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第九章「日蝕-エクリプス-」
滅びの日蝕
しおりを挟むとうとう、目覚めやがったか。
……そのようね。
気は進まねぇが、オレ達の力も必要になるようだ。魔魂は失われたが、精神体だけでも出来る事はある。
ええ……。
空を漂う黄色と水色の小さな光。光の正体は、地の英雄ボルデと氷の英雄フィンヴルであった。
「がっ……がはっ! あ、うっ……」
前屈みの体勢で更に吐血するレウィシア。吐血の量は血溜まりが大きく広がる程で、ハデリアの拳の一撃だけでアバラが折れる大きなダメージを受けていたのだ。苦悶の表情で口から血を垂らしながらも、ハデリアの姿を凝視するレウィシア。ヴェルラウド達は、ハデリアから漂う恐ろしい威圧感に身も凍る戦慄を覚えていた。ハデリアは無表情のまま右手を掲げると、黒い稲妻を纏う紫色の光が放たれる。光は天井に巨大な穴を開け、その穴からは空が見えていた。
「……まだ馴染まぬ。我が力に適合する身体を得たとはいえ、元は人の子の肉体。もっと冥府が必要だ」
呟くようにハデリアが言うと、周囲に凄まじい波動を巻き起こす。波動によって一瞬で吹き飛ばされるレウィシア達。ハデリアは天井に開けられた巨大な穴から上空へ飛んで行く。
蘇れ、冥蝕の月よ。我に冥府を与えよ。そしてこの地上が再び冥と死の世界に還る時――
上空に佇むハデリアが冥府の魔力を解放した瞬間、邪悪な色に輝く黒い球体が浮かび上がる。黒い球体は、太陽を覆い尽くす程の大きさとなっていく。冥神の力『エクリプス』によって造られた、冥府の闇を生む冥蝕の月であった。冥蝕の月で覆われた太陽。闇で覆われていく世界。まさに滅びを意味する日蝕であった。
「あれは一体……」
天井の大穴から冥蝕の月を見ていたレウィシアが小声で言う。口の周りは大量の吐血によって血に塗れ、顎から血を滴らせていた。リランが回復魔法を掛けるものの、受けたダメージはすぐに回復する気配がない。
「まるで次元が違い過ぎる。俺達はあんな途方もない敵に挑もうとしていたのか……」
圧倒的な力に加え、冥蝕の月がもたらした暗闇の地上を見て戦慄の余り心の底から恐怖を感じるヴェルラウド。
「あの力は……一瞬で消し去られる気がしました。ケセルの比ではないあの力……」
ラファウスの表情は冷や汗に塗れている。
「あんなバケモノとどうやって戦えばいいんだ……どうやって……」
ハデリアの冥神の力に圧倒されたテティノは底知れない絶望感に襲われていた。
「陛下や浚われた方々を救わねばならないが、あれ程の相手では最早……」
オディアンも冷や汗に塗れる程の恐怖を感じていた。ロドルは拳を震わせながらも、倒れているリティカの姿をずっと見ている。
「……みんな。どうかお父様達と安全な場所に避難していて。ハデリアは、私が倒すわ」
胸部を抑えながらもレウィシアが言う。回復魔法で内臓へのダメージは回復したものの、折れたアバラはまだ完治しておらず、痛みが止まらないのだ。
「相手は全ての闇を支配する神。それに立ち向かえるのは、神の光を手にした私しかいない気がする。みんなはお父様達を守っていて欲しいの」
天井の大穴からの空を見上げた瞬間、胸からの激痛でレウィシアはよろめいてしまう。
「レウィシア!」
「平気よ。心配しないで」
笑顔を向けるレウィシア。だがその笑顔は無理に作っているように見える。
「……確かに、母上やルーチェ達を守れるのは私達くらいしかいませんね」
ラファウスの言葉にテティノとオディアンは頷くが、ヴェルラウドは俯いたままであった。
「力にすらなれそうにないのが非常に口惜しいが……どうやらレウィシア王女に頼るしかないようだ。今守るべき人を守るのも騎士としての務めだからな」
オディアンはブレドルド王の姿を凝視する。
「妥当な判断だ。戦える奴だけ来ればいい」
そう言ったのはロドルであった。
