傷ついた心を癒すのは大きな愛

雪本 風香

文字の大きさ
上 下
43 / 61

似た者姉弟1

しおりを挟む
抱き合っても千尋の心は離れていく。分かっていたが、武史は何度か千尋を求めてしまった。
千尋も拒むことはしなかった。 
千尋も、心の傷を埋めるように武史を誘う。そんなことをしても埋まらないのに、濡れていない状態で強引に挿入してもらうと、つかの間だけ心の痛みを忘れられる。
最初はそんな抱き方はイヤだと抵抗した武史も、最終的には反対に武史から求める時は大事に抱くことを条件に、しぶしぶながら千尋が望むならと受け入れた。
正面から抱くと辛そうな武史の顔が見えるため、後ろからねじ込んで貰う。

そういう時は大概行為が終わったあと、千尋は武史に背を背けながら謝る。
「ごめんなさい。……また、タケちゃんのことを……」
「ええんや。利用して欲しいって言うたんは俺や。俺も千尋が欲しいからお互いの利害一致しとるけん、謝ることはないわ」
後ろから抱きしめながら、武史は囁く。

「盆過ぎたら遊びに行こうや。その頃には仕事落ち着いとるやろ?」
「うん」
「どこがええ?橋渡って本州行ってもええし、橋の途中の島にも見せたい場所ようけあるけん」
どこがいい、と言われても思い浮かばないが、何か言わないといけない気がして、必死に考える。
少し前に駅の観光案内で見た一枚のポスターを思い出し、武史に伝える。
「……お相撲さんが」
「ん?」
「お相撲さんが一人で相撲取るのがみたい」
「一人相撲の神事やな。秋にもあるから見に行こか」
他にも連れていきたいところあるから、予定合わせていこうな、と言う武史に流されるように、千尋は微かに頷いた。



一足先にに来た敏子と共にお盆の準備をする。
「ちーちゃんもここでの暮らし馴染んでいるようでよかったわ!」
「タケちゃんのおかげです」
敏子と一緒に話しながら準備をして、当日の流れを確認する。
「おっさんには電話しといたわ」
「おっさん?」
「あー、この辺はお坊さんのことおっさん言うんよ」
「へぇー」
2日後の11時にお坊さんがお経を上げに来て、その後車で墓参りに行き、敏子達夫婦は解散する。父方の墓参りに行くらしい。
武史や智史は行かなくていいのか聞くと、ええんよ、と言う。
「秋に法事あるけん、そん時でええんよ。辺鄙な場所にあるけん、行くだけで大変やけんね」
敏子に盆準備を教えて貰いながら、千尋も久しぶりに武史以外の人とこの家で過ごす時間にホッとしていた。


敏子と三人で早めの晩御飯を食べ終わった頃、智史が訪問する。
「久しぶりだな、二人とも。武史は?」
「あんた、もっとはよ来いや。ウチもう帰るで」
「悪い、電車乗り遅れたんだ」
今日一度帰宅し、明後日再び来る予定の敏子の小言を聞き流した智史は、夕飯の残りを指でひょいと摘むと口に入れた。
お行儀悪い、という敏子を躱すように台所から立ち去ろうとするが、智史の気配を察知した武史が台所に現れた。
「兄貴、来たんか。遅かったな」
「武史、久しぶり。元気か?」
「まぁ」
「相変わらずだな」
智史は気にも止めず笑う。

敏子を見送った後、夕飯を食べている智史に付き合い千尋は台所にいた。
「千尋、いいよ。仕事あるだろ?」
「せっかくだから喋ろうよ。タケちゃんはもう寝ちゃったし」
明日仕事という武史は早々に部屋に引き上げた。
コーヒーを飲みながら付き合っている千尋と、取り留めのない話をする。
仕事の話や大学の同期の話で盛り上がった後、智史は尋ねる。
「武史と何があったん?お前、精神的に不安定だろ?」
「そんなことないよ」
「まさか、誤魔化せると思っていないよな?」
智史とは大学が同じということもあり、親戚の中では仲がいい方だ。
また智史は出版社に勤めていたため、大学卒業した後も比較的付き合いがあった。
まだ大学の時は今より自分を隠せなかった。不安定になった千尋がどうなるかも智史は知っている。
「柳田先生の時はそこまで不安定にはなっていないだろ?」
千尋はため息をついて観念したように話し出した。

「タケちゃんに告白されてキスされたの。一度は拒んだ。忘れてくれって。
でも忘れられると腹が立って二度目は受け入れたの。

それから何度もタケちゃんと関係を持って、その度に宝物のようにしてくれる。
なのに、タケちゃんに大事にされればされるほど、自分と向き合わないといけなくて。
タケちゃんはそれでも、と受け止めてくれるけど、私は……」
「私は?」
智史の問いに何度か息を吐き、目を伏せながら答えた。
「タケちゃんと一緒にいると苦しい……。愛されるのが怖い……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...