すでにゴロンと横になってちびりちびりとお酒を舐めながら野球を眺めていたが
「そういやあいつら来るんじゃなかったか?」
「ん?あいつらには急遽出かける事になったから来てもいないぞって連絡したし、親の方にも出かけますって連絡入れたから予定通りになる予定」
「その自信のなさがあいつらの自由なところだよな」
「まあ、陸斗の家教えておいたから。何かあった時は向こうで悪さをするだろうな」
「圭斗ならあいつらをちゃんと締めるだろうから心配はないな」
言いながらちびりと呑んで
「悪いな。あいつら追い払ってもらって」
「半分自分の為だし。今の状態であいつらのテンションもバカ騒ぎも耐えれそうに無いから」
「夏休み入ってから一人の時間何てほとんどなかったのはしんどいんじゃ無いか?」
「それは……どうだろう」
人恋しいのは確かのあるものの雑多な音は正直神経に障る。宮下や圭斗、主張のない陸斗や先生飯田さんぐらいまでなら慣れているので問題ない。来た時と帰る時だけの挨拶の中の内田さんぐらいなら大丈夫。
「とりあえず今は久しぶりの日常を楽しんでるよ」
「そうか?」
「たぶん」
「たぶんか」
なにが言いたいのかわからないが何となく穏やかな声に気まずいような空気を感じて洗い物をしにこの場を去るのだった。
「よお、これ土産。ライブ見てたが味噌煮込みは残ってないのか?」
「やつれてますね。お父さん大丈夫ですか?残りは俺の分を除いて宮下が親父さん達の為にもって行きました」
「お前ほどじゃないさ。親父は当分死にそうにないことだけは判明した。そうか、無いのは残念」
たははと笑う先生は今の俺以上にぐったりと、土間上がりから上がる事も出来ずにいきなり寝転んでいた。
ちょ、せんせ……ここあんたんちじゃないからもうちょっと客人らしく遠慮と言う物を実行してくれよと思うも当の本人はやっぱりここは涼しーと言って足だけで靴を脱いで靴下まで脱ぎ出していた。
「ご家族はお元気でした?」
「皆ピンシャンしてる。当分くたばらんな」
「何かあったの……」
家族仲は悪くない、寧ろ良い位なのに何をと思えば
「病気が心配で行ったはずなのに立て続けに見合いさせられた。離婚して三年以上たったんだからそろそろ再婚を考えても良いだろうって」
「見合い!未だに残ってたんだそのシステム」
そして生まれた俺と言う事もありその悪習がしぶとく生き残ってるのかと呆れた物の
「相手は若いお嬢さんでさ、ご丁寧に振袖を着てくれたのよ。
細い綺麗な手で爪なんかもきちんと磨いてて淡いピンク色のエナメルまで塗って。シミのないお顔とお手手で上品なナチュラルメイク、知ってた?ナチュラルメイクって本当にメイクしてるか判らないくらい光のさし方から影を落とす計算をしつくしたラファエロもびっくりな技術なのよ?ほぼ何もしていないって言うわけじゃないんだって。いかにも化粧しましたって言う痕跡すら残さないからナチュラルなのよ。
どこのお嬢さんが来たのかって思ったけどそこで冷静になれたのよね。
何でこんなバツイチの、しかも給料の少ない県立の、ど田舎の築ウン十年の中古住宅に住む高校教師と見合いしてるのかなって?
トイレに立った時にちょっと調べてみたら出るわ出るわ事故物件。
SNSで見つけたらパチラーで二十台半ばで借金抱え込んでいて家族も負債を抱えてる超事故物件だったわけよ。
スクショして弟に送って、弟から親父に連絡を入れてもらって俺からもやんわりとお断りして話しをなかった事にしたけど、母さんだけが相手のお嬢さん可愛いじゃないってこの話凄くノリノリでさ、帰りの車でその子のSNS見せたら黙ったけど。帰り道の途中に見合い失敗の記事上げられて俺の事ディスってくれて振袖のレンタル代とか頭のセットとかプロのメイクとか金返せーなんて喚いててよ、普段の写真との差がもう詐欺レベル。帰った直後見合いを持って来たおばちゃんの家に怒鳴り込んで行くから弟と親父と一緒に母さんを引っ張って帰って来てヤケ酒につき合わされたりしたのにもう一件見合いさせられてさ。親父の仕事先の子だったけど、すごく綺麗な子だったけど前例がああだったからトイレでSNS見たらブランドマニアでよ。毎月給料全部つぎ込んだ挙句にリボ払いも重ねてて、リボ払いって借金だっていうの判ってるのかねーってまた弟に協力してもらってお茶して再度母さんが怒鳴りに行くから引き取りに行って弟もターゲットにしていたその人と縁切りもしてきてさ。
実家に帰ってこんなにも疲れたのは離婚した時でもなかったね」
「お、お疲れ様。
とりあえず風呂にでも入ろう?酒あるよ?野沢菜もう最後だから食べちゃいなよ」
「そうする」
そのままずるずるとつっかけに変えて台所から風呂へと向かう後姿は一気に二十年ほど年を取った姿をしていた。
風呂を上がるタイミングを見計らって焼いた魚を出す。長い事冷凍庫に入れて霜の付いたシャケに強めの塩を振ってただ焼くだけ。七輪で焼いたので冷凍臭さは誤魔化せます。そしてアラの部分で味噌汁に。ネギと白菜をたんまり入れておかわりはいくらでもと丼でお膳に出した。あら汁にするには少し新鮮さが足りないからね。
あとはキャベツに中華だし、チューブの使い勝手の良い奴をちゅるっとかけて輪切りの鷹の爪を振りかけ、ピーラーで削った人参も一緒に沿えてレンジでチン。簡単温野菜に病みつきマックス!
そんなメニューを見て先生は何か言いたげだったが箸を手にしてカツカツと食事を始めた。このメニューなら日本酒だろうと人んちの物なのにお気に入りのおちょこで準備すればテレビも野球の中継に変わる。
無言での食事が終わる頃、皿の上にはシャケの骨が山盛りとなっていたのを俺はなんとなく眺めていた。一切れ百円とは言えアラばかりをあるだけ買って明日の朝の分と思って用意したのに全部食べるー?なんて思わず白い目で見てしまうも、すでにゴロンと横になってちびりちびりとお酒を舐めながら野球を眺めていたが
「そういやあいつら来るんじゃなかったか?」
「ん?あいつらには急遽出かける事になったから来てもいないぞって連絡したし、親の方にも出かけますって連絡入れたから予定通りになる予定」
「その自信のなさがあいつらの自由なところだよな」
「まあ、陸斗の家教えておいたから。何かあった時は向こうで悪さをするだろうな」
「圭斗ならあいつらをちゃんと締めるだろうから心配はないな」
言いながらちびりと呑んで
「悪いな。あいつら追い払ってもらって」
「半分自分の為だし。今の状態であいつらのテンションもバカ騒ぎも耐えれそうに無いから」
「夏休み入ってから一人の時間何てほとんどなかったのはしんどいんじゃ無いか?」
「それは……どうだろう」
人恋しいのは確かのあるものの雑多な音は正直神経に障る。宮下や圭斗、主張のない陸斗や先生飯田さんぐらいまでなら慣れているので問題ない。来た時と帰る時だけの挨拶の中の内田さんぐらいなら大丈夫。
「とりあえず今は久しぶりの日常を楽しんでるよ」
「そうか?」
「たぶん」
「たぶんか」
なにが言いたいのかわからないが何となく穏やかな声に気まずいような空気を感じて洗い物をしにこの場を去るのだった。
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