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夏が来る前に 1
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水曜の早朝。早朝と言うには人の家にお邪魔するには早い時間。
車のエンジン音に烏骨鶏達の早く外に出せと言うこっここっこと忙しない鳴き声は一瞬にして静まる。
さすがチキン野郎。
周囲の変化には敏感だなと感心しながら巨大化したキュウリをもいでいれたカゴ事庭に作ったちょうど台所の裏側の流しに置く。トイレがまだ外にあった時の手洗い場としても使っていたために凍らせないように山水が引かれている。水道管だと冬場に破裂するからね。と言うか、ここに水道管が引かれたのはここ十数年の最近だ。
キュウリに付いた土を落とすには山水がちょうど良く、そして烏骨鶏に与える分には問題ない。
車が定位置に止まって降りて来る合間にキュウリを縦割りにして米ぬかを入れた竹を割った餌カゴのそばに置いて烏骨鶏の小屋の扉を開ける。
いつもなら我先に小屋を飛び出すものの今日はチキンと呼ぶに相応しく恐る恐ると慎重に小屋を出てくる週一でしか見られない、だけど明日にはもうこんな謙虚な烏骨鶏の姿はどこにも無い光景だ。
そこが鳥頭と言われる所以だろう。
まあ、密かにそんな姿を毎週楽しみにしている俺としてはニヤニヤとして見守っているのだが、白色の綿毛の姿はやっぱり可愛く思いつつ美味しくなれよと眺めている。
「綾人さんまたお世話になります」
フランス帰りのシェフの飯田さんは仕事明けの徹夜を物ともしない爽やかな笑顔で挨拶をしてくれた。
車の音にびびって警戒していたことなんて綺麗に忘れて元気にすぐ横を駆け抜けていく烏骨鶏を、もう少し太らせたほうが脂が乗ってていいかもなと言う呟きに料理人だなあと黙って一緒に烏骨鶏の後ろ姿を見送る。
「いらっしゃい。いつも通り畑の野菜は好きなだけどうぞ。
そうだ、前に持ってきたなんかよくわからない苗の野菜もこの一週間でいい感じの育ってるから見ておいでよ」
言うも飯田さんは一向に畑に向かわず一角をずっと見つめている。
「何かありましたか?」
「いや、小屋を解体するのかなと……」
古民家に憧れて竃と五右衛門風呂をこよなく愛するフランス料理のシェフは何処か泣きそうな顔で眺めるも
「あー、ちょっと手入れしようかと思いまして。せっかくなのでご飯の準備しながら説明します」
「でしたらすぐに戻りますので台所で待っててください」
壊すつもりではない事だけを伝えカゴを渡せば急ぎ足で電磁柵の中に入って野菜を取りにいく後ろ姿にひょっとしてあの使ってない小屋を狙ってたのかなと小首を傾げながらも大型犬のような飯田さんは嬉しそうな空気を隠せないまま狭いネットの天井の中を縦横無尽に器用に走り回っていたのを俺は大人だから見ないフリをしていた。
「で、あの小屋をどうするのです?」
育てはしているものの見た事ない野菜の味噌汁は具沢山で混沌としている。とても毎日同じ化学調味料と味噌を使ってるとは思えないほどに美味いシェフの朝ごはんは白い米と漬物があればそれだけで完璧だ。もっとも飯田さんには足りなくベーコンやら烏骨鶏の卵を見付けて来て目玉焼きにしている。掃除前の鳥小屋に飛びこめるようになったら卵食べても良いよと約束したら生粋の都会生まれ都会育ちの田舎暮らしなし歴の飯田さんは烏骨鶏並みのチキンウォークで取りに行くのは今はもう見られなくなった寂しい光景だ。
「まあ、改築してまた住めるようにするだけだよ」
言いながら俺の希望を描いただけのメモを見せる。ちゃんとした設計やらはまだ内田さんの手元で制作の段階だが、入ってすぐの梁を剥き出しにした吹き抜けの広い土間に囲炉裏を囲んだテーブル。少し離れた場所に和室二間と二階に続く階段。二階は吹き抜けにした事で部屋は減ったものの和室を板の間にしてもらって合宿場に使えるようにしてもらった。
寒冷地帯ならではの縁側を一階二階とも広く取り、いざとなったら洗濯物を干すには十分な場所を確保している。
「トイレは汲み取りなんですね」
都会の下水に慣れた人間にはトイレ問題は大問題だ。
「まあ、母屋と同じ形にしるけど」
飯田さんのホッとする姿を見るように俺もジイちゃん、バアちゃんの家に行くのを嫌った理由だ。だけど汲み取り式に含まれる簡易水洗トイレは俺が住むと同時にバアちゃんが変えてくれたものだ。一部屋潰して風呂と一緒に家の中に作ってくれたが、一番喜んだのもバアちゃんだ。おなじみウオシュレットで悲鳴を上げたり、自動で水の調整をする風呂の便利に喜んだのはやはりかつて子供の為に惜しげもない愛情を注いだものを俺にも与えてくれた母性というものだろう。
「毎年夏に高校の合宿場にさせられてるじゃん?
