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星空が広がるように 4
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陸斗とが順調に答えを導き出している中、次第に解いていく手は止まりだし、想像より早い段階で鉛筆は止まった。いや、これは想像通りか?進まなくなった問題を前にして声をかける。
「分数か」
恥ずかしそうに俯いてしまうも
「圭斗と同じ所でつまづくのな」
からりと笑えば驚きと同時に視線が上を向いてくれた。
「圭斗だけじゃない。大体つまづく奴はここからなんだ。それか九九の段階で算数を放棄するかだ。これは宮下な。
大丈夫。みんなちゃんと高校生レベルになってるから陸斗もちゃんと覚えていこう」
一つ一つ丁寧に、応用を使う事なくひたすら問題を解かせる。自信がつくまで、一人で自発的に、俺の顔色を見ないぐらいまで体に馴染むくらい繰り返させて少しずつレベルアップさせる。学校では教師も他の子が遅れるからと見捨てられる所をちゃんと拾って行けば瞬く間にお昼の時間のようだった。
いつの間に起きていたのか
「一息ついたようなのでお昼にしましょう」
飯田さんがお昼を用意してくれていた。
「今日はオムライスと冷製コーンスープです」
黄金の玉子に包まれたオムライスと流しに置いてあるハンドミキサーを見て先週のレストランをぼんやりと思い出していた。
だけど疲れ切った陸斗は目を輝かせて早速と言うように頂きますとの挨拶の後にトロットロでフワッフワのオムライスにスプーンを入れる。
スプーンを持ち上げればトロリと卵が流れ落ち、そんな卵に包まれたチキンライスはちゃんとケチャップライスになっている。
お手製のトマトソースは小さく切ったトマトがゴロッとふんだんに入っていて程よい塩気のシンプルな物だがバターを使って出来た甘さを感じるオムライスに酸味の効いたトマトのおかげでさっぱりとどれだけでも食べれてしまう恐ろしいコンボが口の中で炸裂している。
知り合った頃食べたいと言った為に何度も作ってくれて何度も食べた事のある定番メニューだけど初めて口にする陸斗は無言のままひたすら真剣に、ソースの一滴も食べ残さないように食べるかつての俺みたいな食事風景を二人で見守りながら
「飯田さんってひょっとして負けず嫌いですか?」
「負けず嫌いでなければフランスまで行きませんよ」
誰と戦ってるかなんて青山さんから聞いているから知ってるとは言え実の父親を意識するとはと微笑ましく思うも、飯田さんの実家は歴史ある料亭で父親は板長をしている。
何をどう間違ったか日本食の伝統を受け継ぐはずの長男が家を出てフランス料理にのめり込んでいるのだ。家は弟が継ぐと言っているが道のりは長く険しいようで、センスがないと言ったのは飯田さん当人。あと親も。親が財界人や著名人を虜にする凄腕だからと言って子供までそうなるとは限らないと言う典型的な例だ。
叔父の青山さんから聞いた話では親子の蟠りはないと言ったが、兄弟の……とは聞いたことはない。
自由すぎる兄貴を持つと弟は大変だなと、早速今晩の夜ご飯のメニューを考えに畑へ向かう飯田さんを縁側から見守っていればお盆をもって浩太さんがやって来た。
食後休憩にと陸斗は二階の本部屋にいる事にホッとしていれば
「飯田さんでしたか。美味しいコーンスープを頂きました。
レストランで食べたどのスープよりも美味しくてオヤジとビックリしました。
フランス料理のシェフが足繁く通って居るとは聞いてましたが、こんなにも美味しい料理を食べたのなら希望の厨房を作ろうとする意味に納得します」
「でもそんな人を俺のバアちゃんは唸らすんだから料理は奥が深いよ」
言って台所の戸棚を案内する。
薄暗い明かりのついてない台所で戸棚を開け広げバアちゃんを見様見真似で作ったお酒を見せる。
「俺が作った酒よりもバアちゃんの作った方を大事に飲むんだからムカつくよな」
俺のは水のように、バアちゃんのは貴重なワインのように楽しむ様子は無意識なのだろうがそれが全てだ。子供の頃から一流の味を覚えて育った飯田さんを虜にするホワイトリカーと氷砂糖が作り出す奇跡の梅酒は同じ材料を使っていても別次元の結果を残した。
ムカつくと言ってむすっとした顔の俺を見て浩太さんは笑う。
「綾人君にもそう言う顔をさせる相手がいると言うのは良い事だな」
それが超える事のできない故人だとしてもだ。記憶の美化を超えるのはできないとも言われて居るが
「俺に言わせたらあの梅酒を超える梅酒を今に作ってみせますよ」
と言ったのはいつの間にか戻って来ていた飯田さん。
パプリカ、ズッキーニ、トマトをカゴに盛って戻って来た飯田さんは外の山水を使って泥を落としていた。
「綾人君のお酒には圧倒的な果実不足を感じました。そこは今年漬けた時に俺が修正をしたので出来上がりを待つだけです」
浩太さんと二人で飯田さんをポカンと見ていれば
「あの果実酒を超える物を作ってみせます!俺の知識とハーブを使って味覚を広げて見せます!ワイン造りで覚えた究極の製造の知識を全て注ぎ込んで見せます!」
拳を掲げる飯田さんに聞かずにはいられない。