「あそこにいるお袋……リティカは貴様等に任せる。俺は奴と運命を共にする」
冷徹な態度で言い残し、その場を去ろうとするロドル。
「待ちなさい! あなたのお母様なんでしょう? どうしてあなたが守ろうとしないの?」
レウィシアが呼び止めると、ロドルは鋭い視線を向ける。
「あの人がロドルの母親なのか?」
リティカを見て驚くヴェルラウド。
「……リティカは今の俺を知らない。死を呼ぶ影の男として生きる俺の姿を見せるわけにはいかん。これ以上の事は聞くな」
そう言い残し、ロドルは去って行く。レウィシアはロドルの後を追おうとすると、ヴェルラウドが背後から声を掛ける。
「……レウィシア。俺もお前と共に戦う」
「ヴェルラウド!」
「俺は最後までお前の力になりたい。例え次元が違い過ぎる相手でも、騎士としてお前を守りたいんだ。この命を捨ててでもな」
眼前で言うヴェルラウドの強い眼差しを見ていると、レウィシアは胸が熱くなるのを感じた。
「レウィシア……」
ラファウス、テティノ、リラン、オディアンがレウィシアとヴェルラウドを見つめている。
「……後は頼むわ」
仲間達に穏やかな笑顔を向け、ヴェルラウドと共に進むレウィシア。ラファウス達はその場を去るレウィシア達を黙って見送っていた。
冥蝕の月による日蝕は世界全体を闇に包むだけではなく、人々にも何かしらの悪影響を与えていた。
「どうなってんだよこりゃあ……俺達、どうなっちまうんだよぉ!」
月から溢れ出る冥府の力によって、一部の人々が恐怖と絶望感に襲われていた。中には倦怠感を感じる者や、感情が爆発して発狂する者、放心状態で空を眺めている者、蹲って苦しんでいる者もいる。
「な、なななな何ですかこれは……何がどうなってるのおおお! 何が! 何が! 何が始まろうとしているのです? ひゃあああああ!」
トレイダの町ではメイコがパニック状態になっていた。その傍らには狂ったように吠え続けるランとレンゴウがいる。
「おい、落ち着け! 騒ぐんじゃねえ!」
レンゴウが怒鳴りつけるものの、メイコは落ち着けない様子であった。冥府の力の影響で精神が不安定に陥っているのだ。
「ちっくしょう……これから何が起きようとしているんだ? この状況、本格的にやべぇかもしれねぇな」
レンゴウが周囲を見渡すと、多くの住民が様々な悪影響を受けている状況であった。
「うぐぐ……何なんだこの感覚は。まるで暴れ出してぇ気分だ、ぜ……」
心の中がざわつき始め、頭を抱えるレンゴウ。メイコの騒がしい声とけたたましく吠えるランの鳴き声に耳を塞ぎながらも、暴れ出す衝動を必死で抑えていた。
各地は大混乱に発展していく。激しく殴り合い、殺し合いを始めるラムスの住民達。各王国に次々と現れる、精神が崩壊した人々の姿。冥府の力は地上の生ある者の心を深い闇で蝕み、潰し合いや己の破滅、自滅を招くものであった。
レウィシアとヴェルラウドが先立って外に向かったロドルに追い付くと、ロドルは振り返らずに立ち止まる。
「フン、誰か一人は来るだろうと思っていたが……男の方は死ぬつもりで来たのか?」
「それを言いたいのはこっちだ。あんたこそ、冥神がどんな奴なのか知ってるんだろうな」
ヴェルラウドの返答に対し、ロドルは僅かにレウィシア達の方に振り向く。
「……俺に残された道は、奴に一矢報いる他に無い。俺はターゲットの暗殺に生きる者……今のターゲットは冥神となった奴。それだけだ」
それだけを言い残し、再び歩き出すロドル。
「あいつ、死ぬ気なのか」
ヴェルラウドが呆れたように呟く。
「彼の好きにさせましょう。相手が冥神といえど、戦力にはなるはずよ」
冷静にロドルの後を追うレウィシア。足を動かしているうちに胸から響き渡る痛みで立ち止まり、胸部を抑えるレウィシアをヴェルラウドが支える。
「レウィシア、本当に大丈夫なのか? まだ完治していないんだろ?」
「余計な心配しないでちょうだい。リラン様の回復の力ならばもうすぐ完治するはず」
こんな時に無理するもんじゃないだろと思いつつも、ヴェルラウドはレウィシアを支えながら先へ進む。約一時間後、三人は洞窟の通路を抜けて外に出ると、闇に包まれた地上の様子に言葉を失う。そして空に浮かぶ冥蝕の月。
「クッ……何だこの空気は」
空気の重苦しさで気分が悪くなるヴェルラウド。冥蝕の月から放たれる冥府の力の影響によるものであった。
「……不快な気分だ。これも奴の仕業だというのか」
冥府の力を肌で感じていたロドルも不快感を覚える。
「あれもハデリアが……!」
レウィシアは険しい表情で冥蝕の月を凝視していると、月の前にある人影の存在に気付く。上空で世界の様子を見下ろしているハデリアであった。
「まさか、あそこにいるのがハデリアか?」
ヴェルラウドも月の前に佇むハデリアの存在に気付く。
「……ハデリアッ!」
大声で怒鳴る形でレウィシアが呼び掛ける。
「ハデリア! 私と戦え! 貴様は私が倒す!」
更に大声で呼び掛けるレウィシア。その声が聞こえたのか、ハデリアが動き始める。ロドルは刀を抜き、ヴェルラウドが剣を構える。そしてレウィシア達の元へ向かって行くハデリア。三人が身構えた時、ハデリアが降臨する。
「……人の子よ。神に仇名すというのか」
凍り付いた視線を向けながらもハデリアが問う。レウィシアはハデリアの肉体の元がネモアだという事実を必死で払い除けながら、汗ばむ手で剣を握り締める。
「笑止な。貴様こそ、人の子の身体を利用している。それで神を名乗るなんておこがましいわ」
気丈に声を張り上げて反論するレウィシア。
「我が肉体に流れる血が激しく騒いでいる。まるで何かを求めているようにな」
ハデリアは一瞬でレウィシアの前に現れ、掌が迫ろうとした瞬間、レウィシアは剣を振り下ろす。その剣を軽く受け止めるハデリア。
「う、くっ……!」
素手で剣を受け止められたレウィシアは力を込めるものの、ハデリアの力によって完全に押さえられていた。ハデリアの目が光ると、凄まじい衝撃波がレウィシアを襲う。
「ああぁぁっ!」
大きく吹き飛ばされていくレウィシア。
「レウィシア!」
ヴェルラウドはレウィシアの元へ向かおうとするものの、正面に立つハデリアの姿を見てはその考えを一旦止め、剣に意識を集中させて赤い雷を纏わせる。同時にロドルの全身が激しい雷のオーラに覆われる。凄まじい勢いで唸る二種類の雷を前にしてもハデリアは表情を変える事無く、凍り付いた目でヴェルラウド達を見つめていた。
「うおおおおお!」
ヴェルラウドとロドルが同時に突撃する。雷を纏う二人の斬撃が次々と繰り出されるが、ハデリアはその場から微動だにせず、攻撃は全く通用していない。二人は攻撃を当てる度に、まるで何かに弾かれているような感覚を感じていた。反撃に警戒して後方に飛び退く二人。そこに吹っ飛ばされたレウィシアが大きく飛び上がり、二人の元へ着地する。
「レウィシア!」
思わずヴェルラウドが声を掛ける。
「もう解ったでしょう? 全力で掛からないと一瞬で殺されるという事が」
レウィシアはハデリアに視線を移し、真の太陽の力を呼び起こす。太陽の力に共鳴するかのように光輝く剣。そしてその光は太陽のように燃えつつも大きな輝きを放つ。ハデリアはその光に表情を険しくさせ、対抗するかのように黒く燃える闇のオーラを身に纏う。
「忌まわしき太陽に選ばれし人の子よ……何処までも我の邪魔をしてくれるか。汝だけは我が手で跡形も無く滅ぼしてくれよう」
眉間に皺を寄せたハデリアの顔付きには最早ネモアの面影すらなく、レウィシアは今戦う相手が滅ぼすべき冥神と呼ばれる存在であり、これが正真正銘最後の戦いである事を改めて認識し、全身の血を滾らせる。脇に立つヴェルラウドとロドルが再び剣を構えると、強く輝く赤い雷と荒れ狂う雷霆の波動が巻き起こる。
例えハデリアがネモアの身体を己の血肉としていても、私の手で滅ぼさなくてはならない。
