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第八章「神の剣と知られざる真実」
炭鉱の奥で
しおりを挟むラムスの町外れには、ほぼ廃墟同然となっている古びた長屋があった。誰一人寄り付かない雰囲気が漂う長屋に、ただ一人住む者がいる。そう、ロドルが身を潜めている場所であった。
「……報酬は悪くない」
札束を受け取るロドル。黒装束を身に纏った依頼者からとある人物の暗殺依頼を受け、前金を受け取っていた。
「で、ロドルさん。ターゲットの事ですが……」
依頼者がターゲットとなる人物について説明を始めると、ロドルは一瞬眉を顰める。
「フン……まあいいだろう」
ロドルは刀を携え、長屋から出る。依頼者の男は含み笑いをしていた。
地下のアジトを出てから半日が経過した頃、レウィシアとヴェルラウドはジュエリーラの案内でラムスの街を抜けた先に広がる険しい森の中を彷徨っていた。森はザルルの炭鉱への通過点であり、森の奥に炭鉱の入り口があるのだ。森の中には凶暴な魔物が数多く生息しているが、ジュエリーラが鞭を振るい、次々と薙ぎ払って行く。ジュエリーラの鞭は強い毒性が含まれる植物から作られている上、様々な毒を合成させた猛毒が塗られている危険なものであった。
「この女、実力は只者ではないようだな」
ヴェルラウドが率直な感想を漏らす。器用に鞭を操って魔獣の群れを退けるジュエリーラの実力に一目置いていた。
「ヴェルラウド、気を付けて!」
レウィシアの声に思わず背後を振り返るヴェルラウド。なんと、筋肉隆々の獣人が背後に立っていたのだ。不意を突かれたヴェルラウドは身構えようとするが、ジュエリーラが即座に獣人に向けて何かを投げつける。
「ウ……オオオオォォッ……!」
獣人の顔が青ざめていき、フラフラとしながらも倒れてしまう。ジュエリーラが投げたものは、毒が塗られたダーツであった。
「フン、情けないわね。背後を取られるなんて。協力者のくせに足手纏いになろうというの?」
辛辣な一言をぶつけるジュエリーラ。
「気に食わん奴だな。言っておくが、俺はお前に協力したいわけじゃねぇんだからな」
「無駄口だけは達者なのね、最近の男は。お供の女の子はお淑やかでお利口さんなのに。尤も、あんたの場合は女一人守れるかどうかも怪しいけどね」
「やかましいぞ!」
ヴェルラウドが掴み掛ろうとする。
「お止めなさい! 無駄な争いをしている場合じゃないでしょ」
いきり立つヴェルラウドを制するレウィシア。
「一人選別を間違えたかもしれないわね。顔はガルドフよりいい方だけど」
「え……?」
ジュエリーラの口から出たガルドフの名前にレウィシアが反応する。
「ガルドフって、あの……?」
「あら、知ってるの?」
「ええ。二年前にちょっと因縁があって」
レウィシアはかつて、クレマローズの太陽の輝石を狙いに現れたガルドフとムアルによる一連の出来事について全て話す。
「へえ、あのグズは私の知らないところで随分大それた事をやっていたのね」
更にレウィシアはガルドフがケセルに力を与えられていたという事を話す。
「つまり、そのケセルとかいう奴がガルドフに王国を襲撃出来る力を与えたって事?」
「そういう事ね」
「全く、今頃何処ほっつき歩いてるのかと思えば……で、ガルドフは今どうしてるの?」
「えっと、それは……」
ケセルに捕えられたという事をレウィシアが話そうとすると、ヴェルラウドが前に出る。
「お前にとっては残念な話だけど、そいつはもういない。俺の仲間に倒されたんだ」
ヴェルラウドの言葉を聞いた瞬間、レウィシアは驚き、ジュエリーラが殺気立った目を向ける。流石に言い過ぎたかと思い、ヴェルラウドは俯き加減になってしまう。
「ああ、悪い。今のは言い過ぎた」
「詫びなんて結構よ。あいつがどうなろうと知った事じゃないから」
悪態を付くような物言いでジュエリーラが返す。
「折角だから教えてやるわ。ガルドフは私の腹違いの弟よ」
「え?」
更に驚くレウィシア。
「あいつだけが一番話の分かる奴だったのよね。いっつも私の足を引っ張るようなグズだったけど」
ジュエリーラはガルドフと過ごした過去の日々について語り始める。
ラムスにて生まれたジュエリーラは街で幅を利かせる賊の集団によって結成された闇組織『賊殺団』の親玉の娘であり、母親はジュエリーラが生まれてから数年後に、街に存在する他組織との抗争に巻き込まれて死亡していた。だが、父親には隠し子がいた。それがガルドフであり、母親の死後からジュエリーラと共に組織の中で育てられるようになった。闇組織の世界で生きる事となったジュエリーラとガルドフは父親から愛情の欠片も与えられる事無くアウトローな盗賊として鍛えられる毎日であり、ガルドフの母親もやがて帰らぬ人となってしまった。
早くしな、ガルドフ。モタモタしてるとまた奴に殴られるよ?
