47 / 976
星空が広がるように 1
しおりを挟む
水曜日の早朝。薄暗い世界の中見慣れた車が当然のごとくやってきて手慣れた様に猿にはあまり効果のない害獣除けの門をくぐり我が家にやってきた。
待ち構えていた俺はその車を庭の一番奥へと案内して
「おはようございます。着工したと聞いて楽しみに来ました!」
とても徹夜明けとは思えないテンションで飯田さんは車から降りて開口一番そんな挨拶をしてくれた。
「おはようございます。月曜から始まったはずなのに進行は意外にも早いので驚きますよ」
「と言う事は、俺のキッチン出来ましたか?!」
「さすがにまだそこまでは……」
着工して二日で出来るわけがないだろうと思うもあからさまにしょぼんと項垂れた耳としっぽが見えて手を差し伸ばしたくなるのは飯田さんの仁徳と言う物だろう、か?
「それよりも見て見ます?あばらハウスを」
言えば小首をかしげた飯田さんは改築中の家を見て納得するのだった。
周囲には落下して困る物はない。家にあった昔ながらの足場を利用してぐるりと囲み、月曜日には人海戦術で不必要な物はすべて取り去った挙句に基礎をしっかりと直す所まで行ったのだ。と言ってもコンクリを打っているわけでもないので全部木製でまたそのうち腐るだろうと言われている。防腐剤はたっぷりと塗ったとは言ったが雨に打たれるよりも霧に包まれる方が多いこの標高では意味があるのかと思うよりもないよりもまし、と言う前にこまめに塗れと言われてしまった。とりあえず定期的に浩太さんに泣きつこうと言う事にした。
「これは……立派なあばら、ですね」
窓から中が見える範囲でも十分あばら感を感じる事が出来るので中に入るともっとすごいぞと言うのは黙っておく。
「壁と床がなくなってほんとにもうって言う感じ?雨風除けの外壁の頑張ってる感がまたすごいでしょ」
「おかげで辛うじて上に載ってる茅葺屋根がもっさりとしてると言うか……
屋根裏まで行けます?」
「階段は残ってるし、茅を下ろす為の足場だけだけど残してるので屋根裏まで行けます」
「ならいいですか?」
きらきらとした、エサを目の前にした犬の如く輝く目でお願いされたら誰が駄目と言えよう。どうぞと言う代わりに玄関の扉を長沢さんに預けた為に板を置いただけの扉をどければ早速と言う様に三十センチほどある敷居をまたいで家の中に入る。
月曜日に要らない物は出来るだけ取り外した土間は想像したよりも広く、その隅で重低音響かせる業務用冷蔵庫の稼働音が静かに響いている。その家の中に足を入れた飯田さんはぴたりと歩みを止めてゆっくりと室内を見回す。
この小屋の渾沌ぶりを知っているだけに使わなくなった物達を総て運び出したがらんとした室内の大半は床も壁もない見通しの良い物。二階の天井裏に上がり込んだ茅置場で見た一階から伸びる一番太い大黒柱に打ち付けられた和紙の紙の束の跡を見つけた。昔から一瞬のお呪系の何かかと思って居たために見ないふりをして過ごしてきたが、紙の束はこの家の設計図で、内田さんは涙を流し認めてあったおじいさんの名前にありがたそうに感謝をし、その日集まった大工さん達も興味と言うか感心する様に設計図を見て今ある設計図に急きょいろんな変更を加えるのだった。切ったらいけない柱とか抜いたらいけない壁とかがあるらしく、本職だから分かってはいたものの細かな点の注意事項なども書いてあり、多少の変化しかないが安全に代わる物はないと急きょ書き加えられた変更点をどうぞどうぞと承諾するのだった。どうせだめだと言っても俺には決定権はないのだろうしと思っていたりもするし、変更点の一つや二つなんて今更だ。
別にこの家に俺が住むわけじゃないし。
でも居心地良いからたまには別荘として使うのもよし。同じ敷地所で隣の家だけど。
……築数十年の母屋に住む俺がうらやむような愛され様に惹かれるのはしょうがないだろうと心の中で叫んでおく。
ほら、俺、沈着冷静な知的クール系のお兄さんで通ってるから顔には出さないよ。誰だ?陰湿根暗系と言う奴は……まぁ、間違ってはいないが、親切にしてくれる人には親切に対応するぞと心の中で訴えておく。
ギシリギシリと急な角度の階段から足を滑り落とさないようにゆっくりと上り、そして梯子のような階段を上って屋根裏へとたどり着く。
陽がのぼる前の電気もない屋根裏は暗く、でも換気用の通風孔から朝の冷たい空気が通ってくる。茅と埃、時々カビ臭さが混ざり合う何もない空間で俺でさえ低くて立つ事も出来ない天井の屋根裏を飯田さんは俺よりも腰を落してぐるりと見回した後、じっと大黒柱を見上げる。
「この柱一本でこの家を支えてきたのですね」
「それを助ける柱もあります」
言えば暗くても判るぐらい愛おしそうに大黒柱に手を添えて
「この柱が家族の象徴なのですね」
白いシャツを着ているのに汚れる事なんて気にしないと言う様に大黒柱に抱き着いていた。
待ち構えていた俺はその車を庭の一番奥へと案内して
「おはようございます。着工したと聞いて楽しみに来ました!」
とても徹夜明けとは思えないテンションで飯田さんは車から降りて開口一番そんな挨拶をしてくれた。
「おはようございます。月曜から始まったはずなのに進行は意外にも早いので驚きますよ」
「と言う事は、俺のキッチン出来ましたか?!」
「さすがにまだそこまでは……」
着工して二日で出来るわけがないだろうと思うもあからさまにしょぼんと項垂れた耳としっぽが見えて手を差し伸ばしたくなるのは飯田さんの仁徳と言う物だろう、か?
「それよりも見て見ます?あばらハウスを」
言えば小首をかしげた飯田さんは改築中の家を見て納得するのだった。
周囲には落下して困る物はない。家にあった昔ながらの足場を利用してぐるりと囲み、月曜日には人海戦術で不必要な物はすべて取り去った挙句に基礎をしっかりと直す所まで行ったのだ。と言ってもコンクリを打っているわけでもないので全部木製でまたそのうち腐るだろうと言われている。防腐剤はたっぷりと塗ったとは言ったが雨に打たれるよりも霧に包まれる方が多いこの標高では意味があるのかと思うよりもないよりもまし、と言う前にこまめに塗れと言われてしまった。とりあえず定期的に浩太さんに泣きつこうと言う事にした。
「これは……立派なあばら、ですね」
窓から中が見える範囲でも十分あばら感を感じる事が出来るので中に入るともっとすごいぞと言うのは黙っておく。
「壁と床がなくなってほんとにもうって言う感じ?雨風除けの外壁の頑張ってる感がまたすごいでしょ」
「おかげで辛うじて上に載ってる茅葺屋根がもっさりとしてると言うか……
屋根裏まで行けます?」
「階段は残ってるし、茅を下ろす為の足場だけだけど残してるので屋根裏まで行けます」
「ならいいですか?」
きらきらとした、エサを目の前にした犬の如く輝く目でお願いされたら誰が駄目と言えよう。どうぞと言う代わりに玄関の扉を長沢さんに預けた為に板を置いただけの扉をどければ早速と言う様に三十センチほどある敷居をまたいで家の中に入る。
月曜日に要らない物は出来るだけ取り外した土間は想像したよりも広く、その隅で重低音響かせる業務用冷蔵庫の稼働音が静かに響いている。その家の中に足を入れた飯田さんはぴたりと歩みを止めてゆっくりと室内を見回す。
この小屋の渾沌ぶりを知っているだけに使わなくなった物達を総て運び出したがらんとした室内の大半は床も壁もない見通しの良い物。二階の天井裏に上がり込んだ茅置場で見た一階から伸びる一番太い大黒柱に打ち付けられた和紙の紙の束の跡を見つけた。昔から一瞬のお呪系の何かかと思って居たために見ないふりをして過ごしてきたが、紙の束はこの家の設計図で、内田さんは涙を流し認めてあったおじいさんの名前にありがたそうに感謝をし、その日集まった大工さん達も興味と言うか感心する様に設計図を見て今ある設計図に急きょいろんな変更を加えるのだった。切ったらいけない柱とか抜いたらいけない壁とかがあるらしく、本職だから分かってはいたものの細かな点の注意事項なども書いてあり、多少の変化しかないが安全に代わる物はないと急きょ書き加えられた変更点をどうぞどうぞと承諾するのだった。どうせだめだと言っても俺には決定権はないのだろうしと思っていたりもするし、変更点の一つや二つなんて今更だ。
別にこの家に俺が住むわけじゃないし。
でも居心地良いからたまには別荘として使うのもよし。同じ敷地所で隣の家だけど。
……築数十年の母屋に住む俺がうらやむような愛され様に惹かれるのはしょうがないだろうと心の中で叫んでおく。
ほら、俺、沈着冷静な知的クール系のお兄さんで通ってるから顔には出さないよ。誰だ?陰湿根暗系と言う奴は……まぁ、間違ってはいないが、親切にしてくれる人には親切に対応するぞと心の中で訴えておく。
ギシリギシリと急な角度の階段から足を滑り落とさないようにゆっくりと上り、そして梯子のような階段を上って屋根裏へとたどり着く。
陽がのぼる前の電気もない屋根裏は暗く、でも換気用の通風孔から朝の冷たい空気が通ってくる。茅と埃、時々カビ臭さが混ざり合う何もない空間で俺でさえ低くて立つ事も出来ない天井の屋根裏を飯田さんは俺よりも腰を落してぐるりと見回した後、じっと大黒柱を見上げる。
「この柱一本でこの家を支えてきたのですね」
「それを助ける柱もあります」
言えば暗くても判るぐらい愛おしそうに大黒柱に手を添えて
「この柱が家族の象徴なのですね」
白いシャツを着ているのに汚れる事なんて気にしないと言う様に大黒柱に抱き着いていた。
124
お気に入りに追加
2,655
あなたにおすすめの小説
家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!
雪那 由多
ライト文芸
恋人に振られて独立を決心!
尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!
庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。
さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!
そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!
古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。
見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!
見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート!
****************************************************************
第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました!
沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました!
****************************************************************
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
裏路地古民家カフェでまったりしたい
雪那 由多
大衆娯楽
夜月燈火は亡き祖父の家をカフェに作り直して人生を再出発。
高校時代の友人と再会からの有無を言わさぬ魔王の指示で俺の意志一つなくリフォームは進んでいく。
あれ?
俺が思ったのとなんか違うけどでも俺が想像したよりいいカフェになってるんだけど予算内ならまあいいか?
え?あまい?
は?コーヒー不味い?
インスタントしか飲んだ事ないから分かるわけないじゃん。
はい?!修行いって来い???
しかも棒を銜えて筋トレってどんな修行?!
その甲斐あって人通りのない裏路地の古民家カフェは人はいないが穏やかな時間とコーヒーの香りと周囲の優しさに助けられ今日もオープンします。
第6回ライト文芸大賞で奨励賞を頂きました!ありがとうございました!
隣の古道具屋さん
雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。
幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。
そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。
修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる