上 下
54 / 61
第九章「日蝕-エクリプス-」

古の英雄

しおりを挟む



冥神――かつてこの地上を冥府という名の深淵なる闇で覆い尽くした魔の神。

お前が挑む相手は、神そのもの。俺は多くの同士と共に冥神に挑んだ。お前はまさに俺だ。

俺の全てをお前に与える。雷霆の魔導師トトルスとしての力を。


小さな雷雲に姿を変えたトレノに乗るロドルが辿り着いた先は、孤島アラグであった。島中が凄まじい邪気に覆われ、中心部に聳え立つ高い岩山は頂上が黒い霧で覆われている。
「ギギギ……ニンゲン……ニンゲン……」
魔物の声が聞こえて来る。見上げると、無数の魔物が飛んでいた。更に、獲物に飢えた猛獣のような唸り声が聞こえる。島に生息する醜悪なデーモン族の魔物であった。
「フン……死に急ぎたいのか」
雷を纏う二本の刀を手に、ロドルは次々と襲い来る魔物達に挑んでいく。


飛竜ライルと飛竜カイルは孤島アラグへと向かっていた。ライルにはリラン、ヴェルラウド、オディアンが乗っており、カイルにはレウィシア、ラファウス、テティノが乗っている。スフレに代わってライルを操る事になったリランは飛竜の扱いに慣れていないせいで思い通りに動くよう指示するだけでも一苦労であった。
「くっ、スフレとマチェドニルはどうやって飛竜を手懐けたというのだ」
手綱を握りつつ指示するリランだが、ライルは鳴き声を上げながらも不安定な飛び方をしていた。二体の飛竜は海に出るものの、目的地に辿り着くまではまだまだの距離だった。
「全く、こんな時に完全な飛竜使いの素人に任せられるなんて思わなかったよ」
テティノが呆れたように呟く中、レウィシアは俯き加減で考え事をしていた。
「レウィシア、如何なさいました?」
ラファウスが問うものの、レウィシアは返事しない。
「レウィシア?」
「……あ、ごめんなさい。ちょっと色々考えていて」
「そうですか。無理もありませんね。冥神との戦いが控えていますから」
「それもあるけど……」
レウィシアはふとライルに乗っているヴェルラウドの様子を見る。不安定な飛行の中、ヴェルラウドは表情を変える事なく前方を見据えていた。その目には静かな怒りと悲しみの色が感じられる。
「ヴェルラウド……」
スフレが犠牲となった今、レウィシアはヴェルラウドの心中が気掛かりであった。
「まさか、ヴェルラウドの事が気になるのですか?」
レウィシアの表情で察したラファウスが問う。
「……そうね」
ラファウスは思わずヴェルラウドの顔色を伺う。それに気付いたのか、ヴェルラウドは無言でラファウスに向けて首を横に振る。俺の事は構うな、という意思の表れであった。
「レウィシア。今は感傷に浸っている場合ではありません。その事はお解りでしょう?」
ヴェルラウドの意思を読み取ったラファウスがレウィシアに言う。
「ええ、解っているわ。今私達がやるべき事は、冥神を打ち倒す事。絶対に負けられない戦いだから」
決意の一言と共に、レウィシアは顔を上げる。地平線に見えるのは、黒い霧が纏う高い岩山――孤島アラグだった。


地底遺跡の奥底の最深部では、巨大な球体が空中に浮かび上がっていた。球体の中には、冥神ハデリアの新たな肉体となるネモアの身体、そしてハデリアの魂が入っていた。球体の様子を眺めているケセル。周囲には、闇の鎖による拘束で捕われた人々――クレマローズ王ガウラ、サレスティル女王シルヴェラ、聖風の神子エウナ、アクリム王女マレン、ブレドルド王、リティカ、そしてルーチェがいる。皆が魂を抜かれており、それぞれの魂はハデリアの球体の中に収められ、闇王ジャラルダの魂と融合した事で憎悪と破滅の魂へと作り替えられたブレドルド王の魂は既にネモアの肉体に取り込まれていた。そして、ハデリアの球体の中にいる六つの魂も取り込まれようとしているのだ。
「ククク、主よ。決して悪くはあるまい?」
六つの魂が次々とネモアの肉体に入り込んでいくと、ハデリアの球体が禍々しい力を放つ黒いオーラに覆われていく。
「ふむ……その様子だとまだ完全に馴染んでいないようだな。まあ良かろう。奴らがどう足掻こうと、主は止められぬのだからな」
腕を組みながらも様子を見守るケセル。ハデリアによって取り込まれたそれぞれの魂は冥神の力の源であり、冥神の強大な力を制御する素材であった。