うるせー! てめえに言われなくてもわかってるっての!
ったく、早くしろよ。このグズ!
闇組織の親玉として傍若無人の限りを尽くす父親の元で過ごしながらも、ジュエリーラとガルドフは共に傷付きながら生きていた。お互い姉弟という認識はなく、あくまで共に同じ世界に生きる賊仲間という感覚であった。二人が賊としての力を身に付けていく中、父親は何者かの手によって暗殺されてしまう。賊殺団と対立していたもう一つの闇組織『忍』に属する凄腕の暗殺者によるものだった。父親亡き後、部下の賊達も次々と暗殺されていき、やがて賊殺団は壊滅した。ガルドフは組織の下っ端であるムアルと共に放浪の旅に出るようになり、生き残ったジュエリーラは街に蔓延るゴロツキや盗賊を集め、自分だけの新しい組織を作ろうと考えていた。
「生きてる限り、決して反省はしないとかいうのが昔からの口癖だったわね。あのグズは」
フェイスマスクに吐く息を籠らせながらも、淡々と呟くジュエリーラ。
「彼も……生まれ育った環境が違っていたら、私達と解り合えたかもしれない。あなたとも……」
レウィシアは思う。もしガルドフとジュエリーラの育てられた環境が違っていたら、今頃正しい生き方が出来たのではないだろうか。ガルドフは地の魔魂の適合者であり、魔魂の力はケセルに与えられたものだった。だが、彼も真っ当な環境の中で生きる事が出来たら、正しい形で魔魂の力を手にしていたかもしれない。そして私達と共に力を合わせて戦う運命になっていたかもしれない。そう考えつつも、レウィシアはジュエリーラの横顔を見つめていた。
「フフ……所詮私達は陽の当たらない運命って事よ。生きる為には盗みや恐喝は疎か、殺人をも厭わない。つまり、あらゆる手を尽くさないとどうしようもない。そんな腐敗した社会で私達は生きる事になったからね」
マスクを外し、煙草を咥えては火を付けるジュエリーラ。
「ところで、レウィシア。あんたはクレなんとかという王国の王女様だったかしら? 将来は王国を治めるつもり?」
煙草を吹かすジュエリーラの問いに、レウィシアは返答に少々戸惑う。
「……そうなるでしょうね。王国の平和を守る為にも。例え王様になれなくても、王国やこの世界を守っていきたいという気持ちはあるわ」
強い眼差しを向けて言うレウィシア。ヴェルラウドはレウィシアの言葉を聞いては黙って考え事をする。
「フン、お喋りはここまでにしてそろそろ行くわよ」
吸殻を捨て、再びマスクを装着したジュエリーラが歩き始める。
例え邪悪なる存在を滅ぼしたとしても、人間が存在する限り罪は生まれ、そして闇が生まれる。人の罪が生んだ悲劇は昔から数多く存在する。そしてラムスは、人間による闇を象徴した街。
私が王位を継ぐ事になれば、数々の罪や争い等の人々の間にいずる闇を生まない平和な王国にしたい。でも、変えないといけないのは一つの王国や一つの街だけではなく、この世界そのもの。
私の太陽の力が光と希望を与えるものだというのなら、何れは――。
レウィシアはヴェルラウドと共に、ジュエリーラの後を追いながらも森の中を進んだ。
ジュエリーラ一味の地下アジトの牢屋に捕われているテティノは空腹感が抑えられず、与えられた食事に手を付けていた。隣の牢にいるラファウスは食事に手を付ける事なく、瞑想をしていた。
「おいラファウス、食べないのか? 毒は入ってないようだから安心していいと思うぞ」
テティノが声を掛けるものの、ラファウスは全く動じない。
「何なんだ一体……」
皿を置いた瞬間、ラファウスからエアロの姿が現れる。同時にスプラが顔を出した。
「スプラ、どうした?」
スプラは隣の牢にいるエアロの元へ向かう。エアロはスプラに何かを伝えるかのように鳴き声を上げると、スプラは鉄格子の隙間から牢の外へ出る。
