傷ついた心を癒すのは大きな愛

雪本 風香

文字の大きさ
上 下
31 / 61

動く歯車2

しおりを挟む
「千尋はペンギンにでもなるつもりか!17度は冷やしすぎやろ!」
「……ペンギンになれるならなりたいよ」
「アホか!」
仕事から帰ってきた武史はキンキンに冷えた自分の部屋に驚き、設定温度を確認する。
ブルッと震え上がるような温度にも関わらず、千尋はまだツラそうに仕事に向かっていた。
「まだ7月頭やぞ。これからどう過ごすんや?と言うか今までどうしていたんや?」
「……基本外に出なかった」
呆れた武史はため息をつくと、設定温度を25度に変える。
「こんな冷やしといたら余計夏バテするわ。とりあえずこれで我慢しぃ」
「……暑いよ」
「後で扇風機持ってくるけん、それでとりあえずしのぎや。日が落ちたら扇風機だけでまだいけるやろ?」
「……多分」
武史はため息をつくと千尋に言う。
「はよ言って欲しかったわ。気づかん俺もいかんけど、千尋もしんどいやろ」
「……ごめんなさい。耐えれるかと思っていたから」
「嘘付けや、また遠慮したんやろが。千尋も金入れとんやから、変に遠慮するなや」
バツが悪そうな顔で目を逸らす千尋に、武史は苦笑いをする。
「怒っとらんよ。気づかんかった俺も悪いけん。他にも不便なところあるんか?」
千尋は武史の言葉に首を振ると少し躊躇いがちに伝える。
「……踏み台ほしい。高いところに手が届かないの。いつもタケちゃんに取って貰うのも申し訳ないし」
そんなことか、と武史はホッと安心したように息を吐く。
「今日、買ってくるわ。でもなんかあったらすぐ言いや」




千尋が夏バテしていると気づいたのは、さくらからの電話だった。
「なんや?」
秀樹と毎日のように会っているため、突然のさくらからの電話に不審に思いながら電話に出た武史。
「武史先輩、ちーちゃん夏バテしているようですよ」
さくらは余計なことを言わず、用件だけいうと電話を切った。
かかってきたと同じように突然切れた携帯をしばらく見つめていた武史は、慌てて家に帰った。

案の定、家に帰った武史が問いただしても最初は素直に認めなかった千尋だったが、クーラーがある武史の部屋に連れていき、食欲や仕事の進み具合をしつこく聞くと観念したように白状した。
「ごめん、夏、かなり弱い。最近居間で仕事していたのも、離れより涼しいからなの」
美香からの仕事を受けたあと、よく居間で仕事をしていた千尋を見かけた。
「ここが一番涼しいから。ごめんね、散らかして」
「かまわんよ、それくらい」
それは、ただ単に仕事が忙しいからだと思っていた。元々、美香からの仕事は完全にプライベートの時間で取り組むと話していたこともある。
「美香ちゃんの仕事は正直お金にならないから。だから、今まで通りの仕事の時間以外で取り組むよ」
「大丈夫なんか?」
「もう無茶な仕事はしないよ。それに好きなこと仕事にしているから、半分趣味のようなものだしね」
そういい、笑う千尋にあまり遅くまで仕事しないように声をかけて、武史は祭りの打ち合わせのために連日出掛けていた。
夕飯も打ち合わせがてら外で食べることが多かったため、千尋の様子に気づくのが遅くなった。

忙しかったし、最近は千尋も落ち着いていたから安心していた。
楽しそうに美香の持ってきた仕事をしている様子も見ていたからだ。
それでも、武史はもっと早く気付いてあげればと後悔する。
元々、智史の部屋だった離れはプレハブ造りのため、夏は恐ろしいほど暑くなる。
武史に夏バテがバレるまで、普段と変わらず離れで寝ていた千尋に申し訳なくなった。


武史はすぐにクーラーを設置する手配をした。
「同級生に電気屋がおるんや」
同級生と家を見て回り、設置場所を決める。
やはり離れに設置するのはよくないらしく、1階の玄関のすぐ側の部屋に設置をするようにした。
「じいちゃんたちが使っていた寝室と玄関横の部屋、どっちがええ?」
武史に聞かれた時、千尋は選べるなら、と迷わず玄関横の部屋を指定した。
「朝、うるさいと思うぞ、そっちなら」
駐車場と隣接しているため、朝早くに仕事に向かう武史が車を動かすと起こしてしまう可能性があった。それを伝えても千尋はこっちがいい、と言う。
「だってこっちだったら、タケちゃん帰ってきたらすぐにわかるじゃん」
「え?」
「そうしたらご飯の支度しやすいしね」
千尋の言葉に他意はない。ただ、本音を言っているだけだとわかっている。
勝手に彼女の言葉に一喜一憂してしまう。
わかっているが、顔がニヤけるのを抑えきれなかった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...