孤島アラグにて、襲い来る魔物の群れを雷の魔魂の力が宿る二本の刀で次々と切り裂いていくロドル。魔物一体一体の強さはロドルの敵ではないものの、数は一向に減らない様子であった。
「チッ……あの野郎、何処にいる」
空中から襲い掛かる影の魔物を一閃で数体撃破したロドルは立ち止まる事なく足を進める。島にある岩山の向こうに地底遺跡が存在するとトレノから聞かされ、ロドルは岩山を越えようとするものの、到底人が登れるようなものではなく、空中からの突入しか他ならない状況であった。
「空から向かおうにも危険が伴うかもしれぬ。だが、お前ならば如何なる危険を顧みずに向かうのだろうな」
トレノはロドルの意思を読み取ったかのように、小さな雷雲となって姿を現す。
「全く、何処までも世話焼きな奴だ」
雷雲と化したトレノに飛び乗るロドル。岩山を越えようとする中でも襲い掛かる魔物達だが、ロドルは刀を振り回していく。次々と発生する雷の衝撃波が魔物達を切り裂いていく。ロドルを乗せたトレノは上昇していくものの、岩山を覆う黒い霧によって視界が阻まれる。
「小賢しい」
ロドルは目を閉じながらも、見えない敵の群れを刀で斬りつけていく。視界が暗闇で覆われても、気配を探る事で敵を捉えていたのだ。


