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第六章「目覚める真の太陽」
真の太陽
しおりを挟むゲウドによる襲撃部隊を全て撃退し、辛うじてクレマローズを守り抜いたヴェルラウド達はアレアスの元へ集う。
「このクレマローズを邪悪なる手の者から守り抜いた事を感謝致します。かつてはこの国の大臣であったパジンによる謀反、ガウラを浚った道化師の男、そして今回の魔物による襲撃……やはり全ての災いの根源はあの道化師の男にあるのかもしれません」
ヴェルラウドはケセルや闇王の事を考えつつも、今回の襲撃事件の件は自分の命を狙う理由によるものだという事実に心を痛める思いをしていた。
「大臣……? パジンという男はクレマローズの大臣だというのですか?」
アレアスの口から出たパジンという名前に思わずオディアンが問い掛ける。自身が倒した飛竜に騎乗していたパジンの断末魔の言葉の内容が気になっていたのだ。
「ええ。彼はこのクレマローズの大臣だったのですが、如何なさいました?」
「ハッ、実は……」
オディアンは事の全てを打ち明けると、アレアスとトリアスは愕然とする。
「何て事……まさかあの裏切り者のパジンがそのような事まで……」
アレアスはパジンの経緯――二年前のクレマローズの支配を目的とした謀反、地下牢に投獄されてからの突然の失踪について全て打ち明けた。
「いくら悪い奴らに利用されていたとはいえ、元からサイテーな大臣だったのね。同情の余地もないわ」
スフレが率直な感想を漏らす。
「脅威は一先ず去ったとはいえ、一刻も早く悪の根源たる者を打ち倒さなくてはなりません。その為にも、どうかレウィシア達の力になって頂きたいのです」
アレアスが頼み込むと、ヴェルラウドは決意を新たに快く引き受ける。
「王妃様。我々の手で必ずやり遂げてみせます。レウィシア王女と共に」
決意の言葉を残し、謁見の間を後にするヴェルラウド達。レウィシア達の帰還までは客室で休息を取る事となった。だが、ヴェルラウドはサレスティル王国の現状が内心気掛かりであった。
「気になるのか? サレスティルの事が」
そう言ったのはオディアンであった。
「……そうだな」
心情を悟られたヴェルラウドは淡々と返答する。
「これ以上犠牲を生まない為にも頑張るのがあたし達の使命でしょ! 現状を気にするよりも今やるべき事を考えてよね!」
スフレが喝を入れるようにヴェルラウドの背中を思いっきり叩く。
「闇王とその背後に潜む巨悪が存在する限り、いつ何処で何が起きるか解らぬ。心配になるのも無理はないが、今は戦いに備えておくのが一番だ。君は神雷の剣を完璧に使いこなせたのか?」
リランの一言にヴェルラウドは思わず神雷の剣を見つめる。バランガとの戦いを経て着実に使い慣れるようにはなったものの、完璧に使いこなしたという実感が湧かないままであった。
「……確かにその通りだ。リラン様の言う通り、俺はまだ完璧に剣を使いこなせてはいない。丁度いい機会だ。レウィシア王女が戻るまでもっと鍛えておく必要がある。だから……」
ヴェルラウドはオディアンとスフレの方に顔を向ける。オディアンはヴェルラウドの意向を瞬時に理解し、快く頷く。