いい加減母屋から離したかったのも理由かな」
二十二歳若いつもりだった。
夜更かし徹夜全然問題なしと思っていたものの合宿上に場所を貸すようになっておもい知った。一晩中マ●オカートで大爆笑する自信は今の俺にはない。
昔は全然余裕だったのにな……
もう子供じゃないと思った瞬間で歳を痛感した瞬間でもあった。
「それに毎回キャンプ用品持ち帰りしなくても預かる場所、拠点になる場所ぐらいにはなりますよ」
毎度車に積めずともうちを拠点にすれば良いと言えば
「俺は、この母屋の一角で寝させて貰えば満足です」
竃の火を操るピザ釜の主人は愛用の布団を預かってもらえれば十分だと言う。
「それに大体毎晩酒で寝潰れているのだからわざわざ離れ何て贅沢ですよ」
「毎回美味しいご飯作ってくれるのに、飯田さんって謙虚すぎるよ」
当然の顔で冷蔵庫を漁るどこぞの先生も見習ってほしいと思う。
「俺の畑の面倒みてもらってのだからこれぐらいが常識ですよ」
これ以上俺を甘やかせないで下さいと言うも忠実な大型犬を甘やかしたいと思うのは単に他人からの愛情不足な俺の……
自己満足だと思う事にしておいた。
車のエンジン音に烏骨鶏達の早く外に出せと言うこっここっこと忙しない鳴き声は一瞬にして静まる。
さすがチキン野郎。
周囲の変化には敏感だなと感心しながら巨大化したキュウリをもいでいれたカゴ事庭に作ったちょうど台所の裏側の流しに置く。トイレがまだ外にあった時の手洗い場としても使っていたために凍らせないように山水が引かれている。水道管だと冬場に破裂するからね。と言うか、ここに水道管が引かれたのはここ十数年の最近だ。
キュウリに付いた土を落とすには山水がちょうど良く、そして烏骨鶏に与える分には問題ない。
車が定位置に止まって降りて来る合間にキュウリを縦割りにして米ぬかを入れた竹を割った餌カゴのそばに置いて烏骨鶏の小屋の扉を開ける。
いつもなら我先に小屋を飛び出すものの今日はチキンと呼ぶに相応しく恐る恐ると慎重に小屋を出てくる週一でしか見られない、だけど明日にはもうこんな謙虚な烏骨鶏の姿はどこにも無い光景だ。
そこが鳥頭と言われる所以だろう。
まあ、密かにそんな姿を毎週楽しみにしている俺としてはニヤニヤとして見守っているのだが、白色の綿毛の姿はやっぱり可愛く思いつつ美味しくなれよと眺めている。
「綾人さんまたお世話になります」
フランス帰りのシェフの飯田さんは仕事明けの徹夜を物ともしない爽やかな笑顔で挨拶をしてくれた。
車の音にびびって警戒していたことなんて綺麗に忘れて元気にすぐ横を駆け抜けていく烏骨鶏を、もう少し太らせたほうが脂が乗ってていいかもなと言う呟きに料理人だなあと黙って一緒に烏骨鶏の後ろ姿を見送る。
「いらっしゃい。いつも通り畑の野菜は好きなだけどうぞ。
そうだ、前に持ってきたなんかよくわからない苗の野菜もこの一週間でいい感じの育ってるから見ておいでよ」
言うも飯田さんは一向に畑に向かわず一角をずっと見つめている。
「何かありましたか?」
「いや、小屋を解体するのかなと……」
古民家に憧れて竃と五右衛門風呂をこよなく愛するフランス料理のシェフは何処か泣きそうな顔で眺めるも
「あー、ちょっと手入れしようかと思いまして。せっかくなのでご飯の準備しながら説明します」
「でしたらすぐに戻りますので台所で待っててください」
