裏路地古民家カフェでまったりしたい

雪那 由多

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一年、三年、十年先のブルーマウンテン 8

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「ただいま……」
 飯田さんを車に乗せて戻ってこれば仕事が終わったのか庭先で篠田と宮下が二人でだべっていた。
 コーヒーの飲み過ぎでおなかが苦しかったけど、賄を頂いたりバターを塗っただけのバケットを頂いたりと気を使っていただいたおかげでしっかりとおなかが重くなっていた。
「お帰り。修業はどうだった?」
 宮下の穏やかな声になんとなく癒しを覚えながら
「山口さんって言う人に教えてもらったんだけど、神がかって美味しかったです」
 飯田さんのコーヒーで感動したのにそれ以上があるなんて思わなかったと言う余分な事までは言わない大人な俺。
「確かに山口さんのコーヒー美味しいよね。コーヒーは苦手だけど山口さんのコーヒーは俺飲めたし」
「判る。滅多に飲まないからコーヒーの味なんて判らないけど匂いと味が一致するコーヒーって初めてだったな」
 それーと篠田と宮下が笑いあう。
 済まない。
 俺が無知なコーヒーばかり飲ませれいたばかりにと胸が痛むが
「でしたら俺も対抗して真面目に淹れてみましょう」
「飯田さんほんと負けず嫌いだー」
 何て宮下のツッコミににっこりと笑う飯田さんは買って来たばかりのコーヒー豆を使ってそのままコーヒーを淹れ始めた。
 ああ、もうおなかいっぱいなのにと思うも宮下と篠田は飯田さんがコーヒーを淹れるのを珍しいと言うように側で見学していた。
「俺飯田さんのコーヒー初めて飲むかも?」
「そうですね。こっちでは緑茶ばかり淹れてましたので新鮮でしょう」
「考えたらフレンチだから紅茶じゃなくってコーヒーなんだよね」
「コーヒーはあまり好まないようで難易度を上げて来るかすごく手厳しい意見しかもらえないので淹れないようにしてます」
「まったくあいつは……」
「嫌いだからこそ厳しくなるものだからね。まあ、らしいっちゃらしいけど」
 あははと笑う三人の話しの中心人物に思い当たりながらも今朝教えてもらった手順を滑らかな動作で淀みなく行程をこなして出された一杯は当然俺の分もある。
「お茶請けが……」
 宮下が何かないかなーなんて抽斗を探すも
「もらいもんのクッキーがある」
 どこを探していると言う様に篠田がすぐ側の戸棚にあった物を出して貰って今日一日の〆のコーヒーを頂く事にした。
「いただきます」
 宮下の声に俺も頂きますと続いて今日はもう舌が死んでいると思っていたけどここで今日一番の本当の驚きと出会う事になった。
「山口さんの所と一緒の豆ですよね?」
「はい。山口のこだわり抜いた自家製焙煎のコーヒー豆ですよ」
 一口飲んで飯田さんを見上げれば彼は本日一番のいい笑顔を浮かべていた。
「朝飲んだのと全然違う……」
「これが管理された豆の美味しさと、時間だけでは美味しさを引き出せないプロの一杯です。天候、湿度、温度によっての微差を考慮した一杯です」
 今日俺が一日かけて得た事を覆す言葉に呆然としてしまう物の
「夜月君はまだ忠実にコーヒーを淹れてください。
 簡単に俺や山口を見習わないようにしてください。俺達を真似ようなんて十年早いです」
 言葉を失うくらいの真摯な言葉。だけど遠まわしに十年は持ちそうだと言う事を言ってくれた。
 単にのどを潤すコーヒーではなくちゃんと料理の〆を飾る一品と言う芸術性を求めた一杯に思いつきカフェの店長が叶うわけがない。
 なんかまた心が折れたけど、圧倒的な技量の差に折れる心がまだあったんだと逆に関心をした。
 そして俺は現実に愕然とする。
「あ、このコーヒーなら俺でも飲める」
「うん。美味しいね。コーヒーってこんな味なんだね」
 篠田と宮下の感想に俺は目と耳を疑う上に
「これでも店では俺にコーヒー淹れるなって言われてるんですよ。
 奥深いですよねー」
「うわー、青山さん厳しい!」
 朝と同じ言葉。
 だけど今の俺はその意味を正しく理解した。
 これだけ美味しいと他の人が淹れるコーヒーが劣ってしまって飲めなくなる、とは言わないけど違和感を覚えるから出すなと言う事なのだろう。そして料理の印象がコーヒーでかき消されてしまうディナー何てあってはいけない。
 飯田さんのコーヒーが封印された理由に辿り着けばお店の人に同情するしかなかった。





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