「あんた達もすっかり男同士の騎士コンビで定着したわね。あたしはちょっと暇つぶしに街の中を散策しよっかな!」
「いや、スフレも俺の特訓に付き合ってもらう」
「え? あたしも?」
「ああ。お前の魔法も特訓になりそうなんでな」
「へーえ。そうと決まったらビシビシ行かせてもらうわよ? 言っておくけど、このスフレちゃんによる特訓は徹底して容赦ないから覚悟してよね?」
物凄く顔を近付けて言うスフレに、ヴェルラウドは反射的に顔を逸らす。
「あーもう! そこで顔逸らさないでよね!」
「だから近くで言うなっての」
「何よ! 照れてるの?」
更にヴェルラウドに接近してくるスフレ。リランはそんな二人の様子を微笑みながら見守っていた。街の外に出たヴェルラウド達は、今後の戦いに備えての激しい特訓に勤しんだ。
空を覆う灰色の厚い雲から、一つの飛行物体が現れる。ゲウドの空中浮遊マシンであった。ヴェルラウドによってバランガが倒された際、密かにクレマローズから撤退していたのだ。
「結局皆やられおったか……全く役立たずどもめ。まあ良い。既に必要なものは揃っておるのじゃからなあ……クヒヒヒ、見ておれゴミどもめ。本当のお楽しみはこれからじゃよ。ヒッヒッヒッヒッ……」
ゲウドが手にしたものは、闇王の力の制御に必要となる生贄――サレスティルの人々と魂であった。
その頃、レウィシアは太陽の力と戦神アポロイアの魂が共鳴した事によって生まれた空間の中で、闇の太陽の化身と呼ばれる敵との死闘を繰り広げていた。真の太陽を目覚めさせる為の戦いであり、自身の中の太陽に存在する全ての闇――即ち、邪悪な力の根源となる負の部分を己の太陽の力で光へ導く戦いでもある。これは自身が生きるか死ぬかの戦いだけではなく、世界そのものの運命に繋がる戦いでもある事をレウィシアは悟っていた。どれ程傷付いても、決して諦めてはいけない。負けられない太陽と太陽の戦い。闇の太陽の化身との激しい戦いは尚も続いていた。
「はぁ……はぁっ……」
血を流し、幾多の切り傷が腕と足に刻まれ、頭や頬、そして口から血を滴らせたレウィシアは身を炎に包みながらも、構えを取っていた。闇の太陽の化身が剣を手に斬りかかると、レウィシアはその一撃を剣で受け止める。火の粉が散り、金属音を轟かせた剣と剣のぶつかり合いが何度も繰り返され、お互い隙を見せない互角の状況であった。
「やあああっ!」
力を込めたレウィシアの一撃が振り下ろされるものの、闇の太陽の化身は即座に剣で防御する。レウィシアは更に力を込めるが、逆に押し返されてしまう。その隙を突いた闇の太陽の化身の剣がレウィシアの姿を捉える。
「しまっ……」
防御態勢に入る間もなく、剣の一撃がレウィシアの脇腹を深く切り裂いた。
「がはっ……ぐっ!」
鮮血が迸り、口から血を零しながらよろめくレウィシア。更に背後からも剣が振り下ろされ、その一撃はレウィシアの背中を袈裟斬りにした。
「ごはあ!」
深い傷を刻まれたレウィシアは膝を付き、激痛に喘ぎ出す。アレアスのドレスは血で真っ赤に染まっていた。出血は酷く、視界が霞み始める。レウィシアは止まらない出血にフラフラしながらも剣を構え、反撃に転じようとする。
私の中の太陽よ……もっと力を! 今此処にいる敵に勝つ為に……!
太陽よ……せめて、この命を捧げてでも――!
