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家の歴史と思い出のインスタントコーヒー 5

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 足取り軽く軽快な足音はすぐ側の扉の前でピタリと止まり、それからたっぷりと時間を置いてからのノックの音。
「ごめんください。
 岡野と申しますが夜月さんのお宅で宜しいでしょうか」
 誰?
 思わず小首を傾げる俺と篠田達は顔を見合わせて
「実桜さん、中に居るから入ってきて」
「お前らやっぱり魔王の仲間か」
 家人を無視して仕切るのかよと思うもごめんくださいと言って入って来たのは髪を一つに束ねて繋ぎを着たお姉さんだった。何だか地味で色気がないなと思ったけど
「人妻で子持ちだから変な気起こすなよ。ちなみに実桜さんはどっちかと言うとカッコイイ兄貴だから、化ければ美人だけど女性だからって思ってると酷い目見るぞ」
 どんな紹介だと思うも所詮は魔王の手下の仲間。普通じゃないだろう。
「どうしたんだ。この時間は出荷作業に忙しいじゃろ」
 鉄治さんの指摘に実桜さんと呼ばれた人は何だか泣きそうな顔で
「今メールが届いたんです。
 この家に来て庭の木を手入れしてやれって。だから出荷の方はパートさんと園芸部に任せて、寧ろ早く行って来いって追い出されちゃいました」 
 一体今度は何があったんですかとしくしく泣き出す実桜さんに篠田は喉を鳴らして諦めた様にスマホを見れば、投げ捨てる様にテーブルへと滑らして俺達に見せ、足音を立てながら蔵の方へと向かって行った。
 何だ?なんて思うもその画面に映し出された映像に息を飲む。
「さすが当代は仕事が早い」
「これまたこじゃれた作りだな」
 感心する二人の言葉通りに俺も思考が動かなかった。
 吹き抜けの天井の高いメインフロアに接するカウンターとキッチン。漆喰の壁に温かみのある梁と床は杉板を張った物が指定してある。
 さらに緩やかな階段があってメインフロアを見下ろすような二階は一組だけのテーブルがあり、その下は壁に囲まれてぐるりとソファで囲む一室があった。子供なんかが隠れたがりそうな、そして階段を上って二階の窓から見下ろしたい、そんな遊び心も雰囲気を壊さないようにさりげなくデザインしてあった。
 何より感心したのは入り口とは反対側を中庭を歩く様に十分に幅のある軒下が土間通路となっていて裏庭の駐車場へとたどり着くようになっていた。
 中庭の向こう側には蔵が見えてスマホ越しからとは言え魔王の目にはこんな風に映っていたのかと驚く反面、俺以上にこの家を良くしようとしていて俺の意見が出る前にここまで提示された悔しさもあった。
 何より同じ建物なのにちゃんと俺の生活スペースが用意されていたのだ。
 一階の奥から二階に上がる階段があり、キッチン、風呂、トイレ、そしてリビングと独立した俺の寝室。リビングからは屋根裏にも上がれて倉庫として活用するにはもったいない位広々としたスペースが確保されていた。
 それからピコンと音を立ててメッセージが届いた。
「とりあえず一案。
 実桜さんを向かわせたから庭はお任せする様に」
 そんな短い指示。
 実桜さんと呼ばれた人も一つ頷き
「すみません。庭の方を見せてもらいます」
「あ、はい。どうぞ」
 魔王の手下と言うのはなんでこんなにも行動が早いのかと驚いてしまうも直ぐに入って来た玄関を出て、また戻って来ては中庭と言うか裏庭の方に自分のスマホを掴んで走って行く。
「なんか、もうリフォーム始まってる感じとか?」
 恐る恐ると聞けば
「何を言ってる。当代はもう指示を出しているんだ。とっくに始まってるぞ。良かったな、当代がやる気だから良い家になるぞ」
 惣太郎も大喜びだなんて言いながら二人は立ち上がり
「とりあえず大切な物は蔵の方へ持って行きなさい。蔵の方も漆喰を塗り直すだろうから少しずついる物要らない物の処分をしなさい」
 部屋の隅に山積みにされた新聞の束、押し入れから溢れ出した座布団。言い出したらきりがない位の物であふれた室内にこれだけでカフェとは縁遠い場所だと当面は処分に励まないと俺の意見何て欠片もないものの俺が想像した以上にいい感じのカフェが出来上がりそうで少し所かかなりやる気が満ちてきた。

 




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