壊すつもりではない事だけを伝えカゴを渡せば急ぎ足で電磁柵の中に入って野菜を取りにいく後ろ姿にひょっとしてあの使ってない小屋を狙ってたのかなと小首を傾げながらも大型犬のような飯田さんは嬉しそうな空気を隠せないまま狭いネットの天井の中を縦横無尽に器用に走り回っていたのを俺は大人だから見ないフリをしていた。
「で、あの小屋をどうするのです?」
育てはしているものの見た事ない野菜の味噌汁は具沢山で混沌としている。とても毎日同じ化学調味料と味噌を使ってるとは思えないほどに美味いシェフの朝ごはんは白い米と漬物があればそれだけで完璧だ。もっとも飯田さんには足りなくベーコンやら烏骨鶏の卵を見付けて来て目玉焼きにしている。掃除前の鳥小屋に飛びこめるようになったら卵食べても良いよと約束したら生粋の都会生まれ都会育ちの田舎暮らしなし歴の飯田さんは烏骨鶏並みのチキンウォークで取りに行くのは今はもう見られなくなった寂しい光景だ。
「まあ、改築してまた住めるようにするだけだよ」
言いながら俺の希望を描いただけのメモを見せる。ちゃんとした設計やらはまだ内田さんの手元で制作の段階だが、入ってすぐの梁を剥き出しにした吹き抜けの広い土間に囲炉裏を囲んだテーブル。少し離れた場所に和室二間と二階に続く階段。二階は吹き抜けにした事で部屋は減ったものの和室を板の間にしてもらって合宿場に使えるようにしてもらった。
寒冷地帯ならではの縁側を一階二階とも広く取り、いざとなったら洗濯物を干すには十分な場所を確保している。
「トイレは汲み取りなんですね」
都会の下水に慣れた人間にはトイレ問題は大問題だ。
「まあ、母屋と同じ形にしるけど」
飯田さんのホッとする姿を見るように俺もジイちゃん、バアちゃんの家に行くのを嫌った理由だ。だけど汲み取り式に含まれる簡易水洗トイレは俺が住むと同時にバアちゃんが変えてくれたものだ。一部屋潰して風呂と一緒に家の中に作ってくれたが、一番喜んだのもバアちゃんだ。おなじみウオシュレットで悲鳴を上げたり、自動で水の調整をする風呂の便利に喜んだのはやはりかつて子供の為に惜しげもない愛情を注いだものを俺にも与えてくれた母性というものだろう。
「毎年夏に高校の合宿場にさせられてるじゃん?
いい加減母屋から離したかったのも理由かな」
二十二歳若いつもりだった。
夜更かし徹夜全然問題なしと思っていたものの合宿上に場所を貸すようになっておもい知った。一晩中マ●オカートで大爆笑する自信は今の俺にはない。
昔は全然余裕だったのにな……
もう子供じゃないと思った瞬間で歳を痛感した瞬間でもあった。
「それに毎回キャンプ用品持ち帰りしなくても預かる場所、拠点になる場所ぐらいにはなりますよ」
毎度車に積めずともうちを拠点にすれば良いと言えば
「俺は、この母屋の一角で寝させて貰えば満足です」
竃の火を操るピザ釜の主人は愛用の布団を預かってもらえれば十分だと言う。
「それに大体毎晩酒で寝潰れているのだからわざわざ離れ何て贅沢ですよ」
「毎回美味しいご飯作ってくれるのに、飯田さんって謙虚すぎるよ」
当然の顔で冷蔵庫を漁るどこぞの先生も見習ってほしいと思う。
「俺の畑の面倒みてもらってのだからこれぐらいが常識ですよ」
これ以上俺を甘やかせないで下さいと言うも忠実な大型犬を甘やかしたいと思うのは単に他人からの愛情不足な俺の……
自己満足だと思う事にしておいた。
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