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9.嫉妬
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「……した。……山下、聞いてる?」
「えっ!?な、なに?」
自分の世界に耽っていた楓は星野の声で現実に戻ってくる。
「早く食べないと昼休み終わるよ」
星野はもう完食していた。チラッと時計を見た楓は慌てて残りを平らげる。
「今日、空いてる?久しぶりにタカノ行かない?さっき田中が言っていたことも気になるし」
楓の気持ちなぞ知らない星野はニコニコと笑いかける。
その顔が何故か楓をイラッとさせた。
「行かない」
さっきとは打って変わって冷たく星野をあしらう。
食べ終わった楓は立ち上がると星野を残してスタスタと食器を返却する。
「どうした?何か怒ってる?」
急な変化に戸惑いつつ、後を追いかけて来た星野が尋ねる。楓は怒ってないと答えるが勿論納得はしない。
ついてくる星野に――と言っても同じ部署なのだから当たり前だが――楓は何故かイライラが止まらない。
こんな状態で午後からの仕事に臨んでもミスをしてしまう。だけど、星野に八つ当たりした以上、引っ込みがつかなくなってしまった。
「山下、職場」
さすがに気にしたのか、星野が短くたしなめる。
条件反射でわかってる!といいそうになる楓の腕を引っ張った星野は、自販機コーナーに連れて行った。
「何飲む?」
星野は一応尋ねたが、楓が返事をする前にいつも彼女が飲んでいるカフェオレを購入する。
「はい」
差し出された缶を受け取る。冷えていた指先がじんわり温まってくる。
一呼吸、二呼吸。大きく深呼吸をする楓を横目に
星野は自分のコーヒーを購入し、プルタブを空ける。
口をつけた瞬間「うわっ」と声を上げる。
慌てて缶を見た星野は、ガックリ肩を落として呟いた。
「砂糖とミルク入ってた。俺、ブラックしか飲めないのに」
その姿に思わず、ぷっ、と吹き出してしまう。
笑みが溢れた楓に、星野はホッとした様子で笑いかける。
「山下は落ち着いた?」
「うん、ありがとう」
「珍しいね、そんなになるの。数値悪化したん?」
年明けに早々に病院で検査した際、少しだけバセドウ病の数値は悪くなっていた。ホルモンに関係する病だ。
数値が悪ければ、感情が不安定になることもある。
だけど、今回はそれが原因ではないのは楓自身が分かっていた。
星野の元カノのことが気になって仕方ないのだ。
これは、まるで……星野に恋をしているみたいだ。
楓はすぐに自分の思いを打ち消す。
いや、違う。タイプじゃないのだから。
頭を振って邪念を振り払うと大きく息を吐いた。
そして楓は頭を下げた。
「ごめん」
これは本当の気持ち。素直に謝れた。いいよ、と首を振った星野に、楓はカフェオレの礼とお詫びの気持ちを込めてコーヒーを購入する。
今度は星野の好きなブラックコーヒーで。
苦虫を噛み潰したように甘いミルクたっぷりのコーヒーを飲み干した星野に渡す。
胸焼けでもするのか、軽く胸を擦る星野に再び笑いが込み上げてくる。
「ありがとう。
さて、そろそろ戻るとしますか。昼からも頑張ろうな」
星野は楓の横を通り抜ける際に、ポソっと囁く。
「そんな剥き出しの感情は、二人きりの時に見せて」
コーヒーでダメージ受けていたと思ったけど、楓をからかうくらいの余裕はあったようだ。
(くそう、タラシめ!)
サッと前を行く星野の背中に内心で毒づいた。
再び沸騰しそうになる楓を落ち着かせたのは、手に握っているカフェオレのぬくもりだった。
ふぅ、と息を吐く。
よし、落ち着いた。
前を歩く彼には耳まで真っ赤になった楓の顔は見られていないはず。
楓は、遅れないように星野の後を追いかけた。
「えっ!?な、なに?」
自分の世界に耽っていた楓は星野の声で現実に戻ってくる。
「早く食べないと昼休み終わるよ」
星野はもう完食していた。チラッと時計を見た楓は慌てて残りを平らげる。
「今日、空いてる?久しぶりにタカノ行かない?さっき田中が言っていたことも気になるし」
楓の気持ちなぞ知らない星野はニコニコと笑いかける。
その顔が何故か楓をイラッとさせた。
「行かない」
さっきとは打って変わって冷たく星野をあしらう。
食べ終わった楓は立ち上がると星野を残してスタスタと食器を返却する。
「どうした?何か怒ってる?」
急な変化に戸惑いつつ、後を追いかけて来た星野が尋ねる。楓は怒ってないと答えるが勿論納得はしない。
ついてくる星野に――と言っても同じ部署なのだから当たり前だが――楓は何故かイライラが止まらない。
こんな状態で午後からの仕事に臨んでもミスをしてしまう。だけど、星野に八つ当たりした以上、引っ込みがつかなくなってしまった。
「山下、職場」
さすがに気にしたのか、星野が短くたしなめる。
条件反射でわかってる!といいそうになる楓の腕を引っ張った星野は、自販機コーナーに連れて行った。
「何飲む?」
星野は一応尋ねたが、楓が返事をする前にいつも彼女が飲んでいるカフェオレを購入する。
「はい」
差し出された缶を受け取る。冷えていた指先がじんわり温まってくる。
一呼吸、二呼吸。大きく深呼吸をする楓を横目に
星野は自分のコーヒーを購入し、プルタブを空ける。
口をつけた瞬間「うわっ」と声を上げる。
慌てて缶を見た星野は、ガックリ肩を落として呟いた。
「砂糖とミルク入ってた。俺、ブラックしか飲めないのに」
その姿に思わず、ぷっ、と吹き出してしまう。
笑みが溢れた楓に、星野はホッとした様子で笑いかける。
「山下は落ち着いた?」
「うん、ありがとう」
「珍しいね、そんなになるの。数値悪化したん?」
年明けに早々に病院で検査した際、少しだけバセドウ病の数値は悪くなっていた。ホルモンに関係する病だ。
数値が悪ければ、感情が不安定になることもある。
だけど、今回はそれが原因ではないのは楓自身が分かっていた。
星野の元カノのことが気になって仕方ないのだ。
これは、まるで……星野に恋をしているみたいだ。
楓はすぐに自分の思いを打ち消す。
いや、違う。タイプじゃないのだから。
頭を振って邪念を振り払うと大きく息を吐いた。
そして楓は頭を下げた。
「ごめん」
これは本当の気持ち。素直に謝れた。いいよ、と首を振った星野に、楓はカフェオレの礼とお詫びの気持ちを込めてコーヒーを購入する。
今度は星野の好きなブラックコーヒーで。
苦虫を噛み潰したように甘いミルクたっぷりのコーヒーを飲み干した星野に渡す。
胸焼けでもするのか、軽く胸を擦る星野に再び笑いが込み上げてくる。
「ありがとう。
さて、そろそろ戻るとしますか。昼からも頑張ろうな」
星野は楓の横を通り抜ける際に、ポソっと囁く。
「そんな剥き出しの感情は、二人きりの時に見せて」
コーヒーでダメージ受けていたと思ったけど、楓をからかうくらいの余裕はあったようだ。
(くそう、タラシめ!)
サッと前を行く星野の背中に内心で毒づいた。
再び沸騰しそうになる楓を落ち着かせたのは、手に握っているカフェオレのぬくもりだった。
ふぅ、と息を吐く。
よし、落ち着いた。
前を歩く彼には耳まで真っ赤になった楓の顔は見られていないはず。
楓は、遅れないように星野の後を追いかけた。
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