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11.お試し交際って?
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「ごめん」
星野が謝る。何について、とは尋ねなかった。察していたから。
「いいよ。合意の上だし」
合意というより、GOサインを出したのは楓だ。
家に入れたことも、キスを受け入れたことも、ベッドに誘ったのも楓だ。
星野が負い目に感じる必要はない。
ないのだが、頭を下げる星野に楓は疑問に思う。
何故、彼は焦っていたのだろうか、と。
いつも冷静な星野が焦る姿を見るのは、初めてと言っていいくらいだ。
考えてみても楓には答えを見つけれない。ならば。
「なんでそんなに焦ってるの?」
直接聞いてみるまでだ。
星野は楓の投げかけた問いに、鳩が豆鉄砲食らったような顔をして――本当にそんな顔する人いるんだと驚くくらいだ――そっぽを向く。
横を向いた星野の頬が、いや耳まで真っ赤に染まる。
かける言葉が見つからないまま、ただ星野を見つめるだけの楓。
「本当にわかんない?」
やっと星野が口を開いた。
顔はまだそっぽ向いたままだが、横目で楓を見てくる。
楓は黙って頷いた。
はぁ、と深い溜め息をつくと星野は一息に喋りだした。
「好きだからだよ。ってか、今月で決めた三ヶ月が終わるのに一向に会ってくれないし。メッセージ送っても途切れがちだし。
アピールしようにも連絡すら取れないとどうしようも無いじゃん」
「えっと……」
「めっちゃ理性抑えていたのに、ちょっと強引にキスとか家に押し入ったらあっさり受け入れるし。ベッドまで案内してくれるから。
そりゃあいいように解釈しちゃうって。好きなんだから。
なのに、コトが終わって話してみたら「付き合わない」っていう顔して正面に座るし」
「いや……」
「正直余裕無いの、俺。だいぶ前だけど一度振られてるし」
「え?」
初耳だ。全く楓の記憶にない。
驚いた顔の楓に、星野は再びため息をついた。
「やっぱり覚えてないんだ。……そんな気はしてたけど」
「えっと……」
「その時もあっさり流されてるからな、告白。「冗談でしょ、ホッシー。ってかお互いそんな感情持ってないでしょ」って笑いながら」
「うわっ!ひどいね」
ポロリと感想がこぼれた。そこまで言われても何一つ思い出せない。
楓の心の内を読んだかのように星野は悲しそうに答える。
「そうだよ。ひどいよね、山下。全然覚えていないでしょ」
「うぅ……。ごめん」
そこまで言われても全く思い出せない。
呆れたように星野は笑う。いや、呆れじゃない。自虐しているような顔。
「まぁ、ベロベロに酔っ払っていた山下に告白した俺も俺だけど」
「それは……」
告白した相手が自分じゃなければ、「そんなときに告白するホッシーが悪いよ」と言えたのに。
忘れている自分が悪いと負い目もあるから口をつぐむ。
星野はバツの悪そうな顔をしている楓を見逃さなかった。
「だからさ」
悪そうな顔をしている。満面の笑みなのに、どこか邪気がある。
「その時の償いをすると思ってさ。お試しで付き合ってよ。もちろん、キスとか体の関係ありで。ねっ」
眩しいまでの営業スマイル。笑顔の押しが強い。強すぎて、肯定の返事しかできない。
「うぅ……」
あっさり認めるのは悔しい。だけど残された返事は一つしか無い。
「……条件が、ある」
苦し紛れに楓は提案する。
お試し交際の期限は長くても3月まで。
嫌だと思ったらすぐに終わりにすること。
そして。
「終わる、ってなったら、全て忘れてくれる?告白から付き合い終了のこと全部。
……ホッシーとは、同期としてずっといい関係を築いていたい」
「山下はそれでいいの?俺が付き合っていた間のことを全て忘れても」
「……?うん?いいよ」
「わかった。一つだけ条件追加させて。
……お試し交際終了した後、俺は全て忘れる。だけど、山下は覚えていて。
俺がどれだけ好きだったのか」
何を言っているのかその時はわからなかった。だから楓はあっさりと了承した。
笑顔で礼を言う星野。
