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お見合い1
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気が乗らないお見合いの席だった。
藤間正臣は伯母に悟られないようにそっとため息をつく。
「正臣は母親を早くに亡くしたものですから。男手一つで育てたので行き届かないところもあったのですが、何とか大学院まで行かせることができました」
「まぁ、それはそれは」
相手の母親は相槌を打ちながら上品に微笑む。隣に座っているお見合い相手も、失礼にならない程度にはにかむ。
「藤間さんのお仕事ぶりはよく一条からも聞いております。若手の中でも優秀だとか」
「いえ、まだまだ勉強することばかりです」
当たり障りのない答えだ。それでも、相手は納得したように頷いた。
「どうしても娘が藤間さんとお会いしたいと申すものですから。ご無理を言ってごめんなさいね」
どう断ろうか考えていた正臣に釘を刺す一言。娘は恥ずかしそうに目を伏せる。
だが、母親は笑みを崩さないが目は笑っていない。
(暗に断れ、ということか。心配しなくてもハナからそのつもりだ)
まだ32歳だ。身を固めるつもりはなかった。
適当に会話をし、お決まりの「あとは若い二人で」という言葉を残し、母親と伯母は退出する。
気が重い、とため息をつきかけた時、お見合い相手の知世が口を開いた。
「私のことを覚えていますか?」
「一度一条社長と一緒に弊社にいらっしゃいましたね。その節はありがとうございます」
知世は残念そうにゆるく首を振る。
「その前にも一度お会いしております」
知世の言葉に正臣は暫し考える。だが、心当たりはなかった。
「申し訳ない、記憶にありません」
知世は、正臣の顔をまっすぐ見て伝えた。
「私があなたと初めてお会いしたのは、海原あけみさんの別荘でありましたパーティーの時です」
正臣は初めて知世と目を合わす。元彼女の名前が出たことに、僅かに驚いたように片眉を上げる正臣に知世は微笑む。
「彼女と知り合いでしたか。意外な名前が出て少し驚きました」
「あけみさんとは大学からのお友達です。そして、私の性癖を知っている二人のうちの一人です」
着物をきっちり着込んだ目の前のお嬢様からは似合わないセリフが飛び出す。
「……性癖?」
「ええ。藤間さん、パーティーの後、別荘に泊まりましたよね。その夜に庭の片隅で何かをしている男女を見ませんでしたか?」
正臣は遠い記憶を呼び覚ます。
※
あけみに誘われて、仲間内で行われたパーティーに参加した夜、正臣はそのまま別荘に泊まった。
そのままあけみを抱こうとしたが、ホストとして疲れていた彼女に無下なく断られ、イライラしながら庭にタバコを吸いに出た。
「……んっ……あっ」
イライラしている耳に微かに聞こえる声。どんな時の声かは一瞬で分かった。
自分がお預けを食らっている分、その声は魅惑的だった。
誘われるように声のする方に向かい、覗いて見ると、一人の女性が壁に背中を預けていた。
女性の股の間を覗き込むような姿勢で男性が座りこんでいる。
女性は男性の頭を支えに何とか立っているようだ。
ぴちゃっ
「あっ……。と……ま」
近くに寄ったことで水音のようなものが微かに聞こえる。そして、抑えているが我慢できずに漏れる喘ぎ声も。
(お盛んなことで)
嘆息してその場を立ち去ろうとした時、ふと女性が正臣の方に目線を向ける。
目が会った。
パーティーで見た顔だが、目立たなかったため名前は覚えていなかった。
まだ子どものような幼い顔なくせに、表情はメスの悦びで蕩けている。
彼女は正臣を見つめながらゆっくり微笑んだ。
汚れを知らないお嬢様のような顔立ちなのに、快楽を味わうことを楽しんでいる笑顔だった。
エロいという一言では表せないくらいイヤらしい表情に、正臣の下半身は強く反応する。
踵を返すと部屋に戻り、嫌がるあけみをめちゃくちゃに抱いた。
射精の瞬間に頭の中をよぎったのは、先程見た女の微笑みだった……。
藤間正臣は伯母に悟られないようにそっとため息をつく。
「正臣は母親を早くに亡くしたものですから。男手一つで育てたので行き届かないところもあったのですが、何とか大学院まで行かせることができました」
「まぁ、それはそれは」
相手の母親は相槌を打ちながら上品に微笑む。隣に座っているお見合い相手も、失礼にならない程度にはにかむ。
「藤間さんのお仕事ぶりはよく一条からも聞いております。若手の中でも優秀だとか」
「いえ、まだまだ勉強することばかりです」
当たり障りのない答えだ。それでも、相手は納得したように頷いた。
「どうしても娘が藤間さんとお会いしたいと申すものですから。ご無理を言ってごめんなさいね」
どう断ろうか考えていた正臣に釘を刺す一言。娘は恥ずかしそうに目を伏せる。
だが、母親は笑みを崩さないが目は笑っていない。
(暗に断れ、ということか。心配しなくてもハナからそのつもりだ)
まだ32歳だ。身を固めるつもりはなかった。
適当に会話をし、お決まりの「あとは若い二人で」という言葉を残し、母親と伯母は退出する。
気が重い、とため息をつきかけた時、お見合い相手の知世が口を開いた。
「私のことを覚えていますか?」
「一度一条社長と一緒に弊社にいらっしゃいましたね。その節はありがとうございます」
知世は残念そうにゆるく首を振る。
「その前にも一度お会いしております」
知世の言葉に正臣は暫し考える。だが、心当たりはなかった。
「申し訳ない、記憶にありません」
知世は、正臣の顔をまっすぐ見て伝えた。
「私があなたと初めてお会いしたのは、海原あけみさんの別荘でありましたパーティーの時です」
正臣は初めて知世と目を合わす。元彼女の名前が出たことに、僅かに驚いたように片眉を上げる正臣に知世は微笑む。
「彼女と知り合いでしたか。意外な名前が出て少し驚きました」
「あけみさんとは大学からのお友達です。そして、私の性癖を知っている二人のうちの一人です」
着物をきっちり着込んだ目の前のお嬢様からは似合わないセリフが飛び出す。
「……性癖?」
「ええ。藤間さん、パーティーの後、別荘に泊まりましたよね。その夜に庭の片隅で何かをしている男女を見ませんでしたか?」
正臣は遠い記憶を呼び覚ます。
※
あけみに誘われて、仲間内で行われたパーティーに参加した夜、正臣はそのまま別荘に泊まった。
そのままあけみを抱こうとしたが、ホストとして疲れていた彼女に無下なく断られ、イライラしながら庭にタバコを吸いに出た。
「……んっ……あっ」
イライラしている耳に微かに聞こえる声。どんな時の声かは一瞬で分かった。
自分がお預けを食らっている分、その声は魅惑的だった。
誘われるように声のする方に向かい、覗いて見ると、一人の女性が壁に背中を預けていた。
女性の股の間を覗き込むような姿勢で男性が座りこんでいる。
女性は男性の頭を支えに何とか立っているようだ。
ぴちゃっ
「あっ……。と……ま」
近くに寄ったことで水音のようなものが微かに聞こえる。そして、抑えているが我慢できずに漏れる喘ぎ声も。
(お盛んなことで)
嘆息してその場を立ち去ろうとした時、ふと女性が正臣の方に目線を向ける。
目が会った。
パーティーで見た顔だが、目立たなかったため名前は覚えていなかった。
まだ子どものような幼い顔なくせに、表情はメスの悦びで蕩けている。
彼女は正臣を見つめながらゆっくり微笑んだ。
汚れを知らないお嬢様のような顔立ちなのに、快楽を味わうことを楽しんでいる笑顔だった。
エロいという一言では表せないくらいイヤらしい表情に、正臣の下半身は強く反応する。
踵を返すと部屋に戻り、嫌がるあけみをめちゃくちゃに抱いた。
射精の瞬間に頭の中をよぎったのは、先程見た女の微笑みだった……。
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