そう、ネモアは死んだ。これはネモアではなく、邪悪なる神そのものだ。最愛の弟の死を汚した上、地上の全てを滅びの世界に変えようとしているお前だけは絶対に許さない。
真の平和を取り戻す為にも、絶対に負けられない。
「行くぞ、冥神ハデリア!」
レウィシア、ヴェルラウド、ロドルの三人が一斉に飛び掛かる。ハデリアは三人を迎えるかのように、目を光らせながら両手を大きく広げた。
その頃、ラファウス達が浚われた人々を安全な場所へ運び込もうとした瞬間、大きな衝撃が遺跡全体に伝わり始める。
「な、何だ?」
地上で行われているレウィシア達とハデリアの戦いは、地下に瓦礫が落ちる程の凄まじい衝撃を与えているのだ。
「冥神との戦いが行われている。この場にいては危険だ」
危険を感じたリランはリターンジェムを取り出し、全員に集まるように呼び掛ける。
「リラン様、レウィシアは……」
「今は彼女達の勝利を信じるしか他に無い。我々に出来る事を優先しろ」
リターンジェムを天に掲げるリラン。ラファウス達が浚われた人々と共にその場から脱出すると、途轍もない衝撃が遺跡全体に走った。
リターンジェムによるワープ移動で辿り着いた先は、賢者の神殿前であった。ラファウス達は日蝕による闇に覆われた外の様子に愕然とし、冥蝕の月がもたらす冥府の力で気が重くなるのを感じる。
「うくっ……何だこの感じは。早く神殿の地下に向かうぞ」
外にいるだけでも何かしらの悪影響を受けてしまうと考えたリランは、ラファウス達と協力して浚われた人々を運びながらも半壊した神殿の中に入り、マチェドニル達がいる地下へ向かう。神殿の地下には、マチェドニルを始めとする賢人達が避難していた。
「おお、リラン様! 皆も……」
「話は後だ。この者達を安全な場所へ運んでくれ」
マチェドニルと賢人達は浚われた人々を奥の部屋で安静にさせる。
「こういう場所があったのが幸いだ」
リランは疲れた表情でその場に座り込む。ラファウス、テティノ、オディアンはハデリアに戦いを挑んだレウィシア達の事が気掛かりであった。
「レウィシア達は勝てる……よな?」
テティノが呟く。
「何があっても勝つ事を信じろ。我々が信じなくてどうする」
冷静な声で返答するオディアン。戦いの行方が気になりつつも、テティノはマレンが眠る場所へ向かおうとする。
「どうした?」
「マレンの様子を見るんだ。妹の事も心配だからな」
テティノは奥の部屋で安静にしているマレンの顔を見る。静かに眠るその顔は美しく、まるで人形のようであった。
「マレン……不甲斐ない兄でごめんな。お前だけは必ず助ける。必ず」
マレンの手を握り締めるテティノ。その手は冷え切っており、温もりが感じられない。
「……僕に何か出来る事があれば……」
テティノはずっとマレンの手を握り、その場に蹲る。
「皆、魂を抜かれているようだ」
現れたのはマチェドニルであった。
「マレンは……皆は助かるのですか? レウィシア達が冥神を倒す事が出来たら……」
テティノが声を張り上げて問い掛けるが、マチェドニルは俯きがちであった。
「冥神を倒したとしても、無事で魂が皆の元へ戻るかどうかはわしにも解らぬ。皆の魂は、今や冥神の中にあるようだからな……」
マチェドニルの言葉を聞いては項垂れ、拳を震わせるテティノ。
「……僕の魂だったらいくらでもくれてやる。マレンを救う為に此処まで来たんだ。それすらも出来ないなんて絶対に嫌だ」
呟くように言うと、テティノは涙を溢れさせる。
「テティノよ、気持ちは解るが決して早まった真似だけはするでないぞ。可能性がないというわけではないのだから、例えごく僅かな可能性であってもそれに賭けるしかあるまい」
そう言い残し、部屋から去るマチェドニル。
「……ごく僅かな可能性か。それに賭けるしかないのかな」
テティノが部屋から出ようとすると、不意に動悸を感じて立ち止まる。まるで何かに共鳴しているかのように、体内の血が騒ぎ出す感覚に襲われた。
何だその顔は? しっかりしろよ。お前はアクリアムが選んだ奴なんだろう?
頭の中から聞こえる声。聞き慣れない声に思わず身構えるテティノ。
「誰だ!」
声を上げた瞬間、テティノの前に小さな黄色の光が現れる。地の英雄ボルデであった。
「オレの名はボルデ。失われた地の魔魂の主というか……お前を選んだ英雄アクリアムの同士といったところだ」
「何だと?」
テティノが驚く中、ラファウスがやって来る。
「ラファウス!」
「テティノ、どうかこの方達の話を聞いて下さい」
ラファウスの前には、水色の光――氷の英雄フィンヴルが佇んでいた。
「……改めて説明するわ。私はフィンヴル。あなた達を選んだ英雄の同士となる者……」
バランガの死後、完全に消滅した氷の魔魂の主であるフィンヴルが自己紹介をすると、ボルデが言葉を続ける。
「冥神が復活した今、お前達は六つの魔魂もとい英雄の力を一つにしてそれぞれのエレメントを司る神を呼び、冥神の力を封印しなきゃならねぇんだ。オレとフィンヴルには魔魂の適合者となる奴がいねぇ上に魔魂そのものが失われている。だが、オレ達の魂そのものを力に変える事が出来れば……」
ボルデ曰く、神の中には地上に存在する炎、水、地、風、氷、雷――六つのエレメントを司る神も存在し、それぞれの神に選ばれた存在が魔魂を生んだ冥神に挑みし英雄であった。アクリム王国の領土内にある滝の洞窟に祀られている水の神や風神の村で崇められている風の神が当てはまり、六つのエレメントは神によって生み出されているという。エレメントを司る神は地上の均衡を保つ為に地上に干渉してはならない理があるものの、冥神の力を封印するには神の力を借りる必要がある故、英雄の力を集める事でそれぞれの神に呼び掛けて力を貸してもらうという考えであった。
「これは賭けだ。上手く行くかどうかは予測が付かねぇ。オレ達を選んだエレメントの神々は基本的に地上に手出ししてはいけない決まり事があるからな。下手すりゃ等価交換って事で重い代償を背負うかもしれねえ」
「何だって?」
テティノとラファウスが愕然とする。
「……でも、このままだと確実に終わりよ。今冥神と戦ってる人……明らかに勝算はゼロでしかない。冥神は冥蝕の月から大いなる力を得ている。冥神の力の源となるものを封印しなくては勝ち目は無い。何もしないよりはマシじゃないかしらね」
フィンヴルの言葉に思わず顔を見合わせるテティノとラファウス。そして二人は同時に頷いた。
「おい水色のボーズ。お前の中にいるアクリアムとはどう話を付けたんだ?」
「ボーズって誰の事だ。話だったら『決して心を迷わせるな。お前には果たすべき使命があるだろう』と言われている。だから、果たすべき使命の為にもお前達の話に乗る事にする」
テティノが堂々と声を張り上げて言う。
「……へっ、何だ。ネガティブな奴かと思ったが、案外肝が据わってるんだな。その言葉に嘘はねぇんだな?」
「当たり前だ。これでも僕は、覚悟を決めて自分の命を削っているんだ。今更何があろうと、引き下がるわけにはいかないからな」
テティノはふとラファウスの顔を見る。
「……言わずとも解るでしょう? 私がどう考えているのか」
冷静に返答するラファウスに、テティノはふっと微笑みかける。
「どうやらお前は、アクリアムの意思と一つになったようだな。安心したぜ」
ボルデとフィンヴルの光が力強く輝き始める。
「行きましょう。レウィシア達の元へ」
決意を固めたテティノとラファウスはレウィシア達の元へ向かうべく、マチェドニル達に事の全てを伝える。
「そうか……解った。それが冥神を倒す方法に繋がるとならば止めるわけにはいかぬ。どうか無事で戻って欲しい」
「はい。マレンや、皆を救う為にも必ず……!」
力強く言うテティノの目に強い意思の光が宿っていた。
「俺はリラン様と共に浚われた方々を守るつもりだ。後の事は任せたぞ」
オディアンの一言に頷くテティノとラファウス。
「君達ならば未来を救うと信じている。どうかこれを受け取ってくれ」
リランが魔法を掛けると、テティノとラファウスの身体が光の膜に覆われる。
「これは?」
「我が魔力による光の加護だ。焼け石に水かもしれぬが、闇の力による影響を和らげる事が出来る」
光の加護による膜は、闇の力や邪悪な力による呪いを遮断する結界であった。テティノとラファウスはリランに感謝しつつ、マチェドニル達に見送られながらも神殿から出て飛竜カイルを呼び出す。二人を乗せたカイルはボルデとフィンヴルの導きを頼りにレウィシア達がいる孤島アラグへ向かうものの、冥府の力を受けている影響か、飛行速度が弱まりつつあった。
「おいカイルよ、大丈夫か? しっかりしろ! お前が頑張らなきゃ全てが終わりなんだぞ!」
テティノが叱咤すると、カイルは鳴き声を上げながらも一生懸命翼を羽ばたかせる。
「無理をさせてはいけません。この嫌な感じの空気は生物に悪影響を及ぼしているようですから」
冷静さを失わずにテティノを窘めるラファウス。
「……冥蝕の月が世界中に冥府の力をばらまいているのよ」
フィンヴルの一言。
「冥府の力は地上の生き物にとって有害でしかねぇ上に、冥神には力の源となるタチの悪い代物だ。こいつは急がないとやべぇかもな」
ボルデが真剣な様子で言うと、テティノは手綱を引く。それに応えるかのように、カイルは飛行速度を上げ始めた。
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