この選択が星野の計算だったことに楓が気づいたのは、ずっと後のことだった。
星野が謝る。何について、とは尋ねなかった。察していたから。
「いいよ。合意の上だし」
合意というより、GOサインを出したのは楓だ。
家に入れたことも、キスを受け入れたことも、ベッドに誘ったのも楓だ。
星野が負い目に感じる必要はない。
ないのだが、頭を下げる星野に楓は疑問に思う。
何故、彼は焦っていたのだろうか、と。
いつも冷静な星野が焦る姿を見るのは、初めてと言っていいくらいだ。
考えてみても楓には答えを見つけれない。ならば。
「なんでそんなに焦ってるの?」
直接聞いてみるまでだ。
星野は楓の投げかけた問いに、鳩が豆鉄砲食らったような顔をして――本当にそんな顔する人いるんだと驚くくらいだ――そっぽを向く。
横を向いた星野の頬が、いや耳まで真っ赤に染まる。
かける言葉が見つからないまま、ただ星野を見つめるだけの楓。
「本当にわかんない?」
やっと星野が口を開いた。
顔はまだそっぽ向いたままだが、横目で楓を見てくる。
楓は黙って頷いた。
はぁ、と深い溜め息をつくと星野は一息に喋りだした。
「好きだからだよ。ってか、今月で決めた三ヶ月が終わるのに一向に会ってくれないし。メッセージ送っても途切れがちだし。
アピールしようにも連絡すら取れないとどうしようも無いじゃん」
「えっと……」
「めっちゃ理性抑えていたのに、ちょっと強引にキスとか家に押し入ったらあっさり受け入れるし。ベッドまで案内してくれるから。
そりゃあいいように解釈しちゃうって。好きなんだから。
なのに、コトが終わって話してみたら「付き合わない」っていう顔して正面に座るし」
「いや……」
「正直余裕無いの、俺。だいぶ前だけど一度振られてるし」
「え?」
初耳だ。全く楓の記憶にない。
驚いた顔の楓に、星野は再びため息をついた。
「やっぱり覚えてないんだ。……そんな気はしてたけど」
「えっと……」
「その時もあっさり流されてるからな、告白。「冗談でしょ、ホッシー。ってかお互いそんな感情持ってないでしょ」って笑いながら」
「うわっ!ひどいね」
ポロリと感想がこぼれた。そこまで言われても何一つ思い出せない。
楓の心の内を読んだかのように星野は悲しそうに答える。
「そうだよ。ひどいよね、山下。全然覚えていないでしょ」
「うぅ……。ごめん」
そこまで言われても全く思い出せない。
呆れたように星野は笑う。いや、呆れじゃない。自虐しているような顔。
「まぁ、ベロベロに酔っ払っていた山下に告白した俺も俺だけど」
「それは……」
告白した相手が自分じゃなければ、「そんなときに告白するホッシーが悪いよ」と言えたのに。
忘れている自分が悪いと負い目もあるから口をつぐむ。
星野はバツの悪そうな顔をしている楓を見逃さなかった。
「だからさ」
悪そうな顔をしている。満面の笑みなのに、どこか邪気がある。
「その時の償いをすると思ってさ。お試しで付き合ってよ。もちろん、キスとか体の関係ありで。ねっ」
眩しいまでの営業スマイル。笑顔の押しが強い。強すぎて、肯定の返事しかできない。
「うぅ……」
あっさり認めるのは悔しい。だけど残された返事は一つしか無い。
「……条件が、ある」
苦し紛れに楓は提案する。
お試し交際の期限は長くても3月まで。
嫌だと思ったらすぐに終わりにすること。
そして。
「終わる、ってなったら、全て忘れてくれる?告白から付き合い終了のこと全部。
……ホッシーとは、同期としてずっといい関係を築いていたい」
「山下はそれでいいの?俺が付き合っていた間のことを全て忘れても」
「……?うん?いいよ」
「わかった。一つだけ条件追加させて。
……お試し交際終了した後、俺は全て忘れる。だけど、山下は覚えていて。
俺がどれだけ好きだったのか」
何を言っているのかその時はわからなかった。だから楓はあっさりと了承した。
笑顔で礼を言う星野。
この選択が星野の計算だったことに楓が気づいたのは、ずっと後のことだった。
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