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未来への決断3
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千尋はしばらく携帯を見つめていた。
色々な気持ちが浮かび上がって来て、勝手に涙が出てくる。
だが、これは柳田のことを好きで流している涙ではない。
過去の自分との決別の涙だった。
武史は黙って千尋の手を握っていた。言いたいことは沢山あるのだろう。それでも静かに千尋が泣き止むまで待っていた。
涙が止まるまでそう長い時間はかからなかった。机の上のティッシュで涙を拭うと、千尋は武史と向かい合う。
握られていた手はそっと離した。
「タケちゃん」
「ん?」
武史はいつものように千尋に笑いかける。
「ありがとう。一緒にいてくれて」
「ええよ、大したことやない。……ちゃんと柳田さんと向き合えたんか?」
「うん」
千尋はそこで目を伏せた。まだ武史に言わないといけないことがあるが、緊張で言葉が出ない。
「タケちゃん、誕生日おめでとう」
やっと出てきたのは本当に伝えたいことではなかった。
「覚えてくれてたんか。ありがとう」
うん、と頷いた千尋はちょっと待っててといい、自分の部屋に戻る。
戻ってきた千尋は手にチケットが入っている封筒を持っていた。
「これプレゼント」
武史に差し出した。そこには武史がタバコを止めたら行きたいと言っていたテーマパークのチケットが入ってた。
「タケちゃんの休みがどうなるか分からなかったから飛行機とホテルの手配はまだだけど」
「ありがとう。2枚入っとるってことは一緒に行ってくれるんやろ?」
「うん」
「東京も案内してな。俺行ったことないけん」
「いいよ」
千尋は首を振った。
こんな会話をしたい訳ではない。
それでも中々切り出せなかった。
「二つ、選びたいの」
やっと出た声は震えていた。
武史は黙って聞いていた。
「タケちゃん、言ってくれたでしょ。二つ選べないのかって。
だから、タケちゃんがいいなら二つ選びたい」
「ええよ、両方選び。俺が出来ることなら力になるけん」
内容を聞く前に武史は返事をする。
千尋は目を見開いて武史を見返す。
「私まだ何も言っていないよ?聞く前なのに安請け合いしていいの?」
武史は笑った。何もかも包み込むような笑顔だった。
「千尋の頼みならできる限り力になりたいんや。やけん、どんな内容でも拒否せんし、安心して欲しいもの二つ掴んだらええ」
武史は変わらない。
最初に来た時から千尋の頼みをいつだってできるだけ叶えてくれた。
実直に、ブレることなく、自分の心に素直に生きている武史。
千尋にはその真っ直ぐさが羨ましかった。
「東京に戻ろうと思っていたの」
「そんな気はしとったわ」
気づいていたのか、と驚くと同時に敏い武史なら気づいていてもおかしくないとも思った。
「でも、ここにもいたいの。だから、タケちゃんが許してくれるなら、ここに住んで必要な時だけ上京したい」
「もちろんええよ。っていうか嬉しいわ。また千尋と一緒に暮らせるんが」
言葉通り全身で喜びを表す武史に硬かった千尋の表情も緩む。
「良かった。ここしばらく東京行ったり来たりしていて、出来なくはないなって思ったの。長期になる時はマンスリーマンション借りたらいいし。それに……」
「それに?」
千尋は武史から微妙に視線を逸らして早口で伝える。
「タケちゃんに、『おかえり』って言われるの嬉しいから」
照れ隠しの時の千尋の癖だ。本音を言い慣れていない千尋が、自分の胸の内を語る時に出る癖。
そして、この癖が出る時は、一番千尋の心の奥底から出た願いだと言うことも今日までの付き合いで知っていた。
思わず千尋を自分の胸の中に引き寄せ抱きしめたくなるが、衝動を抑えて代わりに言葉で伝える。
「いくらでも言うわ、そんなん。千尋の居場所になる、って前にも言うたやろ?好きなだけおったらええ」
「うん」
千尋はまだ目を合わせてくれないが、顔は真っ赤に染っている。
そんな千尋の様子を見ると、ポロリと本音が漏れた。
「期待しても……ええんか?俺は千尋のこと好きやけん、一緒に暮らしたい言われたら期待してしまう」
武史の声は緊張からか掠れていた。ハッとして武史の顔を見た千尋は、彼の表情に一瞬言葉を失った。
本当は千尋の答えを待っていたいのに、聞くのを我慢出来なかった自分を責めるような表情だった。
「タケちゃ……」
武史は千尋の声を遮るように続きを話し出す。
「フラれると思っとったんや。秋に柳田さんに会った時に千尋の心が動いたと思ってな。東京に戻りたいけん、あれだけの仕事しよったんやと思っとったんや」
切羽詰まったように話す武史に千尋は口を挟めなかった。
焦っているとは分かっていた。千尋の瞳が揺れていることも見えていた。
それでも、武史は千尋に自分の想いを伝えた。
大切そうに、愛しく、宝物のように一言一言に想いを込めて。
「千尋、愛してる。やけん、この先も俺と一緒に生きて欲しい」
色々な気持ちが浮かび上がって来て、勝手に涙が出てくる。
だが、これは柳田のことを好きで流している涙ではない。
過去の自分との決別の涙だった。
武史は黙って千尋の手を握っていた。言いたいことは沢山あるのだろう。それでも静かに千尋が泣き止むまで待っていた。
涙が止まるまでそう長い時間はかからなかった。机の上のティッシュで涙を拭うと、千尋は武史と向かい合う。
握られていた手はそっと離した。
「タケちゃん」
「ん?」
武史はいつものように千尋に笑いかける。
「ありがとう。一緒にいてくれて」
「ええよ、大したことやない。……ちゃんと柳田さんと向き合えたんか?」
「うん」
千尋はそこで目を伏せた。まだ武史に言わないといけないことがあるが、緊張で言葉が出ない。
「タケちゃん、誕生日おめでとう」
やっと出てきたのは本当に伝えたいことではなかった。
「覚えてくれてたんか。ありがとう」
うん、と頷いた千尋はちょっと待っててといい、自分の部屋に戻る。
戻ってきた千尋は手にチケットが入っている封筒を持っていた。
「これプレゼント」
武史に差し出した。そこには武史がタバコを止めたら行きたいと言っていたテーマパークのチケットが入ってた。
「タケちゃんの休みがどうなるか分からなかったから飛行機とホテルの手配はまだだけど」
「ありがとう。2枚入っとるってことは一緒に行ってくれるんやろ?」
「うん」
「東京も案内してな。俺行ったことないけん」
「いいよ」
千尋は首を振った。
こんな会話をしたい訳ではない。
それでも中々切り出せなかった。
「二つ、選びたいの」
やっと出た声は震えていた。
武史は黙って聞いていた。
「タケちゃん、言ってくれたでしょ。二つ選べないのかって。
だから、タケちゃんがいいなら二つ選びたい」
「ええよ、両方選び。俺が出来ることなら力になるけん」
内容を聞く前に武史は返事をする。
千尋は目を見開いて武史を見返す。
「私まだ何も言っていないよ?聞く前なのに安請け合いしていいの?」
武史は笑った。何もかも包み込むような笑顔だった。
「千尋の頼みならできる限り力になりたいんや。やけん、どんな内容でも拒否せんし、安心して欲しいもの二つ掴んだらええ」
武史は変わらない。
最初に来た時から千尋の頼みをいつだってできるだけ叶えてくれた。
実直に、ブレることなく、自分の心に素直に生きている武史。
千尋にはその真っ直ぐさが羨ましかった。
「東京に戻ろうと思っていたの」
「そんな気はしとったわ」
気づいていたのか、と驚くと同時に敏い武史なら気づいていてもおかしくないとも思った。
「でも、ここにもいたいの。だから、タケちゃんが許してくれるなら、ここに住んで必要な時だけ上京したい」
「もちろんええよ。っていうか嬉しいわ。また千尋と一緒に暮らせるんが」
言葉通り全身で喜びを表す武史に硬かった千尋の表情も緩む。
「良かった。ここしばらく東京行ったり来たりしていて、出来なくはないなって思ったの。長期になる時はマンスリーマンション借りたらいいし。それに……」
「それに?」
千尋は武史から微妙に視線を逸らして早口で伝える。
「タケちゃんに、『おかえり』って言われるの嬉しいから」
照れ隠しの時の千尋の癖だ。本音を言い慣れていない千尋が、自分の胸の内を語る時に出る癖。
そして、この癖が出る時は、一番千尋の心の奥底から出た願いだと言うことも今日までの付き合いで知っていた。
思わず千尋を自分の胸の中に引き寄せ抱きしめたくなるが、衝動を抑えて代わりに言葉で伝える。
「いくらでも言うわ、そんなん。千尋の居場所になる、って前にも言うたやろ?好きなだけおったらええ」
「うん」
千尋はまだ目を合わせてくれないが、顔は真っ赤に染っている。
そんな千尋の様子を見ると、ポロリと本音が漏れた。
「期待しても……ええんか?俺は千尋のこと好きやけん、一緒に暮らしたい言われたら期待してしまう」
武史の声は緊張からか掠れていた。ハッとして武史の顔を見た千尋は、彼の表情に一瞬言葉を失った。
本当は千尋の答えを待っていたいのに、聞くのを我慢出来なかった自分を責めるような表情だった。
「タケちゃ……」
武史は千尋の声を遮るように続きを話し出す。
「フラれると思っとったんや。秋に柳田さんに会った時に千尋の心が動いたと思ってな。東京に戻りたいけん、あれだけの仕事しよったんやと思っとったんや」
切羽詰まったように話す武史に千尋は口を挟めなかった。
焦っているとは分かっていた。千尋の瞳が揺れていることも見えていた。
それでも、武史は千尋に自分の想いを伝えた。
大切そうに、愛しく、宝物のように一言一言に想いを込めて。
「千尋、愛してる。やけん、この先も俺と一緒に生きて欲しい」
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