24 / 84
一年、三年、十年先のブルーマウンテン 3
しおりを挟む
憧れのコックさんから頂いたオーダーに早速と言う様にドリップケトルでお湯を沸かす。
電気コンロで湯の温度を85℃にセット。
その間にスケールで10gをきっちりと計り、ミルでゴリゴリと豆を挽いて行く。
そうしている間に沸いたお湯でペーパーをセットしたドリッパーにお湯をそそぎ、コーヒーサーバーを温めてそのお湯を捨ててドリッパーに挽きたての粉を入れる。ドリッパ―の下の方を揺らして粉を平らにしてからお湯を注ぐ。
最初に30g、円を描きながらお湯を注ぎ、しっかりお湯を落しきるまで蒸らしてからもう一度30gお湯を注ぐ。同じようにお湯を落しきるまで待ってから70gのお湯を注ぐ。
これが俺なりに10gの粉の割合に対して150gのお湯が美味しく思えた対比だ。誰が来ても何度飲みに来てもらっても同じ味を保つように導き出した俺の黄金比を自信を持ってしっかりと抽出するのが終わるのを待ってカップへと注いで
「どうぞ」
緊張する手は震えていたけど、飯田さんはありがとうございますと笑顔と共に受け取ってくれて
しっかりと香りを嗅ぎ、ゆっくりと一口口に含んでさっきまでのイケメンが嘘のようなくらい真剣な目でコーヒーを睨みつけるように味わっていた。
いや、俺、犬のマスクをつけた動画しか知らないけど、飯田さんってこんな風に真剣に料理する人なの?!コーヒー一杯にここまで真剣になるの?!何て篠田に問いただしたいけど既に背中を向けて仕事の準備に取り掛かっている。
あれ、ここに俺の味方はいないとか?
アウェイではないが一対一の対決に俺は戦う前から瞬殺されていたのをやっと今悟った。
こくりと飲み込んでしばらく目を閉じていた飯田さん。
そっと息を吐き出す共に香るコーヒーの匂いと共にゆっくりと目を開いて
「それで、このコーヒーはいくらお支払すればお客様に飲んでいただけると思うのでしょうか?」
今まで聞いた事のない位の辛辣な感想を貰ってしまった。
涙が出そうだ。
一生懸命丁寧に淹れたはずなのに飲んでいただく為に俺からお金を払って飲んで貰えと言う一言にそんなにも酷いのかと既に二カ月ほどの練習を否定されて心が折れた気がした。
聞こえた言葉が嘘であるようにとそっと篠田を見るも、篠田は耳を両手で覆って聞こえないと言うポーズのまま俺達を見ないと言う様に背中を向けていた。
憧れの上司、今までのクソ上司以上に厳しかった……
言葉もなく立ち尽くす俺に飯田さんは溜息を一つついて
「これからの事全部その目でちゃんと見ていてください」
そう言ってドリップケトルでお湯を沸かし始めた。湯の温度設定はしてないけどお構いなしにお湯を沸かし始めた。
その間にコーヒーサーバーとドリッパ―を洗い、ミルも綺麗に洗っていた。
「良いですか?ミルは挽いたらちゃんと洗ってください。その為にも洗える物を選んでください。
折角のブルーマウンテンなのに前のコーヒー豆が混ざっています。折角の味を楽しめるのにこれでは意味が無くなってしまいます。それにコーヒー豆は粉にしたらどんどん酸化が進むので苦味や酸味もえぐみとなって現れます。豆を挽いてコーヒーを淹れる意味が無くなります」
俺のコーヒーのまずさの正体。
ここでは言えないけど一度も洗った事ありませんと言えない代わりに冷や汗が流れて行く。
その間にお湯が沸騰して、そこで初めて電気コンロを85℃にセットする。
「料理もですが、お湯は必ず沸騰させてください。
スープなんかでもそうですが、殺菌をすると言う意味合いもあります。これは世界共通の意識です。いくら機械で便利になったからと行っても必ず沸点の100℃までお湯を沸かしてください。手間はかかりますが、お客様の姿が店の前に見えた時から沸かし始めればジュースを頼まれてお湯が無駄になる事はあっても時間を無駄にする事は一切ありません」
そんな事教材では教えてくれなかった……
教材では教えてくれない事を俺は学ぶ事が出来たから幸運だが、それを知らないまま店を開いて何か起きたと思うとぞっとするのだった。
