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10. キスの残り香
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何度目かのため息をつき、楓はテレビを消した。
休日のテレビから流れるにぎやかな芸能人の声で昨日の出来事を忘れたかったが、そう上手く記憶は無くならない。
ボーっとしていると、昨日のキスの感触が蘇る。
星野の唇が触れるのは二回目なのに、繰り返し思い出すのは昨日の分。
熱くて激しくて蕩けそうで。
いつも冷静でスマートな星野にあんな情熱的な面があるとは思って見なかった。
告白の後は連絡も増え積極的にはなったが、まだ楓の知っている星野だった。
だけど、昨日の彼は。
全然知らない男のようだった。
楓の好みの身長ではない。体も筋肉質ではないけど。
強引で雄の欲にまみれて。
キス一つで告白のことも、嫉妬していることも、営業に戻れない悔しさも全部吹っ飛ぶくらい欲情した。
あの時、星野の元カノのことを思い出さなければそのままホテルで体を重ねていても可笑しくないくらいに。
楓ははぁ~と深く息を吐く。
あんたは変態か!と突っ込む声も虚しい。
散々星野のことを突っぱねていたのに、キス一つで転がされる。
「惚れている?」
いや、違う。……違うと信じたい。いや、万が一惚れているとしても付き合うのは……。
同僚だから、ある程度距離があるから制御できているのだ。
それでも営業で活躍している星野が羨ましいのに。
付き合って、今日みたいに休日出勤していて。
バリバリ成績を上げていくのを隣で笑って見ていられるほど、楓の心は広くない。
悩みを聞いてくれるいい同僚として連絡を取り合えて、二人で飲みにいったりできて、たまにあんな情熱的な目で見つめられて、気が向くのなら楓の体の熱を慰めてくれたら理想的なのに。
こんな黒い感情、星野には知られたくない。
でも、きっと。
「ホッシー、見逃してはくれないよね……」
ため息と同時に吐き出した言葉を聞いていたのかいないのか。
タイミングよく星野から着信が来るのだった。
※
約束を忘れてはいなかったけど、昨日の今日だからできれば有耶無耶になってほしかったのに。
出るのを躊躇っている内に電話は切れた。と、思ったらまたかかってくる。
3,4回それを繰り返し、根負けする。
出るまでかけ続ける気だ、きっと。
「……はい」
『やっと出た』
はぁ~と電話口でため息をつく声が聞こえるのを華麗に聞き流す。
「何の用?」
つっけんどんに答えた楓に劣らずぶっきらぼうに星野は尋ねた。
『何号室?』
「え?」
『山下の部屋、何号室よ?』
「なんで……?」
『早く』
「……403」
唐突にガチャリと切れた携帯を呆然と見つめる。
(あ、ホッシーからメッセージ10件も来てる)
昨日から未読にしていたメッセージが溜まっていた。
見るのは、気が重い。
そんなことを考えていると、インターホンが鳴った。
「げっ」
星野が画面に映っていた。そのままシカトしてお けばよかったのに、いつもの癖で通話ボタンを押してしまう。
『開けて』
繋がった途端食い気味に話す星野。こんな強引な言い方をする星野は珍しい。
言葉に流されそうになるが、楓は自分の格好を見て一瞬冷静になった。
「えっと……」
今の楓はすっぴんメガネに、部屋着のキャラクターのトレーナーに下はジャージだ。
おまけにさっきまで楓がウダウダしていたコタツ机の上には、朝ごはんの食べかけのパンとコーヒーが置いてある。
人前に出れるような格好ではない。
『早く開けて。開けるまでここから退かんから』
集合住宅なのにそんなの困るに決まってる。珍しく強い口調のモニター越しの星野は、本気だ。
「……わかった」
楓はしぶしぶ玄関に向かったのだ。
休日のテレビから流れるにぎやかな芸能人の声で昨日の出来事を忘れたかったが、そう上手く記憶は無くならない。
ボーっとしていると、昨日のキスの感触が蘇る。
星野の唇が触れるのは二回目なのに、繰り返し思い出すのは昨日の分。
熱くて激しくて蕩けそうで。
いつも冷静でスマートな星野にあんな情熱的な面があるとは思って見なかった。
告白の後は連絡も増え積極的にはなったが、まだ楓の知っている星野だった。
だけど、昨日の彼は。
全然知らない男のようだった。
楓の好みの身長ではない。体も筋肉質ではないけど。
強引で雄の欲にまみれて。
キス一つで告白のことも、嫉妬していることも、営業に戻れない悔しさも全部吹っ飛ぶくらい欲情した。
あの時、星野の元カノのことを思い出さなければそのままホテルで体を重ねていても可笑しくないくらいに。
楓ははぁ~と深く息を吐く。
あんたは変態か!と突っ込む声も虚しい。
散々星野のことを突っぱねていたのに、キス一つで転がされる。
「惚れている?」
いや、違う。……違うと信じたい。いや、万が一惚れているとしても付き合うのは……。
同僚だから、ある程度距離があるから制御できているのだ。
それでも営業で活躍している星野が羨ましいのに。
付き合って、今日みたいに休日出勤していて。
バリバリ成績を上げていくのを隣で笑って見ていられるほど、楓の心は広くない。
悩みを聞いてくれるいい同僚として連絡を取り合えて、二人で飲みにいったりできて、たまにあんな情熱的な目で見つめられて、気が向くのなら楓の体の熱を慰めてくれたら理想的なのに。
こんな黒い感情、星野には知られたくない。
でも、きっと。
「ホッシー、見逃してはくれないよね……」
ため息と同時に吐き出した言葉を聞いていたのかいないのか。
タイミングよく星野から着信が来るのだった。
※
約束を忘れてはいなかったけど、昨日の今日だからできれば有耶無耶になってほしかったのに。
出るのを躊躇っている内に電話は切れた。と、思ったらまたかかってくる。
3,4回それを繰り返し、根負けする。
出るまでかけ続ける気だ、きっと。
「……はい」
『やっと出た』
はぁ~と電話口でため息をつく声が聞こえるのを華麗に聞き流す。
「何の用?」
つっけんどんに答えた楓に劣らずぶっきらぼうに星野は尋ねた。
『何号室?』
「え?」
『山下の部屋、何号室よ?』
「なんで……?」
『早く』
「……403」
唐突にガチャリと切れた携帯を呆然と見つめる。
(あ、ホッシーからメッセージ10件も来てる)
昨日から未読にしていたメッセージが溜まっていた。
見るのは、気が重い。
そんなことを考えていると、インターホンが鳴った。
「げっ」
星野が画面に映っていた。そのままシカトしてお けばよかったのに、いつもの癖で通話ボタンを押してしまう。
『開けて』
繋がった途端食い気味に話す星野。こんな強引な言い方をする星野は珍しい。
言葉に流されそうになるが、楓は自分の格好を見て一瞬冷静になった。
「えっと……」
今の楓はすっぴんメガネに、部屋着のキャラクターのトレーナーに下はジャージだ。
おまけにさっきまで楓がウダウダしていたコタツ机の上には、朝ごはんの食べかけのパンとコーヒーが置いてある。
人前に出れるような格好ではない。
『早く開けて。開けるまでここから退かんから』
集合住宅なのにそんなの困るに決まってる。珍しく強い口調のモニター越しの星野は、本気だ。
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