28 / 47
9.旧友2
4
しおりを挟む
※
「もう良くなったな」
幽体離脱から起きた浅葱は思ったより自分の体が軽いことに気づいた。
「初めて使う呪だがよく効いたようだ。違和感はないか?」
「ええ、お陰様で。……どのような呪を使ったのですか?」
千草は自分の呪の効果に納得したように頷きながら答えた。
「体を一時的に冬眠状態にした。その上で回復の呪を使ったのだ。そうすることで体は最低限の生命の維持の他は回復に専念できるそうだ。
……葛の葉に教えてもろうた呪だ」
「そうなんですね。あとでお礼言わないと」
千草は少し驚いたように眉を上げる。
「葛の葉は自らした行いに責任を取ったのだ。特に礼などいらぬだろう」
妖狐の千草とのギャップを感じるのはこういう時だ。
千草は自分の行いに責任を持つ代わりに分相応なことは引き受けない。
『自分の範囲を超えた望みはそれ相応の対価が伴う。自分の責任の取れる範囲で判断をするのだ』
昔から散々言われていたが、浅葱が力を強くしてからは特に口を酸っぱくして言われている言葉。
確かに千草の言葉に合わせると、葛の葉は自分の行いの責任を取っただけだ。
だが。
「きっかけは何であれ、助けてもらったんです。ちゃんと感謝の気持ちはお伝えしたい」
浅葱の偽らざる本音だった。
しばし浅葱を見つめていた千草は、ため息をつきつつ苦笑する。
「人間と狐の違いか。そういうところが吾が人間を好ましく思うところかもしれぬな」
おもむろに立ち上がった千草は浅葱に声をかける。
「動けるか?礼なら早いほうがよかろう」
千草は外にいた狐に葛の葉の取次を頼み、浅葱に身支度を整えるように命じた。
※
葛の葉に礼を言ったその足で二人は人間界に帰ることにした。
「世話になった」
葛の葉は寂しそうに呟く。
「次、たまきと会う時が最後かもしれないわね」
なあに、と千草は笑って答えた。
「生きておればいつでも会えるだろうに。人間界と妖狐界の垣根は低いのは葛の葉が一番よく知っておろう。今の掟を変えるかどうかだけだ」
それだけ言うと千草は管狐を出した。
「怪の道を通る。浅葱、声を出すなよ。喰われるぞ」
怪の道を開いた千草はスタスタと先に進んでいく。後ろを振り向かないのは、らしくない言葉を放ったからか。いつもより速い歩みに浅葱は慌ててる。
「えっと、葛の葉様、皆さんお世話になりました。ありがとうございます!」
ペコリと頭を下げた後、走って千草の後を追いかける。
あっという間に二人の姿は怪の道に飲み込まれていった。
※
家についた千草は店の前で懐かしそうに目を細める。
「やれやれ、やっと帰ってきたの」
カウンターの定位置に座ると千草はおもむろに浅葱に宣言する
「浅葱、この店を閉めるぞ」
「え?」
「狐の集会の後はこの店を維持出来る妖力は無くなるからの。残念だが、いつもの萬屋を明日にでも呼んでくれるか?」
店を閉めるのはこれが初めてではない。年を取らない二人だ。定期的に場所を変えないと怪しまれる。
だが、まだこの店を開いて3年だ。閉めるのには早すぎる。
そして、千草の気になる言葉。
それでも浅葱は。
「わかりました。明日、連絡しますね」
そう笑うのだ。
聞きたいことは沢山ある。だが、それは千草が決めることだ。
浅葱にできるのは待つことだけ。
千草は立ち上がると、聞こえるか聞こえないかの大きさで囁いた。
「きちんと話すから待っておれ」
去っていく千草の背中に浅葱は返事をする。
「はい、もちろんです」
――Fox Tail――
そこは妖狐と人間が大切にしていた喫茶店。
店を閉めたあと、残るのは……。
狐と人間。
二人の運命が変わろうとしている。
「もう良くなったな」
幽体離脱から起きた浅葱は思ったより自分の体が軽いことに気づいた。
「初めて使う呪だがよく効いたようだ。違和感はないか?」
「ええ、お陰様で。……どのような呪を使ったのですか?」
千草は自分の呪の効果に納得したように頷きながら答えた。
「体を一時的に冬眠状態にした。その上で回復の呪を使ったのだ。そうすることで体は最低限の生命の維持の他は回復に専念できるそうだ。
……葛の葉に教えてもろうた呪だ」
「そうなんですね。あとでお礼言わないと」
千草は少し驚いたように眉を上げる。
「葛の葉は自らした行いに責任を取ったのだ。特に礼などいらぬだろう」