「あんたフランスで何を学んで来たの?」
聞くも返ってくる言葉はなく
「材料を調達に行って来ます」
と言って車に乗り込んで下界に赴く後ろ姿を見送るのだった。
「分数か」
恥ずかしそうに俯いてしまうも
「圭斗と同じ所でつまづくのな」
からりと笑えば驚きと同時に視線が上を向いてくれた。
「圭斗だけじゃない。大体つまづく奴はここからなんだ。それか九九の段階で算数を放棄するかだ。これは宮下な。
大丈夫。みんなちゃんと高校生レベルになってるから陸斗もちゃんと覚えていこう」
一つ一つ丁寧に、応用を使う事なくひたすら問題を解かせる。自信がつくまで、一人で自発的に、俺の顔色を見ないぐらいまで体に馴染むくらい繰り返させて少しずつレベルアップさせる。学校では教師も他の子が遅れるからと見捨てられる所をちゃんと拾って行けば瞬く間にお昼の時間のようだった。
いつの間に起きていたのか
「一息ついたようなのでお昼にしましょう」
飯田さんがお昼を用意してくれていた。
「今日はオムライスと冷製コーンスープです」
黄金の玉子に包まれたオムライスと流しに置いてあるハンドミキサーを見て先週のレストランをぼんやりと思い出していた。
だけど疲れ切った陸斗は目を輝かせて早速と言うように頂きますとの挨拶の後にトロットロでフワッフワのオムライスにスプーンを入れる。
スプーンを持ち上げればトロリと卵が流れ落ち、そんな卵に包まれたチキンライスはちゃんとケチャップライスになっている。
お手製のトマトソースは小さく切ったトマトがゴロッとふんだんに入っていて程よい塩気のシンプルな物だがバターを使って出来た甘さを感じるオムライスに酸味の効いたトマトのおかげでさっぱりとどれだけでも食べれてしまう恐ろしいコンボが口の中で炸裂している。
知り合った頃食べたいと言った為に何度も作ってくれて何度も食べた事のある定番メニューだけど初めて口にする陸斗は無言のままひたすら真剣に、ソースの一滴も食べ残さないように食べるかつての俺みたいな食事風景を二人で見守りながら
「飯田さんってひょっとして負けず嫌いですか?」
「負けず嫌いでなければフランスまで行きませんよ」
誰と戦ってるかなんて青山さんから聞いているから知ってるとは言え実の父親を意識するとはと微笑ましく思うも、飯田さんの実家は歴史ある料亭で父親は板長をしている。
何をどう間違ったか日本食の伝統を受け継ぐはずの長男が家を出てフランス料理にのめり込んでいるのだ。家は弟が継ぐと言っているが道のりは長く険しいようで、センスがないと言ったのは飯田さん当人。あと親も。親が財界人や著名人を虜にする凄腕だからと言って子供までそうなるとは限らないと言う典型的な例だ。
叔父の青山さんから聞いた話では親子の蟠りはないと言ったが、兄弟の……とは聞いたことはない。
自由すぎる兄貴を持つと弟は大変だなと、早速今晩の夜ご飯のメニューを考えに畑へ向かう飯田さんを縁側から見守っていればお盆をもって浩太さんがやって来た。
食後休憩にと陸斗は二階の本部屋にいる事にホッとしていれば
「飯田さんでしたか。美味しいコーンスープを頂きました。
レストランで食べたどのスープよりも美味しくてオヤジとビックリしました。
フランス料理のシェフが足繁く通って居るとは聞いてましたが、こんなにも美味しい料理を食べたのなら希望の厨房を作ろうとする意味に納得します」
「でもそんな人を俺のバアちゃんは唸らすんだから料理は奥が深いよ」
言って台所の戸棚を案内する。
薄暗い明かりのついてない台所で戸棚を開け広げバアちゃんを見様見真似で作ったお酒を見せる。
「俺が作った酒よりもバアちゃんの作った方を大事に飲むんだからムカつくよな」
俺のは水のように、バアちゃんのは貴重なワインのように楽しむ様子は無意識なのだろうがそれが全てだ。子供の頃から一流の味を覚えて育った飯田さんを虜にするホワイトリカーと氷砂糖が作り出す奇跡の梅酒は同じ材料を使っていても別次元の結果を残した。
ムカつくと言ってむすっとした顔の俺を見て浩太さんは笑う。
「綾人君にもそう言う顔をさせる相手がいると言うのは良い事だな」
それが超える事のできない故人だとしてもだ。記憶の美化を超えるのはできないとも言われて居るが
「俺に言わせたらあの梅酒を超える梅酒を今に作ってみせますよ」
と言ったのはいつの間にか戻って来ていた飯田さん。
パプリカ、ズッキーニ、トマトをカゴに盛って戻って来た飯田さんは外の山水を使って泥を落としていた。
「綾人君のお酒には圧倒的な果実不足を感じました。そこは今年漬けた時に俺が修正をしたので出来上がりを待つだけです」
浩太さんと二人で飯田さんをポカンと見ていれば
「あの果実酒を超える物を作ってみせます!俺の知識とハーブを使って味覚を広げて見せます!ワイン造りで覚えた究極の製造の知識を全て注ぎ込んで見せます!」
拳を掲げる飯田さんに聞かずにはいられない。
「あんたフランスで何を学んで来たの?」
聞くも返ってくる言葉はなく
「材料を調達に行って来ます」
と言って車に乗り込んで下界に赴く後ろ姿を見送るのだった。
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