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対面②
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「わざわざ王子御自らこのようなむさ苦しい場所にお越し頂きありがとうございます」
丁重に出迎えたレオナルドにセドリックは首を振った。
「何か失礼でも?」
「いや」
セドリックはレオナルドを見つめる。レオナルドは心の底まで見透かすようなその視線を真正面から受け止める。
セドリックは試すように口を開いた。
「もう王子ではない」
「……どういう意味でしょうか?」
レオナルドは言葉の意味を問い返す。面白そうな顔をしながらセドリックは次の言葉を口にした。
「今は王だ。つい数日前、この手で国王と兄が身罷り、正当に跡を継いだ。まだ必要な儀式は行っていないが、首都ヒースでは周知の事実だ。今頃マルーンにも知らせがいっているだろう」
レオナルドは瞬時に考える。セドリックの言葉の意味を。答えにたどり着くまではさして時間はかからなかった。
顔色を変えることなく、レオナルドは鋭い言葉を放つ。
「身罷る?屠ったの間違いでは?」
セドリックはニヤリと笑った。若い王は挑発するような口調で話す。
「それが貴殿の本当の顔のようだな」
「裏も表もありませんよ。全て私自身です」
その手には乗らない。レオナルドは笑みを浮かべたまま穏やかに答える。
上流階級の駆け引き。まだるっこしいし、しなくていいならそれに越したことはない。
だが、レオナルドは王位継承権を持った王子だ。
国に帰れば、レオナルドに取り入ろうと寄ってくる貴族や商人との腹の探り合いは日常茶飯事だ。
これくらいの返しは出来て当たり前。
セドリックが昨晩エレナとの密会の際に見張っていた――もしくはその前から監視されていたのかもしれないが――者からどんな報告を受けたのかは知らない。
想像するに、恐らく顔に出やすく単純で御しやすいタイプだとでも言っていたのだろう。
もちろんそんな一面も持ってはいる。
傭兵として潜入している時や兵を率いる立場としては、笑顔を貼り付けて耳心地のいい言葉を並べるより、率直に本音で話したほうが都合が良かっただけだ。
今は王族同士の会話だ。にこやかに話しながらこちらの有利なように進めていかねばならない。
一つ間違えれば揚げ足を取られる。
(久々だな、こんなやり取り)
レオナルドは内心でほくそ笑む。
腹の黒さを嘘っぽい笑みでコーティングして、上辺だけは友好的な態度を取る。
戦場では得られないヒリヒリする感じ。
歪んでいるが、気持ちが高揚していく。
やっぱり自分はこっち側の人間だと自覚する。
王座に着く気はサラサラないのに周りが担ごうとしてくるのに嫌気が差して王宮から離れたところで生きてきたのに。
いつ命を落としてもいいし、それもまた面白かろうと思っていたのに。
これからセドリックとの間で行われるであろう駆け引きを楽しもうとしている自分もいるのだ。
双方が天秤に乗せるのは、お互いの国というのもいい。
出方一つで国の命運が決まる。そんなギリギリ具合にゾクゾクしていた。
「さてそろそろ本題にいこうか。交渉相手は誰か 」
「私が。父からこの戦いについては一任されておりますので」
「貴殿か。是非とも楽しませてくれよ」
セドリックから軽いジャブが入る。彼の態度は戦況が不利な国の王の者ではない。
自分の交渉術に自信を持っているのか、それともまだレオナルドに見せていないカードがあるのか。
どちらにせよ、今は相手の懐に飛び込むまでだ。
「楽しむなんて。若輩者ですからお手柔らかに」
ニコリと微笑むレオナルド。表面上は穏やかな笑みだったが、左右で異なる瞳はセドリックを牽制するように妖しく輝いたのだった。
丁重に出迎えたレオナルドにセドリックは首を振った。
「何か失礼でも?」
「いや」
セドリックはレオナルドを見つめる。レオナルドは心の底まで見透かすようなその視線を真正面から受け止める。
セドリックは試すように口を開いた。
「もう王子ではない」
「……どういう意味でしょうか?」
レオナルドは言葉の意味を問い返す。面白そうな顔をしながらセドリックは次の言葉を口にした。
「今は王だ。つい数日前、この手で国王と兄が身罷り、正当に跡を継いだ。まだ必要な儀式は行っていないが、首都ヒースでは周知の事実だ。今頃マルーンにも知らせがいっているだろう」
レオナルドは瞬時に考える。セドリックの言葉の意味を。答えにたどり着くまではさして時間はかからなかった。
顔色を変えることなく、レオナルドは鋭い言葉を放つ。
「身罷る?屠ったの間違いでは?」
セドリックはニヤリと笑った。若い王は挑発するような口調で話す。
「それが貴殿の本当の顔のようだな」
「裏も表もありませんよ。全て私自身です」
その手には乗らない。レオナルドは笑みを浮かべたまま穏やかに答える。
上流階級の駆け引き。まだるっこしいし、しなくていいならそれに越したことはない。
だが、レオナルドは王位継承権を持った王子だ。
国に帰れば、レオナルドに取り入ろうと寄ってくる貴族や商人との腹の探り合いは日常茶飯事だ。
これくらいの返しは出来て当たり前。
セドリックが昨晩エレナとの密会の際に見張っていた――もしくはその前から監視されていたのかもしれないが――者からどんな報告を受けたのかは知らない。
想像するに、恐らく顔に出やすく単純で御しやすいタイプだとでも言っていたのだろう。
もちろんそんな一面も持ってはいる。
傭兵として潜入している時や兵を率いる立場としては、笑顔を貼り付けて耳心地のいい言葉を並べるより、率直に本音で話したほうが都合が良かっただけだ。
今は王族同士の会話だ。にこやかに話しながらこちらの有利なように進めていかねばならない。
一つ間違えれば揚げ足を取られる。
(久々だな、こんなやり取り)
レオナルドは内心でほくそ笑む。
腹の黒さを嘘っぽい笑みでコーティングして、上辺だけは友好的な態度を取る。
戦場では得られないヒリヒリする感じ。
歪んでいるが、気持ちが高揚していく。
やっぱり自分はこっち側の人間だと自覚する。
王座に着く気はサラサラないのに周りが担ごうとしてくるのに嫌気が差して王宮から離れたところで生きてきたのに。
いつ命を落としてもいいし、それもまた面白かろうと思っていたのに。
これからセドリックとの間で行われるであろう駆け引きを楽しもうとしている自分もいるのだ。
双方が天秤に乗せるのは、お互いの国というのもいい。
出方一つで国の命運が決まる。そんなギリギリ具合にゾクゾクしていた。
「さてそろそろ本題にいこうか。交渉相手は誰か 」
「私が。父からこの戦いについては一任されておりますので」
「貴殿か。是非とも楽しませてくれよ」
セドリックから軽いジャブが入る。彼の態度は戦況が不利な国の王の者ではない。
自分の交渉術に自信を持っているのか、それともまだレオナルドに見せていないカードがあるのか。
どちらにせよ、今は相手の懐に飛び込むまでだ。
「楽しむなんて。若輩者ですからお手柔らかに」
ニコリと微笑むレオナルド。表面上は穏やかな笑みだったが、左右で異なる瞳はセドリックを牽制するように妖しく輝いたのだった。
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