妖狐の千草とのギャップを感じるのはこういう時だ。
千草は自分の行いに責任を持つ代わりに分相応なことは引き受けない。
『自分の範囲を超えた望みはそれ相応の対価が伴う。自分の責任の取れる範囲で判断をするのだ』
昔から散々言われていたが、浅葱が力を強くしてからは特に口を酸っぱくして言われている言葉。
確かに千草の言葉に合わせると、葛の葉は自分の行いの責任を取っただけだ。
だが。
「きっかけは何であれ、助けてもらったんです。ちゃんと感謝の気持ちはお伝えしたい」
浅葱の偽らざる本音だった。
しばし浅葱を見つめていた千草は、ため息をつきつつ苦笑する。
「人間と狐の違いか。そういうところが吾が人間を好ましく思うところかもしれぬな」
おもむろに立ち上がった千草は浅葱に声をかける。
「動けるか?礼なら早いほうがよかろう」
千草は外にいた狐に葛の葉の取次を頼み、浅葱に身支度を整えるように命じた。
※
葛の葉に礼を言ったその足で二人は人間界に帰ることにした。
「世話になった」
葛の葉は寂しそうに呟く。
「次、たまきと会う時が最後かもしれないわね」
なあに、と千草は笑って答えた。
「生きておればいつでも会えるだろうに。人間界と妖狐界の垣根は低いのは葛の葉が一番よく知っておろう。今の掟を変えるかどうかだけだ」
それだけ言うと千草は管狐を出した。
「怪の道を通る。浅葱、声を出すなよ。喰われるぞ」
怪の道を開いた千草はスタスタと先に進んでいく。後ろを振り向かないのは、らしくない言葉を放ったからか。いつもより速い歩みに浅葱は慌ててる。
「えっと、葛の葉様、皆さんお世話になりました。ありがとうございます!」
ペコリと頭を下げた後、走って千草の後を追いかける。
あっという間に二人の姿は怪の道に飲み込まれていった。
※
家についた千草は店の前で懐かしそうに目を細める。
「やれやれ、やっと帰ってきたの」
カウンターの定位置に座ると千草はおもむろに浅葱に宣言する
「浅葱、この店を閉めるぞ」
「え?」
「狐の集会の後はこの店を維持出来る妖力は無くなるからの。残念だが、いつもの萬屋を明日にでも呼んでくれるか?」
店を閉めるのはこれが初めてではない。年を取らない二人だ。定期的に場所を変えないと怪しまれる。
だが、まだこの店を開いて3年だ。閉めるのには早すぎる。
そして、千草の気になる言葉。
それでも浅葱は。
「わかりました。明日、連絡しますね」
そう笑うのだ。
聞きたいことは沢山ある。だが、それは千草が決めることだ。
浅葱にできるのは待つことだけ。
千草は立ち上がると、聞こえるか聞こえないかの大きさで囁いた。
「きちんと話すから待っておれ」
去っていく千草の背中に浅葱は返事をする。
「はい、もちろんです」
――Fox Tail――
そこは妖狐と人間が大切にしていた喫茶店。
店を閉めたあと、残るのは……。
狐と人間。
二人の運命が変わろうとしている。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
こんこん公主の後宮調査 ~彼女が幸せになる方法
朱音ゆうひ
キャラ文芸
紺紺(コンコン)は、亡国の公主で、半・妖狐。
不憫な身の上を保護してくれた文通相手「白家の公子・霞幽(カユウ)」のおかげで難関試験に合格し、宮廷術師になった。それも、護国の英雄と認められた皇帝直属の「九術師」で、序列は一位。
そんな彼女に任務が下る。
「後宮の妃の中に、人間になりすまして悪事を企む妖狐がいる。序列三位の『先見の公子』と一緒に後宮を調査せよ」
失敗したらみんな死んじゃう!?
紺紺は正体を隠し、後宮に潜入することにした!
ワケアリでミステリアスな無感情公子と、不憫だけど前向きに頑張る侍女娘(実は強い)のお話です。
※別サイトにも投稿しています(https://kakuyomu.jp/works/16818093073133522278)
ニンジャマスター・ダイヤ
竹井ゴールド
キャラ文芸
沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。
大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。
沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる