傷ついた心を癒すのは大きな愛

雪本 風香

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奇妙な同居生活4

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小さい頃の記憶と車に乗りながら見る町並みは驚くほど変わっていた。
特にランドマークだった百貨店が潰れていて、憩いの広場になっていたことには驚いた。
「どれくらい前やったかなぁ。結構前に潰れたんや。今は郊外にショッピングモールが出来たけん、そっちに人が集まってるわ」
「そうなんだ。なんか寂しいね」

千尋がポツリと呟くと、最近はそうでもない、と武史は笑う。
「千尋が知っとんは昔の町だけやから、そう思うんやろな。今この町結構よくなっとるんよ」
武史によると数年前から地元を盛り立てたいという若い人が集まって、産業を盛り立てたり、スポーツチームを立ち上げたりしているとのことだ。
一時期は衰退しか感じなかった町も少しずつ町おこしが身を結び、賑わいを取り戻して来ているとのことだ。

「確かに中心部は年寄りも多いけん、寂れとるように見えるが。最近俺らの世代でも店やったりしとるから少しずつ活気が戻ってきとんや」
そう話す武史の顔はキラキラしていた。
この町のことは遠い記憶の中でしか覚えていなかった千尋にとっては新鮮だった。


たまに来る田舎で、同じ年代の子どもたちと会えるからこそ楽しいと思っていたこの町。
大人になって来たのは、昨日の引っ越しの時を除くと、祖母の遺骨を先祖代々のお墓に納めに来た数年前と、引っ越す前の下見の2回だった。
(自然以外、余計なものが何もない町だ)
それが正直な感想だった。そういう町だからこそ、柳田を忘れるのには相応しいと思った。
『止めといたほうがいい。あの町は都会人にはキツい。武史と住んでいたらすぐに噂が広がるし、周りもそういう目で見る。近所付き合いもある。更に傷つくかもしれん』
見舞いに来た智史に、敏子からの提案を話すと全力で止められた。あの町があまり好きでないと日頃から言っていた智史だったので、私情も混じっていただろう。
それでも彼にしては珍しく、何度も執拗に止めてきた。

『一人で暮らしていたら、私は柳田さんのことを拒めない』
この言葉に、智史は折れた。
『柳田さんを忘れるために、タケちゃんを利用する…酷いことだとはわかっているけど、それでも私は…柳田さんの事をふっきらないといけないの』
智史は大きなため息をつく。
『そこまで言うなら俺は何も言えんわ。武史には早めに柳田さんのこと話しや。千尋に利用されているかと感じるか、それとも身内だから助けたいと思うかは、話を聞いた上で武史が決めるやろう』
いつもは出ない地元の方言で話す智史の言葉で、どれほど心配かけているか察する。
詫びの言葉を伝えようと口を開こうとした千尋より先に智史が喋る。
『身内やから謝らんでええ。…もっと頼りや、千尋も俊樹も。二人とも頼らなすぎや』
千尋は色んな思いを込め、一言だけ言葉を発した。
『ありがとう』



ここに来る前の智史とのやり取りを思い出す。何もない町と思った千尋とは正反対に武史はこの町と共に生きていた。
「タケちゃんはこの町が好きなんだね」
「そうやなぁ。俺はここしか知らんけど、出ていきたいとは思ったことはないな。兄貴がよく言う近所顔見知り、っていうので煩わしく思う人もおるやろうが、俺はここが好きやな」
真っ直ぐな武史が眩しかった。

両親が事故で死んだ後祖父母のところへ引越し、その後、大学進学を機に一人暮らしを始めた千尋にとって住む場所に拘りはなかった。
そのため、住む町に愛着を持ったこともなく、便利かどうかでしか判断はしてこなかった。

「羨ましいな」
ポツリと呟いた千尋の言葉に武史は、何が?と尋ねる。
「居場所があって」
武史はチラリと横目で千尋を見ると、なんの気なしに言う。
「なら、千尋がその場所を見付けるまでここにおりや。俺がそれまで千尋の居場所になるわ。千尋がよければずっとあの家におってもいいし」
驚いたように武史を見つめる千尋に何をそんなに驚いているのか疑問に思いながらも、先程自分の言葉を振り返る。
千尋もおずおずと武史に伝える。
「その言葉は大切な人に取っといた方がいいよ。誤解されちゃうよ」
自分の言葉の意味を理解した武史は思わず顔を赤くする。
そんな武史の様子に吹き出した千尋は笑いながらも武史に感謝の言葉を伝える。

「タケちゃん、ありがとう」



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