電気コンロで湯の温度を85℃にセット。
その間にスケールで10gをきっちりと計り、ミルでゴリゴリと豆を挽いて行く。
そうしている間に沸いたお湯でペーパーをセットしたドリッパーにお湯をそそぎ、コーヒーサーバーを温めてそのお湯を捨ててドリッパーに挽きたての粉を入れる。ドリッパ―の下の方を揺らして粉を平らにしてからお湯を注ぐ。
最初に30g、円を描きながらお湯を注ぎ、しっかりお湯を落しきるまで蒸らしてからもう一度30gお湯を注ぐ。同じようにお湯を落しきるまで待ってから70gのお湯を注ぐ。
これが俺なりに10gの粉の割合に対して150gのお湯が美味しく思えた対比だ。誰が来ても何度飲みに来てもらっても同じ味を保つように導き出した俺の黄金比を自信を持ってしっかりと抽出するのが終わるのを待ってカップへと注いで
「どうぞ」
緊張する手は震えていたけど、飯田さんはありがとうございますと笑顔と共に受け取ってくれて
しっかりと香りを嗅ぎ、ゆっくりと一口口に含んでさっきまでのイケメンが嘘のようなくらい真剣な目でコーヒーを睨みつけるように味わっていた。
いや、俺、犬のマスクをつけた動画しか知らないけど、飯田さんってこんな風に真剣に料理する人なの?!コーヒー一杯にここまで真剣になるの?!何て篠田に問いただしたいけど既に背中を向けて仕事の準備に取り掛かっている。
あれ、ここに俺の味方はいないとか?
アウェイではないが一対一の対決に俺は戦う前から瞬殺されていたのをやっと今悟った。
こくりと飲み込んでしばらく目を閉じていた飯田さん。
そっと息を吐き出す共に香るコーヒーの匂いと共にゆっくりと目を開いて
「それで、このコーヒーはいくらお支払すればお客様に飲んでいただけると思うのでしょうか?」
今まで聞いた事のない位の辛辣な感想を貰ってしまった。
涙が出そうだ。
一生懸命丁寧に淹れたはずなのに飲んでいただく為に俺からお金を払って飲んで貰えと言う一言にそんなにも酷いのかと既に二カ月ほどの練習を否定されて心が折れた気がした。
聞こえた言葉が嘘であるようにとそっと篠田を見るも、篠田は耳を両手で覆って聞こえないと言うポーズのまま俺達を見ないと言う様に背中を向けていた。
憧れの上司、今までのクソ上司以上に厳しかった……
言葉もなく立ち尽くす俺に飯田さんは溜息を一つついて
「これからの事全部その目でちゃんと見ていてください」
そう言ってドリップケトルでお湯を沸かし始めた。湯の温度設定はしてないけどお構いなしにお湯を沸かし始めた。
その間にコーヒーサーバーとドリッパ―を洗い、ミルも綺麗に洗っていた。
「良いですか?ミルは挽いたらちゃんと洗ってください。その為にも洗える物を選んでください。
折角のブルーマウンテンなのに前のコーヒー豆が混ざっています。折角の味を楽しめるのにこれでは意味が無くなってしまいます。それにコーヒー豆は粉にしたらどんどん酸化が進むので苦味や酸味もえぐみとなって現れます。豆を挽いてコーヒーを淹れる意味が無くなります」
俺のコーヒーのまずさの正体。
ここでは言えないけど一度も洗った事ありませんと言えない代わりに冷や汗が流れて行く。
その間にお湯が沸騰して、そこで初めて電気コンロを85℃にセットする。
「料理もですが、お湯は必ず沸騰させてください。
スープなんかでもそうですが、殺菌をすると言う意味合いもあります。これは世界共通の意識です。いくら機械で便利になったからと行っても必ず沸点の100℃までお湯を沸かしてください。手間はかかりますが、お客様の姿が店の前に見えた時から沸かし始めればジュースを頼まれてお湯が無駄になる事はあっても時間を無駄にする事は一切ありません」
そんな事教材では教えてくれなかった……
教材では教えてくれない事を俺は学ぶ事が出来たから幸運だが、それを知らないまま店を開いて何か起きたと思うとぞっとするのだった。
62
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる