58 / 61
未来への決断3
しおりを挟む
千尋はしばらく携帯を見つめていた。
色々な気持ちが浮かび上がって来て、勝手に涙が出てくる。
だが、これは柳田のことを好きで流している涙ではない。
過去の自分との決別の涙だった。
武史は黙って千尋の手を握っていた。言いたいことは沢山あるのだろう。それでも静かに千尋が泣き止むまで待っていた。
涙が止まるまでそう長い時間はかからなかった。机の上のティッシュで涙を拭うと、千尋は武史と向かい合う。
握られていた手はそっと離した。
「タケちゃん」
「ん?」
武史はいつものように千尋に笑いかける。
「ありがとう。一緒にいてくれて」
「ええよ、大したことやない。……ちゃんと柳田さんと向き合えたんか?」
「うん」
千尋はそこで目を伏せた。まだ武史に言わないといけないことがあるが、緊張で言葉が出ない。
「タケちゃん、誕生日おめでとう」
やっと出てきたのは本当に伝えたいことではなかった。
「覚えてくれてたんか。ありがとう」
うん、と頷いた千尋はちょっと待っててといい、自分の部屋に戻る。
戻ってきた千尋は手にチケットが入っている封筒を持っていた。
「これプレゼント」
武史に差し出した。そこには武史がタバコを止めたら行きたいと言っていたテーマパークのチケットが入ってた。
「タケちゃんの休みがどうなるか分からなかったから飛行機とホテルの手配はまだだけど」
「ありがとう。2枚入っとるってことは一緒に行ってくれるんやろ?」
「うん」
「東京も案内してな。俺行ったことないけん」
「いいよ」
千尋は首を振った。
こんな会話をしたい訳ではない。
それでも中々切り出せなかった。
「二つ、選びたいの」
やっと出た声は震えていた。
武史は黙って聞いていた。
「タケちゃん、言ってくれたでしょ。二つ選べないのかって。
だから、タケちゃんがいいなら二つ選びたい」
「ええよ、両方選び。俺が出来ることなら力になるけん」
内容を聞く前に武史は返事をする。
千尋は目を見開いて武史を見返す。
「私まだ何も言っていないよ?聞く前なのに安請け合いしていいの?」
武史は笑った。何もかも包み込むような笑顔だった。
「千尋の頼みならできる限り力になりたいんや。やけん、どんな内容でも拒否せんし、安心して欲しいもの二つ掴んだらええ」
武史は変わらない。
最初に来た時から千尋の頼みをいつだってできるだけ叶えてくれた。
実直に、ブレることなく、自分の心に素直に生きている武史。
千尋にはその真っ直ぐさが羨ましかった。
「東京に戻ろうと思っていたの」
「そんな気はしとったわ」
気づいていたのか、と驚くと同時に敏い武史なら気づいていてもおかしくないとも思った。
「でも、ここにもいたいの。だから、タケちゃんが許してくれるなら、ここに住んで必要な時だけ上京したい」
「もちろんええよ。っていうか嬉しいわ。また千尋と一緒に暮らせるんが」
言葉通り全身で喜びを表す武史に硬かった千尋の表情も緩む。
「良かった。ここしばらく東京行ったり来たりしていて、出来なくはないなって思ったの。長期になる時はマンスリーマンション借りたらいいし。それに……」
「それに?」
千尋は武史から微妙に視線を逸らして早口で伝える。
「タケちゃんに、『おかえり』って言われるの嬉しいから」
照れ隠しの時の千尋の癖だ。本音を言い慣れていない千尋が、自分の胸の内を語る時に出る癖。
そして、この癖が出る時は、一番千尋の心の奥底から出た願いだと言うことも今日までの付き合いで知っていた。
思わず千尋を自分の胸の中に引き寄せ抱きしめたくなるが、衝動を抑えて代わりに言葉で伝える。
「いくらでも言うわ、そんなん。千尋の居場所になる、って前にも言うたやろ?好きなだけおったらええ」
「うん」
千尋はまだ目を合わせてくれないが、顔は真っ赤に染っている。
そんな千尋の様子を見ると、ポロリと本音が漏れた。
「期待しても……ええんか?俺は千尋のこと好きやけん、一緒に暮らしたい言われたら期待してしまう」
武史の声は緊張からか掠れていた。ハッとして武史の顔を見た千尋は、彼の表情に一瞬言葉を失った。
本当は千尋の答えを待っていたいのに、聞くのを我慢出来なかった自分を責めるような表情だった。
「タケちゃ……」
武史は千尋の声を遮るように続きを話し出す。
「フラれると思っとったんや。秋に柳田さんに会った時に千尋の心が動いたと思ってな。東京に戻りたいけん、あれだけの仕事しよったんやと思っとったんや」
切羽詰まったように話す武史に千尋は口を挟めなかった。
焦っているとは分かっていた。千尋の瞳が揺れていることも見えていた。
それでも、武史は千尋に自分の想いを伝えた。
大切そうに、愛しく、宝物のように一言一言に想いを込めて。
「千尋、愛してる。やけん、この先も俺と一緒に生きて欲しい」
色々な気持ちが浮かび上がって来て、勝手に涙が出てくる。
だが、これは柳田のことを好きで流している涙ではない。
過去の自分との決別の涙だった。
武史は黙って千尋の手を握っていた。言いたいことは沢山あるのだろう。それでも静かに千尋が泣き止むまで待っていた。
涙が止まるまでそう長い時間はかからなかった。机の上のティッシュで涙を拭うと、千尋は武史と向かい合う。
握られていた手はそっと離した。