それから暫く経つと、レウィシア達も孤島アラグに降り立っていた。島全体に広がる邪気は、肌で感じる程であった。
「あそこにケセル……そして冥神が!」
緊張感に満ちた表情で足を進める一行。
「リラン様」
レウィシアが突然リランに声を掛ける。
「どうした」
「……死んだ人を生き返らせる力は、存在しないのでしょうか」
半ば重苦しそうな様子で問うレウィシアに、リランは僅かに表情を強張らせる。
「そう考えているのは決して君だけではない。だから今言っておく。それは決して叶わぬ話であると」
死した者を生き返らせる方法は存在しない上に、あってはならないという神の理について話すリラン。言葉も無く俯いているレウィシアを横に、ヴェルラウドは無言で拳を震わせていた。
「今は人の命が失われたという事実に捉われてはならぬ。スフレの気持ちを無駄にするな」
冷静な声でリランが言うと、レウィシアは力強く返事して顔を上げる。
「む、あれは……」
一行はふと足を止める。無数のデーモン族の死体の山。ロドルによって倒された魔物の群れであった。
「まさか、我々の他にこの地を訪れた者がいるというのか」
警戒しながらも足を動かす一行だが、空中からけたたましい鳴き声が聞こえて来る。シャドーデーモンの群れが空中を漂っているのだ。
「邪魔をしないで」
レウィシアは剣を掲げて意識を集中させると、剣先が輝く炎のオーラに包まれる。
「待て、レウィシア。奴らは俺が片付ける」
ヴェルラウドが剣を抜き、赤い雷の力を呼び起こす。
「いくらあなたでも一人では……」
「いいから俺に任せろ」
そう返答すると、ヴェルラウドの全身から雷が激しく迸る。それはまるでヴェルラウドの内なる怒りを表しているかのようであった。その意思に応える形で黙って引き下がるレウィシア。
「おおおおおおおおおお!」
飛び掛かるシャドーデーモンの群れに対し、ヴェルラウドは地面に向けて剣を振り下ろす。次の瞬間、地面に巨大な雷の魔法円が浮かび上がり、天から次々と凄まじい雷光が降り注いでいく。赤い雷光は眩い程光り輝いており、神の雷と呼ぶに相応しい輝きを放っていた。
「グアアアアアアアアアアアア!」
赤い雷光の直撃を受けたシャドーデーモン達が浄化されるように消えていく。
「うおおおおおおおおおお!」
更にヴェルラウドが剣を手に大きく振り上げる。その一撃は輝く赤い雷光の一閃となり、一瞬で残りの魔物達を消し去った。敵が全滅した事を確認すると、剣を収めるヴェルラウド。
「凄い……」
呆然とするテティノ。
「赤き雷が輝いているように見えたが……それが赤き雷の真の力だというのか?」
思わずオディアンが問い掛ける。
「……俺でも解らない。神雷の剣に秘められた力によるものかもしれんが、もしかすると俺の心が力に変えたのかも」
呼び起こした赤い雷が通常よりもずっと光り輝いているのは何故なのか、ヴェルラウドにも明確な答えが解らなかった。自身の心――スフレまでも失い、大切な人を守る事が出来ない悲しみ、そして全てを奪った憎き敵への激しい怒りが剣に伝わり、己の力へと変えたのだろうか。数々の戦いを重ねている内に、神雷の剣を使いこなす事が出来ていた。自身の心が伝わった事で、剣に備わる本当の力が目覚めたのかもしれない。
「スフレはきっとあなたを見守っているわ。全てを守る為にも、必ず冥神を倒さなくては」
レウィシアが足を進めると、ヴェルラウドも後に続く。
「……赤き雷は戦女神の雷であり、全ての魔を打ち砕く雷と闇を浄化する光の炎の力を併せ持つ裁きの雷だと聞く。それが一段と輝いているという事は、もしや戦女神の意思がヴェルラウドに宿っているのかもしれぬ。冥神を裁きで打ち砕くという意思が」
リランは輝く赤い雷について自分なりに解釈しつつも、一行の後を追う。暫く進んでいると、一行は高い岩山の前に辿り着く。見上げると、頂上が黒い霧で覆われていた。
「恐ろしい邪気を感じる。冥神はこの岩山の向こうにいるわ」
呟くレウィシア。岩山の向こうに存在する地底遺跡から発せられる邪気を、レウィシアは感じ取っていた。
「これは飛竜で上から行くしかないのか? でもあの霧だと簡単に辿り着けないんだろうな」
テティノが言うと、突然スプラが飛び出す。同時にエアロ、ソルが顔を出し、スプラの前に飛び出した。
「何だ? お前達、どうかしたのか?」
三体の魔魂の化身は岩山を見つめると、それぞれの宿主に入り込んでいく。
「うっ……!」
レウィシア、ラファウス、テティノは不意に意識が遠のき始める。三人の視界は真っ白になり、緑、青、赤の光が現れる。
「我が力の適合者達よ。今こそ我々と共になる時が来た」
三色の光が、人の姿へと変化していく。緑の光に包まれし者は、風の魔魂の主となる風の英雄ベントゥス。青の光に包まれし者は、水の魔魂の主となる水の英雄アクリアム。赤の光に包まれし者は、炎の魔魂の主となる炎の英雄ブレンネン。レウィシア、ラファウス、テティノの前に現れたのは、かつて冥神に挑んだ古の英雄達であった。
「やあ。とうとうこの時が来たね。今まで君達を導いたのは僕達だ。そして僕達は今、魂として君達と一つになる。冥神を完全に滅ぼす為にね」
「俺達は命の全てを力の魂へと変え、お前達に全てを託す。俺達と共に、全ての災いの根源となる冥神を滅ぼすのだ。これはお前達の戦いであり、俺達の戦いでもある」
「我々は神に選ばれし者。神の手により魂を精神体へと変えて幾千の時を過ごし、お前達と共に冥神を滅ぼす使命を与えられた。冥神を滅ぼす為にも、我々の全てを捧げなくてはならない。今こそ我々と共に、道を切り開くのだ」
それぞれ語り掛ける三人の英雄は三色の輝く玉となり、それぞれがレウィシア、ラファウス、テティノの中に入り込んでいく。光は英雄の精神体であり、玉は英雄の魂であった。
「……おおおおおおおおおお!」
レウィシア、ラファウス、テティノの身体が凄まじい魔力のオーラに包まれる。
「こ、これは……?」
三人の状況に驚くヴェルラウド達。レウィシアが前に出ると、ラファウスとテティノはレウィシアの後ろに並んで立つ。


