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再会は月明かりの下で②
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「聖女の力は魔法の力ではありません」
エレナはレオナルドに諭すように話す。
この話は何度も大教会で子どもたち相手に話してきているから、頭で考えなくても言葉が口から出てくる。
「怪我や病に聖女の力は有効です。ですが、万能ではありません」
「というと?」
うん、レオナルドはいい生徒のようだ。エレナがほしい反応を的確によこす。
「力は貴方たちの体を作っているもの――私たちは「細胞」と呼んでいるのですがそちらに作用します。ですので細胞の限界を超えての治療をすることができません」
「ふむ……」
レオナルドは顎に手を当てて考え込む。
「なので……」
「治療回数が多いと治せない……?」
必死に考えたのだろうが、レオナルドの答えは自信が無さげだった。
エレナは微笑んで首を振った。
「そうですね。それも一つです。ですが、一番の弊害は」
わざと言葉を切って彼の様子を伺う。
特徴的な瞳がエレナを見つめてくる。エレナはその視線を受け止めながら続きを口にした。
「そこだけ老化し、最終的には壊死をするのです。一度や二度の治療でしたら気にすることはありませんが」
「壊死……」
エレナは見逃さなかった。驚いたフリをしながらも一瞬緩んだ口元を。
今が絶好の機会とばかりに、エレナは言葉をぶつける。
「ですから聖女の力を酷似しないほうがいいのです。なので、命を繋ぎ止める最低限の力で治療をいたしました。大事な御身でしょうし、年中戦に出て不死身の御方と聞き及んでおりましたから。……アタナス帝国のレオナルド第二王子」
レオナルドはエレナが思った通りの反応を返す。
素で驚いたように、左右で色が違う瞳が大きく開かれる。
そのまま絶句しているレオナルドをエレナは黙って見つめ返す。
せっかくの機会だ。エレナは彼が我に返るまで他国にまで美しいと評判のレオナルドの顔をマジマジと観察することにした。
どこの国でもそうだが、王族や貴族というのはきれいな顔立ちをしているものだ。
レオナルドも例に漏れず、整った造形をしている。
顔立ちだけでいえばルトニアの国王や貴族たちと大差ないのだが、月の光のような銀髪に神秘的な左右で色が違う瞳が、彼に不思議な魅力を与えているようだ。
色気、といってもいい。
元々の色も神秘的だが、光を浴びると更に不思議な色合いを見せる。
光を反射し、色を変える髪と瞳。それだけでも人々を引きつける要素があるのに、上流階級らしからぬコロコロと変わる表情がプラスされるのだ。
病人として治療していた時は観察する余裕はなかった分、その美貌を充分に堪能する。
彼は、本当に美しかった。
タイミングよく雲間が切れ、再び月明かりに照らされたレオナルドは、銀色の髪も相まって月の神の化身かと思うくらいに美しかった。
エレナは思わず息を飲んで、見惚れる。
自分が今仕掛けている策略も、彼がすっかり敵国の王子と忘れて。
エレナにとっては長い時間に感じたが、見つめ合っていたのは僅かな時間だった。
呆気にとられていたレオナルドはすぐに平常心を取り戻し、ふうっと息を吐くと口を開いた。
「参ったな」
レオナルドの発した一言で、エレナもはっと我に返る。
「気づかれない自信あったんだけどな」
そう笑う彼は、いたずらがバレた子どものようだった。
エレナはレオナルドに諭すように話す。
この話は何度も大教会で子どもたち相手に話してきているから、頭で考えなくても言葉が口から出てくる。
「怪我や病に聖女の力は有効です。ですが、万能ではありません」
「というと?」
うん、レオナルドはいい生徒のようだ。エレナがほしい反応を的確によこす。
「力は貴方たちの体を作っているもの――私たちは「細胞」と呼んでいるのですがそちらに作用します。ですので細胞の限界を超えての治療をすることができません」
「ふむ……」
レオナルドは顎に手を当てて考え込む。
「なので……」
「治療回数が多いと治せない……?」
必死に考えたのだろうが、レオナルドの答えは自信が無さげだった。
エレナは微笑んで首を振った。
「そうですね。それも一つです。ですが、一番の弊害は」
わざと言葉を切って彼の様子を伺う。
特徴的な瞳がエレナを見つめてくる。エレナはその視線を受け止めながら続きを口にした。
「そこだけ老化し、最終的には壊死をするのです。一度や二度の治療でしたら気にすることはありませんが」
「壊死……」
エレナは見逃さなかった。驚いたフリをしながらも一瞬緩んだ口元を。
今が絶好の機会とばかりに、エレナは言葉をぶつける。
「ですから聖女の力を酷似しないほうがいいのです。なので、命を繋ぎ止める最低限の力で治療をいたしました。大事な御身でしょうし、年中戦に出て不死身の御方と聞き及んでおりましたから。……アタナス帝国のレオナルド第二王子」
レオナルドはエレナが思った通りの反応を返す。
素で驚いたように、左右で色が違う瞳が大きく開かれる。
そのまま絶句しているレオナルドをエレナは黙って見つめ返す。
せっかくの機会だ。エレナは彼が我に返るまで他国にまで美しいと評判のレオナルドの顔をマジマジと観察することにした。
どこの国でもそうだが、王族や貴族というのはきれいな顔立ちをしているものだ。
レオナルドも例に漏れず、整った造形をしている。
顔立ちだけでいえばルトニアの国王や貴族たちと大差ないのだが、月の光のような銀髪に神秘的な左右で色が違う瞳が、彼に不思議な魅力を与えているようだ。
色気、といってもいい。
元々の色も神秘的だが、光を浴びると更に不思議な色合いを見せる。
光を反射し、色を変える髪と瞳。それだけでも人々を引きつける要素があるのに、上流階級らしからぬコロコロと変わる表情がプラスされるのだ。
病人として治療していた時は観察する余裕はなかった分、その美貌を充分に堪能する。
彼は、本当に美しかった。
タイミングよく雲間が切れ、再び月明かりに照らされたレオナルドは、銀色の髪も相まって月の神の化身かと思うくらいに美しかった。
エレナは思わず息を飲んで、見惚れる。
自分が今仕掛けている策略も、彼がすっかり敵国の王子と忘れて。
エレナにとっては長い時間に感じたが、見つめ合っていたのは僅かな時間だった。
呆気にとられていたレオナルドはすぐに平常心を取り戻し、ふうっと息を吐くと口を開いた。
「参ったな」
レオナルドの発した一言で、エレナもはっと我に返る。
「気づかれない自信あったんだけどな」
そう笑う彼は、いたずらがバレた子どものようだった。
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