「タケちゃん」
「ん?」
武史はいつものように千尋に笑いかける。
「ありがとう。一緒にいてくれて」
「ええよ、大したことやない。……ちゃんと柳田さんと向き合えたんか?」
「うん」
千尋はそこで目を伏せた。まだ武史に言わないといけないことがあるが、緊張で言葉が出ない。
「タケちゃん、誕生日おめでとう」
やっと出てきたのは本当に伝えたいことではなかった。
「覚えてくれてたんか。ありがとう」
うん、と頷いた千尋はちょっと待っててといい、自分の部屋に戻る。
戻ってきた千尋は手にチケットが入っている封筒を持っていた。
「これプレゼント」
武史に差し出した。そこには武史がタバコを止めたら行きたいと言っていたテーマパークのチケットが入ってた。
「タケちゃんの休みがどうなるか分からなかったから飛行機とホテルの手配はまだだけど」
「ありがとう。2枚入っとるってことは一緒に行ってくれるんやろ?」
「うん」
「東京も案内してな。俺行ったことないけん」
「いいよ」
千尋は首を振った。
こんな会話をしたい訳ではない。
それでも中々切り出せなかった。
「二つ、選びたいの」
やっと出た声は震えていた。
武史は黙って聞いていた。
「タケちゃん、言ってくれたでしょ。二つ選べないのかって。
だから、タケちゃんがいいなら二つ選びたい」
「ええよ、両方選び。俺が出来ることなら力になるけん」
内容を聞く前に武史は返事をする。
千尋は目を見開いて武史を見返す。
「私まだ何も言っていないよ?聞く前なのに安請け合いしていいの?」
武史は笑った。何もかも包み込むような笑顔だった。
「千尋の頼みならできる限り力になりたいんや。やけん、どんな内容でも拒否せんし、安心して欲しいもの二つ掴んだらええ」
武史は変わらない。
最初に来た時から千尋の頼みをいつだってできるだけ叶えてくれた。
実直に、ブレることなく、自分の心に素直に生きている武史。
千尋にはその真っ直ぐさが羨ましかった。
「東京に戻ろうと思っていたの」
「そんな気はしとったわ」
気づいていたのか、と驚くと同時に敏い武史なら気づいていてもおかしくないとも思った。
「でも、ここにもいたいの。だから、タケちゃんが許してくれるなら、ここに住んで必要な時だけ上京したい」
「もちろんええよ。っていうか嬉しいわ。また千尋と一緒に暮らせるんが」
言葉通り全身で喜びを表す武史に硬かった千尋の表情も緩む。
「良かった。ここしばらく東京行ったり来たりしていて、出来なくはないなって思ったの。長期になる時はマンスリーマンション借りたらいいし。それに……」
「それに?」
千尋は武史から微妙に視線を逸らして早口で伝える。
「タケちゃんに、『おかえり』って言われるの嬉しいから」
照れ隠しの時の千尋の癖だ。本音を言い慣れていない千尋が、自分の胸の内を語る時に出る癖。
そして、この癖が出る時は、一番千尋の心の奥底から出た願いだと言うことも今日までの付き合いで知っていた。
思わず千尋を自分の胸の中に引き寄せ抱きしめたくなるが、衝動を抑えて代わりに言葉で伝える。
「いくらでも言うわ、そんなん。千尋の居場所になる、って前にも言うたやろ?好きなだけおったらええ」
「うん」
千尋はまだ目を合わせてくれないが、顔は真っ赤に染っている。
そんな千尋の様子を見ると、ポロリと本音が漏れた。
「期待しても……ええんか?俺は千尋のこと好きやけん、一緒に暮らしたい言われたら期待してしまう」
武史の声は緊張からか掠れていた。ハッとして武史の顔を見た千尋は、彼の表情に一瞬言葉を失った。
本当は千尋の答えを待っていたいのに、聞くのを我慢出来なかった自分を責めるような表情だった。
「タケちゃ……」
武史は千尋の声を遮るように続きを話し出す。
「フラれると思っとったんや。秋に柳田さんに会った時に千尋の心が動いたと思ってな。東京に戻りたいけん、あれだけの仕事しよったんやと思っとったんや」
切羽詰まったように話す武史に千尋は口を挟めなかった。
焦っているとは分かっていた。千尋の瞳が揺れていることも見えていた。
それでも、武史は千尋に自分の想いを伝えた。
大切そうに、愛しく、宝物のように一言一言に想いを込めて。
「千尋、愛してる。やけん、この先も俺と一緒に生きて欲しい」
1
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
クールな御曹司の溺愛ペットになりました
あさの紅茶
恋愛
旧題:クールな御曹司の溺愛ペット
やばい、やばい、やばい。
非常にやばい。
片山千咲(22)
大学を卒業後、未だ就職決まらず。
「もー、夏菜の会社で雇ってよぉ」
親友の夏菜に泣きつくも、呆れられるばかり。
なのに……。
「就職先が決まらないらしいな。だったら俺の手伝いをしないか?」
塚本一成(27)
夏菜のお兄さんからのまさかの打診。
高校生の時、一成さんに告白して玉砕している私。
いや、それはちょっと……と遠慮していたんだけど、親からのプレッシャーに負けて働くことに。
とっくに気持ちの整理はできているはずだったのに、一成さんの大人の魅力にあてられてドキドキが止まらない……。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる