裏路地古民家カフェでまったりしたい

雪那 由多

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焦げた!生焼け?雪崩るワッフル 11

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 カフェでは直火ではなくIHを使用する事にしている。安全の為に、そして料理が初心者の為の俺への配慮だがいずれガスにしても良いんだぞと言う言葉はかけてもらっている。 
 記憶の通りちょうどよくIHも対応のワッフルプレートが埃をかぶって売れ残っていたのが気に入らなかったがフッ素コーティング加工もしてあるので作業もしやすいだろうと購入。ワッフルメーカーよりかなりお安く買えたのがなんだか腑に落ちなかったがよくよく考えれば我が家はプロパンだ。まあ、直火も使えるからいいけど、と言う言い訳をしている所で一口IHコンロが罠のように売っていた。
 ……。
 罠にはまってやんよ!
 思わぬ出費だが二つを購入した後に追加の材料も買っておく。
 どれだけ作るつもりだって言われそうだけど買い物袋を持ってき忘れたのでダンボール置き場からダンボールを貰って帰宅する。
 お袋はさすがにまだ戻って来てなかった。所要時間三十分。さすがに帰ってくるどころか目的地にも付いてるだろうかと言う時間だ。 
 一応ジャムだけじゃ味気ないのでフルーツも幾つか買って来た。パイナップルとかメロンとかキウイフルーツとか馴染のあるもので揃えた所で生地を作る。
 そこで焼に入るのだが……
「たぬきどころかくまだとか……」 
 物の見事真っ黒に焼けたワッフルは当然苦くて食べれた物じゃない。
 勿体ないけどゴミ箱に直行させてもらってもう一度焼く。
 そしてできたのはたぬきカラー。
「IH難しい!」
 喚きながらもう一度チャレンジ。
 生地づくりの練習も兼ねて纏めては作らず教えてもらった基本の分量でシャカシャカと作る。
 これも修行。
 体になじませるための訓練。
 腕が痛くてプルプルし始めてるけどとりあえず慣れる様に焼け続ける。
 もう台所が甘い匂いで充満しすぎて辛い。換気扇も頑張って働いてるけど効果はなく、コーヒーを使って誤魔化すけどいい加減おなかいっぱいで胸やけを起こしはじめて
「もう無理……」
 それなりに美しく焼けるようになった所でリタイアした。
 根性ねーの。
 お腹が重くて台所の椅子に座って膨れた腹をさすっていれば
「ただいまー。ケンタッキー買って来たから今晩食べようねー。って、この匂い凄いわね。外まで充満してるわよー」
 なんて暢気なお袋の声が台所に来たとたん台所に入る直前で足を止めた。
「ちょっと燈火、これ何なのよ……」
 ポトリと鞄は落してもケンタッキーは落とさない母の根性を褒め称えたいが、言われた所でテーブルを見る。
 そこにはちまちまと焼いては一枚だけ食べて、残った物が山となって鎮座していた。
 もう何回焼き直したかなんて覚えてない。
 二台同時に焼けるワッフルメーカーの優秀さも焼き加減一つ手がかかって可愛いワッフルプレートの沼も気が付けば買い足した食材が総て消え去るまで焼き尽くしていたのだ。
 こうなって当然だなと
「つかれたでしょ。コーヒー淹れるから少し待ってて」
 何て机に手を置いて立ち上がろうとすればその振動でワッフルの山が崩れて皿の上から崩れ落ちるように机の上に広がった。
「……」
「……」
 思わず無言になってしまう。
 さすがにこれはしでかしたと実感できる位自分でも引いている。
「床に落ちなくってよかった……」
 何とか絞り出した言葉に母さんはキッチンペーパーをおもむろに三角に折りだしたと思えばひとつずつ個包装して
「お隣さんに配って来るわね」
 その言葉にそれがあったかと俺も一緒に三角に折る。
「篠田の所にもっていく」
「そうね、そうしてくれると助かるわ。冷凍するのも考えたけど、さすがに食べきれないから」
「でもね、練習しないとね」
「ええ、それは理解してるわ」
「父さんの会社に持ってってもらうとか……」
「父さんの会社まで巻き込むのはやめて。折角燈火が美味しいコーヒーを淹れてくれるって喜んで言いふらしてるんだから自慢の息子を綺麗なままでいさせてあげて」
 よくわからん理論だが、なんとなく気持ちは伝わって来た。
 店を開くまで何度も焼くだろうワッフルを会社の人達に押し付けていたらいずれそれが裏目に出るのは言うまでもない。
 自称私お菓子作りが好きなのと言っては休み明けに必ず甘ったるいケーキを持って振舞う女子社員を思い出せば納得せざるを得ない。そしてそれは一度も俺の所に運ばれても来なかった。それを思えばさらに持って行ってくれともいえない。
 ちょっと涙が出そうになったが、何とか今夜親父に食べてもらう分だけ残して
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
 大半のワッフルを持って出かける俺に
「お友達を大切にしてよ」
 それはどういう意味だと問えない燈火だった。



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