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祭りと花火1
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あの日以降、千尋と武史は表面上は変わらぬ日々を過ごしていた。
「千尋も祭り来れるんか?」
「うん、幼稚園の子達と大樹くんが踊るらしいからさくらちゃんと見に行くよ」
久しぶりに早く家に帰ってきた武史は居間でトラと遊んでいる。
千尋は二人の様子を横目で見ながら、原稿に向かい合っていた。
武史と目を合わせるのが気まずい。そんな千尋の様子に気づいていたが、敢えて何も言わずにいた。
明日から2日間商店街で祭りが始まる。
祭りの間武史の仕事も休みだ。その代わり、朝から晩まで出ずっぱりで忙しいようだ。
今武史と前と同じ日常を送るために、一緒にいなくて済むのが有難かった。
「結構大々的な感じなの?」
「一番大きい祭りやけんな。地元の企業も協賛しとるから、盛り上がるな。祭りの時に帰って来るやつも多いけんな」
武史の態度は前と変わらなかった。
本当に飲みすぎたら記憶が飛ぶようで、あの日のことはそれ以来二人とも触れたことがない。
忘れて欲しいと言ったのは千尋なのに、何だか面白くなかった。
「お祭りだからって飲みすぎるとダメだよ」
思ったよりツンとした声が出て、千尋は動揺する。
一瞬武史も千尋の言葉に驚いたように眉を上げたが、表情を戻し、普段通りの声で答える。
「わかっとるわ。千尋こそ暑さ対策しときや。まだ陽射しキツいけん」
そう言い、耐えきれなくなった時の為にいくつかの休憩所の場所を伝える。
その様子が、心配性だった祖父に似ていて千尋は思わず笑う。
「タケちゃん、過保護だよ」
「いや、千尋は無理するからな。それにギリギリまで言わんし。後でさくらにも言うとくわ」
真面目な顔をしていう武史に、千尋は怒るフリをする。
「子どもじゃないんだから大丈夫なのに!」
千尋の様子を見て武史も笑い声を上げた。
明日が早いからと、早々に部屋に引き上げた武史はベッドに寝転んだ。
以前より千尋は確実に武史のことを意識している。
告白とキスのことを忘れるように言われた時はカッとなったが、千尋は前にも増して武史のことを考えているようだ。
起きたことを忘れることは難しい。お互いが忘れたフリをし、薄氷を踏むように探りながら会話をしている。
それは、より相手のことを意識する行為だった。
「さて、どうするかな」
忘れろ、と言ったのは千尋だ。だから気づかないフリをする。
気づいているのに、知らないフリをするのは骨が折れる。
千尋は、自分のことに精一杯で武史の様子に気づくことはなかったが、武史もまた悩んでいた。
キスの感触が忘れられない。抱きしめて問答無用で口を塞ぎ、柔らかい唇の感触を味わいたい。
舌を絡めながら、何度もキスをして武史以外見えなくしたい。
千尋の全てが欲しい。体の隅々まで舌を這わせ、自分のことを忘れられないように快楽を刻み込みたい。
武史の腕にスッポリと納まる小さい体を、抱きしめ耳元で愛していると囁きたい。
千尋とひとつ屋根の下で理性を保つのは中々の苦行だった。
それに、親戚関係ということも武史を悩ましていた。
上手くいった場合は、まだ何とでもなる。問題は千尋が武史のことを受け入れれなかった場合だ。
そんなに密な付き合いをする家ではないが、冠婚葬祭では顔を合わせることもある。
千尋のことだ。武史が気にしないといっても気にするだろう。
忙しさにかまけて考えないようにしていたことが、時間が出来ると浮かび上がってくる。
「落ち着いたら、千尋とちゃんと話さんとあかんなぁ」
こういう時、辞めたはずのタバコを無性に吸いたくなる。
タバコを辞めたら一緒に夢の国へ行く。
叶うかどうかも分からないのにも関わらず、律儀に守っている自分が時々馬鹿らしくなる。
だがそんな約束ですら、千尋と繋がる大事な絆だ。
