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祭りと花火6
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千尋が寝ている間に武史は祭りに行ったようだ。
久しぶりにグッスリ眠れたのと引き換えに千尋は昨日の行為を後悔をしていた。
武史に大切に抱かれる度に、そんなことでは心の穴が埋まらないことに気づく。
もっと愛して欲しい。
もっと愛されたい。
私だけを見ていて。
その気持ちが大きくなり、結果的に虚しさだけが残った。
(柳田さんは分かっていたんだろうなぁ。私がこうなるって)
徹底して千尋に欲しいものをくれない。くれるのは、仕事の評価だけ。
だから期待せずに済んだ。
安心して体をさらけ出せた。
痛いだけの柳田との行為は、千尋に暗い喜びを与えてくれた。
この痛みに比べたら、埋まらない心の傷なんか大したことない。
それは一種の自傷行為だと分かっていても、心地よかった。
武史は全て包んでくれる。フラフラしている千尋を許してくれる。
でも、今は与えてくれる愛情が枯渇したら?
千尋以外に好きな人が出来たら?
そうなった場合、裏切られたと思うだろう。
親戚にも裏切られたと思ってしまったら、千尋にはもう逃げるところはない。
武史の気持ちを受け入れたことで、千尋は身動きが取れなくなった。
(流される……)
良くないと分かっていても、武史という波に抗うことも出来ず、ただ身を任せるしかない。
もうどうすることも出来なかった。
シャワーを浴び、全然進まない仕事をしている時に真帆が訪ねてきた。
玄関先で会うなり、真帆は千尋に怒りの目を向ける。
「ただの親戚って言ってたよね?親戚なのにヤることはヤるんだ」
なんで分かったのか分からない千尋の様子に、真帆はますます腹を立てる。
「首筋についているのキスマークでしょ?それとも武史以外の人とヤったんだ?」
真帆に指摘されて初めてキスマークがついているのことを知る。
YESともNOとも言わない千尋にますます怒り、帰って行った真帆を見送る。
おっくうな体を引き摺り千尋は自分の部屋の鏡を見る。
確かに左の首筋と、正面に赤黒いアザらしきものがあった。
ネットでキスマークを検索し、自分の体についているものと相違がないか確認する。
(キスマークってこんなんなんだ)
つけられた記憶はなかった。つけたがる気持ちも分からなかった。
検索ついでに何故キスマークをつけるのか、という考察記事をいくつか見る。
独占欲や愛情表現と書いている記事が多い。
武史に直接聞いたわけではないが、独占欲と愛情表情からつけたということで間違いはないだろう。
千尋はため息をついた。
もう逃げたくて堪らなくなった。
武史の想いが深ければ深い程、千尋は蓋をしていた自分と向き合わないといけない。
苦しいがそれでも武史には言えない。
受け入れたんだから、もう拒むことは出来なかった。
キスマークをコンシーラーで隠し、さくらと連れ立って花火会場に向かう。
道中で武史から連絡が来ていたが電源を切って気付かないフリをした。
「武史先輩からちーちゃんに連絡取れないってメッセージ来とるわ」
あまりにも繋がらないことに心配したのか、さくらあてに武史から連絡が来たようだ。
千尋は今気付いたフリをして携帯を取り出すと残念そうに言う。
「充電切れているみたい」
「なるほど!武史先輩に伝えとくわ」
「ありがとう」
さくらは疑うことなく、千尋の答えを武史に伝えたようだ。
「後で秀樹と合流するって」
「そうなんだ!みんなで見れるね!」
内心ホッとする。
二人きりで見るのはまだ気持ちが重い。
家に帰れば二人になるのに、少しでも時間を伸ばしたかった。
合流した武史は千尋に笑顔を向ける。
「体は大丈夫か?」
「うん」
その言い方と表情で千尋が武史と距離を置きたがっているのが分かった。
武史が口を開こうとした時、花火が上がった。
さくらと秀樹、大樹は少し離れた前のほうで花火を見上げている。
「千尋、また一緒に出かけようや。もっと見せたい場所あるんや」
千尋の反応を見るかのように武史は問いかける。
武史がこちらを見ているのを感じるが、敢えて花火を見ながら千尋は答えた。
「そうだね、夏が終わったらどこか行こうか。来週からお盆だし、敏子おばちゃんも智史くんも来るから忙しいしね」
「俊樹も来るしな」
「そうだったね」
この数ヶ月、千尋と共に過ごした武史には、分かってしまった。
体は繋がったが心は昨日より離れている。
千尋は自分の殻に閉じこもっている。
武史は秀樹たちに見えないように、そっと千尋の手を握る。
ビクッとなった千尋に、武史は切なくなる。通じたと思った気持ちは、呆気なく離れた。
それでも……
「まだ話せんことがあるんやろ?それでも俺は昨日、千尋が受け入れてくれたことは忘れんから。
……利用したらええ。俺のこと試してもええ。そんなんで俺は千尋への気持ち変わらんけん」
その言葉で千尋は武史の顔をみた。
少し切なそうだがいつもと変わらぬ笑顔を向ける武史に千尋は何も言えない。
(この人はなんで……)
一筋だけ流れた涙を武史の指が優しく拭った。
久しぶりにグッスリ眠れたのと引き換えに千尋は昨日の行為を後悔をしていた。
武史に大切に抱かれる度に、そんなことでは心の穴が埋まらないことに気づく。
もっと愛して欲しい。
もっと愛されたい。
私だけを見ていて。
その気持ちが大きくなり、結果的に虚しさだけが残った。
(柳田さんは分かっていたんだろうなぁ。私がこうなるって)
徹底して千尋に欲しいものをくれない。くれるのは、仕事の評価だけ。
だから期待せずに済んだ。
安心して体をさらけ出せた。
痛いだけの柳田との行為は、千尋に暗い喜びを与えてくれた。
この痛みに比べたら、埋まらない心の傷なんか大したことない。
それは一種の自傷行為だと分かっていても、心地よかった。
武史は全て包んでくれる。フラフラしている千尋を許してくれる。
でも、今は与えてくれる愛情が枯渇したら?
