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過密状態にご注意を 9

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 親父には弟が三人いる。
 全員見事男兄弟で長男以外の兄弟はみんな家を出される事になったが、もともと爺さんの代で林業は終わりにすると決めていたので親父も高校卒業後は就職する事となり見事銀行員になった。とは言え融資や投資と言った花形業務に着く事はないがそれでも成績をこつこつと上げて大卒ばかりの本社で仕事をするだけの業績を作って来た。頭はおかしいが仕事の面では真面目なジイちゃんの姿勢を学んでかそれなりの人物評価は貰っているらしい。
 そしてその弟達は、高校卒業後地元の企業に就職したり隣町やら山向こうの市に行ったりと兄弟離れ離れになって、そこで奥さんやらに出会って結婚する事になった。もっとも親父は長男だからと親達が伝手を辿って良いとこのお嬢さんという触れ込みの母さんを見付けて結婚という形になったが、女性側は拒否が出来ない田舎の空気がどんな結果を生み出したかなんて語るまでもない。
 それは置いておいて叔父達は一応好きな女性と結婚した、と言う事だが吉野の資産を勘違いした彼女らは田舎のものすごい金持ちと結婚したと思ってかかなりの金の亡者となり、叔父達を洗脳するのだった。
 実際結婚も派手に行いジイちゃんがも羽振りの良い人間だったのでわりと何でもポンポン買い与えてしまうダメな人間でバアちゃんが苦労したと言う話を俺は毎晩のように聞かされたがその結果がバアちゃん亡き後の財産分与の時だった。
 財産分与は今までに親父にマンションの頭金を渡したり他の兄弟に外車を買ってあげたり家の購入の頭金を出したり、嫁さんの店の開業資金を出したりと生前贈与はしたつもりだと言う。因って残りは最後まで面倒を見てくれた俺に残すと言う物。通帳の残金は入院費と葬式代でとんとん。ほぼ負の遺産となってるこの僻地の家と周辺の山々を与えられても正直嬉しくもないが、期待した遺産があてにならないと知った時の絶望した顔を見てこれがバアちゃんなりの復讐なのだと思えば俺はありがたくこの家と山を貰うのだった。
 因みに内緒だがふもとの町の駅前に立体駐車場があるんだが、それはうちの私有地でバアちゃんの年金以外の収入源と譲り受けた遺産の一つで不労所得の一つとなっている事は親父たち兄弟には内緒だ。
 そんな叔父達だが俺がバアちゃんの葬式の時に言われた事なんだがこの家と山を譲り受けて売り払うつもりだろう!そんなのは許さないから俺達に寄越せと父を含めて言われた。
 まあ親父達のステイタスは田舎の大地主と言う物。それにつられて叔父達の嫁さんは結婚の決め手にしたと言うクズっぷり。
 だけど弁護士の沢村さんにこの時の真の地価を聞いた途端に唖然とした顔を嫁達と揃って並べる始末。むしろ買ってもらっての価格なので売れるまでは税金もかかると言われた瞬間全員が手を離したと言う結果。国に返すと言う案もあったが一応俺に権利があるので今更親父と一緒に住めるかと俺判断になったのだがいつまでも売らずにここに住んでいるので従兄弟達が心配してくれた時にうっかりと言ってしまったのだ。
「株の配当で税金も生活も何とかなってるから大丈夫」
 当時まだ辛うじて高校生が株で成功しているのだ。だったらうちも楽勝じゃん!
 その従兄弟殿は持って帰った情報を親に報告してすぐさま親は株に手をだし、紙くずにしたのだった……
 知人の伝手だと言って非公開株ばかりに手を出して紙くずにし、株を買って気を大きくしたのか家を建てようと無理な借金をした結果払いきれずに家を売り払って自己破産。当時高校生だった従兄弟殿達は私学だった為に授業料が払えなくて学校を辞めてフリーターをしている。また別の叔父の所ではバアちゃんの遺産を当てにして店を大きくしたものの支払いが滞って閉店。家を売り八ケタほどの借金を背負って嫁を追い出してアパート暮らしで俺に責任を取れと言ってくる。いや、バアちゃんに文句を言えと言えば弁護士さんを立てて文句を言ってくる始末。弁護士雇う金があるなら返済しろとこちらも弁護士さんに出動してもらって正当性を唱えて黙らせた。
 この叔父の子供はまだ中学生で義務教育中。金がないからお前も働けと言われてこのままだと高校進学も出来ないとスマホ越しに叔父に内緒で泣きついて来たから与えたアドバイスはもっといい所に行ける学力があるけど今の家から一番近い公立の学校で学費は自分で出して家事も手伝うからと言う条件で何とか進学を認めさせた。叔父はいろいろ書類を書いたので奨学金で高校に通っていると思っているようだが実際は俺が授業料を払っている。俺が保護者替わりで一緒に口座を作り授業料は無償だけど光熱費の支払いとか体操服や教科書代を立て替えている。勿論将来返済と言う約束だがバイトをしながらその口座に振り込み自分で授業料を支払い、髪のカット代や服代からスマホ代と捻出している。家にもお金を少し入れながら親の目を誤魔化し、進学を目指し一人暮らしを決意する彼女はとても叔父とその嫁の娘とは思えない出来た子だった。 
 だけどまだ小学生の弟は長男だから、跡取りだからとこんな時でも行ってもない塾に行かせたりと随分と甘やかされている。納得いかないと恨むには十分な懸案だ。
 なので高校卒業したら家を出たいからその時は相談に乗ってくれと頼まれ、相談だけだと返事はして置いた。
 三人目の叔父の子は家を出る為に高校卒業後は自衛隊に入りどこにいるか不明になっている。海外支援に出かけたとか時々帰って来た時実家に帰りたくないからってうちに来る。その時に何で自衛隊なんて選んだんだと聞いた事があったが
「手っ取り早く家を出たかったけど綾人みたいに頭良くないから一人暮らしなんて無理ってわかってたから。偶々学校の廊下の掲示板に貼ってあった募集見て運命を感じてさ」
 どんな運命だろうかと思うも少なくとも家を出る事ができてあの親と離れる事ができたと華やかに笑って見せた。
 最もバアちゃんが死んだ時は俺には何も残してくれなかったのにと随分俺を恨んだと言っていたが、学校の友人に「そもそも法定相続人でもないのに財産分与なんてあり得ないでしょ!」と笑い飛ばした挙句に「病院にも見舞いに行かなかったくせに何でもらえるって思ってるんだ?」という言葉でやっと親がおかしい事に気付いたという。
 年に一度会うかどうかの間柄になってしまったが忘れた頃にふらりと現れて仏壇の前で手を合わせてくれる数少ない親戚という認識だ。
 こうやって俺は叔父達を一家離散に追い込みながら高校を卒業して無職になって今に至るまでを先生はずっと見守って来てくれた。
 毎日のようにやって来ては罵声を浴びせていく叔父達を追い払ったり鬱気味の俺を無理やり五右衛門風呂に連れ込んで一緒に入ったり。
 何も考えたくなくって一人引き込んでいた俺を今も一人にしてくれなく、なんだかんだ言って俺を見放さないでくれるいい先生だ。とは言えこんなにも手間のかかる奴らばかりを連れ込んできて

「綾っちー、新しいサークルできたよー!」
 上島兄弟が出来立ての新たなサークルを運んできて水野が早速というように烏骨鶏を移す中に大工さんも紛れ込んでいた。
 例の烏骨鶏好きな人、日下さんと言う。
 堂々と抱けるとあって息遣いがおかしいが、喜びのあまりに抱きかかえた拍子に転んでサークルを壊してしまい……容赦なく脱走した烏骨鶏を追いかけることとなり興奮してか移した側から逃げ出す烏骨鶏に翻弄されるのは工事中の大工さんも例外ではなく見事巻き込む事になった。
「内田さん工事は一時中断しましょう!日下さんが烏骨鶏を逃しました!」
 森下さんの悲鳴にみんな烏骨鶏を捕まえようと翻弄される。
 普段はすぐにビビるチキンハートなくせに今の奴らはクチバシで突いたり逃げようと飛べないくせに飛び蹴りだったりする究極のチキンぶりは見事だと、飼い主の俺は冷静に鹿のレバーをタタいて餌で釣る作戦を実行するのを先生の笑い声が妙に心地よく聞こえた。



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