レウィシアの全身を包む炎のオーラがより激しく燃え始める。全身に響き渡る激痛を堪えながらも拳で口元の血を拭っては両手で剣を構え、気合の叫びを上げながら斬りかかる。その気迫は並みの人間ならば一瞬で怯む程であり、間髪入れず数々の剣技が繰り出されていく。闇の太陽の化身は剣と盾で防御するものの、止まらないレウィシアの怒涛の攻撃によって次第に追い込まれていく。炎を纏ったレウィシアの剣と、黒く燃える闇の炎を纏った闇の太陽の化身の剣が激突した時、激しく力比べをしながらもレウィシアは両手で剣に渾身の力を込める。
「がああっ!」
凄まじい気合によって発生した炎の力による威圧で軽く吹き飛ばされる闇の太陽の化身。レウィシアは懐に飛び掛かり、炎に包まれた剣を大きく振り下ろす。
「唸れ、我が太陽の炎! 今こそ燃え尽きよ!」
炎の剣による一撃が決まり、更に次々と懐目掛けて連続で斬りつけていく。
「グアハアァァァア!」
レウィシアの渾身の必殺技を受けた闇の太陽の化身は刻まれた傷口に炎を残しつつ、断末魔の叫び声を轟かせながら崩れ落ちた。
「……やったの?」
レウィシアは血を滴らせながらも膝を付く。
「うっ! くっ……」
全身に渡る激痛は止まらず、大量の出血で再び目が霞んでいた。勝負は付いたのだろうか、と思いながらも剣で支えつつ、よろめきながら立ち上がり、倒れた闇の太陽の化身の元へ近付いていく。だがその時、レウィシアは目を見開かせた。闇の太陽の化身の剣が、レウィシアの身体を貫いていたのだ。
「がっ……ごほっ」
致命傷を負ったレウィシアの口から更に血が零れ出す。剣が引き抜かれると、レウィシアはバタリとその場に倒れ、血の海が広がり始める。その姿を静かに見下ろす闇の太陽の化身。光が失われ、瞳孔が開いていくレウィシアの瞳。遠のく意識はやがて暗闇に包まれていく。
私は……負けた……?
こんな事って……私、このまま死んでしまうの?
負けるわけにはいかないのに……こんなところで死ぬわけにはいかないのに……私の太陽は、こんなものなの?
お願い……どうか私の身体、動いて! 命の炎よ、どうか消えないで!
私は……私は――!
……
……っはははは! あははははははは!
暗闇の中、嘲笑うように聴こえてくるその声は、自身の闇の声――かつて死の淵を彷徨っていた時に現れた、心闇の化身と呼ばれる存在の声であった。
「あははははは! 何が私の太陽よ。何が負けるわけにはいかないよ。全くあなたは何処までも甘いのね。勝ったと思って油断して無様にやられるなんて」
何も見えない暗闇の中で、歪んだ表情を浮かべる心闇の化身の顔が浮かんでくる。
「私の太陽はこんなものかって? バカね。いくらあなたに太陽があっても、持ち前の甘さがある限り無駄ってわけ。ねえ、どんな気分? 二度も死ぬってどんな気分?」
二度も死ぬ――そんな言葉だけが何度も繰り返して響き渡り始める。暗闇の意識の中、二度も死ぬという言葉が繰り返して聴こえていた。
「あなたはこんな事も言ってたわよね。私には太陽と仲間の心があるって。仲間の心とやらも所詮このザマってわけ? 惨めを通り越して大笑いねぇ。仲間の心も無駄にするなんて……一度仲間に救われた命なのに」
仲間の心……
太陽と仲間の心……一度仲間に救われた命――
暗闇の中、僅かに見え始めた光。微かに感じる暖かさ。光からは何かを感じる。そして何かが聴こえてくる。それは、自身を見守る仲間達の声。自身が別世界で戦っている事を知らず、無事を祈り続ける仲間達の姿が見える。そして感じる。仲間の心を。それが光となって現れている。そう認識した時、光は大きくなっていき、暗闇に光が照らされていく。
「あはははははは! まさか私の言葉に反論するつもり? 出来るものならやってみなさいよ。あなたの命の炎が燻っているうちにね!」
嘲笑い続ける心闇の化身の声に応えるように、レウィシアは意識を奮い立たせる。
……二度も……死ぬ? ……違う。私は死ぬわけにはいかない。
この命は仲間達によって一度救われた命。仲間の心があるからこそ、この命がある。
だから、私は絶対に死なない。そして、負けられない。私には、太陽と仲間の心がある――!
