傷ついた心を癒すのは大きな愛

雪本 風香

文字の大きさ
上 下
6 / 61

奇妙な同居生活3

しおりを挟む
またお盆に。そういい、あっさりと改札を潜った俊樹の後ろ姿を見えなくなるまで見送ると、武史は再び家に帰った。
家に帰ると、千尋が洗濯を干しているところだった。
「悪いな」
「こちらこそ、俊樹を送ってくれてありがとう」
武史が外出している間にインターネットの回線も無事終わったようだ。
「明日から私も仕事開始する予定」
「まだ疲れあるやろうから、無理せんようにな」
千尋に声をかけると、武史はシャワーで魚の臭いを洗い流す。居間に向かうと千尋が武史の分と自分の分のお茶を持ってきた。
(ばあちゃんそっくりだな)
俊樹が言っていた家事は祖母仕込みというのは本当なのだろう。行動が武史の祖母とそっくりだった。離れていても姉妹は似るものなんだと変に関心をする。

チラリと正面に座る千尋を見る。俊樹のセリフで武史は初恋が千尋だったことを鮮明に思い出していた。
(トシがあんなこというから、変に意識してしまうな)
そういう目で千尋を見ると、外見は親戚じゃなければ口説いているくらい好みのタイプだった。

「美味しくなかった?」
黙り込んだ武史に心配そうな顔で尋ねる千尋に首を振り、先程自分が感じたことを伝える。
「うちのばあちゃんも、俺が風呂から上がるとこうしてお茶を持って来とったんや」
「へぇ。離れていても姉妹って似るんだね」
武志と同じような感想をいい、千尋は改まった表情で武史に伝える。

「これからお世話になります。家事とか迷惑でなければしてもいいかな?きちんとお金もいれるから」
「迷惑なんかじゃない。昨日も夕飯作ってくれたし、今だって洗濯干してくれて。正直助かるわ。ただ、ちゃんと分担しよや」
「でも...」
「でも、じゃないわ。子どもやないし、俺も今まで一人暮らしやったからできるしな。...ただ、頼みがある」
「何?私にできること?」
武史は頷くと、少し照れ臭そうに話した。
「できれば、料理は作ってくれんか?朝、昼は適当にするから夜だけでも」
身構えていた千尋は安心したように笑い、もちろん、と頷いた。
「なんだ、そんなことならお安いご用よ。でも昨日は張り切って色々作ったけど、いつもはあんなにできないよ」
「そんなの気にせんわ。千尋の料理、旨いんや。好みの味っていうんかな、懐かしいけどばあちゃんの味とも少し違うし。これから楽しみや!」
心の底から嬉しそうに笑う武史に千尋も釣られて笑顔になった。
その顔は、幼い頃よく見ていた笑顔と一緒で思わずドキリとしてしまった。

その他の家事の分担や金銭的なことを相談する。
どうしても在宅にいる時間が長い千尋が家事を多く担う分、金銭的な負担は武史が多めに負担することで調整した。
東京での生活費と同額を渡そうと思っていた千尋は、その金額を武史に伝えたところ、絶句していた。
「その金額なら、俺なら2~3ヶ月は暮らせるわ」
そういい、その金額の1/6を家に入れるように伝える。
「少なすぎるよ!」
「いうて生活費そんなにかからんわ。物価安いし、魚なら売るほど採っとる。家も持ち家やし、固定資産税もそんなかからん。高くなるんは精々食費と光熱費くらいや。あとは千尋が車いるかどうかやな」
どうする?と尋ねるが、田舎で暮らしたことがない千尋にはいるかどうか検討もつかない。
「ま、1回1台でやってみるか。俺も9時5時の仕事やないから、スーパーくらいなら毎日でも連れていけるしな」
「それならタケちゃんの負担大きいからもっと入れる」
「いいって。しばらく生活してみて、足りんかったら言うわ」
そう言って武史は立ち上がった。
「とりあえず日がある内に出掛けようや。足らんもんとかあるやろ?」

何か話したそうにしていたが、それ以上武史は聞く耳を持たないことを察したのか渋々着替えてくる、と言い残し離れに向かう千尋を見送る。

伸びをすると、縁側で寝ているトラが目に入った。近づいていき、横で一服する。
鬱陶しいそうに武史を睨みつけたトラだが眠気の方が勝ったのか、再び大人しく丸まった。
指先で毛を撫でながら、ため息混じりに煙を吐いた。
「同居の期限決めればよかったなぁ。それとも…」
そこで武史は言葉を切った。1つの可能性に気付いたからだ。あまりにもぶっ飛んだ考えてだが、敏子の性格を考えるとあり得ないことではない。
「…なし崩しに一緒にさせる気か?」
イヤな想像が頭をよぎる。その考えを振り払うように、千尋が来るまでトラを撫で続けた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...