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仮定③
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「グウェン」
病院を出てしばらく歩いたレオナルドは、小さな声でグウェンを呼んだ。
いつの間にかすぐ後ろに立っていたグウェンにレオナルドは用件を伝える。
「エレナの生い立ちを再度洗い出してくれ。早急に。特にS・F――いや、王族との関係がないか、親兄弟親類縁者、わかる範囲は全て遡って調べろ」
「はっ」
「あと、前ルトニア国王の死因もだ。亡くなる3年程前からの健康状態やどの聖女の治療を受けていたのかも含めて、できだけ詳細を調べ上げろ」
「……はっ。そこはアラン殿の手を借りても?」
「良い。頼むぞ。ついでにアランには後で別件の調べも頼むと伝言しておいてくれ」
「かしこまりました」
腑に落ちない様子のグウェンだが、反論はせずに淡々と返事をし、闇に消えていった。
レオナルドは月を見上げると、ため息をついた。
「悪い予感の方は当たるんだよな」
いい予感は全く当たらないのに、と言外に伝えながらレオナルドは歩を進めながら考える。
簡単にエレナを手放したセドリックを、レオナルドたちは頭から信じていたわけではない。
むしろ、何かしら意図があるのではないかと疑っていた。
その一方で、エレナの良心に賭けていたところもある。
前王を裏切ったという汚名は被っているが――彼女は聖女なのだ。
慈愛の精神は、他の者と同じように――いや、それ以上に持っているとレオナルドは考えていた。
(まだ18歳の娘が自ら志望して単身戦場に乗り込んでくる。生半可な気持ちでは来ていないだろう)
戦場では多くの理不尽を目の当たりにするのだ。
救えない命。自分ですら明日は死んでいるかもしれないという不安はもちろんだが、それ以上に戦場となる町の治安は一気に悪くなる。
泥棒、引ったくりは当たり前。
元々住んでいた人がどんどん町から減っていく一方で、傭兵などどこの馬の骨ともしれない人間が出入りするようになるのだ。
以前なら機能していた、警護の者も役には立たない。その者が敵国に買収されている可能性だってある。
訓練で鍛え上げられ覚悟を持ってきている兵士ですら、適応できないものもいるくらいなのだ。
それに女性なら夜道で男性に襲われる危険性もある。
いくら王命や教会の後ろ盾があったとしても進んで来たい場所ではない。特にエレナは若い女性なのだから。
現にエレナ以前にも以後も、彼女以外の聖女は派遣されていない。
王命以上に、彼女がここマルーンに赴任したかった理由があるはずと、レオナルドたちは見立てていた。
実際エレナの生まれは、今はアタナス領になったボーワであるということは調べがついている。
だが、彼女についての調査はそこまでで一旦休止していた。
何故ならエレナの親兄弟はアタナス帝国がボーワを攻め込んだ際に皆亡くなっているからだ。
いや、エレナの家族だけでない。
ボーワの民は皆死んでいるのだ。
先にルトニア国から宣戦布告されていたアタナス帝国は、報復とばかりにボーワにいた者全てを皆殺しにしたのだから。
たまたま行商に連れられマルーンの町の教会に訪れていたエレナだけが助かった。
レオナルドが今知っているのはそれだけだ。
アタナス帝国に残っている記録では、ボーワの民全員死亡としか書かれていなかったから、エレナの故郷がボーワというのも最近知りえたことだ。
教会に仕えている者の生い立ちは、すべてヒースの大教会に保管されているのだ。
教会に仕えたる者、全くの身辺調査を行われないということは、ありえないからだ。
だが、それはあくまで本人からの申告があった上の調査である。
エレナのように戦争孤児のように身内を亡くした者は、怪しいものでないか調べるのは難しい。
エレナの場合は教会に来た時には既に聖女の力を発現していたから、特に身辺調査が甘かったようだ。