「……ま……だ……よ……」
倒れているレウィシアが呟くように言い、うっすら目を開けた瞬間、口から漏れる息と共に血が溢れ出る。
「……確かに私は……甘いわ。それは……私の弱さでもある。でも……甘いからといって決して無駄にはさせない。私は二度も死ねない。私の太陽は……此処に、あるのだから……」
更に言葉を続けると、レウィシアの身体から再び炎のオーラが発生する。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああっ!」
絶叫の声を轟かせるレウィシア。炎の力で貫かれた傷口と全身に刻まれた傷口を炎の力で焼灼を行っているのだ。一瞬でショック死しかねない程の地獄のような苦痛が全身を激しく揺さぶらせ、顔付きが別人のように凄まじい形相になる程であった。
「がああああああああああああああああああ! ああああぁぁぁああああああっ……」
喉が潰れる勢いで咆哮を上げると同時に大きく見開かれた目。死んでいた目に光が宿るようになり、全身のオーラは大きく燃え盛る炎となっていく。全身の傷口は焼灼によって塞がり、止血に成功していた。
「……はぁっ……はぁっ……はぁっ……あ……はぁっ……」
呼吸を荒くしながらも剣を手に、ゆっくりと立ち上がるレウィシア。血に染まったボロボロのドレス、全身に残した傷跡、そして血塗れとなった顔。まさに全身が己の血で染められた傷だらけの戦姫であった。闇を照らすように燃え盛る紅蓮の炎のオーラと相まって、目からは炎のような光が宿っていた。
「……私の太陽は、決して滅びない。私を信じてくれる仲間の心が、私の太陽を輝かせてくれたのだから……絶対に……絶対に負けられない……!」
レウィシアは全身を走る傷の痛みに動じる事なく、剣を構えつつも鋭い目を向ける。
「来い、闇の太陽! 私の手でお前を光へと導いてやる!」
その言葉が戦闘再開の合図となり、両者が同時に突撃し、全力で剣を振るう。再び激しく交わる剣と剣。紅蓮の炎と闇の炎による激突はやがて大きな炎となって燃え上がり、それぞれの炎を最大限に纏った激闘へと発展した。自身の炎と共に剣を交える中、レウィシアは仲間達の様々な想いを振り返る。
ぼく、お姉ちゃんがいなかったらきっと生きていけない。ぼくを助けてくれたのもお姉ちゃんだし、お姉ちゃんはぼくのお母さんみたいな人だもの……。
前を向きなさい、レウィシア! 国王陛下に誓ったのでしょう? 誓いを裏切るなんて事をしようものなら私が許しませんよ。それに……あなたには私達がいます。
「ルーチェ……ラファウス……!」
ルーチェとラファウスの言葉を振り返ると、レウィシアは全身の血が激しく騒ぐのを感じる。自分は何の為に戦っているのか。そう、邪悪なる者に浚われた父と多くの人々を救う為に、卑劣な陰謀によって命を失った人々の為に、そして世界を全ての闇から守る為に戦っている。その事を考えながらも次々と剣を振るう。剣に込められた力は徐々に増していき、次第に闇の太陽の化身を追い込んでいく。
無事で良かったよ本当に。君を救えたのは僕だけの力じゃない。ラファウスとルーチェがいたからこそなんだ。
己の命がルーチェ、ラファウスとの協力の上で生命力を削ってまで成功させたテティノの大魔法ウォルト・リザレイによって救われたという事実を振り返ると、レウィシアは今ある自分の命が何たるかを改めて悟り、決意を固めていた。
「テティノ……あなたがいたからこそ私は救われた。私の為に捧げたあなたの命は、絶対に無駄にしない」
レウィシアは仲間達の想いを胸に秘めつつも、一度後退して距離を開けては両手で構えを取る。
「グアアアァァァ!」
闇の太陽の化身が雄叫びを上げながらも剣を手に突撃する。レウィシアは構えを取ったままその場から動かず、目を閉じて精神を集中させる。
この一撃で決める。今こそ、私の全てを賭けたこの一撃を――!