「ホンマに厄介なのに惚れたわ」
そう言うが千尋に振り回されるのは、嫌いではなかった。
「千尋も祭り来れるんか?」
「うん、幼稚園の子達と大樹くんが踊るらしいからさくらちゃんと見に行くよ」
久しぶりに早く家に帰ってきた武史は居間でトラと遊んでいる。
千尋は二人の様子を横目で見ながら、原稿に向かい合っていた。
武史と目を合わせるのが気まずい。そんな千尋の様子に気づいていたが、敢えて何も言わずにいた。
明日から2日間商店街で祭りが始まる。
祭りの間武史の仕事も休みだ。その代わり、朝から晩まで出ずっぱりで忙しいようだ。
今武史と前と同じ日常を送るために、一緒にいなくて済むのが有難かった。
「結構大々的な感じなの?」
「一番大きい祭りやけんな。地元の企業も協賛しとるから、盛り上がるな。祭りの時に帰って来るやつも多いけんな」
武史の態度は前と変わらなかった。
本当に飲みすぎたら記憶が飛ぶようで、あの日のことはそれ以来二人とも触れたことがない。
忘れて欲しいと言ったのは千尋なのに、何だか面白くなかった。
「お祭りだからって飲みすぎるとダメだよ」
思ったよりツンとした声が出て、千尋は動揺する。
一瞬武史も千尋の言葉に驚いたように眉を上げたが、表情を戻し、普段通りの声で答える。
「わかっとるわ。千尋こそ暑さ対策しときや。まだ陽射しキツいけん」
そう言い、耐えきれなくなった時の為にいくつかの休憩所の場所を伝える。
その様子が、心配性だった祖父に似ていて千尋は思わず笑う。
「タケちゃん、過保護だよ」
「いや、千尋は無理するからな。それにギリギリまで言わんし。後でさくらにも言うとくわ」
真面目な顔をしていう武史に、千尋は怒るフリをする。
「子どもじゃないんだから大丈夫なのに!」
千尋の様子を見て武史も笑い声を上げた。
明日が早いからと、早々に部屋に引き上げた武史はベッドに寝転んだ。
以前より千尋は確実に武史のことを意識している。
告白とキスのことを忘れるように言われた時はカッとなったが、千尋は前にも増して武史のことを考えているようだ。
起きたことを忘れることは難しい。お互いが忘れたフリをし、薄氷を踏むように探りながら会話をしている。
それは、より相手のことを意識する行為だった。
「さて、どうするかな」
忘れろ、と言ったのは千尋だ。だから気づかないフリをする。
気づいているのに、知らないフリをするのは骨が折れる。
千尋は、自分のことに精一杯で武史の様子に気づくことはなかったが、武史もまた悩んでいた。
キスの感触が忘れられない。抱きしめて問答無用で口を塞ぎ、柔らかい唇の感触を味わいたい。
舌を絡めながら、何度もキスをして武史以外見えなくしたい。
千尋の全てが欲しい。体の隅々まで舌を這わせ、自分のことを忘れられないように快楽を刻み込みたい。
武史の腕にスッポリと納まる小さい体を、抱きしめ耳元で愛していると囁きたい。
千尋とひとつ屋根の下で理性を保つのは中々の苦行だった。
それに、親戚関係ということも武史を悩ましていた。
上手くいった場合は、まだ何とでもなる。問題は千尋が武史のことを受け入れれなかった場合だ。
そんなに密な付き合いをする家ではないが、冠婚葬祭では顔を合わせることもある。
千尋のことだ。武史が気にしないといっても気にするだろう。
忙しさにかまけて考えないようにしていたことが、時間が出来ると浮かび上がってくる。
「落ち着いたら、千尋とちゃんと話さんとあかんなぁ」
こういう時、辞めたはずのタバコを無性に吸いたくなる。
タバコを辞めたら一緒に夢の国へ行く。
叶うかどうかも分からないのにも関わらず、律儀に守っている自分が時々馬鹿らしくなる。
だがそんな約束ですら、千尋と繋がる大事な絆だ。
「ホンマに厄介なのに惚れたわ」
そう言うが千尋に振り回されるのは、嫌いではなかった。
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