裏路地古民家カフェでまったりしたい

雪那 由多

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顔をあげれば古民家カフェ三日月 2

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「本日はよろしくお願いします!」

 そんな気合を入れた開店前の挨拶から始まったオープン当日は怒涛の一日だった。
 一人では手が回らないだろうと飯田さんと小山さんが応援に駆けつけて来てくれた。山口さんは高齢なのでオープンの賑わいが落ち着いたら来てくれると約束してくれた。師匠楽しみにお待ちしてます!
 店内を飾る実桜さんの生け花が霞んでしまうくらいの沢山のお花が届けられてどこか寂れた路地裏が一気に華やいだ。その中にはお袋と親父からの物もあり、気を使わせて悪いなあと思いながらも素直に感謝の電話を入れておいた。
 そんな花にも負けないくらいの笑い声に店の中は一気に活気づく。
兄貴の所のおばさま達が沢山のお友達を真っ先に連れて来てくれたのが何よりのプレゼントだ。
 応援には飯田さんと小山さんだけではなく宮下も来てくれた。システム的に何か不都合があった時の為の魔王との通訳(?)らしく、繁盛するだろう週末まで対応してくれると言う。と言いつつ率先してコップを洗ったり、お皿を洗ったりしてくれるので正直かなり助かっていた。
 おれは主にお客様に挨拶と言う様に注文を受け取る事に専念していた。
 宮下が作ってくれたメニューはとても見やすく、そして注文を受け取るアプリはあの魔王が自作してくれた物。
 もうね、頭いいとは思ってたけどほんとビックリだよ。
 まさか注文票のコストパフォーマンス化と言う所をスマホで済まそうとかほんと神だね。よくある店で使ってるあの機械、実は数十万程するビックリ価格で気後れしたけど、スマホなら普及してきたおかげで一台しか買えなかったところを何台か購入する事が出来た。挙句にシステムは簡単で、テーブルの横にあるバーコードを読み込む事でテーブルナンバーを登録し、判りやすいメニューにはオプションの選択機能もある。最後に登録すれば勝手に小さなプリンターに飛ばせば印字されたレシートが出てくるよくある仕組み。
 レシート大切です。
 とにかく簡単で使いやすくてこれだけの忙しさでもトラブルなくやっていけるので本当にありがたかった。
「あ、これなら俺でもメニューを取りに行ける」
 と言ったようにコンセプトが「宮下でも注文を受けれる」と言う事は内緒だ。
 レジもタブレットでコンパクトに収まってるしかなりすっきりとしたれじ周りになっている。
 使っているジャムの工房の紹介、山口さんが焙煎しているコーヒーの紹介、そして、この古民家をリフォームした職人達の紹介。
 新しくも見えながらも年季の入った家具にお客様達は懐かしく思いながらも綺麗に磨き直した家具を誉めずにはいられないようだった。

「どちらで購入されました?」
「元々祖父母が使っていた家具のリメイクした物になります」

 やがて広まった噂に地元の紹介雑誌に取り上げられるくらいの話題を呼び込む事に成功した。 
 美しい漆喰と黒々とした梁の走る店内から覗く庭の景色はあんなにも可哀想なくらい短く切られてしまった植木たちもこの夏の勢いと共に丁寧に刈りこまれてちょっとした庭園のようになっている。今ではしっかり根付いた苔はベルベットのようにしっとりとした美しさを演出し、なんの花か知らないが小さな白い花が品良い甘い香りを放っていた。
 そんな表側の庭とは別に駐車場のある裏庭の方は中々に賑やかしかった。
 長沢さんが暇つぶしで作った飾りや一輪挿し、彫刻や小箱などを展示最終日には販売すると言う事を告知した事で、遠い所から足を運んでくれた人もいた。
 神動画の中で長沢さんの腕は知れ渡っている。そこにどこそこで展示会をやるとなれば人が集まるのは予想していたが、それ以上の賑わいにかなりご近所さんに迷惑をおかけしてしまって後で謝りに行かなくてはならない状況だった。
 静かな観光業がメインのこの街で久しぶりに取り戻した賑わいは
「盆と正月が一緒に来たみたいだ」
「ああ、祭りでもやってるのかと思ったぞ」
 商工会の人も道路整備に手伝いに来てくれるちょっとした騒動のようになっていたけど、そこは観光業のプロの人達。お客様に嫌な顔を浮かべさせないような対応で気が付けば誰の顔にも笑顔が溢れていた。
 もちろん俺も負けじと笑顔を浮かべ続けた。
 割り箸トレーニングかなり効果があり、お袋も割り箸を銜えているのを見た時はさすがに吹いた。
 結果は目標金額の十万円も軽く超え、何とか記念すべき一日が終わった時には心地よい疲れに包まれた。秒で寝落ちしそうだったけど小山さんと飯田さんが晩ご飯まで用意してくれて初日を無事終えたと言う内々の打ち上げはまた明日も頑張ろうと言う気力に繋がる一日になった。
 
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