傷ついた心を癒すのは大きな愛

雪本 風香

文字の大きさ
上 下
44 / 61

似た者姉弟2

しおりを挟む
次の日には俊樹も訪れ、いつもは二人きりの家も一気に賑やかになる。
急ぎの仕事が入った千尋に男三人の夕飯を作るの余裕は無かったので、武史が買ってきた寿司で再開を祝う。
夕飯後、まだ仕事が残っている千尋に気を遣い、智史の発案で男三人は連れ立って呑みに繰り出すことにした。

智史の友人がBARをしている店に行き、各々飲み物を頼む。
「武史、お前どうするんだよ。千尋のこと」
運ばれてきた酒で喉を潤した智史は、本題を切り出す。
「どうするも何も、俺は千尋と一緒になりたいと思っとる」
冷静な武史とは反対に、何も知らない俊樹は驚いた顔だ。
「え?タケ、姉貴とそんな関係なん?」
武史は俊樹に向かって首を振る。
「まだ千尋は心許してくれてないわ。ただ、傷を癒すために俺を使っとるだけや」
「え?どういう意味だよ?」
俊樹の前で言うのは少し躊躇った。だが、彼の目が全部言うように促す。
俊樹には、キツいことかも知らんと前置きした武史は一息に言う。
「体の関係だけや。そして、千尋が俺に抱かれとんは愛情不足による自傷行為や。俺が好きやからってわけやない」
俺は好きやけどな、と言う武史の声は届いているのか。

固まる俊樹の横で口を開いたのは智史だった。
「そこまでわかっているなら、何で関係持ったんだよ。お前が手を離すと千尋、どうなるかわからないぞ」
「手離すつもりないからや。千尋のこと全部受け止めるし、受け入れるわ。俺から千尋の前を去ることはない」
「親戚なんだぞ。だから千尋はお前のことを拒めないんだよ」
智史は鋭く武史に忠告する。
「わかっとる」
武史が何度も自問自答したことだ。そして一つの結論を出していた。
「親戚やから、千尋が跳ね除けようが、縁は切れん。今はあいつはそれがしんどいんやろうが、最終的に何も持っていない千尋を受け入れることも出来るんは親戚という大義名分があるからや。
柳田さんのことでこの町に来た時のように」
智史も千尋がこの町に来た経緯を知っているだけに、それ以上は言えなかった。


「千尋が抱えているのは重いぞ」
「やろうなぁ。やけど、千尋も自分のことよう分かって自制しとった。自分が男に何を求めているか分かっていて敢えて与えてくれん男を選んどったやろ。
今俺を受け入れているんは、どこかで俺を信じたい気持ちがあるからやと思っとる」
智史を見る武史は、全てを覚悟している目をしていた。
「俺は、武史より柳田先生の方がいいと思ってる。あの人は千尋の救いにはならんけど、ブレないからな。
だけどお前がそこまで決めているんなら、後は千尋が決めることだ」
そう言いながら智史は目の前の酒を一気に飲み干し、お代わりを頼む。
敢えてしんどい道に進もうとしている弟に呆れもあり、純粋に凄いなと感動もする。
(俺はそこまで出来ないからな)
付き合いだけなら武史より長いが、千尋のことは救えなかった。
救うためには、彼女が今まで不足している愛情を満たす必要がある。
そこまでの情も持てなかったし、千尋も自分のことは分かっていたのだろう。
大学の時にどれだけ周りから告白されてもぶれなかった。

武史が報われるとも限らない。どれだけ愛を囁いても、結局千尋の父母になれることは出来ないからだ。
『千尋が好きだから』それだけで全てを受け止める覚悟を持った武史に、智史は頑張れの言葉以外は何も言えなかった。


「避妊してるん?」
放心状態から返ってきた俊樹がいきなり爆弾発言をする。
驚いた武史だが、誤魔化すことはせずに俊樹に答えた。
「したりせんかったりや」
「そうか」
それきり、俊樹は再び考え込んだ。
武史から求める時は着けず、千尋からの求めの時は着ける。
何となく二人で決まった流れだ。
本当は常に着けたくはないが、千尋の希望で、乱暴に抱く時だけゴムを装着していた。
(ゴム着けた方が痛いから)
そういう千尋の申し出に、武史は悲しく思うが黙って受け入れた。
「タケは子どもは欲しいんか?」
「どっちでもええ、そんなんは。ただ、避妊しとらんから出来ることも織り込み済みや。出来たら出来たで嬉しいしな」
「そうか」
それきり俊樹は黙り込んでしまう。

そんな俊樹の様子に武史は思わず笑ってしまう。
「なんだよ」
「いや、やっぱ姉弟なんやと思ってな。悩んでいる時の千尋とそっくりや」
俊樹は憮然とした表情で武史を睨みつける。
俊樹の視線を気にも止めずに武史は言わんでええわ、と呟く。
「聞きたくなったら千尋から聞くわ。俊樹は気にせんでええ。そんなことより」
「そんなことより?」
「俺を兄ちゃんと呼ぶ練習でもしより」
ブホッと智史が吹き出した。
「お前、すごい自信家やなぁ」
思わず方言が出た智史の言葉に被せるように死んでも呼ぶかよ!という俊樹が叫ぶ。
そんな俊樹の様子を見て、武史は智史と共に益々笑いが止まらなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...