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レオの体質①
しおりを挟む「明日……」
一旦言葉を切ったエレナは、口を固く閉じた。
(普通なら間に合わないけれど、【彼】ですからね)
レオナルドに攻め入ると言われたエレナの頭によぎったのは、その一点だった。
首都のヒースまでは馬で4日。【彼】に手紙を出したのは一週間前だ。
受け取ってすぐ出発をしていてもあと一日足りない。
――普通なら。――
レオナルドに指摘された通り、投入できる戦力はもう殆ど残っていない。
傭兵として潜入していた彼だ。いくら強固な城壁を構えているマルーンの攻略方法など、とっくに思いついているはずだ。
【彼】が援軍を連れて来なければ、マルーンの人間は明日皆命を落とすだろう。
それが分かっているからレオナルドはエレナを連れて帰ろうとしていたのだ。
彼の目は本気だった。
エレナの力を欲しいといい、その一方で明日攻め込むと言ったレオナルドの言葉に嘘の要素は混じっていなかった。
死に対して恐怖がないわけではない。
エレナとて、無駄に命を落とすのは本意ではない。だがここにいる以上、死はいつでも隣にいたし、何よりエレナは確信をしていたのだ。
【彼】は間に合う、と。
あくまで勘でしかない。けれど【彼】はきっと来るはず。
そうでなければ、わざわざ大教会を裏切ってまで【彼】に付いた意味がない。
正攻法でないやり方は【彼】の十八番だ。
真っ直ぐぶつかってくるレオナルドとは真逆。だけど、まともな方法ではルトニアには未来がない。
だから【彼】に賭けたのだ。
レオナルドのような人間は嫌いではないし、ルトニア国に愛着があるわけではないけれど。
(私の居場所は、ルトニアにしかありませんから)
他国では聖女は確認されていない。
何故かは明確にわかっていないが、神話の頃の話では月の神・ルナウスが気まぐれに一握りのルトニア人女性にだけ授けたと言い伝えられている。
だから、ルトニアの地を離れるとルナウスの加護が無くなり力を使えなくなるのだ。
このことは、ルトニアでも一部の人間しか知らない。
そう、レオナルドは知らなかったから。
アタナス帝国でも聖女の力が使えると思ってエレナを勧誘したのだ。
君の力が必要。
そう言われたので我に返ったが、一瞬勘違いしてしまうくらいの熱っぽい視線だった。
ルナウスの化身を彷彿とさせる美しい姿であんな視線を向けられると――好意があるかないかは別として――クラっとときめいてしまう。
だからレオナルドが欲しいのは自身ではなく、聖女と告げてくれてホっとしたのだ。
結局、エレナには【彼】を裏切ることもルトニアを捨てることも出来ないのだから。
「レオが完治していて良かった」
今の言葉は、自身が治療した患者に向けた気持ち。
あれ程の怪我を負ったのに、それを感じさせない動き。
敵だとしても治療した者が無事な姿を見せてくれるのは喜ばしいことだ。
それ以上の感情は、ない。
ないはずだ。
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