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日常とは 2

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 久しぶりの登山、いやハイキングを堪能した次の日は予想通り、いや予想以上の全身筋肉痛になった。
 言っておくが先生が作ったハイキングコースは岩の上からロープが垂れ下がってたり、岩を登る様なコースがあったり、崖側のロープを手に膝の高さほどある階段を登る場所もいくつもあるいわゆるアスレチックコースだった。縄梯子を見た時先生どうやって設置したんだろうって本当に頭を悩まして途方に暮れたけど、曰く他人の山や公共の施設でやったら器物破損で捕まるだろと真顔で言われた時はならうちならいいのかと突っ込んだのは当然だ。
「まあ、綾人くんも若いとは言え普段使わない筋肉を使うと大変だと言うのを見て俺も安心しましたよ」
 笑う浩太さんは縁側で寝転ぶ俺に今日はゆっくりしなさいと言われてしまった。
 まあ、この夏はみなさんに手伝ってもらったおかげで道のゴミさらいや道路に飛び出した枝や雑草を刈ったり、雪で折れそうな枝も前もって切り落としてもらったのだ。庭の雑草取りもやってくれたのだ。草刈機を持ってない人に教えると言うレクチャーを兼ねてだけどね。昔の大工道具とかもちゃっかり使い方講座があったぐらいだしね。内田さん全部使えたあたり俺もびっくりですよ。ついでにユンボも皆さん操縦できるようになったしね。うちの道路私道だからね。敷地内の道路だから皆さん道路交通法を無視して、もう!
 公道でやれば捕まること間違いなしなことを平然とやって!
 軽トラの運転席の天辺に座ってチェンソーで枝を落としているところを見た時は流石に目を疑ったよ!
 一人じゃできそうもないからね……ほっとけって言うか、みなさん慣れてますね?
 そんな疑問には当人方はさっと視線を逸らすのを見てこのコンビは常習犯かと理解するのだった。
 でもおかげと言うかきれいさっぱりとしたこの山に必要なのはやっぱり人の手の数かと、烏骨鶏達も役立ってるけどなあと思いながらも機械を持った人間には勝てないのは仕方がない。
「まあ、今日はゆっくりするするので」
 言いながら背後で先生と勉強する陸斗がペンを滑らす音を聞きながらうとうとしようかと思えば
「綾っちー!
 会いにきたよー!」
 悪魔の歓喜の声を聞いた気がした。
 気のせいだよなと無視して目蓋を閉じる。しかしやがて近く悪魔の足音はすぐそばで止まり
「綾っちネタフリは無駄だよ」
「綾っち言うな。何で植田がいる。
 水野、こう言う時のお前だろう」
「俺が植田を止めれると思いますか?」
「いや、お前は一緒になってもりあがる派だな」
 ふふんと笑う水野達にとりあえず上がれと土間に回らさせればお茶を入れようとする陸斗を止めるのは水野。
「陸は先生と勉強しててくれ。怪我もまだ安静なんだから俺達に気を使わなくていいぞ」
「そうだぞー。客じゃないんだから自分で山水ぐらい飲めるんだからほっとけばいい」
「せめてウォーターサーバーをお願いします」
 二人して土下座する様に
「妥協しよう」
 言えば二人はよほど喉が乾いていたと見えて何度も水をお代わりするのだった。水中毒になる勢いだったから飲み終えた後キャベツの浅漬けをざくざくと切ったものを出して摘みながら話を聞く体勢になれば先生までやってきた。
「で、何で自力で上がってきてまで来たんだよ」
 宮下商店から歩いてこれば小一時間かかることぐらい合宿のあさの散歩で身に染みるほど知ってるだろうと思うのだが、それが無駄ではないが歩いて来れると言う自信につながってやって来たのだろう。
「水野話せ」
 植田から聞けば小賢しこいつは適当に誤魔化すのだろうが、そんな器用じゃない水野から聞けば植田の焦る様子に事情は八割方理解できた。
「家に帰ったら勉強する気になれなくてあれから宿題も資格の勉強が一切手につけれませんでした」
「予想どおりの答えをありがとう」
 言いながら睨む先は植田。失笑する様は何で正直に話すかな?と言うものだろうか。
「まあ、ここまできた根性は見事だが、いつまでいるきだ?」
「お盆まで」
 素で答えた植田に流石の先生も吹き出していた。
「アホかお前ら?!」
 二人してさっと視線を逸らした。
 さすがに馬鹿なことを言ってると言うのは分かっていたらしい。
「アホな事もバカな事も分かってます。だけど俺はどうしてもこの田舎から出たいんです」
 真剣な眼差しで水野は訴える。何をそんなに必死なのかと思うも
「もううちは農家でやってけない状況なんだ」
 大きな昔ながらの農家の家と家を囲むような広大な畑。だけど水野のオヤジさんの代になってから兼業農家になったと聞いた覚えがあった。
「よくある話なのかもしれないのですが、うちだけならなんて事なかったんだ。だけど親父の実家、二年前に婆ちゃんが足を悪くして以来親父の兄貴の嫁さんが酷く辛い目にあってたんだ。親父もお袋も知らないフリしててさ」
「膿家あるあるの嫁奴隷か?」
 正直これ以上は陸斗に聞かせなかったのだが
「おばさん子供を連れて実家に帰っちゃったんです」
「行動力あるなあ」
「気が強い人でして、こうなる前から親戚一同集まっても普通に喧嘩してたぐらいだから。だから家を出るぐらいだからよっぽどのことが起きたと親父達も言ってた」
 撤退までするのなら何があったのかと考えれば
「詳しくは言えませんが、ボケも始まり出して、感情の歯止めが効かなくなってきていて包丁を振り回すまでになったんだ」
「病院に行かせるべきだ」
「追い返されたんです」
 だから家を出て行った。
 納得できるかもしれないが
「で、水野ん家がどう関わる?」
「おじさん一人じゃ大変だからって親父も手伝うとか言い出して。母さんは地元だから逃げ切れないからせめて俺だけは逃げろって」
 ゆっくりと俺を見て
「だから俺も確実に家を脱出しなくちゃいけないんだ」
 余程の不安なのかボロボロと涙を零し落とす先生に俺は視線を向ける。黙っていたとはいえ言うべきなのではと無言で訴えれば水野を励ます植田を見ながらため息。
 先生はしばらくの間考えて水野を台所の二階へと連れて行って急遽進路相談が始まる。
 心配そうに二階を見上げる陸斗と植田。
「二人は夏休みの宿題を済まそう」
 今頃あんぐりと口を開けて送り込もうとしている専門学校の推薦入試は無いことを、それどころか面接すらなく書類だけで済む事を聞かされているだろう水野を思えばこそ表情筋をフル活動せずにはいられない俺は気付かれないようにミスが出ないように声も低めにして二人の机の傍に座る。
 何をしているか分からないが一時間近く上に行ったっきりの二人を無視するかのように淡々と勉強させる時間が過ぎるのをひたすら耐えるのだった。
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