闇の太陽の化身の剣がレウィシアに振り下ろされようとした瞬間、レウィシアの目が見開く。そして繰り出される、空を裂く炎の一閃。
「……ぐああ!」
レウィシアの左肩から吹き出す鮮血。ガクリと膝を付き、倒れるレウィシア。
「ゴアッ……ガアアアァァァ!」
おぞましい声で絶叫する闇の太陽の化身。レウィシアの炎の一閃は闇の太陽の化身の胴体を引き裂いていた。そして傷口は腰から上半身に至る程大きく広がっていく。
「グアアアアアァァァアアア!」
大きく裂けた闇の太陽の化身の身体が紅蓮の炎に包まれ、下半身から砂のように崩れ始める。炎が広がっていく中、闇の太陽の化身の身体は全て崩れていき、炎の中で灰と化した。炎は輝くように燃え上がり、次々と光の熱線が発生する。
「……勝った」
立ち上がっていたレウィシアは、左肩から血を流しながらも燃え続ける炎を放心状態で見つめていた。
あははっ、何よ。まだ火種があったじゃないの。ま、それくらいの勢いがあればまだまだやれるって事ね。せいぜい血ヘドを吐きながら頑張りなさいよ。あなたの言う太陽と仲間の心ってやつで。
何処からともなく聴こえてくるその声は、心闇の化身の声であった。
「……心闇の化身。今回はあなたにも助けられたみたいね」
レウィシアは結果的に死に掛けていた意識を奮い立たせるきっかけを与えた心闇の化身に感謝の意を述べる。
「見事だ。太陽の子よ……」
声と共に、アポロイアが姿を現す。
「己の太陽に潜む闇――闇の太陽は、己の太陽の中に存在する邪悪の根源となるもの。そなたは戦いを経て闇の太陽を正しき心が生みし炎の力で浄化させ、光へと導いた」
次の瞬間、闇の太陽の化身だった者の姿が現れる。驚くレウィシアだが、その姿は徐々に太陽のように光輝く炎の戦士の姿へと変化していく。
「レウィシアよ。今こそ化身の手に触れよ。全ての闇が浄化された太陽の欠片と一つになる時が、真の太陽の目覚めとなる――」
アポロイアの言葉に従うままに、レウィシアはそっと化身の手に触れる。
「うっ……おおおおおおおお!」
レウィシアは全身が燃えるような感覚に襲われる。体内のエネルギーが激しく活性化していき、同時に力が湧き上がるのを感じた。魔魂としてレウィシアの中にいるソルもその力に共鳴するかのように力を滾らせていた。光輝く太陽の化身はレウィシアの中に入り込んでいくと、炎のような靄に包まれた世界は一瞬で光溢れる空間へと変わり、レウィシアの姿も太陽のように輝いていた。
レウィシア・カーネイリスよ。お前は今、真の太陽を目覚めさせた。今お前に備わる力は、全ての邪悪なる闇を消し去り、光と希望を与える太陽そのもの。そして魔魂となった我が力は、お前の太陽を制御する力でもあるのだ。
お前の力の根源は、真の太陽だけではない。お前を想う仲間の心が、お前に力を与えている。真の太陽、仲間の心、そして我と共に、今こそ全ての邪悪なる敵と立ち向かえ――!