未来を守りし者達よ、今こそ力を合わせるのだ。それぞれの魔力を天に掲げよ――


三人の頭の中から聞こえて来るブレンネンの声。それに従うように、三人は一斉に両手を天に掲げる。三人の元に、三色の光の柱が昇り始める。


僕達の三つの魔力が一つの魔力として集まる時、それは一つの光となる――

その光は、大いなる力となる。そして、お前達の進むべき道を切り開く――


ベントゥス、アクリアムの声が聞こえる中、天に昇った三色の光の柱は岩山の頂上を覆う黒い瘴気を消し去り、そして巨大な光の矢が降り注ぐ。光の矢は岩山を削り取るように抉り始め、やがて一つの岩山を砕いていった。砕かれた岩山の向こうには、禍々しい悪魔の口を形取ったような門のある洞窟の入り口が見える。門の扉は破壊されており、洞窟の前には朽ちた巨大な台座が置かれていた。そう、洞窟は冥神が封印された地底遺跡の入り口であった。光の柱は消え、レウィシアは前方に存在する洞窟を目にした瞬間、確信する。
「あそこに……冥神がいる」
振り返らず、切り開かれた道を進み始めるレウィシア。ヴェルラウド、オディアン、リランの三人はレウィシア達から更なる大きな力を感じ取っていた。
「レウィシア、今のは何なんだ?」
ヴェルラウドが問う。
「私とラファウス、テティノが持つ魔魂の主と一つになったのよ。魔魂の主は、冥神に挑んだ古の英雄だったから……」
レウィシアの説明にヴェルラウドが絶句する。
「ここに来て魔魂の主が私達に力を貸すとなると心強いですね。まるで生まれ変わったようです」
魔魂に英雄の魂による更なる力が備わった事によって、レウィシア、ラファウス、テティノの三人は全身が漲るような感覚になっていた。
「この力があればやれる気がする。マレンを救う為にも、絶対に負けられない」
テティノの一言に頷くレウィシア。
「まさかこれ程の力を生み出すとは。最早俺とは次元が違う」
レウィシア達の力を目の当たりにしたオディアンはただ驚くばかりであった。
「真の太陽と神の力、そして英雄の力……今まさにレウィシアこそ地上の希望だ。我々は地上の希望と共に戦う光ある者。我々も出来る限りの事を尽くさねば」
リランの言葉に大きく頷くヴェルラウドとオディアン。一行は地底遺跡の入り口となる洞窟へ向かって行く。


その頃ロドルは、トレノとの協力で瘴気に包まれた岩山を乗り越え、地底遺跡へ続く洞窟に侵入していた。
「今のは……」
レウィシア達が呼び寄せた光の矢によって岩山が破壊された衝撃は洞窟内にも伝わっており、一体何があったのかと思いつつもロドルが振り返る。
「あいつらか。適合者に全てを捧げたという事か……」
トレノが呟くように言う。
「どういう事だ」
「我が同士だ。三人の同士が適合者と共に力を合わせて道を切り開いた。そしてこの俺もお前に全てを捧げる事も必要となるだろう」
「何だと……?」
ロドルはトレノの言葉の意味を更に問おうとする。
「いずれ解る事だ。先ずは奴の元へ急げ」
半ばもどかしく思いつつも、ロドルは再び足を動かす。
「グァァァァァ……」
醜悪な唸り声。巨大な黒い肉塊がロドルの前に現れ、肉塊は人の形へと変化していき、三つの目玉が浮かび上がる。ケセルの魔力で生み出された影の魔物シャドーゴーレムであった。
「失せろ」
ロドルは雷の力を帯びた二本の刀で瞬時にシャドーゴーレムの両腕を切り落とす。だが、両腕はすぐに再生され、唸り声を上げながらも殴り掛かって来る。ロドルは両腕から繰り出される拳の連打を難なく回避するものの、シャドーゴーレムは全身から闇の衝撃波を放つ。
「ぬうっ……!」
咄嗟に防御するロドルだが、一瞬で吹き飛ばされてしまう。雄叫びを上げながらロドルに向かって行くシャドーゴーレム。巨体であるにも関わらず、一瞬でロドルの前に来る程の速さであった。振り下ろされる拳を両手の刀で受け止め、力比べをしつつもトレノによる雷の魔力を高めていく。最初はシャドーゴーレムの力に押されるものの、雷の魔力を最大限まで高める事によって徐々に押し返し、瞬時にその巨体を切り裂く。激しい稲妻が迸るロドルの斬撃は次々と繰り出されていく。凄まじい勢いによる二本の刀の斬撃は、シャドーゴーレムの身体をバラバラに切り裂いていた。三つの目玉は斬撃から発生した雷撃を受け、シャドーゴーレムの肉体共々瘴気と化して消えた。
「こんな茶番に付き合う気は無い。奴は何処だ」
刀を手にしたまま、ロドルは通路を進んで行く。


一方、賢者の神殿にてヘリオの療養に協力している賢人達の元にマチェドニルが訪れる。ヘリオは激痛を堪えながらも、マチェドニルに顔を向ける。
「そう無理するでない。足の完治は不能だが、義足に変えれば少しは歩く事が出来るかもしれぬ」
痛ましく思いながらもマチェドニルがヘリオに向けて言う。
「……いや……その必要は無い」
「何?」
「私の使命はレウィシア達を導く事。足を失ったが、使命のままにレウィシア達を導く事は出来た。全ての使命を終えれば、例え足が無い余生を過ごす運命になっても悔いは無い。我らサン族は、全ての使命を終えた時は静かに消えゆくようなものだ」
ヘリオの表情は苦痛に苛まれながらも、穏やかなものとなっていた。
「……そうか。お前がそう言うのならば何も言うまい。どうか、レウィシア達の勝利を祈っていてくれ」
マチェドニルはヘリオを見守りつつも、その場から去る。そしてヘリオは思う。