「ちょっと待てよ、何処行くつもりなんだ? 僕達を置いて逃げるなんて事じゃないよな?」
スプラの行方が気になるテティノは鉄格子を握り締める。
「エアロ達を利用しての脱出ですよ」
瞑想していたラファウスが立ち上がる。
「何だって? あいつらに何が出来るっていうんだ?」
「今は黙ってエアロ達をお待ち下さい」
どういう事だと言いながらも言葉に従い、大人しくその場に座るテティノ。暫く経つと遠くから叫び声が聞こえ、スプラが鍵束を運んでやって来る。見張りを任された男の後頭部目掛けてエアロが風の力を利用した高速の体当たりを仕掛け、男が気絶した瞬間、スプラが男の服から鍵束を発見して奪い取ったのだ。
「これは! でかしたぞスプラ!」
意気揚々と鍵を手にしたテティノは鉄格子越しに牢の扉の鍵を開ける。開錠に成功したテティノはラファウスが閉じ込められている牢の扉の鍵を開け、見事に牢屋から解放出来た二人はその場から脱出する。
「凄いな、こいつらにこんな事が出来るなんて」
テティノは魔魂の化身であるエアロとスプラの活躍ぶりに驚くばかり。
「まだ油断は出来ませんよ」
ラファウスの言葉通り、ジュエリーラの部下が数人立ちはだかる。
「お前ら、どうやって脱走しやがった! 逃がさねぇぞ!」
テティノは水の魔力を呼び起こし、ラファウスは風円刃に変化したエアロを手に取る。一斉に襲い掛かるジュエリーラの部下一同だが、水の魔法と風円刃の同時攻撃を駆使する二人の敵ではなかった。探索中にテティノの槍を回収し、二人は地下アジトからの脱出に成功する。
「ふう、何とか脱出出来たな。レウィシア達はどうなったんだ?」
テティノはレウィシアとヴェルラウドの行方が掴めず、これからどうしたものかと考える。
「あのジュエリーラという女もヒロガネ鉱石を探す為にレウィシア達を協力者としているようですね。恐らくザルルの炭鉱に……」
「そうか。つまりあの女とザルルの炭鉱に向かってるって事だな。だが……」
後を追ってザルルの炭鉱へ向かおうとするものの、炭鉱の場所が解らず途方に暮れるテティノ。
「……テティノ。私に考えがあります。一先ず静かな場所へ向かいますよ」
「何だって?」
「いいから、今は言う通りにして下さい」
今度は何をやろうとしてるんだと思いつつも、ラファウスと共に静かな場所を探すテティノ。二人は雑踏を潜り抜け、閑散とした町外れの空き地に辿り着く。ラファウスは徐に周囲を確認し始めた。
「此処なら大丈夫ですね。エアロ、私に力を」
エアロが再びラファウスの中に入り込むと、ラファウスの身体が淡い緑の光に包まれる。
「風よ……」
光に包まれたラファウスは両手を広げたままゆっくりと目を閉じる。一体何をするつもりなんだと聞こうとするテティノだが、ラファウスは微動だにしない。数分後、ラファウスの目が開かれる。
「……ザルルの炭鉱は、この場所から西の方にあるのではないでしょうか」
「え? 何でそんな事が解るんだ?」
「西の方角から、僅かにレウィシアの匂いを感じました。他には沢山の血の匂いがしましたが」
エアロとの協力で披露したラファウスの能力――それは、数キロ程の遠い位置に吹き付ける風を呼び寄せ、遠隔地に存在する匂いを探るというものであった。西の方角には広がる森と高い山が存在している。
「本当かぁ? 第一そんな事が可能なのか?」
「信じないのは勝手ですが、いつまでもこんな酷い街に留まる事を選ぶのですか?」
テティノは一先ずラファウスの言う事を信じる事にして、笛で飛竜カイルを呼び寄せる。ラファウスの言葉を頼りにテティノが西の方へ向かうように指示すると、カイルはゆっくりと西へ飛び立った。
一方、ロドルはジュエリーラの地下アジトを訪れていた。
「それは間違いないのか?」
「は、はい……なんとか鉱石を目的にザルルの炭鉱へ向かわれました」
ロドルの暗殺のターゲットとなる人物は、ジュエリーラであった。部下の男からジュエリーラの行方を聞き出しているのだ。
「チッ、仕方あるまい」
ロドルは刀を手にアジトから出る。出入り口には、馬に乗った依頼者の男が待機していた。
「ロドルさん。如何でしたか」
「……ターゲットは此処にはいない。ザルルの炭鉱に向かったとの事だ」
「ほほう。ならば馬をもう一匹手配しなくてはなりませんな」
「その必要は無い」
すると、ロドルの手から雷の魔魂の化身トレノが出現する。トレノは小さな雷雲のような形に変化し、それに飛び乗るロドル。
「付いて来たければ勝手にしろ」
小さな雷雲の姿となったトレノはロドルを乗せて飛んで行く。依頼者の男は驚きながらも、馬に鞭を打ってロドルの後を追った。
更に半日が経過した頃、レウィシア達はザルルの炭鉱に到着していた。炭鉱内には透き通った水晶や様々な鉱物があり、朽ちた坑道が設けられていた。
「昔は此処で色んな鉱物を漁った事もあったのよねぇ」
懐かしむようにジュエリーラが呟く。かつてはガルドフや賊仲間を連れて鉱物目当てに訪れた事があったのだ。炭鉱に生息する凶暴な魔物が牙を剥いて襲い掛かるが、ジュエリーラが先立って鞭を振るい、レウィシアとヴェルラウドの攻撃で難なく退けていく。坑道を進んでいくと、ジュエリーラが不意に足を止める。
「どうしたの?」
「……この先に大物がいるのよ。私だけでは手に負えないような魔物がいる。あんた達のような協力者を求めたのはこの為よ」
ジュエリーラの返答にレウィシアは思わず身構える。
「確かに、何か強い気配を感じるな」
ヴェルラウドも大きな力を持つ魔物の気配を感じ取っていた。慎重に動きながらも、更に坑道を進む一行。巨大な空洞に出た瞬間、一行は立ち止まる。
「これは……?」
一行が見たものは、四つん這いの竜のような顔をした巨大な魔獣であった。身体の所々が鉱物と一体化したような突起物があり、不気味な唸り声を上げている。
「こいつは、ずっと昔からこの炭鉱に住んでいる凶悪な魔獣よ。協力者として役に立ちなさいよ」
魔獣は一行の姿を見ると、雄叫びを轟かせながらも勢いよく足踏みをして地鳴りを起こす。
「クッ、確かに一筋縄ではいかなさそうね」
レウィシアとヴェルラウドはそれぞれの力を高めつつも、同時に斬りかかる。だが、二人の剣による一撃は手応えがなく、ダメージを与えている様子がない。魔獣の皮膚は並みの武器では歯が立たない程の凄まじい硬度を持っているのだ。
「こいつ、硬い……!」
ヴェルラウドが驚く中、魔獣は激しい足踏みで凄まじい衝撃波を放つ。
「きゃあ!」
一瞬で吹っ飛ばされるレウィシアとヴェルラウド。ジュエリーラは巻き添えを食らわない場所に移動していた。
「あいつの最も厄介なところは途轍もなく硬い皮膚よ。そのせいで私だと歯が立たないのよね」
ジュエリーラが二人に向けて言うと、レウィシアは真の太陽の力を呼び起こす。同時にヴェルラウドも赤い雷の力を神雷の剣に込めると、魔獣は狂ったように大暴れし始めた。
「奴の硬さは半端じゃない。攻撃を一点に集中しないとな」
「そのようね。でも、正面から向かうのは危険だわ」
レウィシアの言葉通り、ヴェルラウドは大暴れする魔獣の隙を掴もうと身構える。魔獣の動きが止まると、口から紫色のガスを吐き出した。
「うぐっ……!」
魔獣が吐き出したガスには有毒物質が含まれており、ガスの攻撃を受けたレウィシアとヴェルラウドは猛毒に冒されてしまう。
「ぐっ、身体が……」
猛毒に冒された二人の全身に寒気と激痛が襲い掛かる。
「負けられない……こんなところで!」
レウィシアは全身を蝕む猛毒に耐えながらも、真の太陽の力を全開にさせては魔獣に突撃する。輝く炎を纏った剣の一撃は魔獣の皮膚を切り裂く事に成功するものの決定打には至らず、魔獣の体当たりを受けてしまう。