炎の魔魂の主となる英雄ブレンネンの声を聴くと、レウィシアの姿に変化が起きる。血に塗れたドレスはアーマー状の衣装に変化し、太陽の形をした紋章が埋め込まれている盾と黄金の輝きを放つ宝玉が埋め込まれた剣が与えられる。真の太陽に目覚めた者に与えられる戦神の武具であった。
「真の太陽に目覚めた今、そなたは炎を極めし者ともいう。我の力が込められた武具を受け取るがいい」
戦神の武具を装備したレウィシアは見違える程のオーラを放っていた。
「凄い……今までにない力を感じるわ。アポロイア、あなたに感謝します。今目覚めさせた真の太陽で、必ずこの世界を救ってみせます」
決意を新たにすると、レウィシアの姿が光に包まれる。
我が魂を受け継ぎし太陽の子、レウィシア・カーネイリスよ。世界の希望となり、そして世界の太陽となるのだ。
そなたに太陽の加護があらん事を――。
太陽の聖地となる火山の中に存在する巨大な石碑が設けられた部屋の中――ルーチェ、ラファウス、テティノは意識を失ったレウィシアを心配しながら見守っていた。ルーチェは回復魔法を掛け続けるものの、レウィシアは目覚める様子がない。
「レウィシア……くそ、一体何がどうなってるんだよ!」
テティノはレウィシアの胸元に耳を傾ける。心臓は動いており、呼吸はしているものの、死んだように眠っている状態であった。
「やはりあの石碑に何かが……」
ラファウスはレウィシアが倒れた原因は石碑に関係があると考えており、テティノもそれに同意していた。
「それにしても、あの石碑には何が書かれているんだ? 見た事ない文字だし、読めないと意味がないか」
テティノが呟いた瞬間、レウィシアの身体が突然光に包まれる。
「な、何だ?」
光はどんどん眩く輝き始め、周囲を大きく照らしていく。
「レウィシア!」
全員が視界を奪われている中、レウィシアの姿が戦神の武具を装備した姿へと変化していく。やがて光が収まり、全員の視界が戻り始めると、目を覚ましたレウィシアが立っていた。
「……帰って来れたみたいね」
元の世界に復帰したレウィシアはふと身なりを確認する。漲る力と共に自分の装備がアポロイアから与えられた武具に変化している事に不思議な感覚を覚えていた。
「レウィシア! 気が付いたのか?」
テティノはレウィシアの姿を見た瞬間、驚きの表情を浮かべる。ルーチェとラファウスもレウィシアの衣装の変化に驚きを隠せなかった。
「レウィシア……その姿は一体?」
「あ、これはね。話せば長くなるけど」
レウィシアは気を失ってからの出来事――別世界でアポロイアによって召喚された自身の太陽の負の部分であり、邪悪な力の根源となる存在との死闘に打ち勝った事、そして真の太陽に目覚めさせる事が出来たという事を全て話した。
「何だかさっぱりわからないけど、とりあえず目的は果たしたという事なのか?」
「そういう事ね。まるで生まれ変わったみたいに物凄い力が湧き上がる感覚だわ」
レウィシアは与えられた戦神アポロイアの剣をジッと眺めていると、突然地鳴りが起きる。火山全体を揺るがす程の大きな地鳴りであった。
「これは?」
「この地鳴り……火山の噴火の前触れかもしれません。皆さん、早く逃げましょう」
「何だって!」
この場にいるのは危険だと察したレウィシア達は即座に火山から脱出しようと足を急がせる。地鳴りが続く中、溶岩が激しく巻き起こり、次々と岩が崩れ始めた。
「全く、何でこんな事になるんだ! アポロイアは人の迷惑を考えろよ!」
「無駄口を叩かないで今は足を急がせなさい!」
声を荒げるテティノを叱りつけながら走るラファウス。その傍らで、レウィシアはルーチェをそっと抱き上げる。
「あ、ありがとうお姉ちゃん……」
「いい? 抱っこしながら走るからしっかり掴まってるのよ」
レウィシアはルーチェを抱き上げながら全力疾走で出口へ向かっていた。溶岩の波に追われ、崩れる岩石に苦しめられながらも一行は足を止めず、ようやく入り口まで辿り着く。
「遅いぞ。今すぐ乗れ。噴火まで時間がない」
火山から出ると、空飛ぶ絨毯に乗ったヘリオがやって来る。
「そ、それは空飛ぶ絨毯?」
「いいから早くしろ」
レウィシアはルーチェを抱いたまま絨毯に飛び乗る。絨毯は八人程度は乗れる程の大きさであった。テティノとラファウスが乗り込むと、絨毯は空中を飛んでいく。火山は轟音と共に噴火し、火口からは火山岩と合わせて膨大な量の溶岩が流れていた。
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