千尋以外に好きな人が出来たら?
そうなった場合、裏切られたと思うだろう。
親戚にも裏切られたと思ってしまったら、千尋にはもう逃げるところはない。
武史の気持ちを受け入れたことで、千尋は身動きが取れなくなった。
(流される……)
良くないと分かっていても、武史という波に抗うことも出来ず、ただ身を任せるしかない。
もうどうすることも出来なかった。
シャワーを浴び、全然進まない仕事をしている時に真帆が訪ねてきた。
玄関先で会うなり、真帆は千尋に怒りの目を向ける。
「ただの親戚って言ってたよね?親戚なのにヤることはヤるんだ」
なんで分かったのか分からない千尋の様子に、真帆はますます腹を立てる。
「首筋についているのキスマークでしょ?それとも武史以外の人とヤったんだ?」
真帆に指摘されて初めてキスマークがついているのことを知る。
YESともNOとも言わない千尋にますます怒り、帰って行った真帆を見送る。
おっくうな体を引き摺り千尋は自分の部屋の鏡を見る。
確かに左の首筋と、正面に赤黒いアザらしきものがあった。
ネットでキスマークを検索し、自分の体についているものと相違がないか確認する。
(キスマークってこんなんなんだ)
つけられた記憶はなかった。つけたがる気持ちも分からなかった。
検索ついでに何故キスマークをつけるのか、という考察記事をいくつか見る。
独占欲や愛情表現と書いている記事が多い。
武史に直接聞いたわけではないが、独占欲と愛情表情からつけたということで間違いはないだろう。
千尋はため息をついた。
もう逃げたくて堪らなくなった。
武史の想いが深ければ深い程、千尋は蓋をしていた自分と向き合わないといけない。
苦しいがそれでも武史には言えない。
受け入れたんだから、もう拒むことは出来なかった。
キスマークをコンシーラーで隠し、さくらと連れ立って花火会場に向かう。
道中で武史から連絡が来ていたが電源を切って気付かないフリをした。
「武史先輩からちーちゃんに連絡取れないってメッセージ来とるわ」
あまりにも繋がらないことに心配したのか、さくらあてに武史から連絡が来たようだ。
千尋は今気付いたフリをして携帯を取り出すと残念そうに言う。
「充電切れているみたい」
「なるほど!武史先輩に伝えとくわ」
「ありがとう」
さくらは疑うことなく、千尋の答えを武史に伝えたようだ。
「後で秀樹と合流するって」
「そうなんだ!みんなで見れるね!」
内心ホッとする。
二人きりで見るのはまだ気持ちが重い。
家に帰れば二人になるのに、少しでも時間を伸ばしたかった。
合流した武史は千尋に笑顔を向ける。
「体は大丈夫か?」
「うん」
その言い方と表情で千尋が武史と距離を置きたがっているのが分かった。
武史が口を開こうとした時、花火が上がった。
さくらと秀樹、大樹は少し離れた前のほうで花火を見上げている。
「千尋、また一緒に出かけようや。もっと見せたい場所あるんや」
千尋の反応を見るかのように武史は問いかける。
武史がこちらを見ているのを感じるが、敢えて花火を見ながら千尋は答えた。
「そうだね、夏が終わったらどこか行こうか。来週からお盆だし、敏子おばちゃんも智史くんも来るから忙しいしね」
「俊樹も来るしな」
「そうだったね」
この数ヶ月、千尋と共に過ごした武史には、分かってしまった。
体は繋がったが心は昨日より離れている。
千尋は自分の殻に閉じこもっている。
武史は秀樹たちに見えないように、そっと千尋の手を握る。
ビクッとなった千尋に、武史は切なくなる。通じたと思った気持ちは、呆気なく離れた。
それでも……
「まだ話せんことがあるんやろ?それでも俺は昨日、千尋が受け入れてくれたことは忘れんから。
……利用したらええ。俺のこと試してもええ。そんなんで俺は千尋への気持ち変わらんけん」
その言葉で千尋は武史の顔をみた。
少し切なそうだがいつもと変わらぬ笑顔を向ける武史に千尋は何も言えない。
(この人はなんで……)
一筋だけ流れた涙を武史の指が優しく拭った。
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