父母の名前と出身地、生年月日くらいしか資料には記載されていなかった。
病院を出てしばらく歩いたレオナルドは、小さな声でグウェンを呼んだ。
いつの間にかすぐ後ろに立っていたグウェンにレオナルドは用件を伝える。
「エレナの生い立ちを再度洗い出してくれ。早急に。特にS・F――いや、王族との関係がないか、親兄弟親類縁者、わかる範囲は全て遡って調べろ」
「はっ」
「あと、前ルトニア国王の死因もだ。亡くなる3年程前からの健康状態やどの聖女の治療を受けていたのかも含めて、できだけ詳細を調べ上げろ」
「……はっ。そこはアラン殿の手を借りても?」
「良い。頼むぞ。ついでにアランには後で別件の調べも頼むと伝言しておいてくれ」
「かしこまりました」
腑に落ちない様子のグウェンだが、反論はせずに淡々と返事をし、闇に消えていった。
レオナルドは月を見上げると、ため息をついた。
「悪い予感の方は当たるんだよな」
いい予感は全く当たらないのに、と言外に伝えながらレオナルドは歩を進めながら考える。
簡単にエレナを手放したセドリックを、レオナルドたちは頭から信じていたわけではない。
むしろ、何かしら意図があるのではないかと疑っていた。
その一方で、エレナの良心に賭けていたところもある。
前王を裏切ったという汚名は被っているが――彼女は聖女なのだ。
慈愛の精神は、他の者と同じように――いや、それ以上に持っているとレオナルドは考えていた。
(まだ18歳の娘が自ら志望して単身戦場に乗り込んでくる。生半可な気持ちでは来ていないだろう)
戦場では多くの理不尽を目の当たりにするのだ。
救えない命。自分ですら明日は死んでいるかもしれないという不安はもちろんだが、それ以上に戦場となる町の治安は一気に悪くなる。
泥棒、引ったくりは当たり前。
元々住んでいた人がどんどん町から減っていく一方で、傭兵などどこの馬の骨ともしれない人間が出入りするようになるのだ。
以前なら機能していた、警護の者も役には立たない。その者が敵国に買収されている可能性だってある。
訓練で鍛え上げられ覚悟を持ってきている兵士ですら、適応できないものもいるくらいなのだ。
それに女性なら夜道で男性に襲われる危険性もある。
いくら王命や教会の後ろ盾があったとしても進んで来たい場所ではない。特にエレナは若い女性なのだから。
現にエレナ以前にも以後も、彼女以外の聖女は派遣されていない。
王命以上に、彼女がここマルーンに赴任したかった理由があるはずと、レオナルドたちは見立てていた。
実際エレナの生まれは、今はアタナス領になったボーワであるということは調べがついている。
だが、彼女についての調査はそこまでで一旦休止していた。
何故ならエレナの親兄弟はアタナス帝国がボーワを攻め込んだ際に皆亡くなっているからだ。
いや、エレナの家族だけでない。
ボーワの民は皆死んでいるのだ。
先にルトニア国から宣戦布告されていたアタナス帝国は、報復とばかりにボーワにいた者全てを皆殺しにしたのだから。
たまたま行商に連れられマルーンの町の教会に訪れていたエレナだけが助かった。
レオナルドが今知っているのはそれだけだ。
アタナス帝国に残っている記録では、ボーワの民全員死亡としか書かれていなかったから、エレナの故郷がボーワというのも最近知りえたことだ。
教会に仕えている者の生い立ちは、すべてヒースの大教会に保管されているのだ。
教会に仕えたる者、全くの身辺調査を行われないということは、ありえないからだ。
だが、それはあくまで本人からの申告があった上の調査である。
エレナのように戦争孤児のように身内を亡くした者は、怪しいものでないか調べるのは難しい。
エレナの場合は教会に来た時には既に聖女の力を発現していたから、特に身辺調査が甘かったようだ。
父母の名前と出身地、生年月日くらいしか資料には記載されていなかった。
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