「がはあっ!」
壁に叩き付けられ、多量の唾液を吐くレウィシア。立ち上がろうとするものの、体内の猛毒がジワジワと全身の自由を奪って行き、思うように動く事が出来ない。
「レウィシア!」
猛毒で体力を奪われる中、ヴェルラウドは果敢にも斬りかかろうとする。
「うおおおおおお!」
大きく飛び上がると、両手に構えた神雷の剣から赤い雷が迸る。赤い雷を纏った剣の一撃は魔獣の足を一つ切り落としていた。
「グギャアアアアアアアアア!」
足を一つ失った魔獣が凄まじい咆哮を轟かせ、激しい地鳴りを起こす。地鳴りと同時に襲い掛かる衝撃波を避けられず、大きく吹っ飛ばされるヴェルラウド。
「フン、全く世話が焼けるわね」
ジュエリーラがレウィシアに小瓶を二つ差し出す。解毒効果のある薬であった。
「これは?」
「解毒剤よ。あの男にも与えておきなさい。あんた達までやられたら困るんだから」
レウィシアは解毒剤を飲み干す。体内の毒素は一瞬で消え去り、解毒に成功したレウィシアは倒れたヴェルラウドに駆け寄る。
「ヴェルラウド、これを飲んで。解毒剤よ」
ヴェルラウドは解毒剤の小瓶を受け取り、解毒剤を飲む。
「すまない、助かったぜ」
猛毒から回復したヴェルラウドが立ち上がる。
「早く構えなさい! 奴が暴れ出すよ」
ジュエリーラの声に、レウィシアとヴェルラウドは戦闘態勢に入る。
「グアアアアアアアアアアア!」
魔獣は雄叫びを上げつつも、巨体を活かした叩き付けで地鳴りを起こす。
「ヴェルラウド、私に任せて」
地鳴りが起きる中、レウィシアは精神を集中させ、真の太陽の力を全開にする。全身が輝く炎のオーラに包まれ、両手で剣を構えて突撃する。魔獣は咆哮と共に、口から紫色のガスを吐き出す。
「はああああっ!」
ガスが襲い掛かる中、レウィシアは大きく剣を振り下ろす。その斬撃は追い風と光の炎を伴う巨大な衝撃波を生み、吹き付けるガスを遮断しつつも魔獣の顔面に叩き込まれる。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
衝撃波は魔獣の顔面を大きく切り裂き、苦痛の雄叫びを轟かせる。
「今よ、ヴェルラウド」
レウィシアの言葉を受け、ヴェルラウドは赤い雷を剣に集中させ、飛び上がる。
「うおおおおおおおお!」
迸る赤い雷と共に繰り出される空中からの一閃。その攻撃は魔獣の首を切り落とし、巨体に赤く輝く雷撃が襲い掛かる。黒い返り血を浴びながらも地に着くヴェルラウド。魔獣が息絶えると、その巨体は砂と化し、散っていく。
「……片付いたか」
魔獣が完全に倒された事を確認したヴェルラウドは安堵の声を漏らす。
「何とか勝ったみたいね」
勝利を確信したレウィシアは剣を収める。
「流石、私の見込みは正解だったようね。よくやってくれたわ」
ジュエリーラが拍手しながら賛辞の言葉を送る。
「全く、あんなバケモノがいたなんて思わなかったよ」
ヴェルラウドは返り血に塗れた衣服を見ながらも、やれやれと言わんばかりに溜息を付く。
「さあ、邪魔者が片付いたところで改めてお宝探しに行くわよ」
鞭を片手にジュエリーラが先へ進んで行く。
「あいつは一体何が目的でヒロガネ鉱石を狙っているんだ?」
ジュエリーラへの不信感が拭えないヴェルラウドはこっそりとレウィシアに言う。
「解らないけど……場合によってはあの人とも戦う事になるかもしれないわ。ヒロガネ鉱石を手に入れる為にも」
「どう見ても俺達に譲ってくれるとは思えんからな」
レウィシアとヴェルラウドはジュエリーラの目的が気になりつつも、更に炭鉱の奥へ進んで行った。
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