レウィシア達が挑もうとしている敵は、邪悪な力を司る冥神と呼ばれる存在。足を失っていなくとも、私如きでは無力に等しいだろう。それに……レウィシアからは真の太陽を遥かに越えるような力を感じた。あの時はヘドを吐かせたが、最早この私ですらかなう相手ではない。レウィシアは、きっと地上の太陽になる。


マチェドニルはスフレの部屋に入ると、本棚を探っていた。勉強用として与えられた魔法や世界、歴史に関する書物が入っている中、ある一冊の本を引っ張り出す。スフレの日記帳であった。スフレが幼い頃から密かに付けていた日記であり、勉強の事や訓練での出来事、そしてマカロに関する話が書かれている。

午の月 七の日
魔法ってむずかしい。賢王さまからはお前には天性の魔力があるからいろんな魔法が使えるって言うけど、なかなかうまくいかない。マカロは魔法の先輩だし、何か教えてもらおうと思ったけど、専門外だからとか言って相手してくれなかった。でも賢王さまはあたしにあれこれ教えてくれる。あたしって大賢者になれるのかなぁ?

寅の月 二の日
今日、炎の魔法をマスターしたし、いろんな魔物を魔法でやっつける事ができて、賢王さまからお守りをもらっちゃった。でも、ちょっと気になることがある。最近マカロがものすごく冷たい。マカロが使う魔法はあたしには使えない雷の魔法だしすごいと思ってたけど、あたしと仲良くしたくないのかな? それとも、あたしがいろんな魔法を使えるのが悪いのかなぁ?

寅の月 四の日
今日、マカロが賢王さまに怒られていたのがちょっと気になったから何を言われたのか聞いてみたけど、全然教えてくれなかった。それどころか、訓練で忙しいとか言って全然口をきいてくれない。賢王さまはマカロの事をどう思ってるんだろう?


更にマチェドニルは日記のページを開く。


戌の月 二十六の日
マカロが死んだ。どうしてマカロがあんな怖い力を持ってあたしを殺そうとしていたのかわからない。あたしは天性の魔力とかいうものが備わってるせいでいろんな魔法を使えるから、マカロはあたしの事をずっと妬んでいたの? 賢王さまはマカロの事だってちゃんと認めているのに。あたしがここにいるせい? あたしはいない方がよかったの? あたしにはわからない。それに、あたしは本当にこの神殿に生まれたの? あたしにお父さんとお母さんはいないの?

巳の月 八の日
賢王さまが言ってた赤雷の騎士とかいう人と旅に出たら、そのうちあたしのお父さんとお母さんに会えるのかな。もしお父さんとお母さんがどこかで生きていたら会いたい。賢王さまのいずれわかる時が来るという言葉を信じたいけど……。でも、頑張らなきゃ。何があっても、前を向かなきゃいけない。このスフレちゃん、何があっても負けないから!


スフレの日記を読んでいるうちに、マチェドニルの目から涙が溢れ出る。
「スフレ……色々とすまなかった。実の娘のように育てて来たお前はわしの誇りじゃ。マカロ……お前の気持ちを理解してやれなかったわしを許してくれ……」
涙で濡れていく日記のページ。マチェドニルはスフレとマカロの姿を思い浮かべながらも、頽れて嗚咽を漏らしていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな
ファンタジー
全てを創世せし神によって造られた、様々な種族が生息する世界──その名はレディアダント。 世界は神の子孫代々によって守られ、幾多の脅威に挑みし者達は人々の間では英雄として語り継がれ、勇者とも呼ばれていた。 そして勇者の一人であり、大魔導師となる者によって建国されたレイニーラ王国。民は魔法を英雄の力として崇め、王国に住む少年グライン・エアフレイドは大魔導師に憧れていた。魔法学校を卒業したグラインは王国を守る魔法戦士兵団の入団を志願し、入団テストを受ける事になる。 一つの試練から始まる物語は、やがて大きな戦いへと発展するようになる──。 ※RPG感のある王道路線型の光と闇のファンタジーです。ストーリー内容、戦闘描写において流血表現、残酷表現が含まれる場合もあり。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

処理中です...