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逃げれない夏休みの過ごし方 3

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 ぐったりと横になったまでは覚えていて、朝はいつも通り目が覚めた。
 見覚えのある様なない様な、そしてあまり嗅ぎ慣れない匂いの布団に何処だと体を起こす。閉ざされた雨戸に遮光カーテンもきちんと閉ざされている。ゆっくりと天井を見上げていればこの暗さに目は慣れて、体を起こす。
 喉が乾いたからゆっくりと立ち上がればやっと自宅の居間だと言うのを思い出した。
 そして俺の両脇を陸斗と宮下が布団を敷いて眠っていた。
 何という川の字か……
 というか先生説明しろと明かりを求めて枕元に置かれたスマホに手を伸ばせば
「綾人起きた?」
 宮下の半分寝ている声に何となく逃げる言い分として
「水飲みに」
 宮下を踏まない様に注意しながらウォーターサーバーへと向かえば宮下もついてきて一緒に水を飲んだ。
「なんか悪い」
「先生から綾人を見てろって電話きてさ。陸がすぐ横で泣きそうな顔しててもっと早く来れればって……」
「悪い。陸斗にも悪い事したなあ」
「先生は明日朝から会議があるからって帰って行ったって聞いたけど」
「多分内田さんちに行ったんだろう」
「内田さんって、またなんかあったの?」
 おそるおそると聞く宮下に
「俺のイトコが来たんだ」
「あー」
 バアちゃんが亡くなった後ご飯をちゃんと食べているか見に行けと宮下のオフクロさんに言われてきたときに何度も遭遇した事があるから俺がへばっているのを理解した宮下は顔を引きつらせていた。
「どのイトコ?」
「今も時々来る自衛隊の奴と女の子」
「ああ、うん。思い出した。
 自衛隊の人今も時々母さんに嫌み言われながらも家で買い物してくれるし、女の子は陸と同じ歳だったから覚えている。唯一の女の子だったしね。
 で、なんで今更来たの?」
 自衛隊の人みたいに高地トレーニングに来たわけじゃないでしょうと聞くが
「そこまで話が行かなかったんだ」
「大丈夫?」
「先生が話聞いてるだろうからそこで話が決着付けば良いんだがな」
「だったらここまで来ないって」
 無情にも俺の切なる願いは届かない事を口にする。夢も希望もないなと項垂れながらも
「風呂入ってくる」
「じゃあ、烏骨鶏たちを出してくるよ。水門も開けておくね」
「ありがとう」
 言いながらも生簀の魚や蟹に餌もくれるのだろう。マメだよなと感心しながら頼ってしまうのはこう言った生活こそ宮下が望んだ世界なのだ。生まれた時から当時あった畑を遊び場に、少し遠いが勝手に階段を作って川まで降りて遊んだり、畑の野菜を盗み食いしたり、当時飼っていた鶏の卵を盗んで兄と一緒に卵焼きにして食べたというヤンチャぶりにお前のオフクロさんの苦労が忍ばれるというのだろうか。漠然と親の様に生きるのだと思っていたというのだから人生はどこでどう変わるかわからない。
 間違っても市役所向きではない事は確かだが、おかげというか家に住み着く理由が出来てほっとした事だろう。ただし、こんな金くれな親戚を持つ俺としては休ませる事なく働かせる容赦なさぶりに宮下家族は黙って面接の日に出かける姿を見送ったそうだが、魚の捌き方を色々覚えれて本人はご満悦なのだから何がきっかけになるか分からないというものだ。





「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
「おはようございます。
 昨日は吉野のみっともない所を見せてしまい失礼しました」
 いつもの時間より気持ち早めの訪問に内田親子は少しやつれた顔でやってきて、後ろからついてきた二人にその場を明け渡すのだった。
「綾ちゃんおはよ」
「綾人、おはよう」
 陽奈と夏樹も同じ様に疲れた顔をして、何があったか疑問を覚えるも
 パタン……
 遅れてやってきた車から降りてきたのは圭斗。こちらも疲れ切った顔をして
「綾人、飯食べさせろ」
 随分とご立腹な様子に慌てて陸斗と宮下が準備に台所へとかけて行ってくれた。
「お、俺も連れてって……」
 涙が出そうになるも圭斗がゆらりとした足取りでやってきて肩をガツっと腕を回されて
「まあ、自分の家だろ?ゆっくりしろよ」
 強引に家の中に上がって居間のテーブルでウォーターサーバーから白湯をすすっていた。
「あのさ、なんで圭人が?」
「先生に呼ばれたんだよ」
 それ以外何があると言って
「オールで内田家で話し合いだ」
「内田さん仕事してる場合じゃ……」
「流石に巻き込まないよ。ただ寝れたか分からないが」
 寝れてないじゃんと心の中には汗を滝のように流す俺がいる。
「で、散々迷惑かけて何か結果出たの?」
 出るわけのない問題に答えを要求すれば

「なんか知らん間にお前のイトコ、結婚したみたいだぞ」

 誰か説明してください。
 静かになった居間に

「圭ちゃんごはんだよー」

 宮下の脳天気な声が右から左に抜けるのだった。

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